第394話 ダンジョン仮承認される
お気に入り32950超、PV77530000超、ジャンル別日刊75位、応援ありがとうございます。
コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて掲載中です。よろしければ見てみてください。
小説版朝ダン、ダッシュエックス文庫様より書籍版電子版に発売中です。よろしくお願いします。
コミカライズ版朝ダン、スクウェア・エニックス様より書籍版電子版にて販売中です。よろしければお手に取ってみてください。
山道を走って移動しながら、俺達は宇和島さん達と最近のダンジョンに関する情報交換をしていた。ダンジョン協会所属の探索者から、ダンジョンに関する話を直接聞ける機会なんて余りないからな。こう言う機会は出来るだけ逃さない方が良いだろう。
もちろん、どちらも話せない情報というのはあるので、余り突っ込んで話せずふんわりとした感じになるけど。
「へぇー、やっぱり最近のダンジョンでは企業勢が勢いを増しているんですね。俺達もダンジョンに潜った時は、彼等と良く会います」
「ああ。やはり到達階層が深くなるにつれて探索に掛かる期間は長期化し、補給面での問題から少人数のパーティーでは探索が厳しいからな。目標階層に到達するまでの物資は勿論、ドロップアイテムを持ち帰る為の運搬量にパーティーメンバーの心身の疲労。少人数パーティでは解決することが困難な問題だが、大人数で取り組めば解決出来ない問題では無い。そんなダンジョン探索環境の変化で30階層付近を探索する探索者の多くは企業系探索者が多くを占め、小数の例を除き少人数パーティーは20階層をメインに活動しているのが現状だ」
最近ダンジョンに潜るとよく企業系探索者パーティーに遭遇する話題を出してみると、やはりダンジョン協会の方でも深く潜るパーティーは企業系が多いことは把握していたらしい。そう考えると、俺達のような少人数パーティーがダンジョンに潜る度に30階層以降のドロップアイテムを持ち帰る事は、かなり協会の注目を集める行動だったようだ。
まぁ30階層以降まで潜れる探索者パーティー自体が少ないのだ、どちらにしろ注目を集めていただろうけど。
「確かに、俺達もダンジョンに潜る時はその辺の問題に何時も頭を悩ませてます。持っていく荷物を減らすといざという時に物資不足で困窮することになりますし、逆に大量に余剰物資を持って行くと折角苦労して得たドロップアイテムを放棄してこないといけなくなりますからね。高レベル探索者の身体能力を考えると、100kgオーバーの荷物だとしても運搬自体は可能なんですけど……」
「重量的には運搬出来ても荷物の嵩が増えて動きを阻害、モンスターとの戦闘で不覚をとり怪我を負うリスクが増大する、だろう?」
「ええ。最悪軽い怪我なら回復薬で治療という選択も取れますが、何度も回復薬を使っていたらいくらドロップアイテムを多く回収出来るようになったとしても採算が取れるか分かりません。しかも怪我を負う状況によっては、怪我は治ってもトラウマを抱えることになりますからね」
「そうして、トラウマを抱え引退していった探索者は沢山いるからね。確かに怪我を負うリスクを増やしてまで、大荷物を抱えるのは現実的じゃ無いな」
宇和島さんは裕二に返事を返しながら、どこかもの悲しげな眼差しを遠くの空に向けた。もしかしたら、何か身近な所で心当たりが有ったのかもしれないな。宇和島さんが協会にスカウトされて所属したのなら、以前は民間の探索者だったって事だろうし。
だがまぁ、そう言う俺達も怪我……事件が原因で、トラウマを抱え引退した人には心当たりはある。もしかしたら探索者としてはさほど珍しくない事なのかもしれないな、コレ。
「そうですね。俺もその辺がもう少し改善出来れば、ダンジョン探索事情もかなり変わりそうと思います。何だかんだ言っても、やっぱりその辺が探索における一番のネックですからね」
「……ああ、俺も改善出来れば変わるだろうとは思う。だが、直ぐには難しい問題でも有るがな」
「なるほど、そうですか。今では企業系探索者チームなんかは大人数を生かした人海戦術や、多脚型運搬ロボなんかも導入してますけど、それなりの規模の会社でも無いとそうそう導入は出来ないですからね。やっぱり何かしらかの技術革新か何かが無いと。安価で手軽に導入しやすいと言ったモノが無いと大幅な改善は見込めないと思います。でもまぁ急ぎ足で動いても運用体制が整ってなかったら、色々混乱が広がるだけですしね。気長に待つしか無いのかもしれません」
「ああ、その意見に同意かな」
話の流れに乗ってそれと無くと言った感じで裕二が多少含みを持たせた言い回しを使って、今回のダンジョンからドロップしたとして渡したマジックバッグの扱いについて話を振ってみると、宇和島さんは一瞬目を軽く見開いた後、何でも無いと言った様な口調で協会に於けるマジックバッグの扱いについて含みを持たせた言い回しで教えてくれた。一応俺達にマジックバッグの存在を悪用や流布する意図が無いという事をそれとなく伝えたが、信じてくれると良いんだけど。
でもやっぱり国や協会としては、今の段階ではマジックバッグの存在は広まって欲しくないようだ。まぁ確かに、こんなモノが何の受け入れ体制も整ってない市場に流れられては困るだろうな。便利な面は多々あるが、悪用する方法も多岐にわたっている。せめて取り扱いに関するルールが定まるまでは、公表したくないよな。そんなことを考えつつ、俺達はダンジョン目指して山道を駆けていく。
暫く雑談をしながら走っていると、30分ほどで湿地帯にある未発見ダンジョンへ到着した。俺達だけで来た時よりも時間が掛かったが、宇和島さん達を案内しながらだったので仕方が無いだろう。
まぁ本当は走り出して少しすると、小川さんと菅原さんが若干苦しそうな表情を浮かべていたのでペースを落としたことが原因なんだけどさ。まぁお陰で何となくだが、宇和島さん達の実力というか運動能力は把握出来た。宇和島さんは別にして、小川さんと菅原さんは美佳達より少し上と言った感じだな。
「お疲れ様です。ココが、今回俺達が発見したダンジョンの入り口です」
「これは……確かにダンジョンの入り口だね」
「そうですね。ココら辺の装飾も、他のダンジョンとかに刻まれているモノと同じ形式のモノです」
「ココから見える通路も、外観の見た目に反して大分奥まで続いてますし間違いないかと」
ダンジョンの入り口を前にした宇和島さん達は、難しい表情を浮かべながら目の前のモノを見定めるような眼差しで眺めていた。一応俺達からの報告で、未発見ダンジョンの可能性が高いと判断のもと宇和島さん達は派遣されてきているが、正規の調査員が現物を確認するまでは未定だからな。
そして宇和島さん達はダンジョンの入り口を一周し、外観を撮影記録しながら確認して回った。
「外観を見て回りましたが、間違いなくコレはダンジョンの入り口と判断出来ると思います」
「そう、ですか。やっぱり……」
宇和島さんは外観確認を終えた後、湯田さんに現段階で確認出来たことを報告をしていた。
そして報告を受けた湯田さんは軽く息を飲んだ後、面倒事が確定したと言いたげな表情を一瞬浮かべつつ肩を落としていた。ダンジョンの公認が確定する以上、湯田さん達桐谷不動産もコレから暫くは大忙しになるだろうからな。
そして当然、そんな厄介事の種を持ち込んだ湯田さんは、その後始末の最前線に立たされる事が決定しているようなモノだ。そんな未来を思えば、溜息の一つも吐きたくなるだろう。
「コレから内部の確認を行った後、承認が下りるまで仮決定ですがココはダンジョンとして認定し、ダンジョン協会の管理下に置かれることになります。その際、このダンジョンを含む周辺の土地の接収交渉が行われるので、準備の方を進めて貰いたいと思います」
「……了解しました。麓に下りた後、上と相談させて頂きます」
「お願いします。では、私達はコレから3人で内部の確認を行いますので、皆さんはこの場で待機して貰いたい。モンスターの出現の有無を確認するので、1時間以内には戻って来れると思いますので」
「はい。よろしくお願いします、お気を付けて」
憂鬱げな表情の浮かんでいた頭を振った後、湯田さんは宇和島さん達に軽く頭を下げた。
そして宇和島さん達は視線を俺達の方に向け、一呼吸置いた後に口を開く。
「君達の実績を思えば、本来は内部も同行して欲しい所だが……」
「今の俺達には、普段ダンジョン探索に使っている装備品が一切ありませんからね。協会としても体面もあるでしょうし、自分達の同行は……」
「ああ。流石に丸腰の相手をダンジョンの中にまでは同行させられないよ。その代わり、君達にはココで湯田さんの護衛を頼みたい。大丈夫だとは思うが、コレだけ山奥だと野生動物が寄ってくるかもしれないからね。お願い出来るかな?」
「大丈夫ですよ、それならお引き受けします」
宇和島さんに湯田さんの護衛を頼まれ、裕二が代表し了承した。まぁ元々待っている間は、湯田さんと一緒に居るつもりだったので改めてお願いされなくとも良かったんだけどね。想像にはなるが、恐らく本来の予定では宇和島さんと小川さんと菅原さんのどちらかがダンジョン内に入り、残った一人が同行者の護衛に残る予定だったのでは無いだろうか? だが今回は俺達という警護する必要の無い存在が同行しており、より安全性を確保する為に3人全員で潜ることを決定したのでは。
現に小川さんと菅原さんが宇和島さんの後ろで、話の流れに少々戸惑っている表情を浮かべているしな。
「ありがとうございます。では、私達は調査に向かいます」
「気を付けてください」
軽く挨拶を交わした後、宇和島さん達は余分な荷物を俺達に預けダンジョン内部へと調査探索へと向かった。1度俺達が探索しており、少しだが内部の様子を伝えておいたので、3人の足取りは警戒しつつも軽いモノだった。
宇和島さん達の姿がダンジョン奥に進み見えなくなった後、俺達は宇和島さん達が帰ってくるまでの時間潰しについて頭を悩ませていた。1時間以内に戻ってくると言っていたが、早ければ30分と掛からずに戻ってくるだろうな。30分程度では、やれる事はそう多く無い。
実際、湯田さんも1度山を下り連絡をとるかどうしようか悩んでいるしな。
「本当に調査に1時間かかるのなら、車を止めた麓まで戻って桐谷さんに電話も出来ると思いますけど……宇和島さん達が予想より早く帰ってきたら、印象が悪くなるかもしれませんね」
「そうなんだよね。社長の方でも動いてくれてるとは思うけど、正式承認される公算が高いという連絡だけでも出来るだけ早く連絡しておいた方が良いんだろうけど。地主さんへの連絡だって、承認されるって言う確証が無いと動きづらいだろうし」
「確かに、間違えましたってことにするにはダンジョン発見は少々大事ですからね。俺の知っている範囲の話だと、ダンジョンが出現した過疎地に立派な城下町が出来てましたよ」
正式にココのダンジョンが承認されたら、今まで二束三文の価値しかなかった土地が大化けするかもしれないからな。地主さんだって持ってるだけで厄介だったモノが、大金に化けるとしたら大喜びだ。
だがしかし、未確定情報を元に地主さんをヌカ喜びさせる事は、桐谷不動産としてしたくないだろう。アソコは顧客を騙して利益を得ている……何て噂が流れでもしたら一大事だ。内部で動く分には先走りで誤魔化せるだろうが、未確認情報で外部まで巻き込んで動くにはリスクが大きい。
「そうなんだよね。社長からも承認が確実視されるなら早めに知らせろって言われてるけど、ココ電波が通ってないから連絡出来ないんだよ」
「そうですね。でもまぁ、宇和島さん達も戻ってきたら直ぐ下山するでしょうし、連絡はその時にしたら良いですよ。まぁどうしても連絡を取りたいというのでしたら、俺達の内の誰かが湯田さんの報告メッセージ入りのスマホを持って山を駆け下り、一報だけでも入れてきますけど?」
湯田さんが同行しないのなら、俺達の足なら全力で走れば20分と掛からず往復出来ると思う。メッセージさえ作ってくれていれば、電波が通じる麓で送信してこれるだろう。
だが、この提案を聞いた湯田さんは少々残念な表情を浮かべつつ頭を横に振った。
「いや、流石にそこまでして貰うわけには……ココは素直に宇和島さん達が帰ってくるのを待つとするよ」
「そうですか。湯田さんがそれで良いのなら、俺達からは特に何も言うことは無いです」
と言うわけで、連絡の為に下山するという話は湯田さんの希望に従ってお流れとなった。
そして俺達が雑談をしつつ20分ほど待って居ると、宇和島さん達がダンジョンから出てくる。特に怪我を負った様子も無く、全員無事の帰還だ。
「お待たせしました。内部でモンスターの存在を確認しました。仮ですが、この場でコレがダンジョンであると調査官として認定させて頂きます」
ダンジョンから出て来たのを見守る俺達に向かって、宇和島さんは穏やかであるがハッキリとした口調で宣言した。




