第554話 さぁ探索者試験に乗り込むぞ
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舘林さんと日野さんが受ける探索者試験の予定日が明日に迫り、2人の訓練に対する熱が上がる。まぁ試験明けのストレス発散も兼ねていたんだろうが、舘林さんと日野さんだけでなく美佳と沙織ちゃんも張り切っていた。
お陰で俺達の指導にも熱が入り、放課後の訓練が終わる頃には4人とも地面に座り込むのが常である。
「さて、今日の訓練はここまでだな」
「「「「はっ、は~い」」」」
「うん、死屍累々って感じだな」
「そうね、皆お疲れ様」
地面に座り込み荒い息を整える美佳達4人を眺めながら、俺達は口々に訓練の講評を始める。
「とりあえず、舘林さんと日野さんはある程度の基礎は出来たって感じだね。まだまだ持久力不足や筋力不足といった問題はあるけど、探索者になってレベルを上げていけば自然と強化されるから大丈夫だと思う」
「そうだな。探索技術や戦闘技術の習熟はまだまだだけど、ダンジョンの上の方でモンスターを相手にしながら探索する分には十分だろう。ただし単独でのモンスターとの戦闘行動は無しだ、遭遇した相手が1体だけだろうと必ず複数で戦う事」
「探索者はレベルが上がればそれだけ身体能力が向上するけど、その上昇した能力に振り回される探索者も少なくないわ。それが原因で意図した動きが出来ずに怪我をするという事も往々にしてあるから、2人も探索者になってレベルを上げたらその都度確認はしっかりするのよ」
「「は、はい」」
少し嬉しそうな表情を浮かべながら返事をする舘林さんも日野さんも、ここ暫くの訓練で地区大会上位に入る運動部メンバー並みには鍛えられたと思う。流石に短期間で全国大会レベルに鍛えるのは無理だったが、新人探索者としてならば十分な身体能力だといえる。
まぁそこそこ運動している学生なら、徒党を組めば帰宅部でも上層のモンスター位となら闘えるんだけどな。毎回毎回無傷で、とはいえないけどさ。
「とはいえ、基礎的な能力が整ったというだけだから油断しない様に。動ける事と戦える事は違うんだからさ」
「そういえばダンジョンでは体が緊張で動かないって奴は良く目にしたな、特に新人だけど。でもまぁ動けないのは論外だけどな」
新人あるあるって奴だな。固まって動けない所を、スライムに張り付かれてる慌てているヤツとか。
あとダンジョンが解放された当初なんかは運動不足の大人がダンジョンに意気揚々と乗り込んで、モンスターと戦うと肉離れやアキレス腱断裂などといった自爆をしているという話をよく耳にした。まぁ実際に仲間?に担がれ併設された治療所に、苦悶の表情を浮かべながら担ぎ込まれている大人の姿を目にした事はあるからな。
「2人とも、そんなに脅かさないの。その辺も考えて鍛えたんだし、大丈夫よ」
少し呆れたような表情を浮かべる柊さんに窘められ、俺と裕二は少しバツの悪い表情を浮かべながら頭を掻き視線を逸らす。
まぁ確かに、立ち合いの訓練をする時にはプレッシャーを掛けながらやっていたので、2人ともそれなりに度胸はついている筈だ。心配するにしても脅し過ぎか。
「んっん! ええと次に美佳と沙織ちゃんだけど……」
「話かえたね」
「かえたね」
「美佳と沙織ちゃんの方の話なんだけど!」
都合が悪そうなので話の流れを変えようと次の話題に移ろうとしたが、美佳と沙織ちゃんに指摘されあせる。別に心配してるだけであって、悪い事はいってないんだから良いじゃないか。
それはそれとして、美佳と沙織ちゃんの訓練の講評に移る。
「まぁ訓練を始めた最初に比べると、かなり立ち回りが良くなってるよ。探索者を始めてからモンスター主体の戦い方だったから仕方が無いけど、対人戦を想定した場合はかなり隙だらけになる動きだったからね」
「そうだな、特にトドメの一撃を打ち込む際の動きは酷かった。流石にあの大振りは上層のモンスター相手なら兎も角、中層以降の人型モンスターや人が相手じゃ大きな隙に繋がるからな」
「大きなモンスター相手に攻撃力のある一撃を出したい為の大振りってのは分かるけど、流石にあの隙だらけの大振りを格上相手に繰り出すのは無いわ。特に無意識的に出していたのはダメよ。繰り出す際の隙を意識した上で出しているのならカウンターに対する対処も可能でしょうけど、無意識に出してしまうと……ね?」
俺達3人は、初めて美佳と沙織ちゃんの立ち合いの相手をした時の事を思い出す。ワザと体勢を崩し大きな隙を作って見せると、美佳も沙織ちゃんも威力の高い大振りの一撃を自然と繰り出してきたからな。
更に見え見えの隙に大振りの一撃を繰り出してきたくせに、カウンターへの対処を考えていなかったという始末。軽く躱して繰り出した一撃が綺麗に決まった時なんて、一撃を受けた美佳や沙織ちゃんより俺達の方が驚いたものだ。
「えっと、あれはその……はい」
「面目ないです」
美佳と沙織ちゃんも訓練当初の頃の姿を思い出したのか、少し頬を赤く染めながら恥ずかし気に顔を逸らす。こうやって訓練を受けた結果、自分達でも流石にアレは無いと思っていたんだろうな。
「まぁそこら辺の問題も、今回の訓練で大分改善されてきているよ。隙が大きな大振りは無くなったし、フェイントの見分け方も大分出来るようになってきた。今なら、ある程度レベルが上の不良探索者が相手でも大きな怪我を負う事なく撤退できる筈だ」
「まだまだ技量的には未熟な面が多々あるけど、少なくともタダでやられるだけにはならないだろうさ。勝てるとはいえないが、逃げる分には問題ない程度の練度にはなったと思うぞ」
「美佳ちゃんに沙織ちゃん、今回教えた対人戦の戦い方はあくまでも怪我を負わずに逃げるのが目的の為の物よ? 相手が襲ってきたからといって、正面切って戦う必要はないわ。相手の攻撃をいなしつつ、他の探索者がいる場所まで撤退すればいいのだから」
襲撃犯も他の探索者に、襲撃をしてたという事実がバレるのは望まないだろう。俺達が遭遇した様に、遠距離から姿を見せない襲撃を仕掛ける様な犯人ならば攻撃が通らなかった時点で撤退する可能性は高い。相手も追撃してまで正体を晒すリスクは取らないだろうからな。
逆に堂々と姿を見せ襲ってくる相手ならば、口封じもかねて執拗に追撃をしてくる可能性もあるけど……まぁ覆面等の最低限の変装位はしているだろうから、逃げきってしまえば追撃してくる可能性は低いと思う。
「こっちが逃げても、相手が追撃してきたらどうするの?」
「相手にせず逃げる、だな。ダンジョン内だから被害者や目撃者がお前達だけの場合、勘違いだって言い逃れる可能性が無くも無いが、他に多くの探索者がいる所まで追撃したらさすがに言い逃れは出来ないからな」
ダンジョン内という犯罪の立証が難しい場所での犯行だと、言い逃れをさせずに確実に犯人を捕まえるには俺達がやったように、証拠と共に現行犯で襲撃現場を押さえるしかない。
襲撃現場の証拠映像はボディーカメラで押さえられるかもしれないが、現行犯で捕まえないとその映像の犯人が後日身柄を抑えた犯人であると証明するのは難しいだろう。何せ今時の探索者が使っている防具等の装備は、協会推奨の似通ったモノが使われているからな。証拠映像だけで人物証明は難しいだろう。
「だから探索中は常に自分がダンジョンのどの辺りに居るのか、どこら辺に他の探索者が多くいるのかは意識しておいた方が良いぞ。逃げ道……撤退ルートは常に何通りかは考えておくことだな」
「そうね。仮に襲撃されたとして、パニックになって自分の所在位置を忘れて右往左往してたら無駄な怪我をおうわ。コレは人を相手にする場合だけではなく、モンスターを相手にするときも同じよ。常に撤退ルートは頭の片隅に作っておいた方が良いわね」
「撤退ルートを予め……」
「確かに事前に撤退ルートを決めておけば、迷わずに逃げ出せますね」
俺達の忠告に、美佳も沙織ちゃんも納得の表情を浮かべる。撤退ルートなど事前に考えておかないと、来た道をそのまま戻る一本道になるからな。グループで襲撃活動をしていた場合、相手の撤退ルートの封鎖などもやるだろう。
まぁ、そこまで大規模なグループで襲撃などはしないと思うけどな! 普通にグループで探索者活動してる方が稼げるだろうし、まともな考えの持ち主ならリスクを負って迄襲撃なんてしないだろう。
「まぁ襲撃を受けても最低限逃げられる程度の下地は出来た、って感じだな。訓練自体は続けるけど、まぁ一段落はついたと思っても良いぞ」
「うん」
「はい」
まだ先は長いとはいえ、とりあえず美佳と沙織ちゃんも同格相手までなら逃げる事は出来るという感じに仕上がった。
そして講評を続けている内に、荒れていた息も整ったらしく座り込んでいた4人は立ち上がった。
「まぁ4人の現状はそんな感じだね。これからも訓練は続けていくけど、舘林さんと日野さんの探索者資格試験前に一段落はついたって感じだ」
「「「「ありがとうございました」」」」
「じゃぁ明日は試験本番だし、今日はこれくらいにして帰るとしよう」
試験前日という事もあり、少し早いが訓練を終え帰宅する事にした。資格取得試験では簡単ではあるが筆記試験もあるので、舘林さんも日野さんも最後の確認はしておきたいだろうからね。
一応試験方法が変わっていないか俺達も確認したが、どうやら今のところ大きな変更点はなさそうだった。簡単な講習を受講した後に筆記試験を行い、実技テストを行うという流れである。
翌日、試験日本番を迎え緊張している舘林さんと日野さんを見送る為、俺達は全員で探索者協会支部迄足を運んでいた。昔は受験者数が受験者数だったので大学の講堂を借りて大規模に行っていたが、最近は受験者数も落ち着いてきたので資格試験は協会支部で行われるのが主流になっていた。
まぁ今日受ける受験生だけでも、100人以上いるみたいなんだけどさ。何故分かるのかって? 舘林さんと日野さんの受験番号が、112番、113番ってナンバリングされているからだよ。
「2人とも落ち着いて受ければ大丈夫だから、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ」
「そうそう、今日までの訓練を思えば簡単な試験なんだからさ」
「事前に勉強もしてるんだし、講習をちゃんと聞いていれば簡単よ」
「うんうん、簡単だったから大丈夫」
「試験は落ち着いてさえいれば大丈夫だよ」
試験経験者の俺達が揃って簡単だったから大丈夫だと念を押すと、舘林さんと日野さんは大きな溜息を吐き出し大勢の受験者達を前に強張っていた体の緊張を解いた。
「分かりました、落ち着いて頑張ってきます」
「頑張ります」
「うん、頑張って」
そして俺達5人は受験手続を済ませ試験会場に入っていく舘林さんと日野さんを見送った後、一先ず協会支部の建物を後にした。受験者数が減ったとはいえ人数が人数なので、資格試験はお昼休憩を挟んで午後まであるからな。流石に協会支部内で待つには長い時間だ。
舘林さんと日野さんには、試験終了の連絡をくれれば迎えに行くと伝えているので支部を離れても問題ない。
「さて、それじゃ時間までどこに行こうか? 大体の終了時間は分かってるけど、余り離れた場所まではいけないしさ」
「そうだな……3人は何か希望ある?」
「そうね。折角滅多に来ない所まで来たんだし、少しお店を見て回ってから決めて良いかしら? どんなお店があるのかも良く分かっていないのよ」
「私も少し歩いて見て回ってから決めたい」
「私もこの辺の地理には不慣れなので……」
まぁ普段この辺までは来ないからな、正直どんなお店があるのか良く分かっていない。
「じゃ少し歩いて見ようか。特にコレといった行ってみたいお店がある訳でもないしね」
「そうだな。じゃぁ少し歩くか」
という訳で、目的地探しついでに町の散策を行う。その結果は、この辺はビジネス街寄りの繁華街って感じの街だった。飲食店や商店も少しランクが上がっており、高級店がチラホラと点在している。
まぁ一言でいうのなら、学生には少し敷居の高い街といった感じかな? 今回の様な資格試験を受験する為といった目的が無いと、学生は中々足をのばさないといった感じだ。
「あっ、アソコのお店にしようアソコのお店!」
「アソコか。まぁあの店なら行き慣れてるしそうだな」
散策の結果、結局は地元にもある通い慣れた大型ディスカウントチェーン店で時間を潰す事になった。色々な種類の商品が置いてあるし、変に肩肘張ることをしないで済むから時間潰しには慣れた店がちょうど良いよな。何より安いし。
そして買い物と手頃なお店での昼食を挟みつつ、舘林さんと日野さんの試験が終わるまで俺達は時間を潰す事になった。
「あっ、麻美ちゃんから連絡来たよ。実技試験も終わったから、あと30分ぐらいで協会支部を出るって」
「終わったか、じゃぁ頃合いを見て迎えに行くとしよう」
「うん。あっ、建物を出る前にもう一度連絡するって」
「了解」
ゲームセンターでクレーンゲームをしながら時間を潰している所に舘林さんから連絡が届いたので、俺達は切りの良い所で遊びを終え協会支部へと向かって移動し始めた。
2人の試験が上手く行ってると良いんだけど、まぁ色々受験対策はしたし大丈夫だろう。




