表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第19章 後輩ダンジョンを目指す
637/642

幕間八拾二話 娘の先輩達って…… その3

お気に入り38570超、PV124530000超、応援ありがとうございます。


コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて掲載中です。よろしければ見てみてください。


小説版朝ダン、ダッシュエックス文庫様より書籍版電子版に発売中です。よろしくお願いします






 娘から今後起きるかもしれない懸念を聞き、本当にそんな事態があり得るのかと私は考えを巡らせ、暫く考えあり得るという結論を出した。

 何より受験勉強に挑んだ事のある者の実感として、長期間勉強をし続ける受験勉強において体力や集中力は学力に直結する重要事項だ。それが探索者になってレベルを上げる事によって短期間で、それも常人以上に底上げできるともなれば……探索者学生と非探索者学生では学力の差は歴然としたものになるだろうな。


「そうか……確かにあり得ない事では無いだろうな」

「うん、というか私はこの間の資格試験で懸念が確信に変わったよ。確かに美佳ちゃん達の方が少し早く資格試験の勉強を始めてたかもしれないけど、あそこ迄の差がでるとは思わなかった。私と涼音ちゃんはギリギリ合格出来るかな?って感じの出来だったのに、美佳ちゃん達は結構余裕がある感じだったよ」

「それは彼女達が先行して勉強していたからじゃないのか? 資格試験を受けると決めて本番までそれほど期間も無かったし、始めるまでに1ヶ月も違いがあれば差が出るのは当然だと思うぞ?」

「そう思うよね? だから私もそう思って普段どんな勉強をしているのかって美佳ちゃん達に聞いたんだけど、美佳ちゃん達は探索者としての練習や実践もしているから、資格試験に当ててる勉強時間の合計としては私と涼音ちゃんの方が多かったぐらいだよ」


 娘が聞いた話によると、娘の友人達は毎日集中して1時間ぐらいしか資格試験の勉強に当てていなかったらしい。だがそれは、休憩を挟まずに全力で集中して1時間の勉強をしたらしい。

 いやいや、普通は1時間も集中し続け勉強をするなんて無理だって。


「探索者になると、そんな事が出来るのか?」

「出来るみたいだよ。美佳ちゃん曰く、ダンジョンでモンスターと戦う時みたいな感覚でやるんだって。モンスターと戦っている時に集中力を切らすと怪我をするから、自然と長時間集中するやり方が身についたって。他にもダンジョン内では不意打ちを警戒して歩いているから、集中しながら他の事を考える思考方法も身に付いたとかいってたかな」

「それは確かに……身に付くというか身に付けないとマズイ技能だな」


 必要に迫られ身に付いた技能が、他の分野で役に立つというのは良くあることだ。

 しかしそんな高度な技能が短期間で身に付くなんて……ああなるほど、モンスターの存在によって身に迫る危機を感じた事により飛躍的に能力が伸びたという事か。


「うん、美佳ちゃん達はダンジョンに潜っていれば自然と身に付く技能だっていってたよ。新人探索者を卒業する頃には、慣れれば誰にでも出来るって」

「慣れれば誰にでも出来る様になる、か。つまり探索者として暫く活動できていれば、誰でも身に付けている技能という扱いになるという事か」

「聞いた限りだと多分ね」


 探索者をやっていれば誰にでも取得できる技能、これは驚異的な事だ。学生探索者が未だに増加している今、多くの学生が身に付けていると考えられる。今の3年生が急いで身に付けるのは難しいかもしれないが、1,2年生が大学受験に備え身に付ける時間はある。

 そして技能が身に付く迄にダンジョン探索に慣れているという事は、探索者としてレベルも上がり常人以上の身体能力、体力が身に付いているという事にもなる。

 

「そうか。受験勉強をする為に探索者になるという前提条件を整えないと、受験競争という勝負の土台に立つのも難しい時代が来るという事か」

「うん。今の3年生や2年生はまだマシかもしれないけど、私達の世代は探索者になる事が受験において有利って情報が出回ってるだろうから、1年生か2年生で探索者になって鍛えていないと進学は難しいっていわれる時代になっているかも」


 学生探索者の増加に学校側が苦慮し何らかの規制を掛けるかもという話は偶に聞くようになってきたが、この事が世間一般に浸透する様になったらまともな規制なんて掛けられないだろうな。

 仮に一部の学校が学生に規制を掛けた結果、極端に進学率が落ちた等という事になれば学校としては死活問題になる。特に私立の進学校ともなれば、有名大学への高い進学率とは一番の売りであり学校経営の根幹だ。学生探索者を許容している一般校に進学率が大差で負けているともなれば、入学希望者が激減し定員割れが常態化、結果として廃校という流れに至るかもしれない。


「そうか、時代か」


 私は達観した表情を浮かべ、夕暮れで赤く染まり始めた窓の外に見える空に力無い眼差しを向けた。

 親としては娘にダンジョンは危険だ、モンスターと戦うなんて危ないからやめろといいたい。実際に、モンスターとの戦いで大怪我を負って引退した探索者の話などごまんと聞くしな。今日の話し合いで回復薬を使えば大抵の怪我は治せるとは聞いたが、それでも娘に痛い思いはして欲しくないというのが本音だ。


「コレからの将来を思えば、頼りになる先輩探索者にしっかり指導して貰って探索者になれるのなら幸運だ。何も知らない新人が手探りで始めるより、確りした指導者が居るのなら怪我をする可能性も減るからな。今日は少し取り乱して色々無理なお願いをしてしまったが、改めて彼等には頭を下げお願いするべきだな。麻美、明日学校で彼等にあったら今日は無茶なお願いしてしまって申し訳ないと伝えてくれ。1度お願いしてしまった以上、彼等も真剣に検討してくれているだろうから無理なら無理だとはっきりいってくれと」

「えっと、うん分かった。明日しっかり説明しておくね」

「頼む。こっちはこっちで今日の話を参考に、日野さんのご両親と対応を相談しておくよ」


 日野さんのご両親がこの話を知っているかは知らないが、情報を共有して今後の対応を決めるしかない。ただ単純に探索者になる事を反対すれば良いという問題ではなく、探索者に成らないとしても娘達の進路に直結する問題だからな。

 コンサルティング等といった無理なお願いをしてしまった以上、コチラの対応だけでも一致させ確定させておかなければ更なる迷惑を彼等に掛けてしまう事になる。依頼者の話が会う度に二転三転するなど悪夢でしかないからな。






 娘の先輩達から検討の結果、コンサルティングは断るとの連絡を貰った。元々コチラが探索者業の実態話に衝撃を受け混乱してる最中に思い付きで無理をいったのが原因なので、断られる事自体は想定の範囲内だったのでハッキリと断ってくれて安堵した。

 探索者をやっている娘の先輩とはいえ、未成年者に頼むような話じゃなかったからな。彼等には無駄な気苦労を背負わせてしまい、心底申し訳なかったと思っている。


「麻美、探索者になる事自体にはもうとやかくいう事はしない。だが、幾ら彼等の指導や引率があるとはいえ無理はするなよ? チョッとした油断で大怪我をしたっていう探索者の話は、掃いて捨てるほどにあるんだからな」 

「うん勿論、美佳ちゃん達や先輩達も特にその辺は注意する様にいってくれてるからね。どんなに色々な状況を想定して訓練しても、チョッとした油断から致命傷に繋がる事もあるから、ダンジョンに入っている間は絶対に集中力を切らすなって。長時間疲れない様に薄く警戒力や集中力を保つ技術もあるから、事前の訓練である程度のコツは教えてくれるっていってた」


 娘がしれっと熟練者でも難しそうな高等技術を教えてくれると口にした時、私の中にはふと初歩的な疑問が思い浮かんだ。


「……なぁ? 今更になるんだが、お前の先輩って探索者をやってるだけのただの高校生だよな?」

「えっ? ああ、うん、そのはずだよ。どこかのダンジョン企業に所属しているとか、スカウトをされたとかって話も聞いた事ないし」

「そうなのか? でもなぁ、今思い返してみても体育祭で彼等が披露したあの演武、だたの高校生探索者が出来る様なモノじゃないように思えるんだよ。素早い動きだけならTVなんかで見る様なレベルを上げた探索者にもできるんだろうけど、あの演武はかなりの武術経験者じゃないと難しいんじゃないかな? 演武なんかの殺陣って、ちょっとした受け順を間違えただけで怪我をすると聞く。それを、あの速さの動きであの見事な演武……ただの高校生探索者ってだけで実行するのは難しいんじゃないか?」

「ううん、でも……美佳ちゃん達もあの時の演武くらいの立ち合いなら、放課後の練習の時に先輩達とやってたよ? 探索者としてレベルを上げたら、アレくらいの演武は出来るものじゃないのかな?」


 いやいや、それは無理があるだろう。あんな動き、TV番組やどこかのダンジョン系イベントでも見た事は無い。あるとすれば、時代劇の立ち合いシーンの映像を倍速再生した時か?

 とてもでは無いが、ただの高校生探索者が出来る様なものじゃないだろう。


「私は探索者の実情というものを良く知らないから、そうなのかもしれないが……」

「気になるのなら先輩達に明日聞いてみようか? 私も指導を受けるのなら、先輩達がどれくらいのレベルの探索者なのかは知りたいしさ」

「そうだな。妹さん達を指導した経験があるという事は、彼等自身は中堅辺りの探索者なんだと思う。専業の探索者じゃないんだから、トップレベルの探索者という事はないと思うが、学生探索者としては相当な上澄みに位置しているじゃないか? それならあの演武にも納得がいくんだが」


 いってみればあれだ、インターハイなどに出場する学生トップレベルの選手といった所かな。

 それならば、普通の学生探索者に出来ない事が出来てもおかしくはないと思う。


「分かった、その辺も聞いてみるね」

「ああ頼む。この間の話し合いの時に確認しておけば良かったんだろうが、うっかり失念していたよ」


 そして翌日、帰ってきた娘が少し青褪めた様な神妙な表情を浮かべながら、先輩達に聞いたという話をしてくれた。

 なんでも彼等曰く、多分学生探索者としてはトップクラスで企業系探索者も含めて上位層に属しているのではないかなとの事だ。学生探索者としてトップクラスだろうという事は想定していたが、企業に所属する様なプロの探索者も含めても上位に位置してるってのは何だ?


「えっと、それはホントなのか? 揶揄われていたりは?」

「……多分無いと思う。前に皆でバーベキューをしに行った時にさ、先輩達が差し入れにって事でお肉を持ってきてくれてたんだけど、それが実はダンジョン産のモンスター肉で先輩達が獲ってきたものだったらしいの。それがすっごいレア物で、普通の学生探索者じゃよっぽど運が良くないと手に入らないのに、先輩達は当たりが出るまでモンスターを狩りまくってたって」

「……確かモンスターを倒すと、肉がドロップアイテムとして手に入るといっていたな。そのお肉が出るまでに、狩りまくったって?」

「100体を超えてからは数えていなかったっていってたよ。あとお肉は、凄く美味しかった」


 頭が痛くなった。美味しいお肉を得るために、100体以上のモンスターを狩るって。

 しかも、それを苦もなく実行出来る実力があるときた。


「そのモンスターというのは、妹さん達でも容易く倒せる相手なのか?」

「多分無理だよ。美佳ちゃん達に話を振ってみたら、相手を聞いて2人で1体を怪我無く倒せるかどうかだろうっていってた」

「そんなモンスターを、彼等はガチャの引き直し感覚で倒せるのか」


 想像以上の強さというか、埒外の強さだ。それならば確かに彼等が、プロ含めて探索者としてトップクラスにいるという話にも納得がいく。

 学校の先輩に教えて貰えれば娘達も怪我をせずに済むだろうと思っていたら、何時の間にかその道のトッププロに娘達が門下生として入門する様な話になっていた。何でそうなる。


「確かに先輩達が凄い凄いとは聞いていたけど、そこまでの探索者だとは思ってなかったよ」

「そう、だな、私もそうだよ」


 おいおい、それじゃぁ私達は素人の娘達の訓練をトッププロにコンサルティングしてくれと依頼した事になるのか? 娘の学校の先輩だからといって、とんでもない頼みごとをしてしまったぞ。そりゃぁ彼等が驚いたり渋い顔するのは当然だよな、彼等がそんな立場だとするなら知り合いだからといって下手な条件で受けるのは無理だよな。下手をすれば、あそこのトッププロが簡単な条件で引き受けてくれたのに、それより格下のプロがこんな条件を出すのか!といった話に進展しかねない。


「これは一度日野さんとも話し合った後、もう一度彼等にコンサル関係の謝罪をした方が良いか?」

「それはやめておいた方が良いと思うよ。先輩達もコンサル話の対応で大分疲れてたみたいだから、改めて蒸し返すのはやめた方が良いって」

「そうか、そうかもしれないな。それじゃ麻美、菓子折りを用意するから持って行ってくれ。彼等が気を遣わないで良いように、訓練を頑張っている者達への差し入れという事でさ」

「えっと、うん。今度学校外で皆で集まる事になってるから、その時に持って行くね」


 娘の先輩達の思いもよらない実態に驚愕しつつ、トップクラスの探索者に教えて貰えるのなら娘達の安全も更に向上するのだから良しと思い込む事にした。

 そうじゃないと、ちょっと直ぐには受け止めて冷静になれないからな。
















美味しいお肉を求めてドロップアイテムガチャを回し続けた結果の霜降りミノ肉ですからね。


コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて掲載中です。よろしければ見てみてください。

小説版朝ダン、ダッシュエックス文庫様より書籍版電子版に発売中です。よろしくお願いします。

コミカライズ版朝ダン、スクウェア・エニックス様より書籍版電子版にて販売中です。よろしければお手に取ってみてください。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 ダンジョンが登場して以降、老若男女全てに、ダンジョンで能力を強化するという道ができたわけで、その道から目を逸らしてたら、単なる劣等人になってしまうんだよな。
まあダンジョン側が特別対応する程度には上位よな…(もはや世界ランカーである)
徐々にヤバイ仕事やってたような人達も探索をトレーニングに普通に取り入れるでしょうね。 日本では慎重でしょうけど、世界の民間軍事会社とかは金になるし身体訓練にもなるとなれば積極的になりそうだし。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ