第563話 初めてのダンジョン探索終了
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狙っていた訳では無いのだが、願望を口にすると叶う時もあるというのは本当なんだと実感していた。
モンスターを探しダンジョンの奥の方まで進んでいたので可能性はあったが、本当に俺達は移動行列と合流する前にモンスターと遭遇した。
「……出たね」
「出たな」
「出たわね」
俺達はそのモンスターの姿を見て、思わず溜息を漏らす。ダンジョン出現まではゲーム等で登場する雑魚キャラの代名詞の様なモンスターだったが、実際に探索者がダンジョンで対峙してみると中々に倒しづらい難敵だと驚かれるギャップナンバー1と称されるモンスターだ。
半透明で僅かに震える柔らかげな体、水まんじゅうのような見た目をしたそのモンスターの名はスライムである。
「スライムか……」
「スライムだね……」
「アレがスライム……」
「わぁ、プルプルしてる」
美佳と沙織ちゃんは面倒なモンスターに遭遇したなぁと少し表情を歪め、舘林さんと日野さんは今まで見たモンスターと比べ怖さを感じづらい外見に興味津々といった表情を浮かべていた。
スライムがどういった生態のモンスターか知っているかどうかの違いだろうな。
「舘林さんに日野さん、見た目に騙されたら駄目だよ。経験の少ない新人探索者が怪我をする要因の多くに、スライムの見た目に惑わされて油断したってのがあるんだからね?」
「「えっ?」」
「うん、その反応だけで2人がどれだけ油断してたのかが良く分かる」
「「……」」
俺の指摘にバツの悪そうな表情を浮かべながら、申し訳なさげに視線を逸らす舘林さんと日野さん。
「はぁ、じゃぁ簡単にスライムについて説明するね?」
「「……はい」」
「まぁスライムについて簡単に説明すると、打撃の効きにくい上にコアを壊さない限り倒せない粘性モンスターかな? 攻撃系の魔法スキルの無い新人探索者だと、近寄ってコアを刺突攻撃で破壊する必要があるから怪我をする可能性が高い相手だ。更にスライムの体液には物を溶かす性質があるから、攻撃に使った武器は溶けて破損するし、コアを破壊し損ねて反撃を食らうと火傷に似た傷を負う。腕や足ならまだしも、顔なんかに張り付かれたら短時間でも大怪我に繋がるから注意が必要だ」
「「……」」
こうやって簡単に説明するだけでも、スライムは中々の難敵なんだよな。効果的な対処法を知っていないと、避けて通る事推奨のモンスターである。
お陰でスライムについての説明を聞いた舘林さんと日野さんは、少し青い顔をしながら何ともいえない眼差しをスライムに向けていた。
「そうなんだよね。何も知らない新人探索者がスライムだって甘く見て安易に攻撃した結果、高いお金を出して買った武器を溶かされて泣いてる姿を偶に見るんだよね」
「ああ、居るよねそういう子。他にもコアを壊し損ねて、スライムの反撃で高い回復薬を使って借金まみれに……って話も聞いた事があるよ」
美佳と沙織ちゃんが追撃する様に、スライムを甘く見た新人の末路を説明する。
ますます顔を青褪めさせる舘林さんと日野さん、まぁこの説明だけを聞いていればそうなるよな。
「だけどまぁ何だ、正しい対処法を知っていればそこまで倒すのが難しい相手ではないから。油断はダメだけど、遭遇する事を悩む必要は無いよ」
「「! 本当ですか!」」
対処法がある事を伝えると、舘林さんと日野さんは明るい表情を浮かべる。
まぁ安心してくれ、凄く効果的な対処法があるからさ。
「本当本当、効果は俺達がちゃんと実証している手法だよ。ただし、どちらかというと裏技的手法だけどね」
「裏技……さっき使った激辛水入りの水鉄砲みたいなやつですか?」
「そうそう、アレの様なヤツ。凄く効果が高い上に安上がりの手段だ」
「効果的、安く……」
お高い手段になると、魔法スキルの使えるスキルスクロールを買うとか、液体窒素をぶちまけて相手を凍らせるとかあるが、金欠気味の新人探索者がやるには難易度が高い。
簡単で安く効果が高い手段があるのなら、是非とも知りたいだろうね。
「じゃぁ折角だから、実際にやって見せるよ」
「あっ、お兄ちゃん私がやるよ」
「そうか? じゃぁ頼むな」
「うん」
美佳が代わりにやって見せてくれる事になったので、俺は舘林さんと日野さんにスライム討伐で使うモノの説明をする事にした。
と言う訳で、バックパックからソレを取り出し2人に見せる。
「はい、コレがスライム討伐の裏技に使うタネだよ」
「これ……ですか?」
「これって……塩、ですか?」
「そっ正解、塩だよ」
驚きと戸惑いの表情を浮かべる舘林さんと日野さんに、俺はチャック付きの小袋に入った塩をそれぞれに手渡す。この小袋に入っている塩の量が、大体スライム1体を安全に倒すのに必要な量になる。
流石にケチってギリギリの量だと、確実に倒しきれるか分からず危ないからな。
「意外に思うかもしれないけど、この塩をスライムに掛けると倒せるんだよ」
「塩で倒せるって……」
「それってナメクジなんじゃ?」
「まぁそう思うよね。でも本当にこれで倒せるんだよ、何でなのかまでは分からないけど」
俺が塩でスライムが倒せると伝えると、一瞬で胡散臭げな眼差しを向けて来る舘林さんと日野さん。
無理もないとは思うのだが、胸の中に些かバツが悪い気持ちが湧き出てくる。
「「……」」
「そんな胡散臭げな眼差しで見ないでくれ。ほら、美佳がこれから実際にやって見せてくれるから、それを見てから俺が2人を揶揄ってるのかは判断してよ」
「「……はい」」
短い2人の返事に籠っている感情は、信用4割疑惑6割といった感じである。
「ほら2人とも、美佳がやるよ」
「「……」」
俺が指さす先には、俺が取り出したものと同じチャック付きの小袋を手に持った美佳の姿があった。
そして美佳はゆっくりとした足取りでスライムに近付き、相手が動き出す前に……。
「えいっ」
「……!?!?」
美佳は小袋を一気にひっくり返し中身の塩をスライムにぶちまけ、素早く間合いを取る。塩の塊は重力に引かれ真っ直ぐにスライム目掛けて落下し着弾、スライムの全身を真っ白に染め上げた。
そして塩を全身に浴びて数瞬後、スライムは断末魔の叫びをあげるかの様に激しく体を伸縮させる。
「「あっ……」」
「討伐成功だね。ほら、いったとおりだろ? 塩でスライムは倒せるんだよ」
塩を全身に浴びたスライムは数秒で動かなくなり、俺達が見守る中体の粒子化を始めた。
舘林さんと日野さんが疑わし気な眼差しで見守る中、実際に塩でスライムの討伐が証明された瞬間である。
「「本当に塩でスライムが倒せるんだ……」」
「嘘を教えたりはしないよ。冗談のつもりで教えた偽情報を信じられでもしたら、怪我に繋がる大事になるからね。変に思ったかもしれないけど、今回教えたものは俺達が実証した物だけだよ」
新人探索者がネットの真偽不明な情報を信じ動いた結果、どういった結果を辿ったのかって話は良く耳にするからな。自分達で実証を終えたものじゃないと、他人には怖くて教えられないって。
自分が口にした冗談が原因で、万が一が起きたともなったら後味が悪いにも程があるからね。
「念の為にいっておくけど、疑う事自体は悪い事じゃないからね? これから2人も今の様に信じがたい攻略情報やお得情報というものを耳にするとは思うけど、美味い話だからといって飛びつかずに慎重に判断してくれ。安易に信じて行動すると、取り返しのつかない大怪我にも繋がるからさ」
いやホント、ダンジョンに関する色々な情報がネットには転がっているので、どれが本物なのか判断しづらいと思う。だからこそ、慎重に検討し判断し動いて貰いたいものだ。
「……はい、疑ってしまってすみません」
「すみません」
「謝る様な事じゃないから気にしないでくれ、それよりほら見て見なよ」
俺が指さす先、スライムが消えた跡に何かが転がっていて美佳がドロップアイテムを拾い上げていた。
「うーん、残念。コアクリスタルだね」
どうやらドロップアイテムはコアクリスタルらしく、美佳も少し残念そうな表情を浮かべていた。
まぁ2回戦って2回ドロップアイテムを得られたのなら、安くとも何もないより良いと思うぞ?
「どうやらコアクリスタルだったみたいだね。まあそうそう何度も上手くはいかないって事かな?」
「そうみたいですね、残念」
「また回復薬が出たのかって期待したんですけど……続かないですね」
換金率の良いドロップアイテムは、中々出ないものだ。なので探索者はモンスターとの戦闘回数を増やし、ドロップアイテムを得られる確率を上げるしかない。
ゆえに新人探索者はまず、コツコツと戦闘を繰り返して慣れていき、効率良くダンジョン探索が出来る様になるのが目標かな? 慣れればダンジョンの深い階層まで潜れるようになり、効率良く換金率の良いアイテムを得られるようになる。そこまでいけば新人探索者も卒業し、駆け出し探索者と名乗れるようになるだろう。
「まだここは1階層目だからね、中々いいドロップアイテムというものは出ないものだよ。今回舘林さんがゲットした推定回復薬?だって、1階層目で得られるドロップアイテムとしては中々のものなんだよ?」
「そうなんですか?」
「一部のレアドロップ品を除いて大幅に買取価格が下がってる中、回復薬は需要が高いから比較的安定した価格で今でも買い取りをしてくれるからね」
「そうなんですか……」
実際問題、偶に得られる回復薬が新人探索者の金銭的な意味でも命綱になっているらしいからな。他のドロップ品の買い取り価格が大幅に下がっている中、それなりの価格で買い取って貰える回復薬は新人が探索者を続ける上でなくてはならないものだ。
軽い怪我をした時のお守り、金策の品としても有用、それが新人探索者にとっての回復薬である。
「そうなんだよ。だから新人探索者が上の階層で稼ごうと思ったら、回復薬を狙うのが安定して稼げる手段だよ。1人の新人探索者が持ち運べる量には限度があるからね、ドロップしたアイテム全部持ち帰るってのはダンジョンの奥へ進めば進むほど難しい。安全に持ち運べる量を考えると、ある程度厳選する必要が出て来るからね。もちろん、スキルスクロールなんかのレアドロップ品が出るのが一番なんだろうけど……まぁコレも別の意味で注意が必要なんだけどね」
「なるほど……」
舘林さんと日野さんは小さく感嘆の声を上げ、自分達の背負うバックパックに視線を向けていた。
モンスターと戦う事だけが探索者じゃないからな、如何に利益に繋げ探索者活動を継続できるかを考えないと直ぐに破綻する。
レアドロップ品を手に入れた探索者グループが一時的に得た金銭で豪遊し、活動費まで浪費し身を持ち崩して破綻したという話は良く聞くからな。
「さて、スライム戦も終わった事だし移動しようか?」
「そうだな」
「ええ」
「「了解」」
「「はい!」」
こうして俺達はスライムとの戦いを終えた後、無事に移動行列と合流しそのまま何事もなくダンジョンの外へと出る事が出来た。こうして舘林さんと日野さんの初めてのダンジョン探索は終わった、正味2時間といった所かな?
初めてのダンジョン探索は終わったとはいえ、まだやる事は残っている。
どちらかというと、探索者としてはこっちが本番かな?
「それじゃぁまずは着替えだね。それが終わったら今日の戦果確認、ドロップアイテムを持って換金窓口に行くよ」
「「はい」」
「それじゃぁ柊さん、悪いけど2人のフォローを頼むね? 多分着替えの時が、一番気が抜けるタイミングだと思うから……」
戦闘服から平服に着替えると、無意識に身構えていた意識が戦闘状態から平時に切り替わる。制服を着て仕事をしている時は大丈夫だったのに、家に帰り私服に着替えると一気に疲労感が出て来たというヤツだな。意識の持ち様だろうが、2人が初めてのダンジョン探索を終えた瞬間を実感するタイミングはこの時だと思う。
そして柊さんは勿論、美佳も沙織ちゃんも分かっているとばかりに力強く頷き返してくる。
「任せて。少し時間が掛かるかもしれないから、2人は椅子に座って待っていてよ」
「了解、頼むね」
「ええ」
軽く頷いた後、柊さんは舘林さんと日野さんを連れ更衣室へと入っていた。
舘林さんと日野さんは少し俺達の会話の意味が分からないといった表情を浮かべていたが、まぁ直ぐに実感すると思う。
「それじゃぁ俺達もさっさと着替えを済ませるか?」
「そうだね」
そして5人を見送った後、俺と裕二も着替えをする為に更衣室へと入った。
ふぅ、何とか無事に終わって良かったよ。




