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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第19章 後輩ダンジョンを目指す
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幕間八拾六話 青田買いってヤツか……何で?

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 娘が日野さんの娘さんと一緒に探索者試験を受けにいってから3日程が経ち、家の郵便ポストにダンジョン協会からの封筒が入っていた。宛名が娘の名前になっているので、おそらく試験結果の通達書類だろう。

 夕食の前に娘が極度に緊張した表情と手付きで開封していく。


「ほら、そんなに緊張したって中身の結果は変わらないぞ? さっと開けてしまえ、さっと」

「お父さんうるさい! 手応え的には大丈夫だとは思うけど、やっぱり緊張するもんなんだよ!」


 中々封筒を開けない娘に焦れた私が早くと催促すると、娘は批難めいた色を含む鋭い眼差しを向けて来る。


「ははっ、すまないすまない。それで、結果は?」

「もう。えっと……!?」


 溜息を漏らしつつ決心がついたのか、娘は封筒を開き中に入っていた書類を取り出し目を通していく。

 そしてある一点で視線が止まった後、娘の表情が驚愕と歓喜の入り混じったものに変わった。


「やった、合格だって!」

「おおそうか、おめでとう。頑張った甲斐があったな」

「うん!」


 娘は合格通知を握りしめたまま両手を挙げ、試験合格の喜びを全身を使って表していた。

 私は娘の先輩達との話し合いの少し前にうち明けられてからの短い期間の事しか知らないが、娘達はその前から目標に向かって努力してきていたみたいだからな。その達成感はひとしおだろう。


「それにしても自分達で前から練習していたとはいえ、良く一発で合格出来たものだ。噂では比較的簡単なテストばかりだとは聞いていたが、落ちる時は落ちるものだからな。やっぱり先輩達に頼んで、訓練を付けて貰ったのが良かったということか」

「ああうん、確かに先輩達に訓練を付けて貰ったおかげでテストが凄く簡単に感じたね」


 私が熟練の探索者然とした頼もしい先輩達の姿を思い出していると、娘は少し引き攣ったような表情を浮かべながら何かを思い出している様だ。

 確かに彼等は確実に資格試験に合格出来るように厳し目の訓練をするとはいっていたが、娘が顔を引きつらせるような訓練だったのだろうか?


「先輩達の訓練って、そんなに厳しい訓練だったのか? 確か資格試験合格を念頭に置いて、ダンジョンでの実戦に役立つ訓練をメインにするとはいっていたが……」 

「ああうん、ホントいい方だよね。確かに資格試験に合格しないと話にはならないけど、あの訓練をクリア出来ていれば試験合格なんて当たり前だし、内容的にもダンジョン内で如何にうまく立ち回れるかがメインだったよ」

「そう、なのか? ……合格が出来て当たり前の訓練って、お前達は普段どんな訓練をしてるんだ?」

「……普通の訓練だよ普通の。ただし、先輩達の基準でって前置きが付くけどね」


 娘はどこか達観した表情を浮かべながら目を閉じ、少し肩が小さく上下に震えていた。

 彼等は本当に、一体どんな訓練を娘達に施しているんだ? 罠やモンスターが出現するダンジョンでの活動を前提にしているので、それなりに厳しいものにはなるだろうとは思っていたが、娘の反応を見るに想像以上に厳しい訓練を施されているらしい。


「基礎体力や基礎筋力向上訓練は当たり前として、模擬武器を使った素振りに基本的な型の練習。対人対モンスターを想定した打ち合いに、隠形の基礎や気配察知といった索敵技能習得訓練……」

「待て待て待て、なんか変なことをいってるぞ!? 特に後半の部分が……」

「何いってるのお父さん? いつも先輩達とやってる訓練だよ?」

「いつも!?」


 何か私達の思っていた訓練と違う。彼等に娘達の訓練をお願いはしたが、私達の想像していたのは部活の練習の延長のような感覚だった。

 前半部分は探索者の練習と考えればまぁ納得できなくもない内容だが、後半部分は本当に必要な訓練なのか?


「うん。先輩達曰く、戦う方法を知ってても敵モンスターと事前に遭遇する、回避する方法を知らなかったら長続きはしないって。いつも敵と不意に遭遇して場当たり的に対応していたら、体力的にも物資的にもきついからっていってた。事前に敵の存在を察知していれば、自分達の置かれた状況から戦うのか回避するのか選択できるし、戦うにしても事前に作戦を立てられるし敵の正体が分かれば相手の弱点もつけるからね。だから新人探索者とかいった低レベル層でも、最低限の索敵技能は保有しておかないとって」

「……説明を聞けば確かにとは思えるんだが、それってこんな短期間で身に付く様な技能なのか?」


 淡々とした様子で私が疑問に思った訓練の必要性を語る娘の姿に、少し混乱し思考を取り乱していた私も冷静さを取り戻した。説明を聞けば確かに必要な技能かも?とは思うが、そう簡単に身に付く様な技能とは思えないんだがな。

 だがそんな疑問もすぐに解消する、少し青褪めた表情を浮かべる娘が技能習得に行った訓練内容を話してくれたからね。


「先輩達とさ、鬼ごっこをしたんだ」

「鬼ごっこ?」

「うん。先輩達が鬼で、私達4人が逃げるんだ」


 何となくだが訓練内容を語り始めてから、娘の浮かべる顔色が更に悪くなり肩の震えが大きくなったように感じる。


「逃げる場所は学校全体で、少し時間おいて先輩達が探し始めるってオーソドックスなルールの鬼ごっこ」

「……それで索敵技能が身に付くのか?」

「付くよ、身に付いた。逃げる私達を、先輩達がピンポイントで気配で威圧しながら追ってくるんだよ? 私達がどこに逃げても、どこに隠れても常に一定の距離から威圧してくるんだ。先輩達の気配が消えたと思ったら急に隣に現れて、肩を叩かれながら笑顔で声を掛けられた時なんて叫び声を上げながら飛び離れちゃったよ。お陰で、3日もあれば最低限の索敵技能は身に付いたかな?」

「……おいおい」


 3日で最低限とはいえ、索敵技能が身に付く鬼ごっことは何なんだ?

 娘の青褪めた表情を見るに、鬼ごっことは名ばかりの相当過酷な訓練っぽいが……。


「最近だと周りの人の気配の動きである程度どっちに動くのか分かって来たし、気配の濃淡も分かるようになって来たかな? そういえばこないだの探索者試験中に、試験監督官の人の気配が急に薄れたから吃驚して思わず警戒しちゃったよ。先輩達との鬼ごっこ中だったら、気配が消えたり薄れたら不意打ちしてくるからね」

「……そ、そうなのか、鬼ごっこで身に付けた技能が早速活躍したんだな」

「まさか試験中にカンニングが起きるとは思ってなかったし、試験監督官の気配が消えるなんて思ってなかったから危なかったよ。あの時、立ち上がって周囲を見渡して警戒してたら私達の方がカンニング犯にされてたからね。先輩達もいつ何が起きるか分からないんだから、何時いかなる時も気を抜くなって口うるさくいっていたのも、ああいった事態を想定していたからなのかな?」

「流石にそれは無い、と思うぞ? しかし、監督官に迄そういった技能持ちが居るのか……」


 娘の話を聞き、私は少し驚きの表情を浮かべる。ダンジョンで磨いた技能が、そういう形で役に立つのかと。もしかしたら今は探索者協会に限った話なのかもしれないが、何れはそういう技能持ちが一般的な会社でも活躍する時代が来るのかもしれないな。

 うん? もしかしてだが、もしそうなら大きく取り沙汰されているスポーツ分野に限らず、私を含めた会社員なんかにも大きく影響してくるのでは?


「うん。カンニングしている人にゆっくり近付いて、肩をポンってね。他の受験生は気付いてなかったみたいだし、先輩達が覚えていた方が良いぞって勧めてくるのにも納得だよ。これがもし試験会場がダンジョン内で、試験監督官がモンスターだったら私達以外の受験生は最初の一撃を無防備に受ける事になっていただろうしさ。まさかダンジョンに入る前に、それを実感する事になるとは思ってなかったけど……」

「そうだろうな。ただ私としてはむしろ、お前達がダンジョンに行く前に成長を実感できて良かったんだと思うがな」


 訓練の成果を実感し少し途方に暮れた感じで愚痴を漏らす娘に、私はダンジョンに入ってぶっつけ本番で実感するよりはましなんじゃないかと諭す。人は唐突に成長を実感すると、時にもっとやれるんだと錯覚し無茶をする事があるからな。

 それがダンジョンという命のかかる場面で起きるのは、流石に危ないというものだろう。






 合格の喜びと先輩達との訓練に対する愚痴を暫く聞いてやっていると、娘は皆に合格を報告してくると少し席を離れた。明日でも良いんじゃないかとも思ったが、良い報告なので早めに伝えたいのだろう。

 そして娘が席を離れている内に、私と晴美は娘が置いていった合格通知の書類を眺めながら小さく溜息を漏らしあう。


「合格してしまいましたね?」

「ああ、合格しちゃったな」


 夢に向かって頑張っていた娘の努力が実り試験に合格した事には素直に喜ばしい反面、心のどこかでは試験に落ちていてくれればという思いは微かにあった。試験に落ちていれば娘は諦めないかもしれないが、時間稼ぎは出来ていたかもしれないからな。

 なにせ熟練の探索者だという娘の先輩達にトレーニングを頼んで一ヶ月程、まだ一ヶ月程なのだ。親心としてはせめて3ヶ月、いや半年ほどはトレーニングに専従してから資格試験に挑んでもらう方が安心するというものだろう。


「まさか1ヶ月足らずの訓練でこうもあっさり合格して、探索者デビュー目前になるだなんて……」

「それだけ本人が本気で挑み、頼んだ先輩達の育成手腕が確かだったという事だろう。さっき愚痴交じりに聞いた訓練内容を思えば、世間的に簡単だといわれている探索者資格試験ぐらい合格出来て当然だと思えてくる」

「最初の頃は疲労困憊といった姿で帰ってきていたのに、ここ最近はそれなりに元気な姿で帰ってきていたものね。厳しい訓練の成果が身に付いたって証拠ということかしら」

「そうだな。何というか彼等に訓練を頼んでからは、日に日に覇気というか貫禄といったものが出てきていたからな」


 少し前まで高校生の子供らしい雰囲気だった娘に、違和感程度だが少しずつ一般人離れした雰囲気が薄っすらと滲み出てきている様な気がしていた。それは娘の先輩達や友人達が漂わせているものと同質のものだと思う。

 

「そうですね。……あら、これは?」

「どうした?」


 晴美が娘が置いていた何枚かある書類の中から1枚を取り出し、目を通し怪訝な表情を浮かべる。


「いえ、これなんですが……」

「ダンジョン協会嘱託探索者制度に関して?」


 晴美が差し出してきた書類に目を通していくと、そこには探索者として活動していた者にダンジョン協会が直接仕事を依頼する制度に関しての説明が書かれていた。

 ダンジョン系企業などに所属していない探索者に対し、活動実績を鑑みてダンジョン協会が仕事を斡旋してくれるらしい。


「斡旋例としては、協会や民間のダンジョン系イベント等での専門技術スタッフ、協会指定の特定アイテムの採取依頼、期間限定の派遣業務などなど」

「探索者といっても、ダンジョンでモンスターと戦うばかりじゃないんですね」

「そうみたいだな。偶に見掛けるダンジョン系イベントに登場する探索者の人って、こうやって仕事を紹介して貰っていたのか」

「こういった仕組みで人を集めていただなんて知らなかったわ」


 確かに誰もかれもがダンジョンに潜り続けモンスターと戦い続けられるわけでもないのだから、考えてみればこういった救済措置というかライフライン的受け皿制度があるのも当然か。

 もし性格的に娘が探索者として活躍できないのであれば、大怪我をする前にこういう道に進んでもらうのも良いかもしれないな。 


「しかしこういう制度って、ある程度ダンジョンで活動し実績を積んだ者が対象になるんじゃないか? 資格を取得したばかりの新人に説明するには、時期尚早なんじゃないかな?」

「そうね。実績に応じてともあるんだから、向こうが必要とする基準に達した段階で対象の探索者に紹介するという形でも問題ないとおもうわ」

「とすると、何でうちの子の書類にこれが交じってたんだ?」

「……あっ、ここ。資格試験成績優秀者に先行送付って書いてあるわ」

 

 つまり青田買いしたいって事か? 企業所属者以外が対象とあるし、将来性がある成績優秀者に先に唾を付けておこうとか……注目株みたいだなうちの娘は。

 手応えはあったっていってたけど、ダンジョン協会に注目株として目を付けられる程の成績だったのか?


「まぁどういう道に進むかはあの子の選択しだいとして、資格が取れた以上は直ぐにダンジョンへ行くだろうな」

「そうね、心配だけど怪我をせずに頑張って貰いたいわね」

「ああ、暫くは熟練の探索者だという先輩達に付き添って貰えるしな」

 

 親の心子知らずという訳ではないが、本当に気を付けて頑張って貰いたいものである。

 そして予想通り娘は翌日には探索者カードを発行して貰い、正式な探索者としてデビューする事となった。しかも今週末に早速ダンジョンに潜るとの事……早すぎないか?
















娘は探索者デビューに喜んでいますが、親としては心配ですよね。

幕間終了、次話からは新章スタートです。


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
・悪い報告ほど早くするもので良い報告なんて割とどうでも良い、と高校生に言っても聞かないわなぁ。 ・パリダカールラリーや今はなきキャメルトロフィーに出場するレベルの訓練を受けてから日本国内レベルのラリ…
まあ運動量的には運動部並だし武道系の部活みたいな感じだけど、自分の命が掛かるからな。でもステータスアップを目的に会社の研修とかに組み込まれたら親世代も他人事じゃ無くなるかもしれないけど。
鬼ごっこ、相手が半分人間辞めてる鬼みたいな物だしな なんなら本物の鬼(オーガ)が泣くレベルの
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