第553話 夢への一歩が迫る
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何事もなく授業は全て終わり放課後、HRで試験前期間に入ったので部活動の中止期間にはいる事が通知された。おかげで教室の空気が少し緊張し、余裕の表情を浮かべる生徒、焦りの表情を浮かべる生徒、絶望的な表情を浮かべる生徒、全てを受け入れ達観した表情を浮かべる生徒等々、十人十色な反応をみせる。
因みに俺はというと、平然としながら少し面倒だといった表情を浮かべていた。何だかんだしてるけど、俺ちゃんと毎日勉強してるんだぞ?
「それじゃHRも終わった事だし、とりあえず部室の方に行くか?」
「そうだね、美佳達も部室に来るはずだから」
「でも今日から部活中止期間だし、部室のカギ貸してくれるかしら?」
試験前は部活動が中止期間に入るのは事前に知られている為、基本的にどの部活も期間中の活動は出来ず、余程の理由がないと部室も開放されない。あと部室の鍵が置いてある職員室も、試験前は基本的に生徒の入室は禁止だしな。
それに何でも昔、試験前の準備期間中に部室で屯し色々と問題行動をやらかした生徒がいたらしかったそうだ。そして試験前に停学をくらったとか?
「まぁ大丈夫じゃないかな? 一応今日の集まりの目的は、部活動の一環として受験した試験の成績確認なんだしさ?」
「まぁ確かに、部活動の成果の一環なんだし多分いけるよ。それに、来週やるよりはマシじゃないかな?」
「そうね、そういわれると大丈夫そうよね」
俺と裕二の推測に、少し不安げな表情を浮かべていた柊さんも納得の表情を浮かべていた。まぁ普段の活動ではなく、短時間で終わる報告会なら問題ないだろう。
そして少し不安を感じながらも俺達は職員室で、部活顧問である橋本先生に事情を説明し部室のカギを借りた。その際……。
「そう、合格したの。おめでとう」
「ありがとうございます」
「みんな頑張って勉強していたものね、成果が実って本当に良かったわ。はいコレ、試験前期間だから出来るだけ早く戻してね」
「皆の合否報告を確認するだけですから、そんなに時間はかからないと思います」
橋本先生から試験合格のお祝いの言葉を貰い、俺達は軽く頭を下げてから職員室を後にする。因みに橋本先生も部室の方に来たそうにしていたが、試験の準備が忙しく無理との事だった。
普段の業務に加え試験問題の作成、本当にお疲れ様である。
「無事に借りられたな」
「うん、でもやっぱり活動中止期間中に長時間部室を使うのは拙そうだね」
「そうね、手早く確認だけしてからカギを返しに行きましょう」
そして俺達が部室に行くと、丁度美佳達もこちらに向かって来ていた。
先生と職員室で少し話していたので、丁度いい感じで時間調整になっていたらしい。
「あっ、お兄ちゃん。 丁度来た感じ?」
「ああ、さっき職員室でカギを借りて来たばかりだ」
部室の前で合流した美佳達と軽く挨拶を済ませた後、手早く扉のカギを開け部屋の中へと入る。
一応部活の活動中止期間だからな、部屋の前で騒いでいる所を見られて厄介事に発展すると面倒だからな。そして全員が定位置の椅子に腰を下ろしたのを確認し、時間も無いので早速本題に入る。
「それじゃぁ時間もない事だし早速、こんな時に集まって貰った本題に入らせてもらうよ。一応確認だけど、簿記試験の合否通知って届いてるよね?」
「「「「「「……」」」」」」
俺が確認の為に尋ねると、皆無言で軽く頷き通知が届いている事を認めた。
やっぱり受験生に一斉送付ってパターンだったらしい。
「それじゃぁ単刀直入にいこう……合格したって人は手を上げてくれ」
俺は重苦しい雰囲気に満ちる中、軽く皆の顔を見渡した後に少し緊張した感じでそう提案する。
すると一瞬の間を開けた後、皆が一斉に小さく手を挙げた。
「……そっか、良かった。全員合格だな!」
「おう!」
「その様ね」
「「やった!」」
「「全員合格してて、本当に良かったです!」」
全員が合格していたと判明し、俺達は椅子から立ち上がり諸手を挙げ喜びの声を上げる。部室が一気に明るい雰囲気に満たされ、皆喜びの表情を浮かべながら合格までの苦労をねぎらい声を掛け合う。
本当に良かった、皆で一発合格出来て。不合格者が出ていたらどうしようと、心底心配だったからな。
「まずは皆、お疲れ様! 全員合格出来て本当に良かった。これも偏に皆の努力が実った成果だ。正直合格率を考えれば、皆一斉合格は難しいかもと思っていたから本当に良かったよ」
「そうだな。みんな頑張ってたのは確かだけど、全員合格ってのは出来過ぎなくらいだ」
「それだけ皆が真剣に簿記試験に向き合っていたって事よ」
「そうだよ、皆で頑張ったおかげだね」
「参考書を何度も読み返しましたからね」
「難しかったけど、頑張った甲斐がありました」
「ホント、みんな頑張ってたもんね」
簿記試験を受けるまでの勉強の日々を思い返し、皆思い思いに慣れない資格試験に挑んだ奮闘ぶりを口から漏らす。
そして一通り互いをねぎらった後、落ち着きを取り戻した俺達は椅子に座り直す。
「とりあえずこれで、ウチの部が設立当初から目指していた目標は達成できた。文化祭なんかでの活動も鑑みれば、部の活動実績としては何処からも文句が出ない出来だね」
「そうだな、設立初年度でこれだけの成果を出せば学校も生徒会からも文句ないだろうさ」
「そうよね。まずは一人でも合格者が出せれば活動実績としては申し分は無いのに、受験した部員全員合格だもの。コレで文句をいってくるのなら、他の部はどうなんだ?ってこっちが逆に文句をいってやるって感じだわ」
正直文化祭の発表だけでも活動実績としては十分だとは思うが、今回の簿記試験全員合格はダメ押しの一手になっただろう。正直設立当初の目的は達成できているがせっかく作った部だ、出来れば俺達が全員卒業するまでは存続していてもらいたいからな。
そしてまだまだ興奮冷めやらない感じではあるが、そろそろ学校全体から活気も生徒の気配も感じにくくなってきたので俺達も撤収する事にした。
「それじゃぁとりあえず皆、全員合格のお祝いは学校の外でやるとして帰ろうか?」
「そうだな。もう大体の生徒が下校してるみたいだし、俺達も余り遅くまで残っているのは拙いだろうな」
「そうね。試験前の部活動中止期間なのに、特別に部室を使わせてもらっているだけだもの。出来るだけ早く下校した方が良いでしょうね」
先生からも出来るだけ手短にといわれているので、既に30分程経っているので引き上げどころだろう。
というわけで……。
「皆、帰るわよ」
「「「「はい!」」」」
「それじゃぁカギ返してくるから、皆は昇降口で待っててよ」
「頼むな大樹」
俺は職員室にカギを返しにいき、その際に橋本先生に部員全員の簿記試験合格を伝えた。
橋本先生は全員合格と聞き、一瞬驚きの表情を浮かべたが直ぐに表情を綻ばせ祝福の言葉を送ってくれる。
「それは良かったわ、皆頑張って勉強していたものね。特に入部してからまだ日の浅い舘林さんと日野さんが心配だったけど、無事に合格出来たのは凄いわ」
「はい、舘林さんも日野さんも皆に追いつこうと頑張ってくれましたからね。受験後は不安がってましたけど、その努力が実を結んだって感じです」
そして全員合格という成果に終始嬉しそうな表情浮かべる橋本先生に部室のカギを渡し、丁寧に別れを告げてから皆が待つ昇降口へと移動する。
校舎内は既にほとんどの生徒がいないのか、普段と比べかなり静かだ。もう少し早く帰るべきだったかな?
「お待たせ」
「おう大樹、ありがとうな」
「いやいや、ただカギを返してきただけだよ。それよりさ皆、橋本先生が合格おめでとうってさ」
昇降口で待っていた皆に俺が橋本先生からの伝言を告げると、皆一斉に照れ臭そうな表情を浮かべながら顔を嬉しそうに綻ばせていた。
自分達の苦労を知る人から努力の成果を褒められると、自分達は凄い事をなしたんだなと実感できるからな。まぁ実際、受験した全員が一発で合格したのは凄いと思うけどさ。
「良し、それじゃ簿記試験全員合格を祝い打ち上げをしに行こうか?」
「おう行こうぜ、期末試験前の景気付けにも丁度良いな」
「良いわね、行きましょう」
「「「「賛成!」」」」
こうして俺達は来週から始まる期末試験の事は一旦忘れ、この目出度い全員合格という成果を皆で祝う事にした。今日を外すと、試験明けまでやれないからな。裕二がいう様に、景気付けも兼ねて景気良く行こう。
因みに打ち上げは、学校近くのファミレスで行いました。
打ち上げも終わり、俺達も本格的に試験モードへと突入した。
そして俺達はお決まりになってきた試験前の合同勉強会を開き、皆で互いに苦手分野を教え合い試験勉強を進める。因みに舘林さんと日野さんの訓練は試験勉強の気分転換も兼ね、能力維持の為の軽いランニングや筋トレだけはやって貰っている。
「試験勉強に軽いとはいえトレーニング……つらい」
「でも、ずっと机に噛り付いて勉強するよりは精神的には楽、かも?」
舘林さんはどちらかにしてくれないかなと疲れた表情を浮かべ、日野さんは何となく今のままでも良いかもといった表情を浮かべていた。まぁ無理のない範囲で頑張って貰うしかない、探索者資格取得試験も近い内に受験する予定なので、せっかく鍛えた身体能力が無に帰すのは流石に勿体無いからな。
そして試験準備期間は瞬く間に過ぎ去り、いよいよ期末試験本番の日を迎えた。
「今日から期末試験が始まる、皆勉強はしてきたな?」
朝のHRで先生からそう告げられると、やはり生徒は十人十色の反応を見せる。余裕の表情を浮かべる者から、達観した表情を浮かべる者まで。
この時点ですでに、試験結果の明暗がハッキリしているなと分かる光景である。
「……まぁ何だ、最後の一分、最後の一問まで頑張る様に。それじゃぁHRはこれまでとする」
先生がそう告げ教室を後にすると、残された生徒達は様々な行動に出る。試験に必要なものだけ机の上に取り出し試験開始まで気持ちを整える者、諦め悪く噛り付くようにノートや教科書を見直す者、全てを諦めた者同士で時間まで雑談にふける者。
因みに俺はというと、最終確認を兼ねて教科書とノートを見直してる。精神統一も良いけど、何もしないで待っているのは退屈だからな。
「そろそろ試験を始めるぞ。席を離れている者は自分の席に戻り、教科書やノートを出している者は仕舞う様に」
そして各々の方法で時間を潰していると、試験監督官の先生が教室に入ってきて席を離れている生徒達に戻るように促す。
そして生徒全員が着席した事を確認し、試験監督官の先生は裏返しにしたテスト用紙を配り始めた。
「チャイムが鳴るまでテスト用紙は裏返すなよ、裏返しにしてたらカンニングとみなすからな」
裏返しになったテスト用紙を目の前にし、教室に重苦しい緊張が張り詰める。
そしてチャイムが鳴り、試験監督官の先生は試験開始を告げた。
「始め」
短い合図を引き金に、テスト用紙が一斉に裏返される音が響いた。
いよいよ期末試験開始だ、頑張って問題を解くとしますか。
数日間に渡る期末試験も無事に終わり、俺達は久しぶりに部室に集合し期末試験のお疲れ様会を開いていた。皆一様に疲れた表情を浮かべ、体の緊張を解す様に大きな溜息を漏らす。
「大樹、期末どうだった? 俺はそこそこいけたとは思うんだけどさ?」
「まぁ大丈夫、殆どの問題は解けたからね。平均は超えられてると思うよ……多分」
「私も平均は超えられたと思うわ」
高得点を取れたかまでは分からないが、とりあえず平均は超えられそうで問題はなさそうだ。
「主要教科はいけそうだけど、副教科が怪しいかも?」
「私も音楽と美術が少し怪しいかな?」
「平均は超えられてると思うけど……副教科か」
「高得点は難しいかな?」
難しい表情を浮かべる美佳達4人は、副教科のテストの出来が少し怪しいぽい。
それでも平均点は取れそうなので、赤点教科が出ないだけマシというものだろう。
「終わってから何をいっても仕方がないよ。試験結果が順次返ってくるんだし、良かろうと悪かろうと素直に受け入れるしかないからね」
「そうだな。それに俺達にとって大事な試験はまだ残ってるんだし、ココで気を抜くわけにはいかないぞ」
その裕二の言葉に、俺達は舘林さんと日野さんに視線を向ける。
「さぁ2人とも、いよいよ来週の日曜日だよ。探索者資格の取得試験がある日は。これまでの2人の訓練の成果が試される時だ」
「「……はい、頑張ります!」」
「まぁ試験自体はそれほど難しくはないから大丈夫だとは思うけど、油断しないようにね?」
いよいよ舘林さんと日野さんの探索者デビューという、夢への第一歩が始まる。
2人には頑張って貰いたいものだ。




