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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第6章 ダンジョンへ行く為には
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第79話 2人の決意表明

お気に入り10550超、PV5050000超、ジャンル別日刊14位、応援ありがとうございました。

祝、PV500万件突破しました!

皆様、応援ありがとうございます!


 


 肉を打ち付ける鈍い音が、道場内に響いた。

 突如重蔵さんが美佳達目掛けて振るった木刀の先端を、美佳に当たる寸前で俺が素手で受け止めた音だ。剣速は速い事は速かったが、重蔵さんも手加減はしていたらしくそれ程威力は出ていなかった。

 だからと言って、流石にこんな行動を許せる訳も無い。


「行き成り何をするんですか、重蔵さん!?」


 木刀を掴んだまま、俺は重蔵さんに抗議の声を上げた。

 俺の抗議の声を聞いた事で、やっと目の前の事態を認識したらしい美佳と沙織ちゃんは、腰を抜かしたかの様に体勢を崩し、唖然とした表情を浮かべ事の成り行きを見守って……いや、放心状態だな。


「……ふむ」

「ふむ……じゃ、無いですよ! どうして、こんな事をするんですか!?」

「いや何、お主らの危機意識を確認したくての?」

「はぁ!?」


 重蔵さんの言っている言葉の意味が、俺には直ぐには理解出来ない。

 俺が重蔵さんの真意を読もうとしていると、これ以上の攻撃の意思は無いと言う様に重蔵さんは木刀から手を離し、上げていた腰を下ろし座り直した。

 

「お主らがこの嬢ちゃん達を引率して、ダンジョンに連れて行くと言う話を聞いておったからの。護衛すると言う意識が、どの程度の物か確認したかったのじゃ」

「……?」

「護衛すると言う事は、何時如何なる時に襲撃されるか分からない状況に身を置き、己の身を呈してでも護衛対象の安全を確保すると言う事じゃ。……ここまでは良いか?」

「……はい」


 重蔵さんが腰を下ろし突如の襲撃をした理由を説明し始めたので、俺も不承不承と言った心持ちで激情を抑え込み、重蔵さんの話に耳を傾ける事にした。


「九重の坊主。お主は確かに、ギリギリではある物の、嬢ちゃんを守っておった。じゃが、護衛としては、失格じゃよ。自衛能力が乏しい者を護衛するのに、襲撃される前の兆候を見逃し、襲撃を実行されたのじゃからな……」

「……でも、重蔵さん。行き成り重蔵さんが斬りかかってくるなんて、思いもしませんよ。ましてや、道場で何て……」

「そうかの? それなりに分かり易い兆候は、見せておいたつもりなのじゃが……?」

「……爺さん。それって、瞑想しているのに傍に木刀を置いていた事を言ってるのか?」

「何じゃ裕二、お主は気付いておったのか?」

「……まぁ、ね」


 裕二がぶっきらぼうな口調で横から口を挟み、重蔵さんが言う襲撃の兆候を指摘する。

 そしてそれは、重蔵さんの反応を見る限り正解の様だ。

 

「普段爺さんが瞑想する時は、木刀を傍には置かないからな。何で置いてるのか、少し疑問だったけど……はぁ」

「普段との違いに気付けた事には合格じゃが、そこで思考を止めたのは頂けんの。お主らはここに、ダンジョンに潜っても生きて帰って来れる様にする為の訓練をしに来ておるのじゃろう? ならば、道場に足を踏み込んだ時点で、ダンジョンに潜っている時と同等の意識を持っておくべきじゃったの。全く、コレまでも稽古中に、何度か奇襲を仕掛けておったじゃろうに……」


 重蔵さんは腕を組んで、俺達の不甲斐なさに溜息を吐く。  

 俺はその重蔵さんの嘆いている姿を見て、申し訳なさで思わず視線を逸らした。言われてみればこれまでの稽古中にも、俺達が手合わせしている横から樹脂製のクナイを投げ込まれた事が何度かあったっけ……。

 思わず抗議した時には、戦場で流れ弾等の横槍が入らない1対1の状況など先ず無い、と言われたんだよな。実際、ダンジョン内で複数のモンスターと一度に戦う場合、重蔵さんの言う様に流れ弾等の横槍等はまま発生している。

 

「済まなかったの嬢ちゃん達、行き成りこんな真似をして」

「い、いえ。その……ちゃ、ちゃんとした理由があっての行動だったみたいだし、そんなに頭を下げて貰わなくても……」

「……そ、そうですよ。だからもう、頭を上げて下さい!」


 重蔵さんが美佳と沙織ちゃんに向かって深々と頭を下げながら謝罪をするのだが、突然の事態の変化についていけていない美佳と沙織ちゃんは慌てる。

 まぁ、行き成り重蔵さんみたいな人に、深々と頭を下げながら謝罪されれば戸惑うか。


「そうか。ならば、今度こそ嬢ちゃん達について話し合いを始めるかの」


 重蔵さんは頭を上げ、和やかな口調で話し始める。

 はぁ、まだ稽古もロクに始まっていないのに酷く疲れたよ。


 

 

 

 


 

 人数分の湯呑が用意され、俺達は一息つきながら美佳と沙織ちゃんに探索者を目指す理由を重蔵さんに直接話して貰う。

 今日の揉め事も含め二人が話し終えると、重蔵さんは深く溜息を吐いた。


「なる程の。間接的に聞くのと直接話を聞くとでは、その者達の狼藉は聞くに耐えんな」

「うん。本当、迷惑な連中だよ」

「はい。時間が経つにつれてチームの規模も増してますし、それに伴ってチームメンバー以外への態度も横暴になって来てます。今はまだ勧誘を拒否出来ていますけど、夏休みを挟んだ以降だと……」

「話を聞く限り、難しいじゃろうな」


 ゴールデンウィーク期間中にダンジョンに潜り続けたらしい留年探索者チームは、ゴールデンウィーク明けの短い期間でメンバー数を伸ばしているらしい。連日の探索で資金を大幅に増やしたらしく、放課後にカラオケパーティー等をチーム持ちで開き、羽振りの良い姿をみせチームの存在に明確な反対姿勢を見せていない中間層の囲い込みを行っているとの事。

 今日、美佳達が教室に来るのが遅れたのも、探索者勧誘の他にパーティーの参加勧誘も一緒にあったかららしい。

 

「面倒な集団だな……」

「力で従えず、飴を与えて勢力増か……。組織崩しを仕掛け様にも、代わりの飴を与えないと現メンバーの離反工作は成功しないだろうな」

「そうね。それに今は年齢制限で探索者試験を受けられないメンバーも多いでしょうけど、時間が経てばチームのメンバー全員が探索者になる筈よ」

「飴を貰っている以上、土壇場の資格取得拒否を留年探索者達は認めないだろうね」


 利益を享受したと言う事実がある以上、非探索者でチームに所属しているメンバーはいやがおうにも探索者になるしかないだろうな。


「その場合、既に完成しているだろうチームの組織構造に取り込まれて肉壁扱いか?」

「流石に、そこまで露骨な扱いはしないだろうけど……」

「確りした組織作りをしていれば、どうだか分からないわよ?」


 上納金とか言って、ダンジョン収入の一部を搾取しそうだな。

 探索者になった時期が早いと言う事は、それだけレベルが高くなると言う事だ。つまり、早く誕生日が来た者が上位で、遅く誕生日が来た者が下位と言う組織構造が自然と構築される。

 今、探索者としてチームに参加している者からすれば、今やっているメンバー集めのパーティー代負担等は投資だろう。今は一方的に出費している状況でも、数ヵ月後には組織の幹部として搾取する側に回っているはずだ。遊興費がタダと言う甘い勧誘にのり、パーティー参加しメンバーになったら後々すごい負債を抱えるだろうな。

 具体的には、夏休み後に誕生日が来るメンバーあたりが。


「今探索者になっている連中が幹部候補で、夏休み前に誕生日が来る連中が中堅、夏休み後に誕生日が来る連中が、下っ端って所か?」

「多分、そうなるんじゃないかしら?一度そんな組織に属すれば、抜ける事も難しいでしょうね」

「まるでマフィアだね」


 それも、現行の治安部隊を凌駕する力を持った精神的に未熟な者が集まる組織……質が悪過ぎるだろ。

 俺達が聞いた話から推測を話し合っていると、美佳と沙織ちゃんから震える声で話しかけられる。


「お、お兄ちゃん……その推測って、どの程度当たってるのかな?」

「ん? そうだな……あくまで推測だから全部あたっていると言う事は無いだろうけど、話半分に聞いていたら良いと思うぞ?」

「半分も、ですか……」


 美佳と沙織ちゃんは、顔を若干青くしながら引き攣った様に呟く。

 まぁ話半分でも、的中していたら質の悪い未来しか想像できないからな。無理もない。

 

「所で美佳ちゃん、沙織ちゃん。今の所、一年生の中でこの件に関する意見の派閥の割合ってどれ位の数なの?」

「雪乃さん? え、えっと……沙織ちゃん知ってる?」 

「……多分ですけど。ゴールデンウィーク前までは、明確な反対派が3で、曖昧な中立派が6、チーム参加派が1位の割合だった筈です」


 暗い想像をして不安気な表情を浮かべる二人に、柊さんが疑問を投げかける……って、いつの間に名前を呼ぶ様になったんだ?

 美佳は知らなかったようだけど、沙織ちゃんは大体の勢力図を把握していたみたいで答えてくれたけど……、ゴールデンウィーク前には40~50人もメンバーを集めていたのか。


「中立派の取り込み工作をやっているみたいですから、今どれ位の割合になっているのかは分かりません。でも、ここ何日かでパーティーに参加する人も増えてるみたいだから……」

「少なくない数が参加派に鞍替えした……と考えた方が良さそうね」


 道場内に、俺達が漏らした溜息が木霊する。

 今でも1大勢力なのだろうに、この分だとメンバーが100人を超えるのもそう遠くないだろう。1学年の4分の1を超える人数が参加するチームか……。

 この分だと、美佳達が只単に探索者になるだけではどうしようもない気がしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達がどう対処しようかと頭を悩ませていると、沙織ちゃんがオズオズと言った様子で手を挙げながらとある意見を言う。


「あの、潰す事は出来なくても、せめて反対派で対抗出来るチームを作った方が良いと思うんですけど……」

「まぁ確かに、一党独裁の様な現在の状態はあまり望ましくないね……」

「そうね。勢力が小さくても、最低限でも発言力がある勢力はあった方が良いでしょうけど……」

「だが現状で、対抗出来る様な組織を立ち上げられるのか? 今でも、100人近い規模のチームだろ?」

「現状では間違いなく、大人数の勧誘は困難でしょうね。留年探索者のチームと違って、資金面でも武力面でも見劣りするんじゃ、進んで参加しようって言う人は少ない筈よ」

「そうですか……」


 沙織ちゃんの意見に、俺達は難色を示す。確かに沙織ちゃんの意見は一理あるのだが、それを実現させる為には一つ足りない物があるのだ。

 それは……。


「もし対抗出来るチームを立ち上げる場合は、留年探索者に対抗出来る旗頭が必要よね」

「まぁ、そうだね。最低限、留年探索者と同程度のレベル帯である事が望ましいかな? 最低でもリーダー同士は力が拮抗している……と言う状況でないと抑止力にもならないよ」

「それと、旗頭には1年生が就くと言う条件もあるぞ。あくまでも、1学年内での問題でしかないんだからな。2,3年が出張ると問題が更にややこしくなる。仮に2,3年生が旗頭になった場合、今の1年生が3年生になった時に勢力の均衡が崩れて、抑止力になると言う前提が破綻するからな」


 そう、何かの組織を作り動く場合、指標としての旗頭か大義名分が必要になる。

 しかし現在の所、留年探索者のチームは露骨なメンバー集めと表立っていない素行不良と言う以外は、問題となる問題行動は起こしていない。この状況で大義名分を掲げ対抗組織を設立する等と言う事は不可能であり、それでも対抗組織を立ち上げ様となると旗頭……明確に対立を表明する者を擁立し組織を設立するしかない。


「……それなら、私がやる」

「……美佳?」


 俺達が対抗策について話し合っていると、突然美佳が声を上げた。 

 って、私がやるって……本気か?俺達が戸惑い美佳をまじまじと見ていると、隣に座っていた沙織ちゃんが美佳の肩に手を置きながら信じられないと言った様子で問いただす。


「美佳ちゃん、本気?」

「うん。探索者になればアイツ等の勧誘を退けられる様になるって思ってたけど、お兄ちゃん達の話を聞いているとそれだけじゃ無理っぽいしね。それなら、自分達で動くしかないかなって」

「でも、旗頭になるって事はアイツ等の矢面に立つって事だよ? 絶対嫌がらせとかされるよ?」

「分かってる。でもこのままだと高校3年間、アイツ等から隠れてコソコソ過ごす事になっちゃうよ?」

「……」


 沙織ちゃんは美佳の言葉を聞き、黙り込む。まぁ、美佳の指摘の通りだからな。

 今ならまだ対抗組織を作る事も出来るだろうが、時期(夏休み前)を逸すれば勢力的にそれも出来無くなるだろう。一気に組織としての力が増すだろうからな。今の2,3年が在学して居る間は彼等も無茶な事はしないだろうが、彼らが最上級生になれば……あまり明るい想像は出来無い。手をこまねいていると、高校を卒業するまでの間、美佳と沙織ちゃんは一大勢力となった留年探索者達とことを構えない様に気を付けながら高校生活をする事になってしまう。それは、あんまりにもあんまりだろう。

 

「だったら、私が旗頭になって対抗する組織を作るよ。折角の高校生活を、あんな連中に無茶苦茶にされたくないからね」


 美佳は笑顔を浮かべながら毅然とした口調で、俺達に向かって旗頭になると明言した。

 突然の展開に俺達が沈黙する中、沙織ちゃんは美佳への協力を申し出る。


「……分かったよ。じゃぁ、私が美佳ちゃんを補佐してあげる」

「沙織ちゃん?」

「私には、美佳ちゃんだけを矢面に立たせる事なんて出来ないから……」

「沙織ちゃん……うん、一緒に頑張ろう」


 二人は手を取り合い、協力し事に当たる事を誓い合う。俺達はその二人の姿に何も言えず、無言で見届けるしかなかった。

 はぁ……美佳がそう決めたのなら、俺達は俺達に出来る事を全力で行ってバックアップをしてやるしかないな。

 

 

 

 

 

 

  

 

 

長い高校生活の安寧の為に、自分達で対抗組織を作る事を決意しました!


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― 新着の感想 ―
そういえば獲得経験値ってラストアタッカーだけだったような? それだと派閥って人数おおいだけの雑魚が量産されそう
主人公たちが自分本位に力を隠してるせいでもある いや、仕方ないっちゃ仕方ないんだけど一番の解決策はDPと校長立ち会いの元で3人が本気で模擬戦して自分たちも留年野郎も兵器であることを証明するのが最速だと…
[一言] たかがそれしきのことで疲れるとか危機管理能力皆無じゃん(笑)死ぬのが目に見えてるから辞めたほうがいいよね。
2021/02/09 04:50 退会済み
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