邪神様と保護者
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──邪神様と保護者
私は家から出てきたものの、学園にはフェリクスの自宅から通っているわけで。
「イリス嬢。ご両親がお見えだが……」
当然、私のいる場所はすぐにお父様たちに分かってしまうのである。
「困りました。お父様たちが学園に来てしまいました」
私は生徒会室でいつものフェリクス、クラウス、エリザベスさん、マティアス先生を前に状況を説明した。お父様たちが学園にやってきていると。
「思ったのだが、イリス嬢の両親というのは実の両親なのか?」
クラウスがそう尋ねてくる。もっともな疑問だ。
「ええ。私は一応お父様とお母様の子のはずです」
「だが、イリス嬢は1500年以上前から存在する邪神なのだろう? 生まれなおしたということなのか?」
そう、この点である。私も実はよく分かってないです。
「私が推測することはできます」
そう提案したのはエリザベスさん。
「一種の性行為を利用した召喚と思われます。これまでもその手の方法で、異端の神格や召喚生物をこの地に呼び出したことは記録されています。人の肉体そのものを魔法陣などの代わりするおぞましい召喚方法ですが」
「つまり本来生まれてくる赤ん坊の代わりに……?」
「ええ」
お父様とお母様がやったことに全員ドン引き。私もちょっと引いた。
「こ、この話はここら辺にしておきましょう! それよりお父様たちが学園に来ているのですが、どうしたらいいのでしょうか?」
この流れで私が再び怪物扱いされるのはよくないです。本題に話を戻さねば!
「忌まわしいカルトだとしても、今は法的には文句が言える状態じゃない。イリス嬢は法的にはラウエンシュタイン家の令嬢であって、ご両親には娘を家に連れ帰る権利というものがある」
「だが、イリス嬢が家に連れ帰られれば、カルトの犠牲になってしまう。何とかできないのか、クラウス?」
「待て、待て。フェリクス、少し考えさせてくれ」
フェリクスが主張するのにクラウスが考え込む。
「フェリクスが言うような犯罪の、明確な証拠があれば拒否できる。あるいはイリス嬢が何かしらの事件の参考人となっている場合は国家憲兵隊で保護できる。イリス嬢、カルトについて情報提供することは可能か?」
クラウスはしばらく考えた末にそう尋ねてきた。
「カルトの拠点のひとつなら知っていますが……。それぐらいです」
「分かった。国家憲兵隊に保護を求めよう。それで引き渡しは拒否できる」
「ありがとうございます、クラウス様。でも、一応両親にはあっておきたいです」
やっぱり政治家を目指しているだけあってクラウスは役に立つな~と思いながらも私はお父様たちに言うべきことがあると思った。
「……何か話をするのか?」
「ええ、フェリクス様。一応私の親ですから」
「……そうだな。親は大事にしないといけないな……」
両親がカルトだとして、ここまでお世話になったことは事実。無下にするわけにはいかないでしょう。恩知らずになってしまいます。
「では、私はここで失礼を」
私は両親に会いに学園の中を進んだ。
* * * *
お父様とお母様は学園の応接室に通されていた。
「イリス。ここにいたのだね」
お父様はいつもの狂信者フェイスではなく、外向けの紳士フェイスになっていた。こうしていると怪しまれないんだよな~。上手く擬態しているよな~。
「心配したのよ。早く帰って来なさい」
お母様も怪しいところなど何もないというようにそう言う。
「お父様、お母様。これまで育てていただいたことについては、まずお礼を言わせてください。ありがとうございました。こうして私は楽しい学園生活を送り、友達もでき、人生を楽しむことができました」
私がそういうのにお父様とお母様は黙っている。
「しかし、私のこれからの幸せのことを思うのであれば、そして邪神である私に少しでも敬意を払っているのであれば、これ以上の干渉はやめてください」
「イリス、またはイリリース! 汝は我々の……──」
「そう、お父様たちの子であり、何より崇める神です。どうして崇拝者が神をどうこうできましょうか。お父様たちの目指すものは分かりますが、私の意志というものを尊重してください」
お父様が思わずカルトの言葉を吐くのに私がそう制する。
「人類に新しい知性を与えるときは、私自身が選びます。私も将来子供を作ることはあるかもしれませんし、別の方法を使うかもしれません。血を濃くする以外にも方法はあるのですから」
「おお。イリス、またはイリリースよ。汝はまだ我々に真なる知識は早いというのか? 我々はまだ愚鈍な肉の塊でいなければならないと?」
「そうです。全ては私が決めます。神である私が決定します。忠実な崇拝者であり、探求者であるならば、私の言葉に従ってください」
私はそうお父様たちに求めた。
「なるほど、なるほど。我々にはまだ神の真意を知るには愚かすぎたということか。ならば待とうではないか、イリス、またはイリリースよ。汝が我々に高次元の知性を、開かれた脳を与えてくださるのを……ひっひひひひひ!」
「そうね。神を探求することこそが我々の義務。であるならば、私たちがどうして今ではないのかということを探ることを行うべき。神の心を、意志を、動機を知ることも忠実なる探究者の役割……ふふふふふ」
おお。なんだかお父様とお母様が納得してくれたみたいですよ~!
「無星の智慧教団の同志たちにおいても、汝に手出ししないように命じておこう。汝が示した意志に同志たちを従わせよう。神の言葉を聞いて、そのことに背くものは、教団には存在しない」
やったぞ~! これでカルトも黙ってくれるぞ~!
「だが、教団の外では反発が起きるでしょう」
「教団の外……?」
「魔女協会」
お母様がそう短く告げた。
そうだった。カルトは二種類存在するのだった。
「魔女協会の魔女たちは神の言葉など聞きはしないであろう。あれは崇拝者であるより探求者であることを選ぶものたちだ。そして強欲でもある。神からすらも奪い、自らを高次元の存在にしようとするであろう」
うええ~! つまりクラウディアさんたちは私の言葉にも、お父様たちの言葉にも従わず野放しってことですよね……? 勘弁しておくれよ~。やめておくれよ~。
「安心するといい、我らがイリス、またはイリリースよ。汝の身は我々が守ろう。ローゼンクロイツ協会など何の役にも立たぬ組織。我々こそが神を守り、神のために尽くし、いずれは神から叡智を授かるのだ……くひひっひ!」
「お願いします、お父様。ですが、まだしばらく屋敷には帰れません」
「問題はない。汝と我々の間にある距離や時間など考えるに値しない。それは上位者である汝にとって全く意味のない数字に過ぎないのだから……ひひ!」
お父様はそんな狂信者フェイスから不意に紳士フェイスに戻った。
「だが、いつかは屋敷に帰って来なさい。汝の帰る場所はあるのだから」
「ええ。忘れませんよ」
というふうに話は進み、問題のカルトのひとつであった無星の智慧教団については、私に協力してくれることになった。
最悪の場合はお父様たちと敵対していたかもしれないので、これはいい傾向なのでは? ハッピーエンドに近づいているような気がします!
これがただの思い違いではないことを祈るのみですよ。
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