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魔女協会

……………………


 ──魔女協会



 フェリクスはクラウスが用意した軍馬で帝都に向かっている。具体的には帝都に軍が設置した警戒線に向けて進んでいた。


 軍は帝都を隔離するように包囲し、国家憲兵隊もそれに動員されている。


 しかし、それ以上、軍隊に、そして人間にできることはなかった。


「止まれ!」


 フェリクスとクラウスが警戒線に近づくと、兵士たちが銃口を向けて叫ぶ。


「撃つな、撃つな! 帝国宰相アレクサンダー・フォン・フロイデンタールの息子のクラウスだ! 怪しいものではない!」


「アレクサンダー閣下の……?」


 クラウスは軍馬から降りてそう言い、兵士たちは困惑した様子を見せる。


「何事だ!」


 と、ここで帝国陸軍の将校が姿を現す。


「中尉殿。アレクサンダー閣下のご子息を名乗る方が来ています」


「何? アレクサンダー閣下のご子息が何の用事だ?」


 将校はそう言ってクラウスの方を見た。


「友人が帝都に取り残されている。助けに行きたい」


「帝都はもう完全に封鎖された。入ることはできない。取り残されている人間がいたとしても、もう助かることはないだろう。残念だが」


 クラウスが将校に告げ、将校は首を横に振った。


「頼む。助けたい女性がいるんだ。どうしても助けたい女性が」


 フェリクスも前に出て将校にそう頼み込んだ。


「その女性と言うのは家族か?」


「そうなる予定の人だ。愛している女性だ」


「……そうか。これから陸軍の部隊が何かしらの作戦のために帝都に突入する。場所は旧帝都城壁跡だ。急げば彼らに間に合うだろう」


「ありがとう……!」


 フェリクスは深く将校に頭を下げ、それからクラウスとともに帝都城壁跡へと急いだ。軍馬を走らせ、帝都をかつて覆っていた城壁の跡地に向かう。


「あれだ!」


 旧帝都城壁跡には陸軍の部隊とそれから所属不明の部隊が存在していた。


「待ってくれ!」


 フェリクスはその部隊に向けて叫ぶと兵士たちがすぐさま銃口を向けてくる。


「そこの2名! 名を名乗れ!」


「フェリクス・フォン・シュタルクブルクだ! そちらは帝都に突入する部隊だと聞いている! 同行させてほしい!」


 部隊の指揮官らしい将校が叫ぶのにフェリクスが叫び返した。


「シュタルクブルク? シュタルクブルク公爵家の人間か? いずれにせよ民間人はただちに警戒線の外に避難しろ! ここは既に立ち入り禁止だ!」


 しかし、陸軍将校はフェリクスたちを拒絶し、戻るように命じてくる。


「待ってください」


 そこで聞いたことのある声が聞こえた。


「エリザベス嬢!」


「フェリクスさん、クラウスさん。どうしてここにとは問いません。あなた方の目的は理解しています。イリスさんですね?」


「ああ。そうだ。イリス嬢が帝都に残っている」


 フェリクスたちの前に姿を見せたのはエリザベスとマティアスだった。


「帝都に残っているだ? あいつは帝都をこんな状態にしている元凶だぞ。人間の擬態に騙されて放置したツケがこれだ。クソ」


「それは分かっている。だが!」


「分かってるなら失せろ、クソガキ」


 マティアスは敵意ある視線をフェリクスに向けてそう言った。


「フェリクスさん。イリスさんはもうあなたの知っている人物ではなくなっているでしょう。彼女は現在、人類に敵対的な神格として確認されています。それでも彼女を救いたいと仰るのですか?」


「ああ。私にとってはイリス嬢は今でもイリス嬢だ」


「そうですか……」


 エリザベスはフェリクスの答えに何か考え込んでいる様子だ。


「いいでしょう。それならば我々も賭けに出てみましょう。フェリクスさんがイリスさんを無力化してくれることに」


「本気かよ、ベス?」


「どうせ我々には神格を相手にできることはないのです。ならば、どんな可能性にだろうと賭けるべきではありませんか?」


「……はあ。そうかもしれないな」


 エリザベスが言うのにマティアスが肩をすくめて頷いた。


「では、行きましょう。既にイリスさん、いえイ=スリ・リスの影響は帝都の半分以上に広がっています。このままでは帝都はもちろん、この星そのものが彼女の制圧下に置かれてしまうでしょう。そうなれば」


「ゲームオーバーだ」


 エリザベスの言葉をマティアスが引き継いだ。


「クラウス。お前は残ってくれ」


「おい。友人を置いていけとでも?」


「ああ。お前には残された人間を守ってもらいたい。ここから先は私の我がままだ。付き合わせるわけにはいかない」


「……分かった。だが、必ず戻って来いよ。いいな?」


「そのつもりだ」


 ここでフェリクスがクラウスに別れを告げる。


「ローゼンクロイツ協会。そちらの準備はできているんだな?」


「ええ。準備はできています」


「では、作戦開始だ」


 陸軍部隊の指揮官が命じ、帝国陸軍、ローゼンクロイツ協会、そしてフェリクスが、イリスに侵食されつつある帝都に向けて突入を開始した。



 * * * *



 フェリクスたちは帝都に突入している。


「行け、行け、行け!」


 陸軍、ローゼンクロイツ協会の連合部隊は自動車と機関銃を装備しており、その自動車を全速力で走らせて、帝都中央病院へと向かっていた。


「これは……イリス嬢の影響なのか……」


 帝都の建物は赤黒い肉塊に飲まれつつあった。あちこちに肉塊や触手が巻き付き、帝都はグロテスクな様相をなしてる。


「ビビったか、クソガキ?」


 自動車を運転するマティアスがそうフェリクスに意地悪げに尋ねてきた。


「いいや。きっとイリス嬢は分かってくれるはずだ」


「そうかい。まるでお姫様の囚われた塔に向かう白馬の王子様だな、ええ?」


「そうかもしれないな」


 マティアスが茶化すが、フェリクスは相手にしなかった。


 今、彼はイリスを救うということしか考えていないのだ。


「前方に敵複数! 警戒しろ!」


 と、ここで陸軍部隊の将校が警報を叫ぶ。


 前方に複数の人影が見えた。民間人ではない。魔女協会の魔女たちだ。


「クソ。魔女どもめ。突破するぞ!」


「ええ」


 マティアスがアクセルを全開にし、エリザベスは魔女たちからの攻撃に備える。


 さらに自動車に据えた機関銃をローゼンクロイツ協会の職員が握り、機関銃を魔女に向けて乱射。銃弾が魔女たちに叩き込まれるが、魔女たちもただではやられなかった。


「召喚生物を呼びやがったか、クソ魔女どもが」


 魔女たちが召喚生物を呼び出し、冒涜的な怪物たちが襲い掛かる。


「ああ! 助け──」


 前方を進んでいた陸軍部隊が召喚生物に飲み込まれ、酸で溶かされるように人体が爛れながら溶けていく。


「ここで足止めされている暇はない! 無視して突っ切るぞ!」


 マティアスはそう言い、召喚生物の攻撃を躱し、自動車を走らせる。


 最初の魔女と召喚生物の攻撃を生き残ったのは、突入した部隊の半分だけ。残り半分は既に死亡している。


「クソみてえな戦いだぜ、畜生!」


 そう愚痴りながらマティアスはタバコを口に運び、魔法で火をつけた。


「待ってください、マティアス。──止まって!」


 エリザベスがそこで叫ぶのにマティアスが急ブレーキをかける。


 突然マティアスを止めたエリザベスが睨む前方にいたのは──。


「おやおや。ローゼンクロイツ協会が我らが神に何の用事かな?」


 帝都中央病院まで間もなくという場所に現れたのはひとりの少女。軍用外套を羽織った黒いワンピース姿の少女──高位魔女たるクラウディアだ。


「ベス。こいつはやばいぞ」


「分かっています。どうにかしなければ」


 マティアスが自棄になったような笑みで言うのにエリザベスが真剣にそう言う。


「フェリクスさん。ここは我々に任せて、あなたは帝都中央病院へ」


「しかし……」


「あなたはここにいても役に立ちません」


 躊躇うフェリクスにエリザベスがはっきりとそう言った。


「おい。白馬の王子様になるんだろう、クソガキ。いや、フェリクス・フォン・シュタルクブルク。あれだけ惚れた、惚れたと騒いでたんだ。そんなに惚れた女ならどうあっても助けてこいよ」


 マティアスはそう言ってフェリクスの肩を拳で叩く。


「ここは俺たち大人に任せとけ」


「すまない、マティアス先生」


 フェリクスはマティアスにもそう言われ、帝都中央病院へと向かう。


「さて、魔女狩りの時間だ」


「ええ。やりましょう」


 マティアスは不敵に笑い、エリザベスも小さく笑った。


……………………

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新連載連載中です! 「失恋した俺に男友達みたいだと思っていた女子がグイグイくるようになった。」 応援よろしくおねがいします!
― 新着の感想 ―
クライマックス!
ついに来てしまった最後の日 更新が楽しみで仕方ありません
最後にクソガキではなく本名を呼ぶのなんか胸熱展開。 果たしてイリスはどうなっているのか?
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