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勇者の商人  作者:
All For One

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34/85

ハーフエルフは閨にて語る。

「根源魔導回路?」


 初めて聞く単語だ。


「異空、つまり、こことは違う世界で作られた魔導回路のことです。古代錬金文明は異空から偶然流れ着いたいくつかの根源魔導回路を解析することで現在に繋がる魔導回路の技術を確立しました」

「博識だな、君は」

「自分が組み込まれていたもののことですから」


 クローマは複雑な表情で言った。


「まだ、お聞きになりますか?」

「ああ、そんな境遇にいた君が、なぜここにいるのか聞いてみたい。やはり、勇者が関わっているのかな」


 ここまで知的好奇心を刺激されるのは珍しい。雄としての下半身の欲望を、知的な興奮が上回っていた。


「はい、勇者様に救っていただきました。私を根源魔導回路に組み込んだ錬金術師エイバンザスは、かつて不死竜グラシドゥによって滅ぼされた国の王子でした。グラシドゥへの復讐のために破損した根源魔導回路を手に入れ、その修復のための部品として、私を根源魔導回路に組み込んだんです」」

「グラシドゥというのは、アスール王子の竜退治のグラシドゥかね?」

「はい、そのグラシドゥです。あまり知られていませんが、アスール王子の竜退治には勇者と呼ばれる前の勇者ヴェルクトが同行していました。そしてグラシドゥへの復讐を目指していたエイバンザスと行動を共にすることになりました。勇者ヴェルクトとアスール王子、錬金術師エイバンザスは最初は協力し、グラシドゥと、その眷属たちに挑戦しました。その戦いの中で勇者ヴェルクトは根源魔導回路の内部に組み込まれた私に気づき、私を解放するように言ってくれたんです。それを拒んだエイバンザスは勇者ヴェルクト、アスール王子と決別し、根源魔導回路だけの力でグラシドゥに挑戦し、敗北しました。そこに来てくれたのが、勇者ヴェルクトとアスール王子でした。あとはほぼ、逸話の通りです。勇者ヴェルクトとアスール王子は力を合わせてグラシドゥを打ち倒し、私を根源魔導回路から救いだしてくれたんです」

「根源魔道回路というのは、どうなったのかね?」

「破壊されました。グラシドゥとの戦いの中で」

「そうか」


 残念なような、安心したような気分になった。根源魔導回路が喪われたことは惜しいが、現存していればアスール王子の手札に加わっていただろう。それを思うと幸運だ。


「ご満足いただけましたか?」


 クローマの問いに、ターマカシュ公爵は破顔する。


「ああ、久しぶりに頭が痺れるような話を聞けたよ。本当に素晴らしいな、君は」


 自身の服のボタンを外しながら、美しい工芸品のような娘の肢体を再度見下ろす。

 今度は、雄としての目で。


「経験は?」

「そういう関係を持てる人生は送ってきませんでした」

「ならば私に任せておくといい。私は経験豊富だよ?」


 本当に、素晴らしい拾い物だ。ターミカシュ公爵は高揚した心持ちでクローマに覆いかぶさろうとする。

 その顔面に、後ろから手が回った。

 白い手袋をした細い腕。手首のボタンに見覚えがある。

 執事ジウスの手首。


(な、何をする!ジウス!)


 声を出せないまま喚くターマカシュ公爵の耳元で、男の声がした。


「ジウスではない。俺はアレイスタ密偵七家総帥ミスラーの長子ロムス。父の命を受け、執事ジウスとしてこの屋敷に入り、貴様の悪行、乱行を監視してきた」


 確かに、ジウスの声ではない。

 もっと若い男の声だった。


「俺はいつでも貴様を殺せた。貴様を殺せば、救われる民が何千、何万いるだろうかと考えてきた。だが、父は俺に殺すなと厳命した。密偵七家は王家の刃、自らの意思で凶刃を振るってはならぬとな。貴様を裁くのは王の役割であるとして、鋼の意思で自らを、俺たちを律してきた。だが先日、父が死んだ。父が貴様に与えた猶予はなくなった」


(待て、やめ……!)


 もがくが、逃れられない。

 長く、薄く、細い、針のような刃がターミカシュの首の後ろを側面から刺しつらぬく。


「裁きの時だ」


 ターミカシュ公爵は白目を剥き、失禁し、気を失った。

「遅くなって申し訳ありません。ダーレスの護送を他の者に委ねるのに手間取ってしまいまして」


 薄刃を手首のスリーブにしまった老執事ジウス、ではなく密偵長ミスラーの長子ロムスは、ターミカシュ公爵に猿轡をしていく。


「死んでいないんですか?」


 クローマ、ではなくマティアル勅許会社長付き秘書グラムはターミカシュ公爵に脱がされた夜着を羽織り直して尋ねる。

 銀髪の執事ジウスの姿が揺らぎ、精悍な青年ロムスの姿に変わる。

 黒髪に長身。養子のはずだが、面影は養父である父ミスラーによく似ていた。


「脊椎の神経を切断しました。全身麻痺の状態ですが、まだ生きてはいますし、呻く程度は可能です。ああは言いましたが、父の遺志に反することはできません。ターミカシュの最終的な処断は後日、アスール王に委ねます。それが、父の望んだアレイスタの在り方でしょう」


 脊椎の神経を切られて全身麻痺で生かされるのと、本当に殺されるのと、どちらがマシかは難しいところだとグラムは思ったが、口にするのはやめておいた。

 密偵長ミスラーの長子ロムスは、勇者パーティーの初期メンバーだった密偵カグラと同じ変身能力者シェイプチェンジャーだ。

 骨格、性別、年齢などを無視してなんにでもなりすますことができる。

 父ミスラーの命により老執事ジウスとしてターミカシュ公爵家に潜入していたロムスは、ロキ、ロトからの連絡を受け、グラムの国葬潜入のための工作を開始した。

 まずは出入りの商人に姿を変えてターミカシュ公爵に接触、クローマと名乗ったグラムを国葬に同席させるように依頼した。ターミカシュ公爵は好色家である、あっさりとクローマに食いついた。

 クローマの四肢が義肢という点に妙に興奮するというのはやや計算外だったが。

 次の段階はターミカシュ公爵への成り代わり。ターミカシュ公爵を拘束し、変身能力者シェイプチェンジャーであるロムスが替え玉として国葬に紛れ込む。

 途中のダーレス王の闖入は完全なアクシデントである。一応グラムもターミカシュ公爵に抱かれる覚悟はしてきており、ターミカシュの寝室に入る前には妊娠を防ぐ薬を入れてきてはいたが、ロムスが戻る前にのしかかられた時にはさすがに平常心ではいられなかった。

 なお、ターミカシュ公爵に語った根源魔導回路、グラシドゥなどに関する逸話は、ほぼ・・実話である。多少の嘘は混ぜたが、ほとんどが実際にあったことだ。

 グラムはかつて、狂った錬金術師に拉致され、根源魔導回路の部品にされていた。誰にも気づかれないまま、ただ一人で、何十年もの間、闇の中にいた。そこから連れ出してくれたのが、ヴェルクトと、アスールと、バラドだった。

 だから、あの三人・・グラムの勇者・・・・・・なのだ。

 アスール王子が国葬参加を見送ったため、俺は別のグループに紛れて国葬に潜入することになった。

 ルーナ国弔問団。

 グラムはもともとルーナ国の将軍がエルフの女を見初めて生まれた娘だった。つまりルーナ国では名家の生まれ。ルーナ国の現女王、サーナリェスとは幼馴染だった。根源魔導回路の件で長い間生き別れになっていたものの、救出後に無事再会を果たし、旧交を温めている。アレイスタの裏切り、国葬への潜入については、グラムから一通りの事情を伝え、協力を取り付けてあった。アレイスタに対する包囲網についても、積極的に協力してくれている。

 弔問団との合流場所に向かう前に、アスール王子やイズマ、ロキ、ロト、ラシュディたちと最後の確認を進めていると、別室で作業を進めていたボーゼン、それとマティアルが飛び込んで来た。


「こんな時に申し訳ないが、社長、重大な報告がある。一緒に来てくれ」


 相当深刻な話のようだ。ボーゼンはひどく厳しい表情をしていた。


「わかった」


聖騎士パラダイン』とエメス回路の分析のために設置された仮設研究室に移動する。俺と向き合ったボーゼンは、机に置いてあった肉片入りのフラスコを取り上げた。捕獲した『聖騎士パラダイン 』の体組織の一部だ。


「『聖騎士パラダイン 』の体組織を分析した結果、『光の獣』の寿命が算出できた」


 嫌な予感がした。


「短い、のか?」


『光の獣』の寿命、つまり、ヴェルクトの寿命の話だろう。そうでなければ、ボーゼンもこう難しい顔にはなるまい。


「短い。十年が経過した時点で体組織が自壊し、死に至る構造になっている」

「……じゅう、ねん?」


 待て。


 待て。


「待てっ!」


 俺があいつに出会ってから、もう、十年過ぎている。


「待ってくれ!」

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