第434話 文化祭終了時刻
お気に入り35090超、PV92710000超、ジャンル別日刊54位、応援ありがとうございます。
コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて掲載中です。よろしければ見てみてください。
小説版朝ダン、ダッシュエックス文庫様より書籍版電子版に発売中です。よろしくお願いします。
和やかな笑みを浮かべた中年男性に差し出される名刺を目にし、俺は軽い目眩に襲われる。まさか、今更になってダンジョン系企業の名刺をだしてスカウトにくるとは……。午前中を担当していた柊さんに、この手の輩が来て強制退去させられたとは聞いていた。それで文化祭中の勧誘騒動は終わっただろうと思っていたし、裕二達が担当している間には来ていなかったので油断していた。
俺は美佳に軽く視線を送って店番を任せると伝えた後、実務的な口調でスカウト目的らしき中年男性への対応を始める。 因みに名刺は受け取らずに、だ。
「いらっしゃいませ。申し訳ありませんが現在文化祭行事中ですので、名刺のお受け取りは出来ません」
「そうなの?」
「はい。今は部としての展示活動を行っておりますので、個人的なご相談はお受けし兼ねます」
「……」
俺が言外に、部の展示を見に来たのじゃなければ帰れ、といったニュアンス含ませた返事を返すと、中年男性は少しムッとした表情を浮かべたが、直ぐに名刺を仕舞いながら和やかな笑みを浮かべ直した。おいおい、帰る気は無いのかよ……。
呆れたと言った内心を表情を浮かべないようにしていると、中年男性は軽く咳払いを入れつつ話し掛けてくる。
「では、文化祭が終わった放課後に話す時間を貰えないかな?」
「すみません。放課後は文化祭の片付け等で、お時間を作るのは難しいかと」
「では、日を改めて……」
「申し訳ありません」
俺が表情を変えず素知らぬ態度のまま断りの言葉を言い切ると、流石に和やかな笑みは維持出来なくなったらしく、中年男性は苛立ちの表情を浮かべ始めた。
ボロが剥がれた、と言うんだろうな。
「おい、いい加減にしろよ。それが、せっかくココまで来てくれた大人に対する態度か?」
「大人に対する……ですか。それはアポも無しに学校行事に関係ない話を持ち込んでくる人への対応に対して、の事でしょうか?」
「!?」
「そもそも日を改められるのなら、態々文化祭をやってる最中に持ってくるお話ではないのでは?」
どっちが非常識な事をしてるんだ?と俺が追求すると、中年男性は引き攣ったような表情を浮かべ絶句する。まぁ自業自得とはいえ、子供にこうまで言われたら恥を掻かされたと腹を立てる輩もいるよな。
しかし、このまま相手の発言を待って騒ぎ出されても面倒なので、更に追加情報を入れて追い打ちしておく。
「そう言えば午前中にも同じ様な用件の方が複数名いらしてましたが、皆さん教員に引率され校門まで送り届けられていましたね。その時は随分騒がれていらっしゃったので、外部の協力も検討されていたとかいなかったとか……」
遠回しに外部の協力……つまり警察が出動するかもしれなかったと匂わせてみると、中年男性は自分の行動の拙さに気付いたのか、別の意味で引き攣った表情を浮かべた。
実際に学校が警察を呼ぶかどうかは分からないが、検討自体はするだろうから嘘ではないだろう、多分。
「! ……急用を思い出したので、申し訳ないが失礼させてもらう」
「そうですか、ご来場ありがとうございました」
周囲のお客さんから向けられる視線に気づき、中年男性は慌ただしく言い訳を口にしながらバツが悪そうな表情を浮かべながら部室を出て行った。俺は面倒事への対処を終えた事に安堵しつつ、お客への説明を任せっきりだった美佳に視線を向ける。
あ、あれ? 何か部屋の中の雰囲気が変な気が……。
「ど、どうした?」
「ど、どうしたって……えっと、何か凄かったよ? 堂々としたというか、毅然とした対応というか」
「?」
動揺しつつ美佳に声を掛けると、美佳も動揺した様子で妙な返事を返してきた。
軽く首を傾げつつ、お客さん達に迷惑を掛けたことを謝罪しようと顔を向けると、お客さん達はドコか感心した様な眼差しを俺に向けている。
「ああ、その、お騒がせして申し訳ありません。引き続き、ご観覧をお続け下さい」
「「「おお」」」
俺が軽く会釈すると、何故か感嘆の声がお客さんから上がった。何と言うか、良くやったといった感じの表情を浮かべている。
とはいえ、いつまでも困惑したままというわけにも行かないので、俺は説明業務へと戻った。
あと10分ほどで文化祭が終了する。ウチの部の前に長々と続いていた行列も消え、室内に2人の見学者が残っているだけだ。長かった1日も、漸く終わりだな。
俺と美佳は最後のひと踏ん張りと、最後のお客さん達が帰るのを待つばかりだ。
「どうにか捌ききったな」
「そうだね、まさかこんなにお客さんが来るとは思っても見なかったよ」
「そうだな、元は100人来るかどうかって感じだったしな……」
「それが蓋を開けてみれば、ね?」
俺と美佳は受付の椅子に腰を下ろしながら、小声で文化祭の感想を交えつつ雑談を行っていた。まぁ感想と言うよりも、愚痴だけどな。
アレだけ用意していた追加分の配布プリントも、終わってみると残り10枚を切っていた。
「追加コピー分で足りて良かったよ。せっかく来て貰ったのに、有りませんは流石に申し訳ないからな」
「そうだね。来てくれたお客さんは皆、プリントを持って帰ってたし足りて良かったよ」
「寧ろ皆が皆、プリントが必要ってのもどうかって感じなんだけどな。特に今の2、3年生だと、年末年始辺りでその辺の話を家でしてなかったのかな?」
「そこはアレだよ、お兄ちゃん。必要性を感じるほど、稼げてなかったんじゃないかな? 去年はダンジョンが公開されてから年末まではそんなに時間も無かったし、特に学生だと一日中毎日ダンジョンへ行く、何て出来なかっただろうしね。お兄ちゃんが話してくれたことだけど、去年公開された当初は人が集まりすぎて、まともにモンスターとも遭遇出来ないって言ってたしさ」
確かに公開された当初の頃は、人が集まりすぎて表層階ではまともにモンスターと遭遇出来なかった時期だ。皆が皆、新人探索者という立場だから当然だけど、一階層のキャパシティを大きく超える人数が一挙に侵入した結果、数時間ダンジョン内を歩き回っても1匹のモンスターとも遭遇出来ないというのはザラにあったと聞く。よほど運が良くなければ、モンスターと遭遇しスキルスクロールなどのレアドロップ品を手に入れる事など出来なかっただろう。
それを考えると多くの学生探索者には、扶養範囲を超える収入を得る事は先ず無理だっただろうな。
「そういえば、そんな時期もあったな。あの期間のお陰で、暫く入場規制も掛かったし、原則単独探索は禁止でパーティー探索をしましょうって決まりも出来たんだよな」
「今でも上の階層はかなり混雑してるし、あの頃は入場規制かけないとまともなダンジョン探索も出来なかっただろうなって私も思うよ。夏休みに入った時も、余りの人の多さに思わず邪魔って思っちゃったし」
「そうだよな。入場のタイミングである程度パーティ間の間隔は空けてるけど、いざ戦闘ってなったら密集しすぎってなるからな。長物の武器を下手に使ったり射出系の魔法を使おう物なら、周りのパーティに当たるんじゃないかって心配になる」
「ああ、それ分かる。階層移動のメイン通りなら皆それなりに間隔を開けてるけど、脇道に逸れた途端に皆適当なんだよね。せめて、武器が振るえて戦闘が出来る程度の間は開けて欲しいな」
新人探索者が多い表層階の場合、その辺の暗黙の了解と言える決まりが守られない場合が往々にしてある。大体の新人パーティは数回ダンジョン探索をすると他のパーティの動きを見て、その辺の機微を理解し自然と間合いを開けるようになる。だが問題なのはその決まりを理解せず、自分勝手に動き回るパーティだ。近くに他のパーティがいるのに無闇矢鱈に武器や魔法を使用し、流れ弾で怪我を負わせ揉め事を起こす。大概の場合、加害者パーティが自身の不手際を棚に上げ被害者パーティに非が有るように文句を言っている事が多い。
当然、そんなパーティは直ぐに危険要因として他のパーティ等につるし上げられ、謝罪と賠償と改善を行わなかった場合は排除されるけどな。
「ある程度回数を熟せば、新人探索者もその辺のことは分かるんだろうけど、ダンジョン協会が新人研修とかって感じで、初入ダン前に教えてくれると助かるんだけどな。ダンジョンに入る前に知っておいたほうが良いローカルルールってのが、そこそこあるしな」
「あるよね、そういう察しろよって感じのヤツ。事前に言っておいてくれたら良いのにってのが、何度もあったよ」
「確かに数回潜れば覚えるような事だけど、ダンジョン内部での揉め事防止の為には事前説明は有効だと思うんだけどな」
ある程度精神的余裕がある日帰り探索ならまだしも、何日もかかる様なダンジョン内泊の探索だと、心の余裕が削られてちょっとした事が揉め事の原因に繋がる。最低限のルールや気を付けておくマナーといった点を明文化し、探索者の統一認識とさせておけば揉め事も減るだろうにな。
これから先、探索階層の平均が下がって行く事を思えば、早い段階から意識付けを進める方がトラブルは確実に減るだろう。
「そうだよね。何でしないんだろう?」
「まぁそんな仕組みを作ろうとすれば、ドコが管轄してドコが作ってドコが管理するのかって話になるじゃないか? 上手く機能すれば良いけど、基本的にダンジョンの中でのことだからな。決まりを作ったら管理しないといけなくなるけど、ダンジョンの中だし出来るのか?ってなって足踏みしてるんじゃないか」
「確かにダンジョンの中ってなると、管理なんて難しいよね」
「仮に違反したとして、どうやって取り締まるんだってなる。被害者の申告制にしたとしても、どうやって証拠や証言者を揃えるのかって問題も出てくるしな」
となるとダンジョン協会として出来るのは、探索者の倫理観に訴える実効力の怪しい簡単な啓蒙活動的なことぐらいだろうな。あれをしてはいけません、コレをしましょうといった感じで。まぁそれでも今の所、大きな問題が発生してないってのも凄いんだけどな。
そんな感じで美佳と雑談をしていると、最後のお客さんが見学を終え部屋を出て行った。
「「ありがとうございました」」
俺と美佳は最後のお客さんを見送ると、漸く終わったと肩の力を抜いて背伸びをした。
長かった、いや本当に長かったな。
最後のお客さんが退出して数分後、校内放送が始まった。
そして、星野文化祭実行委員長の声が響き始める。
「皆さん、お疲れ様です。文化祭実行委員長の星野です。文化祭終了時刻となりました。本日は当校の文化祭に多数のお客様がお越しいただけた事に感謝の言葉もありません、ありがとうございました。そして生徒全員の協力のお陰で、最高の文化祭が行えたことに感謝します。日々の積み重ねが存分に発揮され、どの出し物も創意工夫がなされた素晴らしい出来栄えだったと思います」
スピーカーから響く星野実行委員長の少し高揚したような声の響きに、本当に文化祭の出来に感動しているんだなと感じる。
「それでは皆さん、寂しいですが只今を以て文化祭の終了を宣言します! 今日はご尽力いただき、ありがとうございました!」
星野実行委員長の文化祭終了の宣言に、校内の至る所から盛大な拍手が沸きおこった。俺達の居る部活棟からも盛大な拍手が鳴り響き、本当に文化祭が終わったのだと実感が湧いてくる。
そして暫しの間が空いた後、星野実行委員長から次の指示がでた。
「ではコレより、後片付けの時間に入りたいと思います。ご来校して頂いている外部からお越しのお客様は、速やかに退校して頂きますようお願いします。生徒の皆様は各自、出店や出し物の片付け及び清掃に入って下さい。怪我の無いように気を付けつつ、素早い片付けを心掛けて下さい」
片付け開始の合図に、校内から残念気味の溜息が漏れたような気がした。皆文化祭を楽しんだみたいだからな、祭りの終わりというのは何時も寂しい物だな。
そして最後に、星野実行委員長からの言葉が響く。
「皆さん、文化祭は片付けが終わるまでが文化祭ですよ。それでは片付けを始めて下さい」
遠足は帰るまでが遠足ですよの感じで言われ、思わず苦笑が漏れる。美佳も同じように感じたらしく、俺の横で笑ってる。
まぁ湿っぽい感じで終わるより、こっちの方が良いだろうな。
「良し、それじゃぁ片付けを始めますか。片付けが終わるまでが文化祭だって言われたしな」
「ははっ、そうだね。クラスの方の片付けにも行かないといけないし、頑張ろっか」
「そうだな、手早く片付けるとしよう」
俺と美佳はひと笑いし肩の力を抜いた後、部の展示品の片付け作業に入った。大して物は動かしてないので、そう時間は掛からないで片付けられるだろう。




