第249話 夏休みに向けてラストスパート
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満腹感で気を抜けば居眠りをしたくなる誘惑を何とか乗り切り、放課後の部室では不安と困惑で眉間にしわを寄せた美佳達の質問に答えた。俺達の話を聞き、放課後までの短い時間で色々考えたのだろう。美佳達が投げかけてきた質問には、中々答えづらいものもあったからな。
そして何とか答えづらい部分は茶を濁しつつ美佳達の質問に答えていると、いつの間にか程よい時間になったので帰宅するという事になったのだが……。
「悪いな、二人とも」
「いや、気にするな」
「爺さんがどうしても大樹達の口からも、先日の訓練の感想を聞きたいから今日連れて来いってさ」
「訓練に私達を放り込んだ当事者としては、訓練の感想を聞きたいと思うのは当然よ。だから、気にしないで」
そんな訳で美佳達と校門で別れた後、俺と柊さんは裕二に引き連れられ重蔵さんに訓練報告?に向かっていた。一応、昨日時点で裕二から一通りの報告は受けているのだろうが、俺や柊さん視点の感想も聞きたいという事なのだろう。視点が変われば、見えていたものも変わるだろうからな。
訓練で得られた経験を、多方面から検証し共有化させたいという事なのだろう。
「因みに裕二? 重蔵さんには、どんな感じで報告したんだ?」
「どんなって……普通に初日から最終日までの行動や感じた事を一通りかな? まぁ薬の影響で、半分思考が飛んでいる感じだったから、抜けている部分も多かったかもしれないけどな」
「と言う事は、その辺の穴埋めもかねて俺達の話も聞きたいって事かな?」
「それもあるだろうな」
3人で並んで歩きながら、重蔵さんにどう報告したらいいか打ち合わせをしていく。出来るだけ、話が重複しないようにした方が良いだろうからな。
そして俺達はいつもの様に、道場で腕を組み座布団に座る重蔵さんの前に並んで座っていた。
「……と言う訳で、以上が今回の訓練で感じ学んだ事です」
「……ふむ」
と、一言漏らした後、重蔵さんは腕を組んだまま目を閉じ無言で黙り込む。これは……どう捉えたらいいんだ? 俺達の話を吟味しているのか? それとも、成果が少なく怒ってるのだろうか? 微動だにせず、無言で考え込む重蔵さんの姿に俺達は背筋を伸ばし固唾をのむ。
そして、しだいに道場に緊迫した雰囲気が張り詰めていき……。
「まぁ慣れない訓練の最初にしては、それなりの成果は得られたようじゃな。後は、この経験をいかに己の糧に出来るかが重要じゃぞ」
「「「は、はい」」」
長い沈黙を経て、重蔵さんがやっと口を開く。出てきた言葉はねぎらいと激励の言葉……で良いのだろうか?まぁ、そんな感じのものだった。
とりあえず、失望や叱咤の言葉でなくてよかったよ。
「とはいえ、一度経験しただけでは物足りんじゃろう。こういう経験は、反復し経験した方が身になりやすいものじゃからな」
「「「……!?」」」
えっと……重蔵さんはいったい何を言っているんだ?
「今週の週末も幻夜の奴に頼んでおるから、今回の経験を活かし頑張ってくれ。何、一度経験しておるんじゃから、もっと上手くやれるはずじゃよ」
「「「!?」」」
俺達は重蔵さんのその言葉に驚愕の表情を露わにし、愕然とした雰囲気を纏う。だが、そんな俺達の反応など微塵も気にした様子のない泰然とした重蔵さんの姿を目にし、ああコレは確定事項なんだなと察した。
ま、またやるんですか……そうですか。
「何じゃ、不満か? じゃが、お主らがこれからもダンジョンに挑み続けようというのなら、経験しておいて間違いなく損にはならない筈じゃよ。しかも、安全にじゃ」
「そ、それはそうですけど……」
「幻夜の奴も張り切っておったぞ。お孫さんの件もあって、恩人であるお主らに同じ轍を踏ませる危険を冒させる訳にはいかん!とな。事前に経験を積むことによって危険を回避出来るのなら、全面的に手を貸そうとな」
「えっと、あっ、その……」
あの一切情け容赦のない訓練も、幻夜さん達なりの全面的な善意による産物、か。って! そんな風に言われたら、断るに断れる雰囲気じゃないじゃないですか!? こんな話を聞いた上で断ったら……。
どこか諦めにも似た達観したような表情を浮かべた俺達は顔を合わせ、小さく息を吐き出したあと力なく頷きあう。
「わ、分かった……頑張るわ」
「「が、頑張ります」」
「そうか。じゃぁ早速、幻夜の奴に返事をしておこう」
心底疲れたといった雰囲気を纏い気落ちする俺達と、若干口元を吊り上げ意地の悪そうなにニヤケ顔を浮かべた重蔵さん。まさに、対極的な姿がそこにはあった。
こうして、俺達の第二回地獄の合宿訓練の開催が決定した……してしまったのだ。
周囲の気配に過敏になるという訓練の後遺症は3日程で解消したのだが、週末に再び地獄めぐ……合宿訓練を行うことを思い憂鬱な雰囲気をにじみ出しつつ無事?に過ごしていた。テストも終わって夏休みが間近に迫っている事もあり、クラスメイト達の気持ちが高揚し少々浮ついている姿とは対照的だ。俺達だけ悲嘆に沈んでいたからな。一部のクラスメート達から鬱陶しげな目で見られたのは、俺の気のせいだったと思いたい。
と言うわけで、そんな澱んだ空気を醸し出す俺達はクラスメート達の視線を避けるように、授業が終わると直ぐに部室へ退散していた。
「明日から、また合宿か……」
「言うなよ、大樹。ますます憂鬱になるだろ?」
「……そうね」
溜息と共に明日の合宿に対する嘆きを呟くと、眉間にシワを作った裕二と柊さんが若干苛立たしげな表情を浮かべ嘆き声をやめるようにと制止する。何時もならこの程度の愚痴に苛立ったりしないのだろうが、二人も明日の事で気が立っている様だ。こう言う時に美佳達が部室に居てくれると愚痴の抑止力になるのだが、朝美佳が今日はクラスで集まる用事があるから部室に顔は出せないと言っていたので、今部室に居るのは俺達3人だけだ。
お陰で、部室の中の空気は際限なく沈み込んでいる。
「わるい。まぁそうだな、愚痴を漏らしても仕方が無いよな。 ……でもさ、どうする? 明日からの合宿? 1度経験している以上、前の時と同じって訳にもいかないよな?」
「そうだな。前と全部が全部同じじゃ、何の芸も無いからな。前回の合宿を踏まえた上で、俺達に取れる対策はできるだけしておいた方が良いだろう。さしあたっては……食料品か?」
「そうね。あの合宿中、いちいち配布された食料品の安全性を心配する精神的疲労は意外と馬鹿に出来ないわ」
確かに、安全な品だと幻夜さんが保証し分かっていても自分達が用意したものでは無い、只その1点の疑念だけで俺達は合宿中の食事に多大な心労を背負うことになる。心配しすぎと言えばそれまでなのだが、あの合宿中にその疑念を振り払うのは無理だった。平時であれば意識の上にも浮かんでこないような小さな疑念でも、合宿中のような極限状態では無視しがたい大きな問題に膨れ上がる。
結局は本当に、何の仕掛けもない市販されている食料品だったんだけどな。
「となると、合宿中の食料品は自前で用意して持参した方が良いな。少なくとも、何か仕掛けられているんじゃないかって疑念は持たなくてすむ」
「賛成だ。となると、今日中に買い出しに行っておいた方が良いだろう。明日だと、迎えに来てくれる室井さんを待たせる事になるからな」
「そうね。……保存食系の食品って、スーパーに売ってたかしら?」
「スーパーにも置いてあるだろうけど、ホームセンターとかアウトドア用品店とかの方が種類は置いてるんじゃないかな? 同じ食品を毎食、ってのは出来れば避けたいしね。今度こそ、食事を合宿中の楽しみにしたいしさ」
合宿中、せめて食事ぐらい楽しく食べたい。前回の合宿では、食事は不安を押し殺しながらの栄養補給でしかなかった。初日の夕食以外、毎食違った食品を食べているはずなのに同じような淡泊な味にしか感じられなかったからな。今思うと、俺達ってかなり危ない精神状態だったのだろう。
と言うわけで、食事はちゃんと違う味の食品をとりたい。
「じゃぁこの後、いくつか店を回って食料品を調達しよう。他に何か、合宿中にあった方が良いと思うものはあるか? この際、ついでに買っておこう」
「他にか……」
他に欲しいものはあるかと言われれば、沢山あるというのが正直なところだ。だが訓練である以上、何でもかんでも便利グッズが充実して居るでは意味が無いからな。持って行くとしても、必要最低限のものだけにしないと。
と、そんな風に何を持って行くか考えていると、柊さんが小さく手を上げながら口を開く。
「虫除けスプレーとか、虫対策グッズが欲しいわ。夜警をしている時、ライトの明かりに引き寄せられた虫が意外と気になったのよ」
「ああ、それは俺も思った。ライトの明かりに小さな羽虫が寄ってきて、羽音とかが鬱陶しかったな」
「意外と気になるんだよな、あの虫の羽音って」
山中かつ他に明かりもないので、何度追い払っても羽虫が寄ってきたんだよな。最終日辺りになると、羽虫を追い払おうと手を振った時に攻撃を仕掛けてくる人とかも居て対応が僅かに遅れたりと手を焼いた。
山中で合宿をするというのが分かっている以上、虫避け対策グッズは是非とも準備しておきたい。
「蚊取り線香……は、火を使うからダメだな。となると、スプレータイプか電池式なんだろうけど……どっちの方が虫除け効果は高いんだ?」
「さぁ? 夏に何時も蚊取り線香を置いては居るけど、効果はあまり気にしたこと無いからな……違いとなるとどうなんだろ?」
「ウチは煙が出ない電池式を使ってるけど、あまり刺されたことないわね」
「……ちょっと調べてみるか」
裕二はスマホを取り出し、虫除けグッズの評価について検索を掛ける。
すると、モノの十数秒で結果は出た。
「腕とか腰につける、電池式の薬剤を霧散させる奴が評判良いみたいだぞ。野外でも使えるし、連続で100時間以上動くみたいだから、合宿中に電池が切れる心配はなさそうだ。コレにしてみるか?」
「良いんじゃないか? 良く分からないけどさ……」
「広瀬君、それってお店でも市販されてるの? ネット専売品だったら、時間的に無理そうだけど……」
「ああ、大丈夫そう。一応、店頭販売もされてるっぽい」
「そう。じゃぁ、それで良いんじゃないかしら?」
裕二に商品画像を見せて貰ったが、大きさもそれほど大きなものでは無いので動きの邪魔にはならないだろう。とは言え、腕につけると少々邪魔になりそうなので、腰につけた方が良いだろうな。
まぁ、人数分買えたらの話だけどな。
「虫除けグッズも購入っと……他には?」
「他か……」
「ねぇ、ココで話してるだけじゃなくて、実際にお店に行ってから品物を見ながら考えない? 持って行くにしても、大きさとか色々あるんだしさ」
「ああ確かに、実際にモノを見ながら検討した方が良いかな」
柊さんの提案も一理ある。確かに部室でぐだぐだ話し合うより、実際にモノを見た方が話は早い。
と言うわけで、荷物を片付け俺達は部室を後にし買い出しへと出かけることにした。
前回の経験が生きたのか、事前に買って準備した品々が功を奏したのか、2度目の幻夜さん主催訓練合宿は前回と比べ随分と楽……マシだった。食事はちゃんと味を感じられたし、十分とは言えないが睡眠を取り休息する事も出来たしな。まぁ襲撃者の攻撃は、全部しのぎ切れはしなかったけど。とは言え、攻撃を食らったのは3日目なので2日目……一泊二日なら現段階でもダンジョン内で寝泊まりしても大丈夫だろうと幻夜さんに言われた。
無論、体調や周辺環境に左右されるので、絶対ではなく目安程度に思っておけとの釘も刺されたけどな。仮にダンジョン内で寝泊まりするにしても、攻略再開が楽だからと最前線間近で寝るような事はせず、十分な安全マージンを考慮した宿泊地の選定をしろとのお言葉も貰った。
「ありがとうございました、幻夜さん。訓練のおかげで、野営の感覚がつかめました」
「そう言って貰えると、頑張った甲斐があったと言うものだよ。だが、あくまでも訓練は訓練。決して油断しないように」
「はい。肝に銘じます」
訓練終了後、帰宅前に幻夜さんに裕二が代表し訓練のお礼を言う。実際、この規模の訓練を続けて2度も行って貰えた事には感謝の気持ちで自然と頭が下がる。
その上……。
「うん。また何かあったら、相談してくれ。出来る限り、協力させて貰うよ」
和やかな表情を浮かべそう言ってくれる幻夜さんの姿に、どれだけ幻夜さん達が凛々華さんの件で俺達に感謝しているのかが手に取るように分かるからだ。
この感謝と期待を裏切らないように頑張らないとな。
「お気遣い、ありがとうございます。また何かありましたら、その時はよろしく御願いします」
「ああ。君達も無茶をせず、気を付けてダンジョン攻略を頑張ってくれ」
「「「はい!」」」
こうして、俺達の夏休み前の野営合宿訓練は終了した。
そして来週末はいよいよ終業式、夏休み突入までもう少しだ。
野営合宿訓練終了です。終業式が終われば、いよいよ夏休みに突入ですね!




