邪神様に迫るイベント
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──邪神様に迫るイベント
学園生活はかなり安定してきました。
勉学は相変わらず応用が苦手ですが、応用方法ごと覚える荒業が徐々に成功しており、授業でも怒られることは減って来ました。
生徒会も、まあ、ほどほどにやれています。
「さあ、諸君。いよいよ文化祭だ!」
生徒会室で上機嫌にそういうのはクラウスだ。
「文化祭、ですか。具体的にどのようなことをするのか、まだ聞いていません」
「クラスや部活ごとに日ごろの成果をという具合だ。文化祭は生徒会が全面的に運営にかかわれるから、こちらも腕の見せ所だな。俺が生徒会長としてばりばり仕切っていくから、イリス嬢はフェリクスと一緒に支援してくれ」
「はい。分かりました」
クラウスは自分の実力が示せるから文化祭が好きという感じです。
「まずは文化部の出し物について会議があるから、イリス嬢は議事録の作成を。フェリクス、お前は副会長兼会計として各部の使える予算の調整だ」
「はあ。で、お前は何をするんだ?」
「もちろん生徒会長として使える人間を使い倒すだけだ。ははは!」
「全く」
フェリクスはいつもの様子のクラウスにため息。
「でも、楽しみですね、文化祭。私たちのクラスは何をするんでしょうか?」
文化祭は前世でも好きだったから、この学園でも楽しみたい。
「まだ決まっていなかったな。例年通りなら演劇か、演奏、または模擬店というところだ。うちのクラスであまりやる気は期待できないが」
「そうなのですか?」
「うちのクラスは特権階級の息子や娘がいっぱい。そういう連中は得てして学園以外にいろいろと忙しくて、この手の行事に積極的に参加しない」
確かに私たちのクラスだと第二皇子のレオンハルトがそうであるように、学園以外にも大事な義務がいろいろとあるものです。
私は何もないけど。
「文化祭の売り上げは全て慈善団体に寄付される。そのことをもっと意識してもらいたいものだ。貴族や富裕層であるならば」
フェリクスはため息交じりにそう言った。
フェリクスが言わんとするのはノブレス・オブリージュってやつですね。高貴なるものの義務という感じのもの。
「お前はそういうのをちょっと意識しすぎじゃないか? 寄付って言ったって、大した額じゃない。日ごろからもっと大金を寄付している連中は、この学園に掃いて捨てるほどいると思うぞ」
「額の問題ではない。自分たちの姿勢の問題だ」
「お堅いねえ」
フェリクスが立腹とした様子で言うのに、今度はクラウスがため息。
「フェリクス様の気持ちは分かりますよ。自分たちで努力して働いて稼いだお金を寄付するというのは、ただ親が寄付しているのとは違うと思いますから」
「理解してくれて感謝する、イリス嬢。そう、そういうことだ」
私の援護射撃にフェリクスは表情を変えずにそういう。少しは喜んでよ~。
「なら、文化祭は何としても成功させないとな。諸君の頑張りに期待する!」
「お前も仕事はあるからな?」
クラウスはなんだかんだで物事を纏めてくれるし、フェリクスはいい加減なクラウスの細かいところを的確に補佐しているしでいいコンビだと思います。
私はこのふたりが優秀なので出る幕がございません。
「こちらの書類の方、清書は終わりました。今日は他には何かありますか?」
「今日はここまでだ。文化部の出し物についての会議は明後日だから、それを忘れないように。今の調子なら問題なく議事録は作れるだろう」
「はい。では、失礼いたします」
フェリクスにそう言われ、私は生徒会室を出ようとして、あることを思い出した。
「あの、フェリクス様。やはりこれは返した方が……」
私が取りだすのは公爵家の家紋入り魔道具だ。
フリーダからあんな話を聞いたし、早く返そう返そうと思いつつも、ずるずると今まで持っていてしまった。
失くしたりすると大変だし、それに身内にしか与えない品らしいので、やっぱり私が持っていない方がいいのは間違いない。
「持っていていいと言っただろう」
「で、ですが、これは公爵家の……」
「構わない。その公爵家の俺が構わないと言っているんだ。気にするな」
「わ、分かりました」
ということで、押し切られてしまい結局返せなかった。前々から思っていたが、かなり強引な男子ですよね、フェリクス。
* * * *
前にあった公衆の面前でのレオンハルトのエミリアさんへの告白。
あれが問題になるんじゃないかなと思っていたら、早速問題になりました。
それは私たちのクラスでもショートホームルームで文化祭のことが告知され、私たちのクラスでは演劇をやることに決まったことから始まる。
「イリスも主役に立候補すればよかったのに」
「私はそういう大役はちょっと……」
フリーダが不満そうなに私は頬を掻く。
演劇の内容はシェイクスピアのロミオとジュリエットみたいな話です。実にシンプルな悲恋の話で、脚本がいいので素人がやってもそこそこ様になると思われていた。
私はジュリエットの母役でちょい役です。なので、やることもさしてないので大道具などの準備を手伝っている。
ジュリエット役はエミリアさんだ。ロミオはレオンハルトだからね。
クラスの大体の人間はこれに賛成したのだけれど、全員がそうではないというのが問題なのである。
そう、ひとり強固に反対している人が──。
と、そこでドンと誰かが転んだ音がした。私たちが音に驚いてそちらの方を見ると、エミリアさんが倒れており、それを見下すようにひとりの女子が立っていた。
「あら? また転んだの、エミリアさん? 少しどんくさくなくて?」
その女子はそう言ってエミリアさんを助けようともせず、くすくすと笑っていた。
「ああ。またやってるよ、マリーさん……」
フリーダが不愉快そうに見るのは、マリー・フォン・シュタインヴェークという金髪をカールにしている今にもお嬢様という見た目の女子生徒。
彼女はシュタインヴェーク侯爵家の令嬢で、さらに言えばかつてのレオンハルトが囲っていたガールフレンドのひとりです。
で、彼女は私に脳をこねこねされたレオンハルトに振られた挙句、レオンハルトがクラス懇親会で堂々とエミリアさんに求愛した場面を見る羽目になった。そのせいでどうにもレオンハルトではなく、エミリアさんを敵視するようになってしまったのです。
恨むならレオンハルトを恨みなよ~。八つ当たりはやめておくれよ~。
「エミリアさん。大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です、イリスさん」
私は倒れたエミリアさんに手を貸し、エミリアさんが立ち上がる。
「マリーさん。転んだ学友を嘲笑するなど淑女として恥ずべきことではないですか? 淑女らしからぬ人はこのクラスにも、学園にも相応しくないですよ」
「まあ。それは失礼を。くすくす……」
私が怒っても全然迫力がないために笑い飛ばされてしまった。腹が立つよ~。
「イリス嬢の言う通りだ」
ぬっと私の背後から現れてそういうのはフェリクスだ。いきなり出てきたからびっくりしてしまった。
「エミリア嬢に謝罪しろ、マリー嬢。それでこの場を収めるとする」
「な、何故ですの? お断りですわ!」
「なら、クラスに相応しくないお前はこの劇から降りてもらおう。それだけだ」
「くっ……。……平民上がりの分際で……」
フェリクスの言葉にマリーさんはそう忌々し気に小さく呟いた。
「何か言ったか?」
「何も。エミリアさん、ごめんなさいね」
マリーさんは適当に謝ってさっさと取り巻きのところに去っていった。
「ありがとうございます、フェリクス様。注意していただき」
「いや。気にするな。……しかし、お前も本当に友達のために行動するんだな……」
何ですか、それ。私はそんなに薄情じゃないよ~。
「エミリアさん。何か困っていることがあれば、私たちに言ってくださいね」
「ありがとうございます、イリスさん、フェリクス様。でも、本当に大丈夫ですから。というのも──」
私がエミリアさんにそう言っていたとき、エミリアさんの名を呼ぶ声が響いた。
「エミリア! 大丈夫かい、エミリア!? 転んだのだろう? 怪我はないかい!? ああ、すぐに病院に行かなければ!」
「だ、大丈夫ですから、殿下」
飛んできたのは別の教室にいたはずのレオンハルトだ。彼はすっ飛んでくるとエミリアを抱き抱えて本当に病院に向かおうとする。
エミリアさんを愛しなさいとは言ったけど、ちょっとやりすぎだよ~。エミリアさん、もう逆に困ってるよ~。
「エミリアが怪我をすると危ないので、私はここで見張らせてもらう!」
「というわけで、大丈夫ですから」
胸を張って宣言するレオンハルトを横にエミリアさんが微笑んだ。
本当に大丈夫かな。何かシベリアンハスキーを番犬にするような不安を感じます。
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今日の更新はこれで終了です。明日から1話ずつの更新になる予定です。
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