邪神様と異端崇拝者たち
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──邪神様と異端崇拝者たち
「あなたがイ=スリ・リスであると認めましょう。しかし、だとしたところで、あなたは何を我々に望むのですか? カルトからの保護と言いましたが、あなたの力があれば、カルトなど問題にもならないのでは?」
う。確かにその通りではあるのだが……。
「私にはカルトがどれくらいの規模で、誰がカルトのメンバーなのかも分からないんですよ。だから、カルトを根こそぎやっつけるというのは難しいですし、下手に私がどうこうしようとすると周辺に被害が出る恐れが」
「そうですね。あなたは人間より遥かに高次元の存在。カルトとそうでない人間を区別することに意味を見出さないでしょう。あなたにとっては我々は酷く脆弱で、単純な生き物なのでしょうから」
「そ、そういうつもりでは……」
「いいのです。分かっていたことです」
別に人間を下等だとか思ってないよ~。というかその人間より成績が悪い邪神様の方が残念な性能なのでは~? 自分で言っていて悲しいよ~……。
「イ=スリ・リス崇拝のカルトについては我々も調査を進めてきました。4月に起きた大量自殺の件で、危機が迫っていると分かりましたから」
そんな私のことは気にせずエリザベスさんが話を進める。
「イ=スリ・リス崇拝のカルトは『無星の智慧教団』と『魔女協会』のふたつが存在します。正確に言えば4月の大量自殺ののちも残ったのが、このふたつです」
「無星の智慧教団? 魔女協会?」
エリザベスさんが告げるのにフェリクスたちが疑問を示す。
「無星の智慧教団は古くからの純粋なイ=スリ・リス崇拝者たちです。イ=スリ・リスだけを神として崇めており、彼女から知性を与えられることを、その知性によって未知を探求することを信条として活動していると思われます」
「魔女協会の方は?」
「魔女協会はイ=スリ・リスも崇拝する、文字通りの魔女たちの秘密結社です。連中はイ=スリ・リスだけではなく、他にも多くの異端を崇め、その異端の力を行使することで知られています」
多分、無星の智慧教団がお父様たちのカルトで、魔女協会がクラウディアさんたちのカルトだよね。ふたつは違う組織だったのか~。頭のおかしさ具合は似たようなものだけどね~。
「あなたにとって脅威になっているのはどちらですか、イリスさん?」
「多分、どっちもです」
「ふむ。無星の智慧教団はともかく、魔女協会の方は不味いですね……」
私の答えにエリザベスさんが顎に手を置いて小さく唸る。
「エリザベス嬢。イリス嬢はそちらで保護できるのか? 結論を教えてくれ」
ここでフェリクスがそう尋ねた。
「無星の智慧教団に限って言えば、摘発することは可能でしょう。しかし、魔女協会の方は重大な脅威です。我々も過去に何度か連中と遭遇し、戦闘状態になりましたが、その度に多大な被害を出しています」
「忌々しいクソどもだよ、連中は。ちっ!」
エリザベスさんが厳しい表情でそう言い、マティアス先生はタバコを手に吐き捨てるようにそう言った。
「ローゼンクロイツ協会は帝国政府の傘下にある組織だ。国家憲兵隊や軍と協力することで、一斉に連中を摘発できないのか?」
そう尋ねるのはクラウスだ。彼は帝国に思った以上にやばいカルトがいることに、ぞっとしている様子です。
「あのな、坊主。国家憲兵隊も軍隊も相手は良くも悪くも常識の範囲の敵ばかりだった。だが、今回はどうだ? 外宇宙の邪神に悪夢に魔女! 兵隊がそんなものを相手にする訓練を受けてるって思うか、ええ?」
「確かにそれはそうだが……」
「連中を動員したところで、無駄な死人が増えるだけだ」
マティアス先生はクラウスに向けてそう言いきった。
「マティアス。国家憲兵隊と軍は必要に応じて動員します。ローゼンクロイツ協会の戦力だけでは、帝都に潜んでいる全ての無星の智慧教団や魔女協会を掃討することはできません。我々は専門家として彼らに助言し、対応することになるでしょう」
「ろくな結果にならんぞ」
「それでもです」
「じゃあ、勝手にそうしてくれ」
マティアス先生は肩をすくめると生徒会室から出ていった。
「さて、すぐにでもあなたの保護を開始した方がよさそうですね、イリスさん。我々が所有するセーフハウスに匿うことにしましょう」
「待ってくれ。イリス嬢には、12月まではこれまで通り学園生活を送ってほしい」
そこで声を上げたのはフェリクスです。
「……何故です?」
「それは……彼女にしか対処できないことも、これから先あるかもしれないからだ」
「ふむ」
フェリクスは12月の金色祭までは本当に私に学園生活を送らせてくれるつもりらしい。まだまだフリーダとも仲良くしたいし、フェリクスがそう言ってくれるのは凄くありがたい話なのです。いいやつだな~。
「私からもお願いします、エリザベスさん」
ペコリと頭を下げて私からもお願い。
「はあ。分かりました。では、そうしましょう。ですが、差し迫った危機があれば、すぐにでもセーフハウスに移ってもらいます。いいですね?」
「ええ。それで構いません」
やったー! これでこれまで通り学園生活が送れるぞ~!
「この事実は今は伏せておきましょう。無用の混乱を生みたくありません。イリスさんの正体については内密にお願いします」
「こちらとしてもそうしていただけると助かります」
エリザベスさんがそう言い、私もクラウスとフェリクスにお願いした。
「ああ。もちろんだ。俺としても学園に混乱を起こしたくはない」
「当然だ」
クラウスはそう納得してくれ、フェリクスも短くそう言って頷く。
「では、私はこのことを協会本部に報告しておきます。失礼を」
エリザベスさんはそう頭を下げて生徒会室を出ていった。
「しかし、何というか……。思った以上に邪神だったんだな、イリス嬢。その割に腰が低いのが、とてもミスマッチで邪神らしさがないが……」
「ひょっとしてカルトの前ではもっと邪神っぽく振る舞った方がいいのでしょうか?」
「確かにその調子だとカルトには舐められそうではあるな」
もしかしてカルトがこれまで言うことを聞かなかったのは、邪神様っぽく振る舞わなかったせいなのだろうか?
「では、こほん。我こそは邪神イリス……! 我が崇拝者たちよ、我に従え……!」
邪神っぽいポーズを決めながら私はそう言ってみた。
「……いや。やはりイリス嬢はそのままでいいぞ」
「……そうだな。そのままのイリス嬢で大丈夫だ」
クラウスもフェリクスも真顔でそう返してきた。は、恥ずかしい~!
「え、えっと。では、これからどうしましょうか?」
私は気を取り直して、そう尋ねる。今後の方針は私の正体を隠しておくことと、危険が迫ったらローゼンクロイツ協会のセーフハウスに匿われることしか決まっていない。これからの学園生活を本当に普通に過ごしていいのだろうか?
「普通に過ごせばいい。何か問題があれば私かクラウス、またはエリザベス嬢たちで解決する。学園生活を楽しんでくれ」
「ありがとうございます、フェリクス様!」
生徒会長と副会長が味方なら何とかなるでしょう。
「では、教室に戻りますね」
「ああ。私も一緒に行こう」
そうして、私たちが2年A組の教室に戻ったとき──。
「きゃああああ──っ!」
女子生徒の悲鳴が響いてきた。
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