第123話 届いた荷物
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電車内で美佳達の槍が大きく悪目立ちしたが、幸い俺達は職質される事も無く無事に家に帰宅する事が出来た。ラッピング効果、抜群だな。
携帯している鍵で玄関を開けながら、俺は家に居るはずの母さんに声をかける。
「ただいま」
「……お帰りなさい」
俺の帰宅を知らせる声に対し、1拍の間を開け母さんの声がリビングの方から聞こえて来る。
そして、玄関を開けた俺の目に飛び込んできた最初の光景は、玄関の脇に置かれた大小様々な大きさのダンボールの山だ。恐らくコレが、母さんのメールにあった注文した荷物だろう。
「うわっ! 凄い数のダンボールだね……」
驚き玄関扉の前で佇む俺の背中から顔を出し、玄関を覗き込んだ美佳が声を上げた。美佳も一緒に注文していたのだが、思っていた以上の大荷物の山に驚きを隠せないでいる様だ。
何せ、玄関の3分の1がダンボールで埋まっているからな。
「……凄い荷物の山だな」
「……そうね」
「うわっ。こんなにいっぱいあるんだ……」
美佳と同じ様に、俺の背中越しに玄関を覗き込んだ裕二と柊さん、そして沙織ちゃんも俺達と同じ様な反応をしていた。
俺達が玄関先で唖然とダンボールの山を見ていると、リビングに続く扉が開き母さんが顔を出す。
「お帰りなさい。大樹、美佳……あら? お友達も一緒なのね?」
「「ただいま」」
「「「お、お邪魔します」」」
玄関に姿を見せた母さんに、俺達は慌てて返事を返す。
そして俺は、ダンボールの山を指さしながら母さんに質問する。
「ねぇ、母さん。この荷物は全部、俺宛に届いた物だよね?」
「ええ。もう、ビックリしたのよ? 荷物が届くとは聞いていたけど、こんなに沢山荷物が届くなんて聞いて無かったから……」
「そうだよね……」
俺だって、こんな数のダンボールが届くなんて思ってなかったよ。確かに注文した数は多かったけど、大きなダンボールに纏めて配送されるんだとばかり……。
「兎に角このダンボールの山、何とかしてくれないかしら? 何時までも玄関に、ダンボールの山を置いておく訳には行かないのよ……」
母さんは頬に手を当てながら、困った様な表情を浮かべつつダンボールを見る。
うん。まぁ確かに、こんな大荷物を何時までも玄関先に置いとけないよね。
「分かった。早めに片付けるよ」
「お願いね?」
俺は母さんに軽く頷きながら、背後に視線を送る。
片付け……手伝ってくれるよね?と言う思いを込めた眼差しを、俺は背後に控える4人に送った。
10分程かけ、俺達は玄関先に置かれていたダンボールの山を、一部を除き全て俺の部屋に運び込んだ。高位探索者の身体能力、万歳。両手で抱える様なサイズのダンボールも、軽々と纏めて運べたよ。
この身体能力を生かし、引越し屋のバイトでもやるかな? ……やらないか。
「ふぅー、これで全部運び終わったかな? 皆、手伝ってくれてありがとう」
「何。これくらい、どうって事無いさ」
「そうよ。この程度の荷物運び、どうって事無いわよ」
最後の大荷物を運び終え、俺は裕二と柊さんにお礼を言う。
そしてまぁ当然だが、裕二と柊さんは大荷物を運んで居ても息を切らせた様子は無い。逆に……。
「あぁ……重かった」
「ふぅ……」
美佳と沙織ちゃんは軽く息を切らせながら、卓袱台の前に置いた座布団に座っていた。
「二人共、大丈夫か?」
「……うん」
「はい……大丈夫です」
俺の問いに大丈夫と答えるが、美佳と沙織ちゃんは少々疲れた様な表情をしている。
「そう……じゃぁ二人共、荷物の確認をして貰っても良いか? 欠品や不良品が無いか確認したいしさ……」
「うん」
「はい」
俺は机の引き出しからカッターナイフやハサミを取り出しながら、美佳と沙織ちゃんに荷物の確認をお願いする。中古品だから少々のキズ等は仕方無いが、明らかな破損や動作不良は不味いからな。
美佳と沙織ちゃんは卓袱台から立ち上がり、俺が渡したカッターやハサミを使い手近な荷物の確認を始める。開けたダンボールの中からは、服や靴等の品々が大量の緩衝材と共に出てくる。
全く、こんなに緩衝材を使うからダンボール箱の数が増えるんだよ。俺は美佳と沙織ちゃんが開けたダンボール箱から出た緩衝材を集めながら、要領の悪い商品梱包方法を愚痴る。
「これは……丁寧な仕事と言えば良いのか?」
「違うわよ。ただ単に、梱包の仕方が悪いだけよ」
「そうだよな……」
箱の中身の半分は緩衝材だと知り、裕二と柊さんも俺と似た様な感想を抱いている様だ。梱包材代だってバカにはならないだろうし、もう少し節約しろよダンジョン協会……。
「お兄ちゃん。荷物に目立った傷は無いみたいだから、特に問題は無いよ」
「こっちも大丈夫です」
俺達が梱包について愚痴っている間に、美佳と沙織ちゃんは荷物の確認を終えていた。
「そうか。じゃぁ、服や靴とかの身に着ける物の試着をしてこいよ。サイズは考えて買っているけど、実際に着てみたら……って事があったらさ」
「うん。あっ、ねぇお兄ちゃん? これも今の内に、試着しておいた方が良いかな?」
「これ? ……ああ、そうだな。それも試着しておいた方が良いだろうな」
これと言って美佳が指さした物は、俺達が使っている物と同じ型のプロテクターだ。これも、未使用品が競売にかけられていたので、経費削減の為にネットで購入。定価の7割引で購入出来たので、とてもお買い得な品だった。
「ねぇ、柊さん」
「……何? 九重君?」
俺は取り出された品を見ていた柊さんに、声をかける。
「美佳と沙織ちゃんに、プロテクターの着け方を教えてあげてくれるかな?」
「プロテクターの着け方? ええ、別に良いわよ?」
「ありがとう。じゃぁ二人共……そう言う訳だから、柊さんに着け方を教えて貰いながら試着して来ると良いよ」
柊さんの了解を取った俺は、美佳にプロテクターの着付けの仕方を習う様に勧めた。一度練習で付けていれば、明日ダンジョンに行った時手早く着替えが出来るからな。
「うん、分かった。雪乃さん、お願いします」
「ええ、任せて」
取り出した荷物から美佳と沙織ちゃん、柊さんはサイズを確認する荷物を集めて行く。
「じゃぁ二人が着替えている間に、俺と裕二で空箱の片付けと残りの荷物の整理をしておくよ。良いよな、裕二?」
「ああ」
「そう言う事だから、ユックリとは言わないけど慌てて着替える必要は無いからな?」
「うん。ありがとう」
俺の言葉を聞きながら、女子3人は荷物を持って俺の部屋から美佳の部屋へと移動していった。
俺と裕二は空箱と緩衝材を片付けた後、荷物を整理しつつヘッドライト等の動作確認を行っていた。
「3人が出て行ってから結構時間経つけど、まだ着替えに時間がかかるのかな?」
「大樹。まだ3人が出て行って、20分も経っていないだろ? 初めてプロテクターの着付けをしているんだ、そう苛立つなよ」
「別に苛立ってないさ。ただ、着替えにこんなにも時間ってかかるのかなって思っただけだよ」
美佳達のもだが、俺達が使っているプロテクターは結構簡単に着脱出来る様に工夫されたタイプだ。初めて装着する者でも、そこまで時間は掛からない筈なんだけどな……。
「女同士で、話が盛り上がっているんじゃないか? ダンジョンの中での、アレやコレなんかでさ」
「そうかもな。男の俺じゃ、細やかな部分で分らない事もあるだろうからな……」
一応これまで俺は何度も、ダンジョン内での体験を美佳と沙織ちゃんに話してはいる。だが、同じ体験談でも男女の感じる部分に差は出るからな……。二人も俺に直接聞きにくい部分の話を、柊さんに聞いているのかもしれない。そうであれば、着替えに時間がかかるのも仕方ないか。
俺と裕二は雑談をしながら検品を続ける。すると、裕二がチェックしていたある品で……。
「……ん? おい、大樹。これ、動かないぞ?」
「えっ、本当?」
「ああ。一瞬点いたけど、直ぐ消えたぞ? その後、電池を何度か入れ替えても電源が入らないしな」
「そっか、参ったな……。オークション品だから、返品も交換も効かないのに……」
俺は裕二に手渡されたマグライトを弄りながら、不良品のライトを困った表情を浮かべながら見る。一応、落札した時の商品紹介ページには、動作確認済みと書かれていたのだが……ハズレを引いたな。
まぁ格安の中古品だから、仕方無いと割り切るしかないか……。
「仕方無い。これは、俺が持っているライトと交換しておくか」
「良いのか?」
「まぁ最近は光源魔法を多用して、ライトは使ってないから大丈夫だろ。それにこの後、沙織ちゃんを家に送った帰りにでも近くの電気屋に代わりのライトを買いに行くよ」
取り敢えず今は、美佳と沙織ちゃんの装備品を揃えるのが優先だ。明日ダンジョンに行こうとしているのに、装備品に不備があるかもと言う不安を与えたくないしな。
「そっか。まぁ、大樹がそれで良いのなら俺は構わないけど、代わりのライトを買い忘れるなよ? 光源魔法があるとは言え、予備の光源はあった方が良いからな」
「ああ、分かってるよ」
魔法無効化空間などがあったら、光源魔法だけだと暗闇の中で戦うとか言う最悪の事態が起きかねないからな。種類の違う光源は複数用意しておいて損はない……いや、寧ろ当然の備えだろう。
現に俺達も電気、魔法《光源魔法》、発火《発火灯》、化学と複数種類の光源を用意している。
そして女子3人が部屋を出て30分後、俺と裕二が大凡の荷物のチェックと仕分けを終えた頃に女子3人が戻ってきた。
「待たせたわね」
「お待たせー」
「お待たせしました」
柊さんを先頭に、プロテクター等の装備品を身につけた美佳と沙織ちゃんが部屋に入ってきた。2人はジャージの上にプロテクターを身に着け、頭にライト付きのヘルメットとゴーグルタイプの保護メガネ、手にアサルトグローブ、足にブーツタイプの安全靴を履いている。
大凡、俺達と同じ格好なのだが、傍から見ると中々厳つい出で立ちだな。ダンジョンの外でこの姿の人にあったら、俺は全力でスルーするか走って逃げる。
でも、まぁ……。
「中々似合うよ、二人共。ぱっと見、一端の探索者ルックだね。サイズはどう?」
俺は褒め言葉の様で褒め言葉でない様な言葉を吐きつつ、二人に着心地を確認する。
「大丈夫。流石にピッタリとは言わないけど、特に何か支障があると言う事も無いよ」
「はい。どこか突っ張ると言う感じもしませんし、何度か着続けていれば慣れると思います」
「そっか」
どうやら装着品の方には、不備は無かった様だ。
良かった、良かった。
「じゃぁ早速だけど二人共、庭の方でその格好で少し素振りをしてみてくれるかな? 動いた時の着心地も確認したいしさ」
「えっ、庭で? この格好のまま?」
「その格好で武器を振るえなかったら、ダンジョン内での戦闘は出来ないからね。今の内に確認しておかないと」
本当なら裕二の家の道場で実槍を使い、重蔵さんに見て貰いながら確認するのが一番なんだけど……時間が時間だからな。今回は家の庭で練習用の木槍を使って、槍を使う動作に不備が出ないかだけでも確認しよう。
流石に、住宅街の庭で実槍は振れないからな。
「うん、そうだね。そう言う事なら、やった方が良いね」
「分かりました」
二人は俺の説明に納得してくれたのか、頭を縦に頷いてくれた。
良し、じゃぁ早速庭に移動して確認しよう。
母さんに二人の格好を驚かれながら庭での動作確認を済ませた後、部屋で俺と裕二が仕分けた荷物を二人に渡した。
「じゃぁ。こっちが美佳の分で、こっちが沙織ちゃんの分だよ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「ありがとうございます」
二人は自分の分の荷物を受け取り、嬉しそうな表情を浮かべた。これで漸く、二人もダンジョンに行く準備が出来たな。俺はそこそこ長かった二人のダンジョンへ行くための準備期間の事を思い出しながら、感慨に更けり表情を緩ませた。
そして……。
「よし。じゃぁ明日も早い事だし、今日はこれで解散しようか?」
俺は気持ちを切り替え、解散しようと話を切り出す。
「そうだな。明日も早いし、今日はこれで解散するか」
「そうね。2人共。気持ちが高ぶっているでしょうけど、今日は早めに休みなさい。寝不足だと危ないわよ?」
裕二も解散に賛同し、柊さんは興奮気味の2人に気を使い一言忠告を入れる。
「うん」
「はい」
2人は柊さんの忠告に、素直に頷いて答える。
「良し。じゃぁ、沙織ちゃん。荷物運びを兼ねて、俺が家まで送っていくから準備しようか」
「はい。ありがとうございます」
沙織ちゃんは俺に礼を述べた後、帰りの準備を始める。受け取った自分の荷物を、持って来ていた大きな布袋に入れて行く。プロテクター等の比較的大きく重い物を、中ぐらいの大きさのダンボールに詰め、ガムテープで蓋を止めた後ヒモを巻いて持ち手を作る。
荷造りは、5分ほどで終了した。
「準備完了。じゃぁ、行こうか?」
「はい。お願いします」
沙織ちゃんは服や小物などが入った軽めの布袋と運搬バッグに入れ替えた自分の武器を、俺は荷造りしたダンボール箱と玄関に置いておいた組み立て式ガンロッカーの箱を手に持つ。
俺達4人は、美佳と母さんに見送られながら玄関を出ようとしていた。
「じゃぁ、沙織ちゃんを送ってくるから」
「うん。行ってらっしゃい」
「ちゃんと、送り届けるのよ?」
「勿論」
「「「お邪魔しました」」」
そして、俺達は玄関を出た。
さっ、明日は2人を連れての初ダンジョン探索だ。
無事に荷物も届き、ダンジョン行きの準備は完了。
第7章はこれで終了です。
閑話を数話挟んで、第8章スタートです。




