変わった
魔力の先に行くと黒い影が見えた。
ここは学園の外?
『グ、ギ、ギ』
音を鳴らして振り返った人物。
サラだった。
黒い背中とは対照的に前側は血で真っ赤。
腰の青い鞘から刀をスラリと抜いてサラが駆けてくる。
右に避けると風がヒュッヒュと切れていた。
「落ち着けよ」
「…………」
サラは何も言ってくれない。
武器を持っていない俺は下がることしかできない。
これ以上、声を掛けるのは危険だ。
一瞬の隙を突いて魔力の糸を掴む。
戻ってきた俺は警告した。
「サラがくるかもしれない!」
アステル先生が身構えて数分。
来なかったが、魔力の糸が燃えるように消えてしまう。
「……何がありましたか?」
「サラがサラじゃなくなってた」
「そうですか」
既視感のある怖さだった。
「サラは魔力が見えるということですが、魔法は通用しないでしょう」
「……」
「あなたの手が必要かと」
「いや、なぜ?」
『このアステルが分からないと思っていたんですか? あなた、魔力ないでしょう?』
そう言って先生はその場を去っていった。
「だいじょーぶ?」
スカーが不安そうに見てくる。
「まあ、なんとか」
「じゃあ、五秒すぎたからチュー地獄の刑!」
飛び掛ってきたスカーを抱えると、首元に両手を巻き付けてきた。
「ん」
口を塞がれて何も言えない。
そのままスカーを抱えて反省室を出る。
キスをしながら歩くと他の生徒にチラチラ見られた。
当たり前だし、恥ずかしい。
「……」
スカーも同じ気持ちみたいでスッと口を離す。
「今ならチューしても!」
せっかくキスを辞めてくれた今を捨てるわけにはいかない。
「わかったわかった」
適当に誤魔化してスカーを胸元にポフッと寝かせる。
「わかってなぃ……」
それからは学園の修復に勤しんだ。
スカーは魔力が沢山あるってことで、小さな穴を土の魔法で埋めたり。
「やだ! チューしてくれなかったから!」
「終わらないぞ」
「チューしてくれたら、頑張るけど〜」
しょーがないし? みたいな感じでチラチラ見てくる。
「仕方ないな」
抱っこさせられているのにキスまでサービスした。
そんなことしてたら一日が終わる。
「はあ」
寝室のベッドで横になってため息をついた。
「どうしたんです?」
カロンが聞いてくる。
「友達が化け物になった」
「気持ちは分かります、私も目の前で人が死ぬ瞬間を見たことがあります」
「つらいなあ」
「運命ですから」
トコトコ戻ってきたスカーが飛び込んでくる。
「ぐあ……」
スカーの体が俺の腹で跳ねる、痛みに悶えた。
「ご、ごめんなさい!」
体の中心にドスりと痛みが響いている!
「ごめん、なさい……」
スカーが目に涙を貯めて謝ってくれる。
お腹を撫でてくれて気持ちがいい。
「別に、ぐあっ」
「甘えん坊なのに、迷惑ばっかり」
俺の腹に顔を埋めるとひたすら謝ってくる。
『消えろって言われたら、消えるから……』
ポロリと頬を涙が走る。
「おいおい、スカーが居なくなったら俺は死ぬぞ」
ギューッと抱きしめて、スカーの涙を拭う。
「それは、だめだよお」
「だから許す」
「……うれしい」
柔らかい頬を摘んでモニモニ。
「んんぅ」
プニプニ動かすとニコニコしてかわいい。
「今日はチューしたまま寝たいなあ」
「どういうことだ?」
「唇をぴったり合わせて、目を閉じる!」
起きたらすごいことになるな。
「じゃあするか」
「チュー、するねっ」
ピタリと唇を重ねて目を閉じた。
スカーが送り込んできた舌を受け入れ、注がれる唾液を飲む。
不意に目を開けると時間が経ったことに気づく。
浅い眠りだからか、胸がドキドキしている。
スカーの唾液が口の中が渋滞を起こしていて、溢れてきそうだ。
ゴクリと飲み込み、スカーの舌を何度か吸う。
「ん」
もう一度眠ることにした。
ペチペチと頬を叩かれて目を開ける。
「んーん!」
スカーが叩いていたらしい。
俺の唾液が吸われていき、空っぽになると顔が離れていく
「まんぞく」
そう言って服の裾で口元のヨダレを拭う。
「そうか」
「お風呂行こー?」
「今日はやめとくよ」
ベッドから降りたスカーが俺の手を引っ張る。
「いこーよー」
「なんでだよ」
「スカーのセクシーボディみたくないの?」
「いやあ、そんなに……」
「おねがいっ!」
手を合わせて頼み込まれたら仕方ない!
服を脱ぐとか、面倒なんだけどな。
「セクシーポーズ!』
脱衣所でビシッとキメるスカー。
「そんなにセクシーじゃないな?」
腕を上げて胸元を強調する王道ポーズ。
「そんなあ……」
「かわいいからいいんじゃないか」
「かわいいのは当たり前だもん!」
くっ、あざとい。
いつものように浸かってから出るところまでワンセット。
今日はスカートを履くらしい。
「ジャケット交換しよー」
「もうスカーとそういうのシタクナイナー」
「むうう……」
「嘘だから」
ジャケットを入れ替えて部屋に戻る。
「ワタクシは後から行くのでお二人でどうぞ」
「じゃあそうするか」
スカーを抱っこして玄関に向かう。
「えへへー」
「どうしたんだ?」
「抱っこなんて言ってないんだもーん」
どうせしてくれって言うんだから変わらないだろ。
「じゃあ降りてもらうか」
「言ってなくても、してくれてるから嬉しいんだもんっ」
「ならいい」
ドアを開けると男が待っていた。
『ローザとサラが激闘を繰り広げている』
「なんだと!?」
「かれこれしばらくは戦っている、加勢した人間もサラには勝てないらしい」
男が「さすが上位クラスだ」と手放しにサラを褒める。
「もっと早く言って欲しかった」
「鍵がなかったんでな」
入れないなら仕方ないか。
「俺がやる」
普通の人間は魔法で戦うから、サラに勝てる人間はほとんど居ないんじゃないか?
クラス対抗のヘルって奴が可能性あるかもな。
「データを拝見したが、あれはたしかに魔力がない人間が適任だ」
「場所は?」
「城の外までローザが誘導している」
スカーが俺の服を引っ張る。
「スカーもついてく……」
「ダメだ、男と居てくれ」
「なんでえ」
「危ないから」
と思ったら男も行くらしい。
「久々に三人で動くのもありだな」
「ああ、そうだ」
国から出た日を思い出して学園を出る。
あの日から変わったことは、ほんの小さなことだ。
『りゅうき〜』
「頬ずりするのほんとに好きだなー」
スカーが、かわいくなっちゃったことだ。




