幕間 四拾六話 始まりと終り
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「もう嫌! 帰る! こんな所、もう居たくない!」
俺は悲痛の叫びをあげながら倒れていく川原の姿を見ながら、金縛りに遭ったように動かない体とは別に、内心で激しく動揺し後悔した。何でこんな事になるんだ、と。
そして気が遠くなるような感覚を覚える中、俺は夏休みが始まる前に4人で集まった時の事を思い出していた。
「と言う訳で、全員無事に探索者免許を取得出来たな」
「意外に簡単だったからね、あの試験。先ず落ちないよ」
「ああ、そうだな。まぁトラップ回避術なんかは、コレから覚えていかないとイケないだろうけどな」
「確かに、実際あんまり避けられなかったからね」
放課後の学校の教室で、俺達は発行したばかりの探索者免許を持ち寄り談笑していた。先日受けた試験結果は全員合格だったので、直ぐに免許の発行手続きをしたのだ。
まぁ倉田が言うように、あんな簡単な内容の試験なら事前にちゃんと勉強しておけばまず落ちないんだろうけど。
「じゃぁさ、協会が開催してるって言うトラップ回避術教室に参加する? 発行手続きしにいった時に受付に置いてあったパンフレットを貰ったけど、色んな内容の研修教室が定期的に開催されてるみたいだよ?」
「協会主催か……新人探索者向けの研修ってところかな?」
「参加するか不参加かは任意みたいだけどね。別に絶対受けなきゃイケないモノじゃ無いみたいだよ」
「まぁ引率する先輩探索者とかがいる場合なら、参加する必要は無いだろうからな」
とは言え、引率してくれるような親しい先輩探索者が居ない俺達からすると、ダンジョン探索のノウハウを教えて貰える貴重な機会である。これは筒井さんは良い情報を持ってきてくれた、参加しない手は無いよな。
「でも、そうなると私達は参加した方が良いんじゃない?」
「そうだな。試験の時にも思ったけど、トラップ回避に対して何のノウハウも無いってのは無謀だと思う。勿論トラップに限らないけど、折角無料で受けられるレクチャー教室なら受けておいた方が良いだろうな」
「じゃぁ参加するって事?」
「ああ、受けておいた方が無難だろうな」
俺はそう言いながらパーティーを組む予定の倉田、筒井さん、川原さんの3人に合意を求める視線を送る。すると俺の問いかけの視線を受けた3人は軽く頷いた。
「俺も受けておいた方が良いと思うよ」
「試験では散々トラップに引っ掛かったから、私も受けておきたいかな」
「わ、私もそう思う」
「じゃぁ、皆で研修に参加するか」
そんなコンナで俺達は、夏休みに入るまでは協会主催の各種新人探索者向け研修教室に出来るだけ参加する事にした。まぁ他にもする事があるから、全部の研修に参加出来る訳じゃ無いけど貰えるノウハウは貰っておいて損はない。
学校終わりの放課後や休日に協会主催の新人探索者研修を受けたお陰で、俺達は実際にダンジョンに潜る前にある程度のノウハウを得る事が出来た。
学校の先輩探索者の話やネットなどで聞いていたので探索者業を簡単に考えていたが、新人研修を受けてそう簡単なモノでは無いと考えを改めた。皆、自分が良いように見えるように話してたんだなと。
「取り敢えず、確り準備を整えておかないといけないな。中途半端な準備だとマズイと思う」
「そうだな。でも……武器はどうするんだ? 俺達未成年だから、協会が売ってるような武器は買えないんだぞ?」
「そう、なんだよな……」
憂鬱げな表情を浮かべた倉田の指摘に、俺は困ったように天井を仰ぎ見る。探索者は武器の保有とダンジョン内での使用を認められるモノの、銃刀法の縛りで俺達の様な未成年は武器を購入出来ないのだ。そのせいで、学生系先輩探索者達はスコップや鉄パイプを武器にダンジョン探索を行っている。
俺達もそれに習うしか無いかな……まぁ協会で売ってる武器は高いから俺達じゃ買えないんだけどさ。
「近くのホームセンターで鉄パイプでも買うしかないかな……」
「やっぱりそうなるか……」
仕方が無いと、俺も倉田も諦めの溜息をつく。まぁ1つ利点があるとすれば、鉄パイプやスコップを使う場合、態々協会で武器登録をする必要が無いって事かな?実際の攻撃能力は別にして、あくまでも工具や資材って事だ。
と、そんな事を倉田と話していると、筒井さんが雑誌を机の上に広げながら話しかけてくる。
「ねぇねぇ。それよりもさ、ダンジョンにはどんな服を着ていくの?」
「「服?」」
「だってほら、この雑誌にだって載ってるよ? 今話題のダンジョンファッションって」
「ダンジョンファッションって……」
俺と倉田は若干呆れたような表情を浮かべつつ、筒井さんが広げた雑誌に目を通していく。雑誌には実用的な服から見栄えを重視した服まで、様々な服装が紹介されている。
どれでも良いんじゃ無いか?って言ったら怒るかな……。
「……確かに色々あるけど、ダンジョン探索に慣れるまでは動きやすい服装が良いんじゃ無いか?」
「筒井さん、俺もそう思うよ? 多分慣れるまでは頻繁に汚したり破いたりするだろうから、作業着やジャージなんかで良いと思う」
「うーん、確かに言われてみるとそうかもしれないけど……川原さんは?」
「えっ、わ、私?」
筒井さんは理解はすれど納得しきれないと言った表情を浮かべながら、隣にいた川原さんに話を振った。突然話を振られた川原さんは戸惑いつつも少し悩んだ後、控え目な様子ながらも自分の考えを口に出す。
「えっと、私も梶原君や倉田君の言う様に動きやすい服装が良いと思う。ファッションに拘るのは、慣れてきてからでも良いんじゃ無いかな?」
「うーん、そっか……」
「ご、ごめん」
俺達の意見に川原さんが賛同した事に不承不承と言った表情を浮かべる筒井さんの様子に、川原さんは思わずといった感じで謝っていた。別に謝る事では無いと思うけどね……。
「じゃぁさ、今度の休みに皆で買い物に行こうよ!」
「買い物?」
「うん! ダンジョン探索に必要な物を買いにね。皆でいけば重複させずに、必要な物を分担して揃えられるじゃない。皆お小遣いは少ないんだし、効率よく揃えないとお金が幾らあっても足りないよ」
「確かに俺達には、そこまでの資金はないからな……」
お小遣いやお年玉なんかを貯めてはいるが、所詮は子供の貯金だ。何でもかんでも買い揃えられる程の資金は無い。なので筒井さんが言うように、最低限探索に必要な物を効率よく揃えないと直ぐに資金は底をつく。
なので最初は最低限のものだけをまずは揃え、探索で資金が貯まったら順次装備を更新していくと言う方法をとるしか無い。
「そうそう、だから皆で買い物に行こ!」
「分かった、そうしよう。……そんな訳なんだけど、2人は大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
「わ、私も大丈夫だよ」
「じゃぁ決定だね! ちょうど夏休み前最後の休みだし、買い揃えた物を持って夏休みに入ったらダンジョンに行こう!」
筒井さんの一言で皆での買い物が決定したので、俺達は最低限必要な物のリストアップ作業を始めた。コレまでの初心者研修で得たノウハウに照らし合わせての作業なのだが、必要な物品のリストアップを始めて見ると意外に購入しないといけないモノが多い。まぁ最初は短時間の日帰り探索を行うので、泊まり掛けで行う探索で使うような品は対象外だけどな。
しかし、必要最低限必要な物を揃えるだけでも結構な出費だ……足りるかな?
厳選と節約を重ねて、何とか最低限必要な品を揃えた俺達は、夏休みに入って直ぐに近場にあるダンジョンへと足を運んだ。夏休みという事もあり、ダンジョン前はかなり沢山の人で溢れている。
ん? 学校の夏季講習はどうしたかって? 午前中で終わるから、それから来てるんだよ。
「良し……行くか!」
「うん、頑張ろう」
「いよいよね」
「……うん」
人の多さに多少気押されたが、気持ちを持ち直し確りとした足取りで受付まで続く長蛇の列に並ぶ。列に並ぶ人達は正に十人十色、同い年に見える年齢の人から思いっきり背中に企業名のロゴが入った上着を着た人まで様々だが、一様に身に纏う雰囲気が一般人から掛け離れていた。職業は何ですか?と聞きたいが、普通に探索者ですと返されるだけだろうな。
だが、列の後ろに並んだだけで感情の籠もっていない冷ややかな眼差しを向けるのはやめて欲しい。見られた時など、川原さんが思わず小さな悲鳴を漏らしていたからな。
「やっと手続きが終わったよ。ホント、ダンジョンに来る人って多いんだな」
「そうだな、だからあんな噂もたつんだよ」
「……ダンジョンの入場人数制限か」
「ああ、以前に一度やってるみたいだからな。夏休み期間中が余りに混むようなら再度実施されるかもって噂だからな」
倉田の言う噂は勿論、俺も聞いた事はある。正式な話では無いが、そう言った類いの噂は学校の先輩探索者達がしていたのを良く耳にした。一度実施している以上、2度目が無いと言う事は無いだろうってな。実際に、少し早く学校が夏休み期間に入った地域のダンジョンでは、普段より多くの探索者が押し寄せ少々混乱しているらしい。
なので俺達は噂の通りに入場規制が掛けられたらたまらないと、早々にダンジョンに足を運んだのだ。
「まぁ来訪人数は多いだろうけど、探索者達の滞在階層は分散しているから大丈夫って話もあるし……成ったらなったとしか言えないな」
「まぁ、そうなんだけどな」
「「……」」
幾ら心配しても、結局は成り行き任せにするしか無いか。
それはさておき、手続きを終えた俺達は着替えや準備運動などのダンジョン探索の準備をすませ、いよいよダンジョンの入り口の前に立った。
「じゃぁ……行くぞ!」
「ああ、行こう!」
「行きましょう!」
「う、うん」
ジャージの上に簡易プロテクターを身に着け、ホームセンターで手に入れた武器の鉄パイプを握りしめながら、俺達はダンジョンの奥へと足を踏み入れた。中は僅かな光が照らす暗闇が広がっており、否が応でも恐怖心を煽られ足が竦みそうになる。だが幸か不幸か後ろから次の探索者グループが近づいてくるので、足を止める事無くダンジョンの中を進めた。
そして……。
「やっと帰って来れた!」
筒井さんがガッツポーズをしながら、ダンジョンの入り口を出た瞬間に叫んだ。俺達の初めてのダンジョン探索は凡そ3時間、一階層をぐるぐると戦々恐々としながらモンスターを探し歩き回った。
そして、その3時間で得られた成果と言えば……。
「初探索でスキルスクロールをいきなり手に入れられるなんて、私達って凄くない!?」
「ああ、そうだな!」
まさかの高額換金ドロップアイテムの代表格、スキルスクロールの獲得である。俺達が初めてのモンスター討伐で動揺しているさなか、それはドロップしたのだ。初めは何がドロップしたのか理解出来なかったが、初心者講習で見たスキルスクロールと同じモノと認識すると喜びの感情が爆発し、モンスター討伐の動揺など一気に消え去った。その後は新たなドロップアイテムを求めモンスターを探し幾つかのドロップアイテムを得たのだ。
そして帰還後にドロップアイテムを査定して貰うと……。
「スキルスクロールの査定には数日かかるけど、最低でも10万円は貰えるなんて夢みたいだね!」
「ああ。お陰で、前は資金不足で諦めたアレコレが色々買い揃えられるな!」
「たった数時間の探索でコレか……コレなら皆が何度もダンジョンに足繁く通うのも納得だよ!」
「……そう、だね」
俺達は査定結果を聞き大喜びしながら、さっそく次のダンジョン探索の計画を立て始めた。この時の俺達は欲に目を奪われて、本当に見るべきモノを見落としてたんだと後になって認識し激しく後悔する事になった、それこそ一生後悔する類いの……。
初めてダンジョン探索をしてから凡そ半月後、危うい所を3人組の探索者グループに助けられダンジョンを出た後、俺達は休憩スペースの片隅のテーブルに腰を下ろしていた。だが、椅子に座ってから誰も口を開かないので、辺りには重苦しい空気が漂う。
そして暫しの沈黙の後、俯いていた俺は意を決し口を開く。
「……探索者、やめよう」
「「……」」
「えっ?」
ポツリと漏らした俺のその一言に、倉田と筒井さんは神妙な表情を浮かべたまま俺の顔を見て数瞬後視線を逸らし俯いた。逆に川原さんは何故俺がそんな事を言い出したのか分からず、戸惑いの表情を浮かべながら視線を俺達の間で彷徨わせている。
「……ごめん川原さん、今まで無理矢理付き合わせちゃって」
「えっ? えっ?」
「今更謝っても遅いけど……本当に、ごめん」
俺はテーブルに額を擦り付けながら川原さんに向かって、精一杯の謝罪を気持ちを込めて謝罪の言葉を口にした。すると俺の行動を見て、倉田と筒井さんも俺と同じように謝罪し始める。
「俺も、俺も、ごめん。探索が順調だからって調子にのって、何も考えてなかった……本当に、ごめん」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
「……」
狂態を晒した時の記憶が飛んでいるらしい川原さんは、俺達が何故いきなり謝りだしたのか理解出来ず困惑の表情を浮かべ如何すれば良いのか分らず動揺している。そんな怒るでも非難するでも無くただ動揺するしかない川原さんの姿を見て、ますます俺達は罪悪感で一杯になり、自分達の軽挙妄動の行いを後悔するしかない。こうして俺達の短くて長かった探索者生活は最悪一歩手前の形で終わりを迎えた。
だが、俺達の軽挙妄動の結果に対する償いはコレからである。




