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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第19章 後輩ダンジョンを目指す
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幕間八拾五話 何か凄い受験生が来たな…… その2

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 軽いトラブルが起きたものの、片瀬さんから無事に学科試験が終わったという報告を聞いた。最近減っていたと思ったのに、探索者試験でカンニングをするなんてな。ダンジョン協会が主催する試験の試験監督官が、探索者経験者である可能性を考えればやらないだろうに。

 結構色々なメディアで、ダンジョンでレベルアップした時の効果は宣伝してたのにな。 


「そうですか、大変でしたね」

「いえいえ、少し前までは良くある事でしたからね。受験生がやらかした際の対処には、いやでも慣れてますよ」

「そうですね、夏休み期間中には酷い時は一日に何件も発生してましたし」

「焦る気持ちは分からないでもないんですが、市販されているテキストを購入して事前に勉強していれば学科テスト前の講習はタダの直前復習になるんですけどね。あの受験生はテストなんて簡単という話を聞いて、甘く考えて事前学習をしていなかったのでしょう。その結果がカンニングと」


 片瀬さんが溜息をつくのを見ながら、探索者関連法のテストなのでカンニングしても意味ないんだよなという感想が漏れた。正規の法律である以上、探索者資格を持つ者が守らなければ即逮捕である。うちでテスト前に講習で一通り説明している以上、知らなかったという言い訳は通らないからな。

 そしてテストに合格しているという事は、探索者関連法を正しく認識しているとうちから認定されているとみなされる。誤った認識を持ったままだと逮捕されかねないため、身を守る為にもカンニングで合格などもってのほかである。


「そうですね。あっそうだ、話は変わりますが片瀬さんから見て、今回の受験生達の中に観察対象になる様な子はいましたか? もしくは注目株とか?」

「観察対象は……どうでしょう? 例のカンニングをした受験生も、最初はそんな事をするような感じには見えませんでしたからね。多少焦った表情を浮かべてはいましたが、ある意味良く見る顔ですからね」

「そうですか……無茶をする子が出ないと良いんですけど」

「本当にそうですよね。それとですが、注目株といって良いのか分かりませんが凄い子はいましたよ? 私がカンニングの現場を押さえようと隠形状態に移行した途端、即周辺警戒という反応を見せてくれた女性受験生が2人もいましたから」


 はい? えっ、受験生が片瀬さんの隠形を見破った? しかも試験中に?

 噓でしょ。学科試験に集中している最中、視界外で行われる片瀬さんの隠形を見破るなんて駆け出しを卒業したばかりの中堅探索者でも難しいんですけど。


「それ、本当ですか? 中堅探索者が再受験してるとかってオチじゃ?」

「残念ながら本当ですよ。その女性受験生2人は見た感じ、今年高校生になった子って感じでした」

「今年高校生になったって……じゃぁ本当にまだダンジョンは未経験?」

「だと思います。もしかしたらダンジョン経験者から、何かしらかの訓練を受けているのかもしれませんね」


 そうはいっても、片瀬さんの隠形を見破るレベルの訓練だなんて、自衛隊や警察の特殊部隊の訓練にでも参加したのか? 訓練で実践レベルの気配察知を覚えようと思ったら、実戦さながらの訓練が必要になるからな。注目株の2人が学生という事を考えれば、先輩の学生探索者に訓練を付けて貰っていたと考えるのが普通だ。

 しかし学生探索者とはいえ、後輩に特殊部隊レベルの訓練を課す? ありえないだろ、流石にノウハウ的にも経験的にも。


「もしかして、何か特殊な家系の出なんですかね?」

「まぁ、その可能性も無くはないですね。代々武術家の家系という方々も、ダンジョンが出現してから実践の場を求めて参入していると聞きますし」

「その手の方が参加されているのは知っていますが、高校生程の年齢でとなるとまぁ珍しい。成人されている方が腕試しに、といった事は良くあるみたいなんですがね?」

「ダンジョン業界の今後を考えれば、その手の方も必死に生き残りを考え動いているみたいですよ。探索者とはいえ容易に一般の出の方に負ける様では、武術家としての存在意義にかかわりますからね。道場を開いている方だと、悪評が立てば生徒が集まらず経営が悪化し……というのはあるでしょうから」


 確かにありえそうだ。昨今のダンジョンブームのお陰で、その手の道場やカルチャースクールが大量の生徒を獲得し大盛り上がりしている。その需要は、今までの2倍や3倍では効かないらしい。

 しかしダンジョンに潜りある程度レベルを上げた探索者は、非探索者向けの内容では物足りず辞めていく事が多いとの事。つまり現状では非探索者向けの需要しかなく、探索者が増えていくに従い従来の道場やカルチャースクールの需要は減っていくのだ。


「生き残るには道場やカルチャースクールも、ダンジョンに対応するしかないという事ですね」

「ですね。その為に次代に経験を積ませる為に送り出してきた、という感じかもしれませんよ?」

「必要に迫られた結果、今まで表に出て来なかった若く優秀な人材が出て来たという感じか」

「いわゆる、秘蔵っ子ってやつですね」


 まぁ分からないでも無いが、本人の意思に関係なく年齢制限ギリギリの人材を送り出してきたとかだったら嫌だな。せめて本人の意思で探索者を目指していて欲しい。

 まぁ今の世情の流れを見るに学生だと周りも探索者ばかりだろうから、本人の意思で受験しているっぽいけどね。


「なるほど、それは確かに注目株ですね。実技試験の時によく見させて貰いますよ」

「あの反応ですからね、多分実技試験ではもっと凄いですよ?」

「おやおや、それは楽しみだ」


 片瀬さん一押しの注目株だ、その実力をしっかり見定めさせて貰うとしよう。

 あと、面倒事は避けたいので無茶だけはしないで貰いたいな。






 試験合間の休憩時間も終わり、トレーニングウエアに着替えた受験生達が実技試験会場に勢ぞろいしていた。探索者を目指している為か老若男女問わず、皆それなりには普段から運動はしているようで鈍臭い動きは見て取れない。

 まぁ動けるのと戦えるのとでは、大違いなんだけどな。 


「時間になりました、皆さんこちらにお集まりください」


 私が目立つように右手を上げながら集合の声を掛けると、試験会場に散らばっていた受験生達が集まってくる。

 そして集まった受験生に向け、実技試験の流れを説明する。


「それでは、これより実技試験の方を始めさせていただきます。実技試験では皆さんに、2種のテストを受けていただきます。1つ目は回避能力や迎撃能力といった、咄嗟の反射対応能力を見させて貰うボール避けテスト。2つ目はトラップ回避能力といった、状況判断および対応能力を見させて貰う模擬トラップハウス突破テストです」


 試験内容自体は少し調べればわかる程度に世間に広まっているので、受験生に驚きの様子は見られない。探索者を始めるうえで、最低限必要な能力を見る為のテストなので当初から変わっていないからな。

 それにダンジョンに入ってレベルが上がってしまえば、コレから行う程度のテストは軽くクリアできる身体能力は直ぐに手に入る。


「この実技試験では、受験生の皆さんが最低限ダンジョンで戦えるかを確認させていただきます」


 このテストの本質は、レベルを上げるのに問題の無い身体能力があるかの確認である。国も協会も最低限の能力も無い者をダンジョンに放り込んで、無為に死人を増やしたい訳では無いからな、責任問題にもなるし。

 尚、戦闘行為を行う等の精神面の適性が無くモンスターを倒せない、といった問題に関してこちらは関知しないものとする。あくまでも、身体能力的なものを見るだけだ。


「そしてテストは2種ありますので、2グループに分かれそれぞれ同時並行して行い、受験番号が50番までの方はAグループ、51番からはBグループとさせていただきます」


 私の説明を聞いた受験生達は自分が身に着けている、受験番号が書かれているゼッケンの数字を確認する。自分がどちらのグループに配置されるのかしっかり確認しないとな。

 そして再び受験生たちの視線がコチラに戻った事を確認し、私は説明の続きをおこなう。


「Aグループはボール避け、Bグループは模擬トラップハウスからになります。それぞれグループ担当者が案内しますので、その指示に従ってください」


 そして私はABグループ、それぞれの担当者を受験生達に紹介した。

 因みに私は今回の実技試験の責任者なので、本当に試験中に問題は起こさないで貰いたい。


「それでは試験を始める前に準備運動を行います、皆さん隣の人とぶつからない様に間合いを広げてください」


 私の合図を切っ掛けに、受験生達は試験会場いっぱいに広がる。

 試験を始める前の準備運動、一時は受験生の自主性に任せて全体で行う事は止めないかと議題に上がったのだが、試しに受験生に任せてみたところ問題が起こった。運動不足の受験生が正しい準備運動の仕方を知っている訳もなく、ロクな準備運動も行わずに実技試験に挑んで肉離れやアキレス腱断裂といった怪我が多発したのだ。もちろんこの事は責任問題になり、受験生達の自主性に任せるという提案は廃案になった。


「ではまず、背伸びの運動から……」


 そして聞きなれたラジオ体操の音楽を流しながら私と担当者達は、受験生と一緒に見本として準備運動を始める。全身を解す運動といったら、これが一番だよな。






 準備運動を終えた受験生達はそれぞれの担当者に案内され、各々のテストに関する説明を受けている。

 そして私はというと、それぞれのテストが問題なく行われているかを確認していた。


「今の所、問題を起こしそうな受験生はいませんね」


 チラリと受験生達を流し見た感じ、焦れている者や、血気盛んに鼻息荒い者、何か企てていそうな者は見受けられない。まぁ例の設備破壊をした者も、試験開始直前までそういった兆候は見せていなかったからな。誰かが唐突に……という事もありえなくないというのが頭の痛い所だ。

 一応受験生達には説明の際に、例の施設破壊騒動の顛末を伝えているので、同じことをする輩はいないと思う。ただ、何処にでも抜け道を探すやつはいるしな。


「ん?」


 ボール避けのテストを行っているAグループの受験生を眺めていると、少し気になる受験生がいた。


「ほー中々に凄いですね、あれは自分の間合いというものを完全に把握している動きですよ」


 傍から見れば、高校生らしき女性受験者が少し大げさに淡々とボールを避けている、という様にしか見えないだろうが、それなりに戦闘経験積んだ者からすれば見事としかいえない回避術である。

 自分の間合いギリギリで避けながらも一切体幹をブレさせる事なく、回避しつつも次の動作へとスムーズに繋げられる体捌き。成りたての中堅探索者では出来る者は少ないだろうし、駆け出しの新人探索者があれが出来るようになれるまでどれだけ掛かる事やら……。


「相手の間合いが不明だからこそ、自分の間合いギリギリで避けているのでしょう。相手の間合いを把握したら間違いなく、彼女なら最小限の動きで避けていたんでしょうね」


 他の受験生の中にはボールをギリギリで避けている者は何人もいるが、あれは本当にギリギリで避けているか、反射神経任せにギリギリで避けているだけだ。その証拠に体幹はブレており、次の動作へ繋げる動きもぎこちない。

 あの女性受験生の様に次の動きを考えながら、自他の間合いを把握した上で避けている訳では無い。


「そうか、彼女が片瀬さんのいっていた凄い受験生の一人か……」


 そして私は少し考え、彼女が片瀬さんの言っていた注目株の一人であることに気付く。確かに凄い受験生がいるという話は聞いていたが、あれは流石に場違いじゃないかな?と言った感想が出て来る。明らかに他の受験生とはレベルが違う。

 多分あのままダンジョンに放り込んでも、彼女なら問題なくモンスターと戦い勝ちを拾えるだろうな。


「うわぁ、そして彼女がもう一人の凄い受験生か……」


 そしてすぐ後にもう一人の注目株が登場し、同レベルの回避術を披露していた。

 高校生程度の年齢の子供がどういった訓練を受けたら、あんな技量を身に付けられるんだ? やっぱりあれかな、武術家の家系的な話で幼少期から訓練を重ねていた秘蔵っ子って感じかな?


「まだ探索者になってないのにあれ程の技量か……レベルアップをしたら中堅探索者あたりまでは直ぐに駆け上がりそうだな。いやはや、凄い受験生が試験を受けにきたもんだよ」


 2人が和気藹々と互いの成功を喜んでいる姿を眺めながら、私は将来性抜群の探索者候補生が登場したものだと少し遠い目をした。彼女達は何処まで行くんだろうな?
















先輩達の訓練の成果、武術家の家系か特殊部隊出身かと誤解されてますね。


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
自分の間合いで動き、体幹を保持するというのは、分かり易いですね。 実際の訓練は、もっと厳しいですたし、体幹を崩してでも優先する行動をしなければならないこともある。想定外を想定内にするのが訓練ですね。
一足一刀の間合い…よりは少しゆとりを取ってありそう。まぁ作者さんの表現を変えただけですけど。 我々凡人は危ない所には近寄らないようにするのが正解です。
2人が試験に合格したらスライムダンジョンでレベルアップさせるのは…安全のために
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