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邪神様は馴染みたい

……………………


 ──邪神様は馴染みたい



 学園での日々は問題なく進み、私もかなりクラスに馴染んできた。


「ねえねえ、イリス。聞いた?」


「何をですか?」


 声を落としてフリーダが話しかけてくるのに私は首を傾げる。


「レオンハルト殿下のことだよ。レオンハルト殿下が女遊びをぴたりとやめたんだって。すっごい噂になっているよ」


「それはいいことでは?」


「うん。まあ、殿下に泣かされる女の子がこれ以上でないのはいいことだけど。けど、少し物足りなくも感じる。学園のゴシップは大体殿下の交友関係絡みだったから。もう殿下が刺されかかったとかのニュースはないんだなって」


「あはは……」


 フリーダが冗談のように言うのに私は一応笑っておいた。フリーダも本気でレオンハルトが浮気しなくなったのが退屈だと思っているわけではないだろう。いや、ないですよね……?


「そう言えば今度のクラス懇親会、イリスも出席する?」


「その予定です」


 私が友人と呼べるのは今のところフリーダぐらいである。


 生来の人見知り故になかなかクラスに馴染むことができず、四苦八苦しているところでして。にこにこ笑顔の超美少女なら何とかなるかと思っていたが、何ともなりませんでした。


「あたしもその予定。アルブレヒト様も出席するから」


「距離を詰めるチャンスですね」


「そ、そ、そうだよ。で、でさ、イリスはそういう相手はいないの?」


「私ですか……」


 正直、今のところ男性とお付き合いしたいという欲求はない。自分で恋愛するよりも、人の恋愛を見ている方が楽しいのです。対岸の火事というか、何というか。


「今のところは特に親しい殿方はいませんよ」


「フェリクス様は?」


「い、いや。あの方は特に私に好意など持ってはいらっしゃらないでしょう」


 どうしてフェリクスが出てくるんです。


 でも、確かにフェリクスにはなんだかんだで親切にしてもらっている気がしなくもない。それでも全ては無理やり生徒会に入れた件と睨んでくる件で相殺されていますが。許さないぞ!


「フェリクス様がイリスをどう思ってるかじゃなくて、イリスがフェリクス様をどう思ってるか聞きたいんだけど」


「ううむ。好きではないですが、決して嫌いでもないですよ。危ないからとこういうものも貸していただいてますし」


 私はそう言ってフリーダにフェリクスから借りている魔道具を見せる。


「え! それを借りたの?」


「ええ。どうかしました?」


 フリーダは魔道具を見ると驚いた表情を浮かべていた。何だろう?


「これ、公爵家の家紋入りだよ。一般的にこういう魔道具は身内にしか渡さないものなんだ。偽造などを防止するためにね」


「つまり、私が持っているのは不味いのでしょうか……?」


「フェリクス様本人から渡されたなら不味くはないけど……」


「けど?」


「これは『お嫁に来てね!』って言ってるのとほぼ同義だよ」


「ええーっ!?」


 凄くさりげなく求婚されたと!?


「いや。直球の求婚ではないよ。ただ身内になってねって意味だから、他には考えられないでしょう? イリスが公爵家の養子になるわけじゃないし」


「そもそも公爵家について私はよく知りませんし……」


「なら、教えておいてあげよう」


 任せなさいというようにフリーダがシュタルクブルク公爵家について解説。


「シュタルクブルク公爵家はかつての選帝侯の血筋でね。別に今に皇室と直接的な血のつながりはないんだ。今では完全に皇帝と皇室に仕える立場になったけど、かつては皇帝を選んでいた血筋というわけで特別な立場です」


「ふむふむ」


 公爵というのは王族や皇族が受ける地位だと思っていたけど、このエスタシア帝国ではそうでもないらしい。


「でね。そんなシュタルクブルク公爵家の次期当主であるフェリクス様にはちょっと過去があって……」


 そう言ってフリーダは周囲をきょろきょろと見渡して、他に誰か話を聞いていないかを確認した。


「フェリクス様は現当主のフリードリヒ閣下の子供じゃないんだ」


「ん? どういうことです?」


 現当主の子供じゃないのに次期当主とは?


「ほら。前にテロがあったでしょう。慈善パーティを狙ったテロ。あれで大勢の貴族の関係者が亡くなったんだけど、フリードリヒ閣下の子供もその事件で亡くなったの。もうフリードリヒ閣下は高齢だから今さら子供は」


「だから、フェリクス様が……」


「うん。一応血筋だけど、かなり遠い親類だったらしいよ。ほとんど庶民みたいな生活してたって話をちょっと聞いたし」


 フェリクスのところもいろいろと大変だったんですね。


「けど、そこからあの尊敬できるフェリクス様になったのが凄いよね。もう学園で一番貴族らしいって言っていいぐらいだし」


「努力なされたのでしょうね」


 クラウスは『フェリクスは何でもできる』と言っていたが、きっと何でもできるように努力したのだろう。他人に認められるためか、自分を認めるためか。


「だからね、フェリクス様は優良物件だよ」


「いや。それを聞いてますます私はフェリクス様に相応しくないと思いましたよ」


 凄い努力家で私を睨んでくる男子フェリクス。私は努力家じゃないし、人に睨まれるのが好きなドMでもないので遠慮したい。


「そっか。イリスとフェリクス様はいい感じだと思ってたんだけどね」


「気のせいですよ」


 私は残念そうなフリーダにそう言っておいた。



 * * * *



 それから数日後、クラス懇親会の日が訪れた。


 懇親会が開かれるのは、なんと帝都の高級ホテルである。


 流石はアーカム学園といったところです。貴族と資産家の子女のみが通う学校なだけはあります。


 クラス懇親会には制服ではなく、それぞれフォーマルな服装での参加となる。私はオペラグローブとタイツを身に着け、さらに露出が少ない青いドレスを選択。


 触手が見えないようにするためというのもあるが、純粋に露出の大きなドレスに慣れていないということもあります。自分の肌を大きく晒すというのはちょっとばかりまだ勇気がいります……。


「フリーダは素敵なドレスですね」


「ありがと、イリス。イリスのドレスも可愛いよ」


 フリーダは最近流行りのデザインをした赤いドレスだ。露出はそこそこですが、いつもはもっさりした髪を今日は綺麗に整えていて印象が違う。わが友は可愛いです。


「イリス嬢! 素敵なドレスだね」


 と、ここでクラウスとフェリクスがやってきた。ふたりともタキシードでばっちり決めている。イケメンは何を着ても似合うのだろうが、このタキシードは悔しいながらばっちり似合っていると認めざるを得ない。


「ほら。フェリクス、お前も何か言えよ」


「……馬子にも衣裳だな」


「お前なー!」


 フェリクスが呟くように言った言葉にクラウスがフェリクスの頭を叩く。


「じゃあ、俺は挨拶回りがあるから」


 クラウスはそう言ってさっさと立ち去った。


「イリス嬢」


「は、はい」


 そこでまたフェリクスが私の方をじいいっと睨む。


「今の言葉は悪かった。似合っている」


「あ、ありがとうございます」


「……お前も懇親会を楽しめるといいな」


 フェリクスはそう言って立ち去った。


「クラスメイトを覚えて、仲良くなるチャンスだから生かそうね、イリス」


「はい。よければ紹介していただけますか?」


「いいよ!」


 それからフリーダの紹介を受けて、何名かの生徒と名前を覚え合った。


「し、じゃあ、そ、そろそろ私もアルブレヒト様と話したいから。ごめんね!」


「健闘を祈りますよ、フリーダ」


 そして、私がフリーダを送り出したときだ。


「エミリア嬢!」


 そこで一際大きな声が聞こえた。聞き覚えのある声だ。


 私がその方向を見るとレオンハルトがエミリアさんを前に跪いていた。


「おお。この私の好意を伝えるのにはいくら言葉があっても足りない! 本当に君のことを愛しているんだ! 心の底から!」


「で、殿下……!」


 おおう。レオンハルトがエミリアさんに求愛している。


 浮気性などは治したものの、目立ちたがりという点は治せていなかったようです。もうクラスメイト全員の視線がレオンハルトとエミリアさんに向いています。


「私の愛を受け取ってはくれないか、エミリア嬢!」


 レオンハルトはそう言ってエミリアさんを見つめる。


「喜んで! 是非とも受け取らせてください!」


「ありがとう、エミリア嬢!」


 こうしてレオンハルトとエミリアさんは結ばれたのであった。


 HAPPY END!


 とは言えど、ここまで派手にやったら何か別の問題が起きそうな気がしますね。何もないのが一番なのですが、どうなることやらで……。


……………………

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