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第556話 本番前の最後の練習

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 無事に探索者カードも発行され、いよいよダンジョンに行ける事になった舘林さんと日野さんは、気合十分といった様子で放課後の練習を行っていた。走り込みや筋トレは勿論、素振りや模擬戦でも気合が漲っている様子が容易に窺い知れた。

 まぁその分、無駄な力が入っているせいで素振りの型が崩れていたり、模擬戦で気合が空回りしていたけど。一応、平常心を保つようにはいったけど、遠足を前日に控えた小学生状態だからいっても無駄だよな。


「さて2人とも、明日予定しているダンジョン探索前最後の練習なんだけど……防具なんかの準備は大丈夫だよね?」

「はい、美佳ちゃん達の意見を聞いて揃えたものは全部家に届いています!」

「思っていたより程度の良い、新古品が安く手にはいりました!」

「そっか、それは良かった」


 この時期に程度の良い新古品の防具が手に入ったという事は、脱落した夏休みデビュー組の処分品かな? 流行りにのってダンジョンに入ってみたのは良いけど、やっぱりモンスターとの戦闘が合わなかったとかさ。大怪我をして引退とかじゃないと良いんだけど。

 まぁ程度が良い防具という事は前の所有者が大怪我を負った可能性は少ないって事だし、道具自体は良い物だろうから有効活用してやるのがせめてもの情けというモノかな。


「でも、それらを身に着けて模擬戦とかはやってないよね?」

「あっ、はい。届いて日も浅いですし、まだ防具を着けて模擬戦なんかはやった事ないです」

「私も試着したり細かい調整はしましたけど、模擬戦はやった事ないです」


 2人の購入した防具は最近届いたばかりらしく、まだ使用した事は無いそうだ。

 どうせなら本番でお披露目を、と考えていそうだが流石にね?


「つまりこのままだと、防具着用での戦闘はぶっつけ本番になるって事だよね? 流石にそれは拙いからね、最低限の動き心地は事前に確認しないと」

「ああ、やっぱりそうですよね?」

「防具着用姿でサプライズ登場、ってのをやりたかったんですけど、安全性を考えると事前確認は必要ですよね」


 残念だが、親御さん達から2人の見守りをお願いされている以上、安全対策を疎かにする訳にはいかないからな。

 気持ちは分からないでも無いが、諦めてくれ。


「そういう事。という訳で、明日の訓練は防具なんかもフル装備した状態での動きの確認する為に軽い模擬戦をするよ。幸い明日は土曜日で学校は早く終わるから、一旦家に帰って道具を持って再集合だね。場所は、どうしよう?」

「いつもどおり、学校で良いんじゃないかしら? 土曜日とはいっても、部活動で使用しているって説明すれば大丈夫よ」

「そうだな。それに土曜日なら探索者をやってる生徒は先に帰ってるだろうから、グラウンドとかも普段より空いてるんじゃないか? フル装備って事は武器も明後日使う実戦用を使うんだし、万が一を考えたら周りにいる人は少ない方が良い」


 確かに実戦を想定した装備で練習するのなら、人が少なく広い場所の方が安全だよな。

 まぁ今回のダンジョン探索で使う実戦用の武器といっても、2人がモンスターを倒せるかどうかの見極めなので御試し用のお手軽武器だけどね。ホームセンターで購入できる鉄パイプに、滑り止めテープを巻いただけの簡単武器。これでも一階層に出現するモンスター程度なら、素人でも撲殺できる代物だ。


「そうだね。という訳で、2人は家に荷物を取りに帰ったら学校に再集合って事で良いかな? 流石に探索で使う道具を、朝から学校には持ってこれないからね」

「部活で使う道具って事で、朝一で部室に持ち込めませんか?」

「気持ちは分からないでも無いけど、一応ウチの部はダンジョンの活動には直接関係の無い文科系部だからね。文化祭の時なら特例で持ち込めるかもだけど、普通の時には厳しいかな? 授業にも部活動にも関係の無い物を持ち込んだ、とかいわれたら面倒だし止めておく方が無難だろうね。学校が終わってから、改めて部活動に必要だからって体で持ち込む方がマシだよ」


 学校の近くにコインロッカーでもあれば登校時に預けられるんだけど、残念な事に近場には無いからな。知ってる範囲なら駅やショッピングモールなんかに設置してあるけど、2人の通る通学路からは大分離れている。

 つまり面倒だろうが、1度家に取りに帰るのが一番早い。


「そう、ですよね。分かりました、朝家を出る前に準備しておきます」

「面倒だろうけどお願いね」

「はい」


 という訳で、明日は学校で装備品をフル装備した状態での軽い模擬戦をする事に決まった。

 今回は2人の適性を見る軽いお試し探索だが、モンスターを相手に戦う以上は油断していると怪我を負う可能性は無くはないからな。安全対策は念入りにしておいて損は無いだろう。






 無事に学校の授業も午前中で終わり舘林さんと日野さんが荷物を取りに帰っている間、俺達5人は部室で持ってきていた昼食を摂りながら待っていた。

 土曜日は学食が休みなので、パンやおにぎりお弁当といったモノだけどな。


「ねぇお兄ちゃん、麻美ちゃんと涼音ちゃんは大丈夫かな?」

「ん、大丈夫ってのは?」


美佳はおにぎりを食べる手を止め、少し不安げな表情で話しかけてきた。


「明日の探索の事だよ。2人とも張り切っていて何でもないように振舞っているけどさ、時々不安そうな表情を浮かべていたり、遠くを見ている様な感じの顔をしてるの。ねっ、沙織ちゃん?」

「うん。時々ですけど、授業中のふとした瞬間にって感じなんですけどね。本人が自覚しているかは分からないんですけど、ダンジョンに行く日が目前に迫って不安なんだと思います」

「放課後一緒に練習している時は、そんな感じは無かったけど……」

「それはそうだよ、アレだけ厳しい練習をしている時に落ち込んでいる暇なんてないって」


 美佳の言葉に力強く頷く沙織ちゃんの反応に、どうやら時間が無いとはいえ少し詰め込み過ぎたかと反省する。メンタルケアの面で、少し不手際があった様だ。

 肉体的疲労はともかく、元気いっぱいに練習していたので大丈夫だと思っていたんだけどな。


「そっか、そういえば練習を始めてから休みらしい休みを取っていなかったな」

「そういえばそうだな。最低限の基礎までは出来るだけ早めにって思ってたから、休みを入れるタイミングを見誤っていたのかも」

「放課後の数時間だから大丈夫、と思っていたのが間違いだったわね」


 舘林さんと日野さんの短期訓練を主導した俺達3人は、練習スケジュールを思い出し失敗したかなと反省した。2人が探索者試験を受けた時に皆で少しショッピングの時間を取ったが、あれぐらいじゃリフレッシュにはならないよな。

 もうすぐ冬休みだし、明日のダンジョン探索が終わったら練習時間を減らして皆でどこかに遊びに行くかな?


「そうだな、明日のダンジョン探索が済んだら練習は暫く休みにしよう」

「それが良いだろうな。多分明日のダンジョン探索では、モンスターを倒した衝撃でしばらく思い悩むだろうから、どっちみち練習は手につかなくなるだろうし」

「最初のあれはね……慣れるまでの間結構きついのよ」

「私もあれは今でも、余り思い出したくない感触かな」

「探索者を続けるのなら慣れないといけないんだろうけど、あまり気持ちが良い物じゃないもんね」


 俺達は初めてダンジョンでモンスターを倒した時の事を思い出し、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべながら小さく溜息を漏らした。覚悟はしていたが、モンスターにトドメをさす時に結構動揺したからな皆。

 適性があったとしても、舘林さんも日野さんも最初の2,3日は引きずるかもしれないな。


「ダンジョン探索の後は、確りメンタルケアに時間を作った方が良いな」

「そうだな。ただでさえ最初はきついんだ、何か美味しい物を食べるなり遊ぶなりして溜め込まない様にしないと」


 精神的につらい時には考え方が悪い方悪い方に傾きやすいからな、相談に乗って、何が辛いのかという話を聞いてもらえるだけでも大分ましになるからな。

 小さな事で良いので落ち込んでいる気分を紛らわせて、考えがプラス方向に進むように手助けしてやるだけでいい。


「まぁ、なんだ? 教えてくれてありがとうな、美佳。やっぱり学年やクラスが違うと普段の姿ってのがなかなか見えないからな。手遅れになる前に知れて良かったよ」

「ううん、私も2人の探索者資格試験が終わるまではと思ってたけど、もう少し早めにいってれば良かったって反省してる」


 俺達は揃いも揃って溜息を吐き出し、報連相ってやっぱり大事だよなと改めて思った。

 そして昼食も終わり暫く談笑しながら休憩していると、部室の扉が開き大荷物を抱えた舘林さんと日野さんが戻って来た。


「「お待たせしました!」」

「お疲れ様、早かったね昼食は食べてきたの?」

「はい、お母さんが用意してくれていたので手早く食べてきました!」

「うちも同じです!」

「そっか、それじゃぁ少し休憩取ってから練習を始めようか? 明日が本番だし、今日は装備品を身に着けた際の体の動かし方を軽く確かめる程度だからね」


 今日練習をやり過ぎて、疲れが明日に残るというのは拙いからな。軽く模擬戦を行って防具による関節の可動域制限、バックパック等の身に着けた荷物による重心への影響確認等々、事前に体験しておいた方が良い事を一通り体験してもらうだけだ。

 ただ軽くとはいっても模擬戦なので、油断していると怪我をするから気を付けよう。




 


 着替えを済ませた俺達は何時も通りグラウンドの隅で準備運動を済ませ、模擬戦を始める事にした。 

 俺達5人は普段通りのトレーニングウエア姿だが、舘林さんと日野さんは明日ダンジョン探索を行う防具や武器等を身に着けたフル装備姿だ。

 

「それじゃぁ明日の本番を想定した模擬戦を行うけど、2人とも準備は良い?」

「「はい!」」

「それじゃぁ舘林さんは俺が相手をするから、日野さんの相手は裕二に頼むね」

「任せろ」


 残った柊さん達3人は見学で、模擬戦中に気付いた良い点と悪い点を審査して貰う役だ。実際に戦ってる者同士より、傍から見ている方が気付く事もあるからね。

 そして3人が離れたのを確認し、俺と裕二も互いに間を広げる。


「それじゃぁ模擬戦を始めるけど準備は良いかな?」

「「大丈夫です」」

「まずは俺も裕二も攻撃はしないから、その装備状態での動きを確かめながら思いっきり攻撃を仕掛けて来て。ある程度慣れたと判断したら、合図をして俺達も少しずつ攻撃を仕掛けるから」


 まずは防具装備状態の動き方に慣れて貰う事から始めないとね。

 すると舘林さんが少し不安げな表情を浮かべながら、疑問を投げかけてきた。 


「分かりました。でも大丈夫ですか、これ鉄パイプですよ? 当たったら怪我しますよ?」

「大丈夫大丈夫、仮に当たったとしても俺と裕二なら大したダメージにはならないよ。それにそもそも俺達が本気で避けたら、今の君達じゃ当てられないからね。……当てる自信あるの?」

「……ありません」


 舘林さん達の攻撃速度程度だと、俺も裕二も余裕で受け止めるし避けられる。

 当たったら怪我をするかもといった考え方は、現状気にするだけ無駄って奴だな。


「それなら大丈夫だ、さぁ気にせずガンガン攻撃を仕掛けて来てよ」

「「……はい!」」

「それじゃぁ模擬戦を始めようか、裕二も良いよね?」

「ああ、何時でも良いぞ」

「それじゃぁ用意……始め!」


 俺は2人の顔を順に見回した後、見え易い様に胸の前で柏手を大きく打ち鳴らした。


「やぁ!」

「えいっ!」


 そして柏手の破裂音が響くと同時に、舘林さんと日野さんは俺と裕二との間合いを一気に詰め、手に持った鉄パイプを俺達の頭目掛けて力一杯振り下ろしてきた。日頃の訓練の成果か、躊躇の無い見事な攻撃である。

 とはいえ、何の迷いもなく頭部目掛けての一撃は俺達の回避能力を信頼しての結果だよね?


「「ありがとうございました」」


 10分ほど模擬戦を行った結果、2人とも息も絶え絶えといった様子ではあるが、模擬戦開始時と比べ格段の進歩を遂げた。最初は可動制限や重心の移動に苦慮していた様子だったが、暫くするとフル装備状態でも何時もの動きが出来る様になっていたからな。

 改善すべき問題点はあるけど、これなら明日ダンジョンにいっても大怪我をする事は無いだろう。


「お疲れ様。どうだった、実際に装備を身に着けて戦ってみた感想は?」

「思っていたよりもかなり動きづらかったです、皆さんが事前に一度は体験しておいた方が良いと勧めるのにも納得がいきました」

「背中に背負った荷物の重心が動くだけで、これだけ動きづらくなるとは思いませんでした。ぶっつけ本番でやっていたら、モンスターの攻撃を受けていたかもしれません」


 舘林さんも日野さんも少し焦った表情を浮かべながら、事前リハーサルをやって正解だったと安堵の息を漏らしていた。サプライズできなかったのは残念だったろうが、必要な事だったと納得して貰えたと思うので良かった。

 さて装備品フル装備時の動き難さを実感して貰えたことだし、明日のダンジョン探索は何とかなりそうだな。今日の練習はこれ位にして、明日は安全第一で頑張ろう。 
















詰め込み学習って結構メンタルにきますからね、メンタルケアって大事ですよね。


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
・「気持ちは分からないでも無いけど、一応ウチの部はダンジョンの活動には直接関係の無い文科系部だからね」  あ、自覚はあったんだ。 ・「当たったら怪我をするかもといった考え方は、現状気にするだけ無駄っ…
スタートは、妹たちよりいいと思う。鏡を忘れるとかは、しないかな?槍より威力はないけれど、1層では違いはほとんどない。次の武器選びが問題ですね。
更新ありがとうございます。 今回の練習は先生に見られたら問題になってたかもしれませんね。 完全武装した生徒が武装してない生徒の頭に鉄パイプを思い切り振り下ろすなんて、実力的には万が一もないのでしょうが…
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