邪神様と公園
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──邪神様と公園
鉄道で30分程度。それで私たちは帝都郊外にあるゲルトナー記念公園に到着した。
「綺麗な公園ですね!」
私はゲルトナー記念公園を見渡してそう言った。
整えられた芝生。綺麗に咲き誇る花々。それからボートと水鳥が浮かぶ湖。
「イリスは来るの初めて?」
「ええ。初めてです。こんな場所が帝都の郊外にあったのですね」
フリーダが尋ねてくるのに私がそう返す。
今日は私たちも制服ではなくドレス姿。と言っても野外での活動を考えた動きやすい格好でもある。フリーダとエミリアさんのドレスは可愛くてよきです。よきよき。
「エミリア。気を付けたまえよ。また何かあったら……」
「すみません、殿下。ご心配おかけします」
「今度は私に守らせてくれ」
レオンハルトはエミリアさんにべったり。彼はあの事件のあとでますますエミリアさんにべったりするようになってしまった。本当にエミリアさんが愛想をつかさないといいのですが。半分くらいは私のせいですし。
「本当に最近は物騒ですからね。エーリッヒ館長も……」
「エーリッヒ館長がどうかしたのか?」
「強盗に入られたそうなのです。館長自身はお怪我はなかったものの、使用人が殺されたとかで。そのせいでエーリッヒ館長はしばらく休まれていたんですよ」
「そうだったのか……」
アルブレヒトが言うのにフェリクスは悩むように呟く。
「ま、まあ、今日は天気も良くてピクニック日和ですし、暗い話はよしましょう!」
「そうですね、イリス嬢。すみません」
今日ぐらいは物騒な話はなしにしてほしいよ~。
「やっぱりせっかくこの公園に来たならボートに乗りたいよね。湖の周りの景色を眺めながらボートに揺られるというのはいいものだと思うんだ」
「そうですね。定番のコースでもあります」
フリーダとアルブレヒトがそう語る。
「ボートって何人乗りなんです?」
「ふたりだよ。漕ぐのはなかなか力がいるからね」
「なるほど」
前世でもボートなんて乗ったことはないので興味がある。しかし、私の貧弱腕力ではボートを漕ぐなんてことはかなわないでしょう。
ならば、こういうときはクラウスの教えに倣えばいいのです。そう、人を使え、と。
「フェリクス様。一緒にボートに乗りませんか?」
「ああ。構わないが」
フェリクスに漕がせよう。腕力ありそうですし。
そういうわけで私たちはボートに乗りに向かった。今日は週末と休日なのでそこそこ人がいるが、ボートには空きがあった。ラッキーです!
「では」
私はフェリクスと、フリーダはアルブレヒトと、エミリアはレオンハルトとボートに乗った。フリーダとエミリアさんがニコニコしていて、アルブレヒトとレオンハルトが張り切っているのが印象的でした。
「少し揺れるから気を付けろ」
フェリクスは私にそう言ってボートを漕ぎ始めた。
おおー! ボートってこんな乗り心地なんですね。ゆらゆらと小さく揺れますが、その揺れがいいというか。景色がゆったりと流れていくのと合わせて、とてもいい感じですよ、これは。
「イリス嬢。楽しめているか?」
「ええ。とても楽しいです、フェリクス様」
「それならばいいが」
何だろうか。私、退屈そうな顔をしていただろうか。
「いや。深く考えないでくれ。ただ楽しめているか知りたかっただけだ。お前は、その、普通の女子とは違うから、私も何が楽しめるのか少し分からないところがあった。それだけのことだ」
「ああ。ご安心を。私の感性は普通の女子とあまり変わりませんよ」
「そうなのか?」
「ええ」
というか邪神様としての感性は、おぞましい事実に対して凄く鈍感ということぐらいです。グロい死体や身を震えるような恐怖。そういう発狂しそうな物事に対して私は酷く鈍い。まるで何も感じないように。
他は一般小市民な感性ですよ~。
「……学園を辞めて、帝都を出たらどうするつもりだ?」
「今のところ予定はありません。お父様たちとも和解できましたし、実家の領地に籠るのもいいかもしれません。あるいはひとつの場所に留まらず、旅でもしようかと思っています。私がひとつの場所に留まるとどうにも事件が起きてしまいますから」
そこで不意にフェリクスが尋ねるのに私はそう返した。
そう、私が一定の場所に留まるとみんなが悪夢を見たり、カルトが事件を起こしたりとろくなことがないのです。なら、いっそあちこちを放浪すれば、被害はあまり出ないんじゃないかなと思ってみたり。
「旅を続けるというのは簡単なことではないぞ」
「そうですね……。けど、そうでもしないと皆さんに迷惑をおかけしますから」
私自身もカルトに絡まれたりと大変なので、彼らが追い付けないようにしておきたいのです。それはずっと旅を続けるというのは難しいことだって分かってますけど。
「なら、お前の旅路に祝福があることを祈ろう」
「神にですか?」
「この世にいるかもしれない願いを聞き届けてくれる存在に」
フェリクスはそう肩をすくめていた。
それから私たちはボートで湖を一周してから陸に上がった。楽しかった~!
私たちは公園の中をゆったりと歩いて回ったあとで食事に。芝生にシートを布いて、そこに座ってお弁当を食べるのである。お弁当と言っても凝ったものじゃなくて、サンドイッチとかの軽いものだけどね。
「エミリア! 今日のために皇室のシェフに作らせたサンドイッチだよ! 是非とも食べてくれ! いっぱいるからね!」
「あ、ありがとうございます、殿下」
レオンハルトは凄く気合を入れてきていた。本当にエミリアさん、その愛情が深すぎる男に愛想をつかさないでおくれよ~。大事にしてあげておくれよ~。
「このサンドイッチ、美味しいですね」
「ふふ。気に入っていただけて嬉しいです、アルブレヒト様」
フリーダとアルブレヒトも熱々だ。
「まあ、いつものサンドイッチですよね」
「……だな」
私は現在フェリクスと同居中なので、特に驚く要素はありませんでした。おわり。
「楽しい日になりましたね。こうしてまた皆さんと一緒に出掛けたいです」
そうエミリアさんが笑みを浮かべて言う。
「そうだね。もっといっぱい遊びに行きたいものだね!」
「ええ。3年生になっても、友達でいましょう」
レオンハルトがそう言い、エミリアさんが私たちに告げるのに、この場に気まずい空気が流れた。
「……? どうかしましたか?」
「あのですね、エミリアさん。私は12月の金色祭が終わったら学園を辞めるんです」
「え!? ど、どうしてですか?」
私が言うのにエミリアさんは動揺している。
「その、家庭の事情というものでして……。やむを得ず……。だけど、私が学園を辞めても皆さんとは友人のままですから!」
私はそう超美少女スマイルでそう言ったが、エミリアさんたちは不安そうに私の方を見ていた。ただフリーダとフェリクスだけは状況を理解した表情をしている。
「なら、手紙を出しますね。イリスさんがどこに行っても」
「ありがとうございます、エミリアさん」
しかし、果たして私が帝都を出たあとに、私は手紙が届く場所にいるのだろうか……? 少なくともこの世界にはとどまりたいところですが~……。
何もしてないのに異界に追放だけはやだよ~! やめてよ~!
……いや、何もしてないとは言えないか……。
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