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邪神様とピクニック

……………………


 ──邪神様とピクニック



 あれから1週間、エミリアさんが退院してきた。


「エミリア! もう大丈夫なの?」


「ええ。もうすっかり元気です!」


 エミリアさんはそう言ってにこやかに笑って見せていた。


「よかったです。無事に退院できて。ここで刺されていたのを見たときには、とても驚きましたから」


「心配をおかけしてすみません、イリスさん。あと病院の先生がここでの応急処置が適切だったから助かったんだろうと言っていました。応急処置をしてくれたのは、イリスさんですよね?」


「す、少しだけですね。ほとんどは校医の先生がやりましたよ」


 私が眷属君を少しエミリアさんに混ぜてしまったのは内緒です、内緒。あとあとで変なことにならないといいけれど……。触手が生えたりとか……。


「それでもありがとうございます。命の恩人ですよ」


「そんな大げさですよ。友達として当然のことをしたまでですから」


 眷属君を混ぜたという罪悪感があって素直に賞賛の言葉を受け取れないのです~。


「エミリアさんもよくなったことですし、どこからに遊びに行きましょうか?」


「いいね! エミリアはどこか行きたい場所ある?」


 私が提案するのにフリーダがエミリアさんに尋ねる。


「あの、実は入院しているときに夢に見たものがあって。それを確かめたいんです」


「夢で見たもの……?」


 エミリアさんが告げた言葉にフリーダが首を傾げる。私は嫌な予感がしてきました。


「何かの教会のようなものがあって、その地下に学園で見つけたような異端の礼拝堂があったんです。それが頭から離れなくて……。夢で見たものがただの夢だったのか、それとも意味のあるものだったのか確かめたいのです」


 それってお父様が私を連れていったカルトの拠点では……? 不味いです、不味いです。よくありません! というか、眷属君を混ぜたせいかエミリアさんが妙な感受性を発揮してしまっています!


「エミリア、それは遊びに行くにはちょっと物騒だよ。もっと楽しい場所にしよう?」


「そうですよね。すみません。では、どこに遊びに行きましょうか?」


「帝都の外にちょっと出てみる? みんなでピクニックとか楽しいと思うな」


「ああ。それはいいですね!」


 おお。フリーダがナイス回避してくれました。カルトの地下神殿については、私があとでフェリクスたちに報告しておきますからご安心です。


「では、他に誰か誘いますか?」


「あたしはアルブレヒト様を誘ってもいい?」


「それなら私はレオンハルト様を」


 おやおや? そう言う流れになっちゃうの?


 この流れだと私はフェリクスを誘うことになるのだろうが、正直今回はフェリクスにいてもらった方がいいかもしれないと思っています。


 というのも、お父様たちのいうことが確かなら、お父様たちがカルトを鎮めたのちも、クラウディアさんたち魔女協会は知ったことじゃないと暴れ回るわけで。私の外出先でうっかりクラウディアたちに襲われる可能性もあるわけだ。


 そのとき女の子だけだったら、困るだろう。フリーダもエミリアさんも戦えるわけじゃないし、私が戦うならば眷属君などを使うことになる。


 そうなると……。


『行け、眷属君! 君に決めた!』


『わあ! イリスからとってもグロい化け物が! イリスはおぞましい邪神だったんだね! もうイリスとは絶交だよ! 近寄らないで!』


『ええー!? そんなー!』


 ……ということになりかねない。


 私は友情は維持したいので、これは困るのです。フリーダは何となく気づいている気配はあるものの、まだ私の邪神様としての側面を本当に見たわけではない。その点はエミリアさんも同様です。


 そういうわけなので、頼れる男子がいてくれると、いざというときに私の正体を隠し続けることができるだろう。その男子が私の事情を知っているならば、文句はないですという具合だ。


「では、私はフェリクス様を」


 いざってときは頼みますよ、フェリクス!


「それじゃあ、具体的な計画を決めようか。どうせピクニックをするなら景色のいい場所がいいよね」


「そうですね。公園に行きましょうか?」


「公園か。いいね!」


 帝都郊外にはいくつかの自然公園が設けられている。確かゲームの中でもピクニックと称したデートで、その手の公園を訪れていたはずだ。


「ゲルトナー記念公園はどうです? ボートで遊べる湖とかもあって綺麗でしたよ」


「それはいいかも。イリスもそれでいい?」


 エミリアさんの提案をフリーダが私に確認する。


「ええ。いいですよ。楽しみです」


 今は友人たちと少しでも思い出を作っておきたいのです。12月の金色祭が終わったら、私は帝都を離れ、学園を辞めることになるでしょうから。


「日時は今週末でいい?」


「予定は特にないです」


「では、決定だね」


 あとはフェリクスたちを誘うだけですね。


 私はフェリクスに会いに生徒会室に向かう。


「フェリクス様、少しお時間いいですか?」


 フェリクスはいつものように副会長兼会計の席にいた。


「ああ。どうした?」


「今週末、フリーダたちとピクニックに行こうと思うですが一緒に行きませんか?」


「ピクニックに?」


「ええ」


 フェリクスがもの凄く怪訝そうな表情をしている。私、何か不味いことでも言いましたか……?


「いや。予定は空いているが……」


「カルトの件は大丈夫なのか、イリス嬢?」


 フェリクスの代わりにそう尋ねたのはクラウスだった。


「ええっと。完全に大丈夫というわけではないのですが……。無星の智慧教団についてはお父様たちが何とかしてくださるということになったものの、魔女協会についてはまだ手が打てていません」


「外出先でその魔女協会に襲撃される可能性はあるわけだ」


「……そうなりますね」


 ええー。だから、私はピクニックにも行けないのかい~? 勘弁しておくれよ~!


「大丈夫だ、イリス嬢。何とかしよう」


 そこでフェリクスがそう請け負ってくれた。


「いいんですか?」


「友達と思い出を作りたい気持ちは分かる。協力しよう」


「ありがとうございます、フェリクス様!」


 わーい! フェリクスはやっぱりいいやつだな~! これでどうにかなるぞ~!


「それでは今週末を楽しみにしていますね」


「ああ」


 私は無事にフリーダたちとピクニックに行けることが決まって浮かれながら生徒会室を出た。気分はるんるんです。



 * * * *



 イリスが退室してからしばらく後に別の人物が生徒会室を訪れた。


「失礼します」


「エリザベス嬢、マティアス先生。どうした?」


 それはローゼンクロイツ協会のエリザベスとマティアスだ。


「カルトの件ですが、一応協力いただいた方々にご報告をと思いまして」


「無星の智慧教団は活動を休止した。少なくとも向こうはそう主張している。どういう手段を使ったのか、秘匿されているはずのローゼンクロイツ協会にラウエンシュタイン侯爵が突然現れてな。休止を宣言していった」


 エリザベスがそう言い、マティアスが肩をすくめてそう言う。


「ラウエンシュタイン侯爵が?」


「あれは相当ヤバい知識に手を出している人間だったな。あれとやり合うことにならなくて安心したよ。魔女協会に加えて、あんな魔術師まで敵に回したら、ローゼンクロイツ協会の安月給じゃやってられん」


 フェリクスが尋ねるのにマティアスはそう返した。


「それからイリスさんから聞いたカルトの拠点はこちらで押さえました。もっとも既にもぬけの殻でしたが」


「連中、帝都の地下にいろいろと秘密基地を作ってるみたいだ」


 イリスが報告した教会地下の礼拝堂はローゼンクロイツ協会によって制圧されたとエリザベス。そこからさらに地下空間が広がっていたようであるが。


「魔女協会は?」


 そこでフェリクスがそう尋ねた。


「今のところは分かりません。魔女どもはそう簡単に尻尾を掴ませないものです」


「そうか」


 魔女協会。冒涜的な知識を崇め、探求する異端の魔女たちは、今後どう動くのだろうか……?


……………………

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新連載連載中です! 「失恋した俺に男友達みたいだと思っていた女子がグイグイくるようになった。」 応援よろしくおねがいします!
― 新着の感想 ―
邪神様のお父様ですからね、、、 強くてすごいに決まってる(*´ω`*)
イリスさんの親父さん、そんなに強かったのか…
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