第561話 初めての実戦を
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俺は緊張で少し表情が強張っている日野さんに、バックパックから取り出したそれを見せる。
お馴染み、特製激辛水入りを打ち出す小型水鉄砲だ。
「えっ? 何ですか、コレ?」
「さっき美佳が使ったヤツの、水鉄砲版だよ。スプレーボトルより大きいけど、射程が長いから安全マージンがより多くとれるんだ」
「はっ、はぁ……」
日野さんは少し戸惑いながら、恐る恐るといった手付きで俺から水鉄砲を受け取った。
まぁコレから初めてのモンスターとの戦闘だというのに、いきなり水鉄砲を手渡されたら戸惑うしかないよな。見た目は完全に玩具だし。
「とりあえず軽く練習しておこうか? どんな感じで水が飛ぶのか知っておかないと、いきなり本番じゃ使えないだろうからね」
「あっ、はい」
「とりあえず、そっちの壁に向かって撃ってみてよ。説明書によれば、射程は3m〜5mってあったから。大体大股で3歩分くらいかな? コレは練習用のただの水が入ったやつだから、遠慮はしないでね」
「わ、分かりました」
美佳が前方でモンスターの動きに警戒を続ける横で、俺の指示に従い日野さんは壁際から大体3m程離れた位置に立つ。
そして日野さんは俺の取り扱い説明を聞きながら銃身下のレバーを数回前後に動かし空気を圧縮、タンク内の加圧が完了し発射準備が整う。
「それじゃぁ撃って見てよ、それなりに勢い良く飛び出るからさ」
「はい、いきます」
日野さんがトリガーを引くと、銃口から少量の水が勢い良く壁に向かって浅い角度で拡散しながら飛び出した。
「何度かやって、どんなふうに飛ぶのか弾道を覚えてね。ある程度広がるから狙いは大体で大丈夫だけど、目標の至近にいくようにはしないといけないからさ」
「分かりました」
日野さんは水鉄砲を数回発射し、どの程度拡散しながら水が飛ぶのかを覚えていった。
そして1分程の練習を終えた頃には戦闘への緊張で強張っていた表情も柔らかく解れており、程良い感じに肩の力も抜けリラックスが出来ていた。これなら大丈夫だろう。
「そろそろ良いかな?」
「はい、大丈夫です。大体わかりました」
「それじゃぁ本番いってみようか?」
俺は日野さんから練習用水鉄砲を返してもらい、本番用の特製激辛水入りの水鉄砲を渡す。
タンクの中に入る赤い水が薄く透けて見えており、妙な禍々しさを感じさせる水鉄砲だ。
「取り扱い方は同じだから、間合いを測って使ってね」
「はい」
「すまないな美佳、待たせたけど準備OKだ」
前方でモンスターの動きを警戒していた美佳に、準備完了だと伝える。
本来モンスターが直ぐ傍にいる状況での練習などもってのほか、ここに来るまでにやっておくべき練習だ。だが初めての戦闘で極度に緊張している日野さんと舘林さんの緊張を解す為に、ワザと直前で行ったわけである。お陰で程良い緊張感と無駄な力の入っていないリラックス状態に持って行けた。
「了解。それじゃぁもう少し進んで、相手の正体を確かめるよ」
「頼む」
美佳は警戒しつつゆっくりとした足取りで先に進み、相手の正体を確かめる。
結果、前方に控えるモンスターの正体が判明した。
「あれは……ホーンラビットかな」
「ホーンラビットか……そっか」
俺は聞いてモンスターの正体が判明し、小さく溜息を漏らす。ホーンラビット、俺達としては今更になるモンスターではあるが、強さはともかく新人探索者にとっては微妙に相手しづらい姿をしたモンスターだ。結構な数の新人探索者がコイツの外観に騙され、倒すのを躊躇し怪我を負うという曰く付きの相手である。
近寄れば普通に殺す気で襲い掛かってくるんだけどな、コイツも。
「そういう訳だから日野さん、日野さんが最初に相手にするモンスターはホーンラビットに決まったよ。見た通り、アイツは頭から生える角を武器に襲い掛かってくる。跳躍力に長けているモンスターだから、相手との間合いをしっかり考えて動く様にしないと痛い目を見るからね」
「あっ、はい。あっ、でも……」
日野さんはホーンラビットの姿を目にし少し戸惑った表情を浮かべていたが、俺は日野さんの目を真っ直ぐ見ながら言葉を掛ける。
「当たり前の事だけど、アイツはああいった見た目をしてるけどモンスターなんだ。さっき美佳が倒したハウンドドッグと同じモンスター、俺達探索者が近づいたら嬉々として襲い掛かってくるモンスターなんだ。あの見た目に騙され怪我をした探索者はごまんといる、だから日野さんも見た目に騙され油断しない様に。躊躇せず止めを刺す、コレが鉄則だよ」
「……はい」
まだ少し戸惑いが残っている様な表情を浮かべているが、日野さんは俺の言葉を聞き覚悟を決めるように深く頷いた。
うーん、初戦はハウンドドッグの方が良かったかも? でもこれからも探索者を続けるのなら、相手の見た目で躊躇している様ではやっていけないからな。
「よし、それじゃぁ始めようか?」
「はい」
「美佳、前衛交代だ。日野さんが戦うから、直ぐに援護できるように控えていてくれ。多分大丈夫だろうけど、念の為にな」
「了解、涼音ちゃん頑張ってね」
「……うん」
緊張した面持ちの日野さんが、ユックリとした足取りで美佳の前に進み出る。
右手に加圧済みの激辛水入り水鉄砲、左手に即席武器の鉄パイプを構えた、今日が初めてデビューの新人探索者の姿だ。右手の水鉄砲は余計なのかな?
美佳の前に進み出た日野さんは、ユックリとした足取りでホーンラビットとの間合いを詰めていく。右手に持った水鉄砲を握る手に徐々に力が入っていく様子が窺い知れ、一歩一歩ごとに緊張が増していっている様が手に取るようにわかる。
そして日野さんがさらに数歩進んだところで、ホーンラビットが近づく日野さんに気付き小さく威嚇の唸り声を上げ始めた。
「……」
「ウゥッ……」
間合いが詰まるごとにホーンラビットは唸り声を大きくし、日野さんが手に握る水鉄砲の銃口がホーンラビットに向かい徐々に上がる。両者の間には緊張が張り詰め、何時破裂するか分からなくなっていた。
そして互いの間合いがある一定のラインを超えた瞬間、ついにホーンラビットが甲高い咆哮を上げ動き出す。
「ギュゥッ……!」
「!?」
ホーンラビットは日野さん目掛けて走り出し、一気に間合いを詰め始める。急速に詰まる間合いに日野さんは目を見開き強張った表情を浮かべるものの、日頃の訓練の成果か体はホーンラビットの動きに対応し動き出す。
日野さんは突撃してくるホーンラビットの進路上から体の中心をずらし、右手に持った水鉄砲の銃口を素早くホーンラビットに向けた。
「ギュッ!」
「……エイッ!」
ホーンラビットが日野さんに頭の角を向け跳びかかり、日野さんも跳びかかるホーンラビット目掛けて水鉄砲の引き金を引いた。引き金を引かれた水鉄砲から真っ赤な水が勢い良く噴き出し、日野さん目掛けて跳びかかるホーンラビットの顔面を捉える。
顔に液体のかかったホーンラビットは一瞬不快そうに目を細めるような表情を浮かべたが、次の瞬間には絶叫の叫びをあげた。
「ギャゥッ!? ギャゥゥッ!?」
「っと!?」
日野さんは自分目掛けて跳んでくる、顔を真っ赤に染め絶叫を上げるホーンラビットを大股で一歩右に動き避ける。突撃を回避されたホーンラビットは日野さんに躱されたことで、跳躍の勢いそのままに地面に叩きつけられた。
やっぱりこれ、上の階層に出るモンスター相手なら効果抜群だ。顔に当たれば、一発で戦闘続行不能になるからな。
「あっ……」
日野さんは自分の攻撃で悶え苦しむホーンラビットの姿を目にし罪悪感が出て来たのか、何ともいえない申し訳なさ気な表情を浮かべていた。まぁ自分が原因で相手が苦しんでいる姿を見たら、余り良い気にはならないよな。
とはいえ、ここはダンジョンで相手はモンスター。そして俺達はダンジョンに赴いてモンスターを倒し、ドロップアイテムを得る事を生業にしている探索者だ。覚悟を決めこの場に立っている以上、倒すべきモンスターへの情けは無用だ。でないと探索者など続けられないからな。
「日野さん、まだ終わってないよ。相手は行動不能にはなったけど、まだ倒せていない。相手が動けない内に止めを刺さないと」
「えっ? あっ、はい……でも……」
動きを止め少し呆然としている日野さんに止めを刺すように促すと、躊躇する様な表情を浮かべながら視線を俺と悶え苦しんでいるホーンラビットの間で右往左往させていた。
やるべき事は分かっているが、中々踏ん切りがつかないといった感じだな。
「日野さん、相手に止めを刺す事に躊躇する気持ちは分からないでも無いけど、探索者を続けるのなら避けては通れない。厳しい言い方になるけど、ここで止めを刺す事が出来ないようなら探索者は続けられないよ?」
「……そう、ですよね」
俺の厳しい意見に戸惑っていた日野さんは大きく深呼吸をした後、真っすぐ俺の顔を見ながらハッキリとした口調で宣言する。
「やります」
「そっか。相手は悶えて動けないけど反撃が出来ない訳じゃない、最後まで油断はしない様にね。根性があるモンスターだと、致命傷を負っても最後っ屁を仕掛ける事もある。倒した相手が粒子化するまで、絶対に気を抜かない様に」
「はい!」
俺のアドバイスを聞いた後、日野さんは右手に持っていた水鉄砲を静かに地面に置き、左手に持っていた鉄パイプを両手で握りしめた。
そして日野さんは1度大きく深呼吸をしてから、ゆっくりとした足取りで警戒しながら悶え苦しむホーンラビットへ近づいていく。
「……」
「ギュゥ……」
息も絶え絶えといった様子で倒れ呻くホーンラビットに、日野さんは鉄パイプを構えたまま静かな眼差しを向ける。
そして日野さんはユックリとした動作で鉄パイプを頭上に振り上げ、ホーンラビットの頭を狙い……。
「エイッ!」
「!?」
放課後の練習で教えた通り、ブレのない太刀筋で思いっきり振り下ろした。
振り下ろされた鉄パイプは狙い違わずホーンラビットの頭に直撃、鈍い打撃音が辺りに響く。
「……」
鉄パイプを振り下ろしたままの姿で動きを止めた日野さんは、少し荒い呼吸を繰り返しながら動きを止めたホーンラビットの姿を凝視していた。
そしてそのまま十数秒が経った頃、ホーンラビットの体が端から粒子化をし始める。
「日野さん」
「!?」
「終わったよ、初めてのモンスター討伐は成功だ」
「あっ……はい」
日野さんは少し呆然とした表情を浮かべながら、ようやく自分がモンスターを倒した事を認識した様だった。初めてのモンスター討伐、初めての手に残る相手を撲殺した感触は何ともいえないからな。心ここに在らずといった様子になるのも無理はない。
「お疲れさま涼音ちゃん、大丈夫?」
「あっ、美佳ちゃん。うん、大丈夫」
「無理しないでね。初めてモンスターを倒したんだもん、私も暫くはショックで呆然としてたんだから」
「……うん」
呆然としている日野さんに美佳が心配しながら声を掛けながら寄り添いつつ、沙織ちゃんが代わりに前方の周辺警戒を引き継いでいた。1階層目で増援が来る可能性も低いがあるので、周辺警戒をおざなりには出来ないからな。まぁこのメンバーなら仮に増援があっても対処は容易なので、優先度でいえば日野さんのフォローが上だ。
「少し休憩しようか、日野さんも時間を置けば落ち着くだろうしね」
「そうだな、何せ初めてのモンスター討伐だ。少し落ち着く時間は必要だろ」
「賛成ね。それに涼音ちゃんだけじゃなく、麻美ちゃんのフォローも必要よ。次は自分がやるんだって、酷く緊張しているでしょうから」
柊さんの指摘にハッとした俺と裕二は、ゆっくりと視線を動かし舘林さんの姿を確認する。確かに柊さんの指摘する様に、舘林さんは不安と戸惑いでの表情を浮かべながら微かに手先が震えていた。
多分、美佳が見本を見せた時までは鮮やかな手際過ぎて何処か浮世離れした感があったのかもしれないが、日野さんという自分と同じ立場の人が実際に行い見せた泥臭さで現実感が増したんだろうな。次は自分があれをやるのか、あれがやれるのかと。
「そうだね」
「そうだな」
「決まりね」
そういうと柊さんは舘林さんに歩み寄り、安心させるように軽く手を取りながら声を掛け始めた。
「フォローの方は柊さんと美佳達に任せて、俺達は休憩が取り易いように周辺警戒役に徹するか」
「ああそうしよう、こういう時のフォローは同性の方が良いだろうからな」
俺と裕二は軽く肩を竦めながら、沙織ちゃんに警戒役の交代と2人のフォローをお願いする。




