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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第20章 後輩とダンジョンへ

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第562話 初めての実戦を終えて

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 暫く休憩を取った事で日野さんも落ち着きを取り戻し、舘林さんも表面上は落ち着いた雰囲気に戻っていた。

 まだ少し日野さんの顔色は悪いが、足取りは確かなのでこのまま探索を続けても大丈夫だろう。

 

「それじゃぁ、そろそろ先に進もうか? 舘林さんの分のモンスターを探さないといけないからね」

「あっ、はい。よろしくお願いします」

「直ぐには見つからないと思うけど、さっきみたいに思ってたよりはってのもあるだろうから気は抜かないでね」

「はい」


 俺の助言に、舘林さんは少し深刻そうな表情を浮かべながら深く頷いた。

 武器を握る手に少し力が入っているが、震えている様子は無いので酷く緊張しているという事もなさそうだ。


「美佳、沙織ちゃん、また前衛をよろしく。日野さんと舘林さんは間について、2人の動きをよく観察してダンジョン内の歩き方を学んでくれ」

「任せてよ」

「任せて下さい」

「「はい!」」」

「それじゃぁ、出発」


 俺達は再びモンスターを探し求め、ダンジョンの奥へと足を進める。

 舘林さんと日野さんの足取りもしっかりしたもので、先程のモンスター戦の影響はさほど大きく出ていなさそうだ。


「うーん、やっぱり少し影響が出てる感じかな? 日野さんの歩き、体幹が少しブレてるよね?」

「そうだな。慣れないダンジョンでの疲労もあるだろうけど、それにしては少しブレが大きい。たぶん本人に自覚は無いだろうけど、少し腰が引けている感じだな」

「腰が引けてるって、怖がってるという事かしら?」


 俺達3人は前を歩く4人の後ろ、後衛に陣取り全体の警戒をしながら舘林さんと日野さんの様子を観察し小声で相談していた。

 その結果、舘林さんは比較的普段と同じ様な歩き方が出来ているが、日野さんの歩き方が普段と比べ少しブレている様に見えた。


「多分な。本人に自覚は無いだろうけど、もうモンスターとは戦いたくないと思っていると思う。少なくとも今日は、な」

「そう、なんでしょうね。やっぱり最初の実戦、最初のモンスター討伐というものはかなり精神的に来るもの。手に残る感触、自分がやったんだという実感。そういったものは、簡単には振り払えないものね」

「そうだよね。やっぱり今日は予定通り、舘林さんの実戦が終わったら早めに引き上げよう。今は気が張り詰めてるから表面上は大丈夫みたいだけど、一度気が抜けると危ないだろうから」


 俺達も最初のダンジョン探索でモンスターと戦った後、動揺して警戒が疎かになった結果として怪我をした経験があるからな。

 舘林さんも日野さんも、初日から無理をする必要もないだろう。


「そうだな。そうなると、早めに見つかってくれる方がありがたいんだけど……」

「1階層だものね、さっきみたいな幸運はそうそう無いと思うわ。比較的他の探索者と遭遇する事が少ないから、1時間は掛からないでしょうけど……30分前後は掛かるでしょうね」

「そうなるよね」


 自分達が普段探索に使う様な階層なら少し歩き回れば直ぐモンスターと遭遇できるのだが、1階層等の浅い階層での遭遇率の悪さは際立っている。

 まぁ根本的に、1階層辺りの探索者人口が多すぎるのが原因なんだけど。


「まぁ早めに遭遇出来ることを祈りながら、地道に探し回るしかないな」

「そうね」

「そうなんだよね」


 3人揃って小さく溜息を洩らしながら、前を歩く4人に視線を向ける。


「暫くはこのまま、2人の変化を見逃さない様にしないといけないね」


 俺の言葉に、裕二と柊さんは静かに頷いた。






 今度は運が悪かったらしく、40分程ダンジョン内を歩き回ってようやく次のモンスターと遭遇する事が出来た。途中で2度ほどモンスターの気配を感じる事は出来たのだが、先客の方が気配の近くに居るのを感じたので別の道に進んだ結果だ。

 タダでさえ少ない遭遇機会なのに、先客がいるとかやっぱり人が多すぎるんだよな。


「ん?」

「どうしたの美佳ちゃん?」

「ストップ、この先にいるよ麻美ちゃん」

「!?」


 足を止めた美佳と沙織ちゃんが、通路の先にモンスターが居る事を教える。暫くモンスターに遭遇しなかった事で少し気が緩んでいたらしい舘林さんは、その知らせを聞き驚きの表情を浮かべながら武器を持つ手に力が籠った。

 

「うん、この気配は多分ハウンドドッグかな? 最初に遭遇したやつとそっくりだからね」

「ハウンドドッグ……」


 美佳が通路の先にいるだろうモンスターの種類を知らせると、舘林さんは不安げな表情を浮かべながら少し動揺した様子で呟いた。

 ハウンドドッグは美佳が最初に見本として戦って見せた相手だ、その姿を思い出しているのだろう。


「あっ、やっぱりハウンドドッグだったね」


 そして少し先に進んだことで、通路の先に居たモンスターの正体が判明した。やっぱり美佳の推測通り、ハウンドドッグだった。


「大丈夫舘林さん? 戦えそう?」

「はっ、はい、大丈夫です。いけます」 

「そっか、それじゃぁ戦って貰うよ」


 調子を尋ねる俺に、舘林さんは動揺を振り払う様に力強く返事をする。ただ少し言葉の端が少し震えているように聞こえたが、今は聞き流しておくとしよう。 

 そして戦う事を決めた舘林さんに、俺は激辛水入りの水鉄砲を渡す。


「はい。日野さんが使ってる所を見てただろうけど、一応練習してね」

「分かりました」


 激辛水入りの水鉄砲を受け取った舘林さんは、日野さんと同じ様に少し壁から離れた位置に移動し発射練習をする。

 短い練習の後は少し緊張が解れたように見えるので、やっぱり直前での練習は危ないけど有効だな。


「大丈夫そうだね、それじゃぁやってみようか」

「はい」

「美佳、そういう事だから舘林さんと交代してくれ」

「了解、麻美ちゃん頑張ってね」

「……うん」

 

 舘林さんは美佳に少し硬い声で返事をした後、ゆっくりとした足取りで前に出る。

 そして舘林さんが数歩進んだところでハウンドドッグの警戒範囲に触れたのか、ハウンドドッグは舘林さんを真っ直ぐ見ながら低い唸り声を上げ始めた。


「グゥッ!」

「……」


 舘林さんが徐々に間合いを詰めていくと、ハウンドドッグの唸り声も次第に大きくなり始める。

 そして互いの間合いが一定のラインを超えた時、ハウンドドッグが動きを見せた。


「グオォォ!」 

「!」


 ハウンドドッグは舘林さん目掛け走り出し、一気に間合いを詰め跳びかかろうとする。舘林さんも素早く右手に持った激辛水入りの水鉄砲をハウンドドッグの鼻先に狙いを定めながら、射程に入るタイミングを静かに見計らっていた。

 そして……。


「グオッ!」

「エイッ!」


 ハウンドドッグは舘林さん目掛けて跳びかかった瞬間、舘林さんは躊躇なく激辛水入りの水鉄砲の引き金を引いた。

 跳躍中のハウンドドッグは当然回避する事は出来ず、舘林さんが打ち出した激辛水に顔の正面から突っ込んだ。


「ギャン!?」

「っと!」


 舘林さんは慌ててサイドステップで跳んでくるハウンドドッグを躱し、激辛水を顔に浴びたハウンドドッグは空中で姿勢を崩し地面へと墜落した。

 うん、綺麗に決まった激辛水は効果抜群だな。


「ギャウゥゥ……」

「うわぁ……」

 

 地面に突っ込んだ激辛水を浴びたハウンドドッグは、自分の顔が傷つくのにも構わず前足で掻き毟り激辛水を取ろうと藻搔いていた。

 そして舘林さんは自分が作り出した惨状に、思わずといった様子で引き攣った表情を浮かべている。


「麻美ちゃん、ボーとしていないでトドメだよトドメ!」

「相手が動けない内がチャンスだよ!」

「!? あっ、う、うん!」


 美佳と沙織ちゃんの言葉を聞き、舘林さんはハッとした表情を浮かべ水鉄砲を地面に置いた。

 そして鉄パイプを握りしめた舘林さんは少し躊躇した後、ゆっくりと藻搔き苦しんでいるハウンドドッグへと近づいていく。


「ギャウゥゥ……」

「……」


 悲痛で弱弱しい呻き声をあげるハウンドドッグの姿に、舘林さんの顔に躊躇いの色が浮かぶ。

 確かに動けない相手に止めを刺すのは躊躇う、ただし相手はモンスターだ。コレから探索者としてやっていこうと思うのなら、モンスターにトドメを刺せないようではだめだからな。


「舘林さん」

「すぅ、はぁ……やります」


 俺の声を切っ掛けにし舘林さんは覚悟を決めた表情を浮かべ、鉄パイプを両手で構え頭上に振りかぶる。

 そして倒れ伏すハウンドドッグに狙いを定め……。


「!」

「ギャン!?」


 思いっきりハウンドドッグの頭目掛けて振り下ろした。振り下ろした鉄パイプがハウンドドッグに当たった瞬間、ハウンドドッグの短い悲鳴と共に鈍い打撃音が辺りに響いた。

 そして舘林さんは鉄パイプを振り下ろした体勢のまま、少し目を見開き肩を僅かに震わせていた。


「……」


 そして振り下ろした体勢のまま十数秒後、ハウンドドッグが粒子化し始めた。

 うん、これでハウンドドッグの討伐確定だね。


「麻美ちゃん、終わったよ」

「! あっ、う、うん」

「もう大丈夫だよ、粒子化も始めてるから」

「……うん」


 美佳が声を掛けた事で硬直が取れ、舘林さんはゆっくりとした動きで粒子化し始めたハウンドドッグの傍を離れた。少し呆然とした様子なので、ちゃんとフォローしないとな。

 そしてハウンドドッグの傍を離れた数秒後、粒子化を終えた跡に小さな瓶が転がっていた。

 

「あっ、ドロップ品が出たよ。瓶って事は、回復薬かな?」

「ホントだ、珍しいね」

「えっ? えっ?」


 ハウンドドッグの消えた跡に転がった瓶を見つけ、美佳と沙織ちゃんが口々に感嘆の声を上げる。確かに2人がいう様に最初のダンジョン探索で、コアクリスタル以外のドロップ品が出るなど運が良い。

 しかし初めてのダンジョン探索でその言葉の意味が分からない舘林さんは、初めてのモンスター討伐のショックを感じながらも困惑の声を漏らす。


「鑑定して貰わないと分からないけど、コレが回復薬なら今日の探索の収入が跳ね上がるよ」

「具体的にいうと数千円の収入だよ。交通費とちょっとしたお小遣いくらいかな?」

「それでも初めてのダンジョン探索での収入としては、幸先が良いスタートだよ。運が悪いとマイナススタートだからね」

「うんうん、新人あるあるだよね」


 新人探索者が初めてのダンジョン探索で得られる収入は、大抵は良くてプラマイゼロ、大半はマイナススタートだ。プラスでスタート出来るのは、十分に成功の部類といえる。

 まぁ極一部、豪運の持ち主がいるパーティーではレアドロップ品をゲットし大幅プラスになる事もあるが例外だな例外。


「そ、そうなんだ……ははっ、やったぁー?」

「うんうん、ヤッター!で良いんだよ麻美ちゃん。2人の初めてのダンジョン探索、これなら大成功だよ!」

「そうだよ! ほらほら涼音ちゃんもバンザイ、今日の探索は大成功よ!」

「えっ、あ、うん。ええっと、バンザーイ?」


 美佳と沙織ちゃんが盛大に初探索成功を祝い盛り上げ、つられるように舘林さんも日野さんも良く分からない勢いに飲まれ万歳三唱していた。

 良く分からないノリだが、初めてのモンスター討伐で落ち込んでいた2人もつられ僅かにだが笑みを浮かべているので良いか。


「4人とも、嬉しいってのは分かるがそろそろ止めないか? 一応まだダンジョン内だから、浮かれすぎるのは良く無いぞ」

「あっ、うん、ごめん。でもすごいよね、初めてのダンジョン探索でこれなら、今日の探索は大成功だよね?」

「ああ、成功だ。大半の新人探索者がマイナススタートする中、これなら大成功といって間違いない」

「そうだよね!」


 美佳が今日の探索は大成功だったよねと問いかけてきたので、俺が肯定して頷くと初討伐のショックで憂鬱そうな表情を浮かべていた日野さんも舘林さんも揃って小さく笑みを浮かべていた。

 この分なら、ショックの影響は最小限に出来そうだな。これから先も探索者を続けていくのなら、初めての探索が大成功だったという経験を得られたのは大きい。まぁ逆に、成功体験に縋られるのも厄介だから注意しないといけないんだけどな。


「ああ。それじゃぁ今日は最初の予定通り、ここで探索を終わりにしてダンジョンを出る。初めてのダンジョン探索でのショックは馬鹿に出来るものじゃないからな、無理をする必要はない」

「うん、元々2人が1体ずつ戦う予定だったしね。無理をする必要はないと思うよ」

「そうですね、予定通りここで引き返した方が良いと思います」


 美佳と沙織ちゃんは予定通り撤退する事に賛成し、舘林さんと日野さんも言葉には出していないがもう帰りたいと訴えていた。念の為に視線を裕二と柊さんに向けると、無言で頷き予定通りの撤退を支持している。

 うん。全員一致で今日の探索はここで終了、撤退決定だな。


「それじゃぁ今日の探索はここまで、予定通り撤退する。まずは移動行列に合流する事を目指して移動するから、もう終わったと思って周辺の警戒を怠らない様に」

「「「「はい」」」」

「了解」

「分かったわ」

「それじゃぁ出発!」


 こうして舘林さんと日野さんの初めてのダンジョン探索は終了となった。

 まぁまだダンジョン内だから、最後まで気は抜けないんだけどね。
















換金額が渋い時期の新人だと、プラス収入で始められるのは余程の運が無いと難しい感じですね。


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
まぁ偶然とはいえ初陣をプラスで撤収出来るなら文句無しでしょう。しかも怪我一つ無しだから。 帰りにはファミレスにでも寄り道して打ち上げなんぞを。
やはりどっか部族みたいに小さいころから殺生の経験を積んでいくようになるんだろうなぁ蟲とかはたいしていいけどカエルやネズミーとか解剖とか生物の授業がはやまりそう
場合によっては、1回だけではなく……。 倒れ込んだ相手に2回目3回目の水鉄砲を撃たせて、その後に流れのまま近接攻撃……みたいな流れにするとショックの軽減には良いかもしれませんね。 訓練としては二段階…
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