第287話 強くはないのに倒しづらいヤツだよ
お気に入り24180超、PV40240000超、ジャンル別日刊52位、応援ありがとうございます。
朝ダン、ダッシュエックス文庫様より発売です。よろしくお願いします。
頭を潰して止めを刺すと、暫く間をおいてシャープスネークは粒子化しドロップアイテムが出現。何となく正体を察しつつ近寄ってみると、予想通りそれは……ヘビ皮だった。
これ、触っても大丈夫だよな? 手……切れないよな?
「ヘビ皮だね。まぁ何となく出るかなぁ、とは思ってたけどさ」
「グラスリザードでトカゲ皮が出たからな、シャープスネークがヘビ皮を出しても不思議じゃないか」
「ヘビ皮……ベルトや財布の材料行きかしら?」
シャープスネークの皮で作った財布か……懐に入れていた財布のお陰で撃たれた銃弾が止まって助かった……とかが素で出来そうだな。
下手な防弾チョッキより高くなりそうだけど。
「それより大樹、これ……触っても大丈夫か?」
「ちょっと待って、今調べるから……。大丈夫、柔軟性がある丈夫な皮みたいだ。素手で触れても、鱗で手が切れる様な事はなさそうだよ」
俺は“鑑定解析”の結果を2人に伝えつつ、地面に落ちているヘビ皮を拾い上げる。思ってたよりも随分と柔いな、この皮。これがスキルの効果で、あんなに危ない状態になるのか……。
拾い上げたヘビ皮を軽く左右に引っ張りながら状態を確認していると、裕二は興味深そうな声色で話しかけてきた。
「なぁ大樹? 本当にそのヘビ皮、柔軟性がある丈夫な皮ってだけなのか? トカゲ皮みたいに耐熱性とかの、何か付加効果がついてるって事は……」
「付加効果……って訳じゃないけど、表面のウロコが衝撃分散構造になっているみたいだから打撃系の攻撃に耐性がある、かも?」
「かも、か……」
「実際に試してみたわけじゃないから、断言は出来ないよ」
軽くヘビ皮に向かって右手でデコピンで弾いてみるが、固定されている訳ではないのでヘビ皮が大きく揺れるだけで、衝撃分散効果の有無を実感はできなかった。
まぁ分散であって無効化じゃないから、衝撃自体は通るか。
「そっか……でも衝撃が分散できるってんなら、探索者用のインナーに使えるかもしれないな」
「インナー、ね」
ヘビ柄のインナーを身につけた探索者か……。防具としてみれば優秀な装備なんだろうけど、何か怪しい雰囲気が漂うような気がする。
「九重君、いま何を思い浮かべたの?」
半目気味の柊さんの指摘に、俺は頭に浮かんだ怪しげな想像を振り払うように何度か頭を左右に振った。
そして俺は咳払いをし誤魔化しつつ、多少脱線気味だった話を元に戻す。
「まっ、まぁそれよりも今回の戦闘で分かった問題は、モンスターを両断しても即死させる事が出来るとは限らないって事だよ。今までは首を落とすか両断すれば終わってたけど、シャープスネークみたいな敵だとピンポイントで頭を潰さないと……」
気まずい空気を払拭する方法としては多少強引であったが、上げた話題が話題であったため裕二も柊さんも真剣な表情を浮かべながら口を開く。
「そうだな。確かに今回のシャープスネークみたいに頭を潰さないと倒しきれない様な敵が一度に複数出てきたら、少し厄介だな」
「そうね。倒したと思っていても実は……って事になったら時と場合によっては不覚をとる事もあり得るわ」
「複数の敵を相手取る時に、倒した相手が粒子化するまで待つ……って事は難しいからね。警戒を緩めている気は無いけど、これから先は倒したと思った相手でも粒子化が開始するまでは警戒を止めない様にしないと……」
首を刎ねたからもう終わり……と言うのはこの先通用しづらく成るだろうな。複数の敵との戦闘時に意識が分散する時間が長引くと言うデメリットはあるが、警戒を外した相手から奇襲攻撃される可能性が出てきた以上は仕方がないだろう。
そしてまだ対応できる範囲内だが、もし複数の再生能力持ちのモンスターと……と言った状況になったら厳しくなるかもしれない。
軽くシャープスネーク戦の反省会を終えた俺達は一旦、スタート地点の階段前広場へと戻る事にした。本格的な反省会はダンジョンを出てから行う事だしな、長草のせいで視界が悪いココでやる事では無いだろう。
そして階段前広場に戻った俺達は、シャープスネーク戦の事を考慮に入れつつ34階層へ降りる階段までのルート選定をおこなう。
「トカゲは兎も角、ヘビが密集している場所は避けた方が良いだろうね。対処出来なくは無いだろうけど、その前に1度俺と裕二もシャープスネークとの戦いを経験しておいた方が良いと思う。動きが結構独特だったし、いきなり複数との戦いは……避けておく方が無難かな」
「確かに、いきなり戦うってのは止めておいた方が良いかもしれないな。武器攻撃や魔法攻撃が間に合わず、咄嗟に拳や蹴りを繰り出して怪我を負う……って事は避けたいしな」
回復薬などの即効性の治療品があるとは言え、戦闘中に無用な怪我を負って良いと言う事では無いからな。最悪、怪我の痛みに気を取られ……と言う事もあり得る。
それらを避ける為にも、全員が1度は戦っておき相手の動きや癖を把握しておいた方が良い。
「因みに柊さん、直接戦ってみた印象は?」
「そうね……見ていたから分かると思うけど、空中でもある程度の動きが可能よ。ヘビの全身は筋肉って言われてるように、筋力で無理矢理体勢を変え攻撃可能範囲を広げてるわね。避けたと思っても、体の全長分の広さは全て攻撃可能範囲と思っておいた方が良いわ」
「つまり……ギリギリで避けるのは止めた方が良い、って事だね?」
「ええ、もしくは追撃をしてくる事を前提に回避する事ね」
避けたと思ったのに、攻撃範囲が突然広がる。中々に厄介な話だな。
しかもシャープスネークは全身刃物、一部が軽く掠るだけでも十分に相手に傷を負わせる事が出来る。
「単体戦闘の時は良いけど、複数体と戦うときは避けた先が他のヘビの攻撃可能範囲と被らないように調整しないといけないな」
「そうなってくると、今まで以上に全員の立ち位置の把握が重要になってくるわね」
「把握不足だと、自分が相手にしている敵の攻撃は避けたのに、他の人が相手にしている敵の攻撃可能範囲に入って……って事がおきるからね」
空中で方向転換が可能、タダその1点だけでシャープスネークはかなり厄介な敵になる。特に複数体と1度に戦うときは、跳躍し空中にいると余計に把握し辛い。飛ぶ前に潰すのが良いんだろうな。
その上、基本的に俺達の戦闘スタイルは個々の戦闘能力が高いので、余り密な連携を得意としていない。自分以外への行動阻害対応に後方支援等々、相手の邪魔をしないという点に重きを置いている。だがこれからはそれでは拙いようで、確りとした連携を意識しないといけないな……。つまり、重蔵さんの訓練……いや、幻夜さんかな?
「シャープスネークは速攻で頭を潰す……ってのが一番の対処法かな」
「そうだな。下手に動き回られる前に潰すのが、一番安全な対処法だろう」
「適した武器か魔法を用意して直ぐ使えるようにしておいた方が良いわね」
「となると武器破壊のリスクや入手性、コストを考えると……やっぱり鉄パイプかな?」
ホームセンターなどで工事の足場用に安く売られている単管パイプとかが良いかな? 俺達がへし折る覚悟で思いっきり振れば、相当強力な打撃武器になるだろうし。
「鉄パイプか……滑り止めテープ貼りなんかの多少の改良は必要だろうけど、まぁ妥当な線だな」
「それなりに強度もあるから、即席の打撃武器としては十分よね」
と、二人からも好意的な賛同を得たので、次回ダンジョンに潜る前にホームセンターで予備を含め幾つか購入しようという事になった。
ヘビ皮を1枚売ったら、ダース単位で買えそうだな。
「次は魔法だけで……エアカッターで良いんじゃ無いかな? さっきの戦闘みたいに胴体両断すれば、即死させる事は出来ないけど動きは抑えられるからね。頭を潰すにしても、そっちの方がやりやすい」
「まぁ確かに、実践使用し効果が実証されたモノの方が安心感はあるよな。それに……」
「殺傷範囲は線状で狭く攻撃力も低い方だけど、発動が早く攻撃速度が速いから当てやすい部類の魔法だものね」
先制攻撃と言う意味では、エアカッターが妥当だろうな。威力が高くとも出が遅い魔法では先を取る事が出来ず、対象が細長いので攻撃速度が遅い魔法では当てられるかわからない。
そうなると、シャープスネークに対する先制攻撃という点では、エアカッターが一番バランスが取れているのだろう。
「じゃぁ、シャープスネークに対する対処は鉄パイプとエアカッターを基本にって所で良いかな?」
「ああ、良いんじゃ無いか」
「そうね、それで大丈夫だと思うわ」
鉄パイプは荷物になるが“空間収納”もあるし、トカゲ相手にも使えるので邪魔にはならないだろう。
「じゃぁ対処法も決まった事だし、34階へのルート選定に戻ろう。今回は俺と裕二もシャープスネークと戦っておきたいから多少遠回りになってたとしても、単体でいるシャープスネークと戦えるルートにしよう」
「そうだな。となると……このルートが良いか?」
「単体でいるシャープスネークと2回戦った後、グラスリザードが……5匹程たむろして居る所を通って階段に行くルートね。……良いんじゃ無いかしら、九重君はどう思う?」
「俺もそのルートで良いと思うよ。シャープスネークの側に何匹かグラスリザードが潜んで居るみたいだけど、手早く倒せば横殴りはしてこなさそうだしね」
先程柊さんが相手をしたように周囲に他のモンスターがいない単独といった都合の良いシャープスネークは居ないが、上手くすれば単体のみを相手出来る。
まぁ今回はシャープスネークの動きを体験したいので、グラスリザードから横殴りが入る可能性は低くないと思うけど。
「じゃぁルートはこれで決定、で良いよな?」
「うん」
「ええ」
と言うわけで、進行ルートも決まったので俺達は階段前広場を出発した。
幸いにも横殴りされる事も無くシャープスネークを倒し終えた俺と裕二は、軽く眉間にシワを寄せた表情を浮かべながら歩いていた。
「うーん、動きがやっぱり少し独特だったな。危険を察した瞬間、急に頭の位置が変わるってのも厄介だし……」
「変化量としては少ないけど、動く頭をピンポイントで、ってのは少し厳しいかもしれないな。やっぱり先制攻撃で一撃加えて、動きを制限しないと難しいな」
実際にシャープスネークを相手取った事で、相手の厄介さが身に染みて分かる。強くは無いのに倒しにくい、シャープスネークは正にそれだった。確実に無力化しないといけないのに、トドメを刺すのに手間が掛かる。単体相手なら問題ないが、複数体を同時に相手取る場合は厄介極まりない性質だった。
はぁ、“鋭鱗化”が無くなれば頭を踏み潰してトドメを刺せるんだけどな。
「二人とも、そろそろ次の敵よ。気持ちを切り替えて準備して」
「えっ、ああ、ゴメン柊さん」
「……少し気が抜けてたみたいだな」
俺と裕二はシャープスネークの件を一旦棚上げし、軽く頬を両手で叩きながら気を引き締め直す。確かに悩ましい問題ではあるが、敵を前に考える様な事じゃ無いからな。
そして気合いを入れなおし少し歩くとそいつらはいた、威嚇するように俺達に向かって鋭い眼光を向けながら。
「……4、5。うん、ちゃんと事前調査の通り5匹居るな。伏兵は……いないみたいだ」
「じゃぁ、目の前に居るトカゲ達を倒せば終わりって事だな」
「そうみたい」
武器を構え迎撃の準備を整えつつ、俺は伏兵の有無を含む状況把握に努めていた。最初にしっかりやっておかないと、奇襲を受けたりするからな。特に周りは長草ばかりで視界が制限されているから、奇襲にはうってつけの立地だ。
そして俺達とグラスリザード達は数秒の睨み合いをした後、ほぼ同時に踏み出す。
「はぁっ!」
「ふっ!」
「やぁっ!」
「「「「「ギュギュッ!」」」」
俺に1、裕二に1、柊さんに3の割合で、グラスリザード達が飛び掛かってきた。俺と裕二を足止めし、その間に柊さんを仕留めると言った戦法と言う事なのだろうか?
だが……。
「「「「「ギュッ!?」」」」」
結果は鎧袖一触、グラスリザード達は俺達に傷1つ与える事なく首を刎ねられ地に伏した。3体で同時に襲ったとは言え、その程度で後れを取る柊さんではなかったらしい。まぁあんな訓練を受けてたら、ね?
そして倒したグラスリザード達が粒子化し始めたので、俺達は静かに息を吐きながら緊張を解く。
「ふぅっ……周りから他のモンスターがよってくる気配もないし、終わりだね」
「ああ、それにしても……」
「5体もいたのに、2つしかドロップしなかったわね」
グラスリザード達が消えた場所には、2枚の皮が残されているだけだった。いやまぁ、そこそこの値段で買い取ってくれるから収入的には良いんだけどさ……。俺はトカゲの皮を回収し、“空間収納”に仕舞った。
そして移動を開始し少し歩くとゴール、34階層へ続く階段に辿り着く。
「到着、っと。やっぱり最初に進行ルートが分かっていると、到着も早いよな」
「迷う時間が少ない分、大幅に時間を削れるからな」
「とは言え……そろそろ制限時間ね」
柊さんは腕時計を指さしながら、帰還開始時間が迫っている事を告げる。
「ああ、そっか……じゃぁ、今回はココまでって事かな?」
「いやいや、少し待てって。折角ドローンを持ってきてるんだし、帰る前に34階層の偵察飛行だけしていかないか? 映像だけでも撮っておけば、帰ってから解析が出来るって。それにほら、飛ばすだけなら10分もかからないんだしさ?」
時間なのでと、素直に帰ろうとする俺と柊さんを裕二は熱心に説得し偵察飛行を勧めてくる。これは……実利もあるだろうけど、ドローンを飛ばしたいだけじゃないかな?
そして裕二の説得という熱意に俺と柊さんは折れ、時間も少しあるので34階層の偵察飛行を行ってから帰る事になった。うーん、ドローン飛行ってそんなに面白いのかな?
強いより、倒しにくい方が厄介ですからね。暫くすると復帰してくる自己再生能力持ちとか……。




