邪神様と魔女の危険性
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──邪神様と魔女の危険性
不気味に笑うクラウディアさん。
「まだ何か言いたいことがありますか? 一応聞きはしますよ?」
私は無表情を維持してそう尋ねた。正直、クラウディアさんとはあまり関わり合いたくはない。私の大事なファーストキスの相手ではあるけど、あれから余計なことしかしないからな~。
「無星の智慧教団が探求を止めるのであれば、それは残念だ。実に。私はまだまだ知りたい。お前が何なのか。お前のもたらす知識、知性が、思想が、私たちをどのように導くのかを」
クラウディアさんはそう言って私に近づいてきた。
「今はやめてとお願いしてもですか?」
「お願い? お前がか? お前にとって人間など取るに足らぬ存在であろうにお願いとは。ゾウがアリに『道を開けてくれないか』と頼むものか? そして、そう頼んだとしてその願いは聞き届けられるものか?」
「それでは命令しても?」
「それは同じことだ。自分の意志を反映させたくば、相手をねじ伏せることだ」
「そういう暴力的なことは好きじゃないんです」
私のいうことを誰も聞いてくれません。何が邪神様だよ~! この~!
「まあいい。少し面白いことを思いついた。お前を楽しませることのできることだ」
「どうせろくでもないことなのでしょう?」
「どうだろうな? 私からお前へのプレゼントだとでも思ってくれ、イリス、またはイリリースよ。汝は偉大にして、我々の目指すべきものだ。汝がもたらすものを、我々はずっと待っていた。これまでも、これからも。ひっひっひひ!」
そういうとクラウディアさんは再び忽然と姿を消した。
「なんだか嫌な予感がしますけど……」
誰に相談したらいいでしょうか? ローゼンクロイツ協会のメンバーであるエリザベスさんたちなら、対応してくれるだろうか?
「とにかく相談しておいた方がよさそうです。何か起きてからでは遅いですから」
私はそう思いながらも、フリーダとエミリアさんに贈るプレゼントを買いに向かった。フリーダには書き心地のいい万年筆を、エミリアさんには冬に男女ペアで使えるマフラーをプレゼントする予定だ。
みんな喜んでくれるといいな~。
* * * *
無事にプレゼントも購入でき、金色祭を待つばかりとなった。
だが、その前に私はクラウディアさんの残した不吉な予告について、エリザベスさんたちに相談することにしたのです。
「エリザベスさん。少し相談したいことがあるのですが、いいですか?」
私は教室にいるエリザベスさんに声をかける。
「ええ。何でしょうか?」
「その、とある魔女についての相談なのですが……」
「分かりました。場所を変えましょう」
そう言ってエリザベスさんは生徒会室に場所を移した。
今日の生徒会室にはクラウスもフェリクスもおらず、無人であった。金色祭が近いので生徒会としての仕事がないわけではないと思うのですが。
「魔女について、というと、魔女協会が接触してきましたか?」
「はい。クラウディアさんが接触してきて、犯行予告のようなものを残して行ったんです。私の周りで騒ぎを起こす、みたいなものを」
「ふむ。クラウディア・フォン・ヴィンターシュタイン。忌まわしき魔女協会の女王が、ですか……」
私の言葉にエリザベスさんは考え込む。
「あなたはクラウディアについてどれだけ知っていますか?」
「厄介な人だな~ってことぐらいですかね……」
「確かに神格であるあなたにとっては、邪悪な高位魔女もその程度の存在でしかないのでしょうね。さしたる脅威でもない、と」
「い、いやいや。厄介ではあるんですよ? とても迷惑というか、そんな感じで」
「普通の人間はあのような魔女に目を付けられたら、迷惑程度では済まないのですよ。それこそ発狂するまで追い詰められ、最後には死ぬより悲惨な目に遭う恐怖におびえなければならないのですから」
「そうなのですか……」
と、言われてもですね。今のところ、クラウディアさんは私を殺そうとしたことはないですし。ただ私の周りの人間にちょっかいを何度もかけてて、それが実に面倒というしかないのです。
「今回の狙いはあなたではなく、周りの人間なのですね?」
「前もそうだったので、そうじゃないかな、と」
「高位魔女でも神格を相手にするのは無謀。そう考えると確かに狙われるのは周りの人間ですね。あなたは神格としては異例なことに、人間と交流し、人間を友人のように扱っている」
そこでエリザベスさんは私の方をじっと見た。
「何故あなたは神格でありながら、人間の振りをし、人間と同じ人間のようにして交流を持っているのですか?」
エリザベスさんがそう問いかけてくる。
「それが私にとってそれが一番だからです。たとえ私のやっていることが人間ごっこに見えたとしても、私はそれを大事にしている。とでもいうしかないですね」
「そうですか。正直なところ、それを聞いても未だにあなたという人間──いえ、神格を理解できた気がしません。あなたを理解するということは、狂気の淵に立つというのと同義であるので、それがいいのかもしれませんが」
巨大な不快害虫が人間の言葉を喋って、人間と同じように振る舞っている。マティアス先生はそう評価していた。それでも私は人間ごっこを止めて、本当に狂気に陥った神様を演じる気にはなれない。
「話を戻しますが、クラウディアの行動に対する対策を立てておく必要があります」
「どうします?」
「まずは周囲に危険を伝えておくべきでしょう。あなたの周囲の人間と言うのは、学園調査隊のメンバーの他に誰が?」
「フリーダも学園調査隊ではないですが、私の正体をうっすら知っていますね」
「では、フリーダさんも含めて。他には?」
「あとは両親ぐらいでしょうか……」
「ふむ。ラウエンシュタイン侯爵夫妻は残念ですが、こちらで保護できる対象ではありません。彼らには自衛してもらうしかありませんね」
「まあ、両親はクラウディアさんと仲が良かったみたいですし」
クラウディアさんもお父様とお母様を襲うような真似はしないだろう。
「では、以上の人物を集め、あなたの正体を知らせます。その上で警戒することを求めましょう。まだ正体を知らないエミリアさんやレオンハルト殿下にも正体を知らせることになりますが、構いませんね?」
「はい。もう仕方がないです」
ここまで来て我が身可愛さに正体を隠しても仕方ない。今後も学園に居座るならともかくとして、どうせ12月には出ていくのだから、問題はないでしょう。
それにエミリアさんとレオンハルトは正体を知ったからと言って、周りに言いふらすような人でもないはずだ。多分。
「それでは彼らを呼びましょう」
こうして私の正体を知らせるときがやってきた。
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