幕間五拾七話 揺れる1年生
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お兄ちゃんと別れ教室に入って直ぐ、私達3人は教室内に漂う雰囲気に違和感を感じた。夏休み明けという事もあり、夏休み気分が残り浮ついた雰囲気になるのは分かるのだが、どうもそう言った物とは違う感じがする。
何と言えば良いのか、驚嘆?していると言うのか、羨望?していると言うのか、呆気に取られていると言ったら良いのか……色々な感情が入り交じって混沌としている。
「おはよう~」
「あっ、おはよう美佳ちゃん。麻美ちゃんと涼音ちゃんも久しぶり~」
「うん、久しぶり」
「おはよう」
軽く手を振りながら声を掛けると、私達の姿に気付いたクラスメートの女の子、原田さんが挨拶を返してくれた。大分久しぶりの顔合わせになるが、至って元気そうだ。
そして軽く様子見の話をした後、私は本命の質問を投げ掛ける。そう、教室内に漂うこの雰囲気についてだ。
「それはそうと、この雰囲気はどう言う事なのかな? 何か妙な雰囲気が教室に満ちてるんだけど……」
「ああ、やっぱり気になるよね」
「うん。それで、原因は何なの? 知ってる?」
「うん、まぁね……」
原田さんは少し困ったように頬を掻きつつ、微妙な表情を浮かべながら教室に漂う雰囲気の原因を教えてくれた。
「美佳ちゃん達は、5組の霧島君が探索者業に専念するから学校を辞めたって噂は聞いてる?」
「うん。今朝、涼音ちゃんが教えてくれたよ」
「そっか、じゃぁ話が早いか。実はその噂には続きがあって、学校を辞めたのは霧島君だけじゃ無いみたいなんだ……」
「「「ええっ?」」」
原田さんの話に、私達は思わず驚きの声を上げた。お兄ちゃんに霧島君につられ、連鎖退学する生徒が出るかもと言う話は聞いていたが、まさか既に他にも退学者が出ていたという噂があるなんて……。
そんな驚きの表情を浮かべる私達の反応を見て、原田さんは軽く溜息を吐きつつ話を続ける。
「それと、まだ確定した話じゃ無いんだけど……ウチのクラスからも退学者が出てるって噂もあるのよ」
「ウチのクラスからも……」
「ほら、ウチのクラスにも霧島君達のグループに入ってた子達が結構居たじゃない? その子達の中から……って噂があるのよ」
原田さんの話を聞いて、私は思わず教室の中を見回した。まだ登校終了時刻までは時間があるので空席が目立つが、言われてみると登校している人が少ないように思える。
しかもだ、特に探索者活動に力を入れていた男子生徒の空席が目立つように感じた。
「もしかして、今の時点で誰かが辞めたって話が出てるの?」
「いいえ。今の所は、ウチのクラスから誰かが辞めたって話は聞いてないわ。でも、そう言った噂が出てるって事は……ね?」
「「「……」」」
どうやら、ウチのクラスからも退学者が出ているらしい。まだ確定では無いらしいが、その可能性は高いとのこと。その結果、この教室内に漂う雰囲気という事らしい。
お兄ちゃんと今朝話をしていた時には、こうも早く身近で退学者が出るかもしれないとは思っていなかった。
「もし本当にウチのクラスから退学者が出ているのなら、朝のHRの時に知らされると思うよ」
「そう、だね。もし退学者がいるのなら、知らされるよね」
「まだ高校に入って半年もしてないのに、もう辞めるだなんて……」
「辞めた人は、探索者一本でやっていけるのかな……」
麻美ちゃんと涼音ちゃんは今朝、お兄ちゃんから探索者の厳しい現実話を聞いているので、退学した人の未来を考えたのか表情が暗い。短い期間とは言え、共に同じ教室で学んだクラスメートで有ることに違いは無い。悪い方向に事が転がらないと良いんだけど……不安だなぁ。
そして若干暗い雰囲気が場に漂いだした頃、誰かが元気な声で私達に声を掛けてきた。
「おはよう! 夏休み明けなのに、皆なんか朝から暗いよ」
「えっ、あっ沙織ちゃんか。おはよう。暗いと言うけどちょっと、ね……?」
「「「ああ、うん。おはよう」」」
「??」
私達に声を掛けてきたのは、今登校してきたらしい沙織ちゃんだった。沙織ちゃんとは通学路の途中で良く会うので、今回は少し登校時間のタイミングがずれたらしい。
私達は沙織ちゃんに挨拶を返しつつ、朝から雰囲気が暗かった事情を説明する。
「ああ、なるほど。確かにそんな話を朝から聞いたら、暗くなるのも無理は無いかもね」
「でしょ? でもまぁ、もう退学している以上はどうしようも無い話なんだけどね。コレが退学前とかなら、話し合って思い留めさせるとかって事も出来たかもしれないけど……」
時既に遅し、もし本当にクラスメートの誰かが退学しているのなら後の祭りである。今更外野が何を言ったとしても、学校で退学手続きがされているのなら、今更撤回されるという事は無いだろうなぁ。
「それは、無理じゃ無いかな? 高校に入って半年も経たない内に辞めるって事は、それなりに探索者として食べていくって決意が固かったか、ココでの学校生活が肌に合わなかったって事だろうし……」
「確かに、何かしらの切羽詰まった事情が無かったら、早々に退学なんて選択肢はとらないよね」
「でも、探索者一本で食べていくのは厳しいって先輩が言ってたよ?」
「そうだね、それは辞めた人も分かってるはずだよ。それでも退学を選択したって事は……」
「学校生活が肌に合わなかったのかな……」
確かに、その可能性はあるかもしれない。もし5組の霧島君を始め、退学したって言う人達が探索者として稼げていたのなら、学校で勉強するより探索者として活動した方が……と考えたのかも。そうなると、平日に毎日何時間も学校に拘束されるって言うのは苦痛だったのかもしれないな。
と、そんなことを考えていると、悩ましげな表情を浮かべつつ麻美ちゃんと涼音ちゃんがポツリと漏らす。
「学校を辞めるほど、探索者って魅力的なのかな……」
「せっかく受験勉強頑張って入った学校なのに、半年も経たないで辞めるんだしね……」
「いやいや、二人ともストップストップ。お兄ちゃんが今朝言ってたでしょ? 今の状況で、探索者一本に進路を絞るのは考え物だって。上手くいってる時は良いよ? でも、万が一があった時のリカバリーは厳しいものになるって!」
「「! そうだった……」」
一瞬、麻美ちゃんと涼音ちゃんが探索者道の魅力?に取り込まれそうになっていたので、私は慌てて二人の肩を揺さぶって正気に戻す。危うく、ノリと勢いで二人が危険な道に進むとこだったよ。
そんな私達のやり取りを呆気に取られたような不思議そうな表情を浮かべながら見ていた原田さんは、少し聞きづらそうな様子で質問を投げ掛けてくる。
「ねぇ、美佳ちゃん? 今の話に出てた美佳ちゃんのお兄ちゃんって、あの2年の九重先輩の事だよね? 体育祭で派手な演技をした……」
「うん。その体育祭で派手にやった2年生であってるよ」
やっぱりお兄ちゃん達としたあのアピール、夏休みが明けてもかなり印象に残ってるみたいだね。
「そっか……あんな事が出来る人でも、探索者一本はキツいって言うんだ」
原田さんは遠い眼差しをしながら何度か力無く頷いた後、小さく溜息を漏らしていた。
……あれ、どうしたの?
「あんな事が出来る先輩達で無理なら、私達みたいな始めたばかりの探索者じゃもっとダメって事だよね? そう考えたら辞めた人達の事がちょっと……」
「そうだね。確かに先輩達でダメとなると、どれくらい出来れば探索者一本でやっていけるようになるんだろう……?」
「少なくとも、先輩達の方が今の1年生探索者より実力者であることは確実だものね」
「「……」」
原田さんや麻美ちゃん、涼音ちゃんが漏らしたボヤキ声を聞き、私と沙織ちゃんは少し頬が引き攣ったような気がした。確かに私も運や実力が物を言う探索者と言う世界で、それ一本でやっていくというのは厳しいという意見には賛成だ。でも、お兄ちゃん達程の実力者がやっていけないという事は無いだろう。学校なんかでは騒がれたくないみたいで上手く誤魔化してるようだけど、私達目線から見るとお兄ちゃん達って明らかにトップレベルの探索者だ。色々なダンジョン系企業からスカウトの声が掛けられたって話も聞くし、あの実力なら確実に探索者一本でやっていける実力者だよ。
だから退学した霧島君達がどの程度の腕前かは知らないけど、運が良ければ探索者一本でもやっていけないことは無い……と思うよ?たぶんね。でも、ココで変に学生探索者一本でもやっていけると言う希望を出して、変な形で話が広がると嫌だから黙っておこう。
「そうだね、私も進路は慎重に決めた方が良いと思うよ」
「私達まだ高校に入ったばかりなんだし、進路を考えるのはもう少し時間を掛けても良いんじゃないかな」
沙織ちゃんも私と同じ考えに至ったのか、私の結論を先延ばしにしようと薦める策に乗ってくれた。ココで私たちが無責任に大丈夫だと言って、変に背中を押す形でクラスメート達が連鎖退学するとか言う事態は見たくないからね。
そんな私達の思惑が通じたのか麻美ちゃんと涼音ちゃん、原田さんは学生が探索者で一本立ちというのは考え物だなと言う表情を浮かべた。
暫く5人で話している内に時間は経ち、教室の前方ドアが開き久しぶりに顔を見る担任の先生が姿を現した。先生が教室に入って来るのを見て皆、少し慌てたような表情を浮かべつつ急いで自分の席に着く。勿論、私もね。
でも、そのお陰で登校時間が過ぎHRが始まる時間になったのに、教室に空席がある事を嫌でも認識させられた。ああ、やっぱりってね。
「……皆、おはよう」
「「「おはようございます!!」」」
「夏休み明け、こうして皆の無事な顔が見れて嬉しいわ……」
そう言う先生の浮かべる表情は、口で言うほど優れては居なかった。先生はチラリと教室内を見渡し空席を一瞬凝視し確認した後、気持ちを落ち着かせるように肩で大きく息をする。
そして意を決したような表情を浮かべ、私達の方を真っ直ぐ見ながら口を開いた。
「もしかしたら皆、既に噂話で聞いているかもしれませんが、残念なお知らせがあります」
「「「……」」」
「残念な事にウチのクラスを含め、1年生から多数の退学者が出ました。勿論、校則違反を犯して懲罰として退学したという話ではありません。皆、夏休み中に正式に退学届を学校に提出した上での退学です」
「「「!!」」」
やっぱり噂は本当だったようで、ウチのクラスにも退学者が居たらしい。あの空席の主が、その退学者の一人なのだろう。
そして先生の話を聞き、教室中が一瞬で騒がしくなり色々な意見が飛び交い出す。退学を馬鹿にする意見、勇気?ある行動を褒め称える意見、自分も真似したいという羨望の意見などだ。だが、それも先生の次の言葉が出るまでだった。
「今回1年生から出た退学者の数は、10人です。ウチの学校ではココまでの大人数が、一斉に示し合わせて退学した事はありませんでした」
「「「!?!?」」」
教室内が、悲鳴にも似た驚きの声で満ちる。えっ、10人も一斉に退学したの!? それってもしかして、探索者グループ丸ごと退学したって事!? 嘘でしょ……。思わず驚愕の声を上げそうになってしまったが、私はギリギリの所で声には出さず耐えた。
そして先生は教室の中が騒然とする雰囲気の中、諦めたような残念そうな表情を浮かべながら話を続ける。
「退学した人達に退学理由を聞いた所、仲間と一緒に探索者業に専念するからと言う事でした。突然のことで学校としても対処が後手後手になってしまった上、正式に退学届を提出した上での申し出だったので受諾するしかありませんでした。ですが皆さん、出来ることなら退学届を出す前に学校や私達教員に相談して下さい。今の皆の年代だと学校の勉強は何の為に学ぶことなのだと疑問に思い、学ぶ事を煩わしく思う事があると思います。ですが、今こうして学校で学ぶ事は将来を豊かにする助けになります。悩む事があるのならば、先ずは試しでも良いので私達に気軽に相談して下さい。必ず答えが出せるとは言いませんが、答えを出す手助けは出来ますから。自分一人だけで抱え込み結論を出さずに、誰かと相談し考えることで別の答えを見付けることも出来るんですから」
先生は真剣な眼差しで軽く教室の中、私達の顔を見回しながらそう言った。
今回の騒動は先生も言っていたが、学校に何の相談も無く大人数に辞められたってのはかなり衝撃的だったんだろうな。もしかしたら1年生の担任をしている先生は、兆候を見逃したのでは?とか校長とか教頭とかに問い詰められたのかもしれないね。
「それと今回の件を受け、急遽1年生には意識調査のアンケートを配布します。次のHRの時に回収しますので、記入しておいて下さい」
「「「ええっ……」」」
「無記名のアンケートなので、皆の素直な意見を書いてくれると助かるわ」
そう言って先生は、アンケート用紙を配布し始めた。
それにしても10人か……もしかして探索者業に専念するから辞めたのって後藤君のグループかな?




