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覚悟を握れ







『なんで歩かねえんだ』


「調子、良くないから!」


「えー」


「けほけほーって」


 咳がわざとらしい。


「仕方ないな」


 抱きついて足を浮かせるスカーのお尻に手を置いて支える。


「もっといやらしく触ってもいいよ」


「そんなことを片手でする余裕はない」


 魔道アームで何かをするのは慣れてきたものだ。


 ドアノブ程度なら簡単に捻れる。



『待っていたぞ』


 部屋を出るといつもの男が待ち構えていた。


「俺達は無事だったよ」


「そんなことは知っている」


 腕を組んで俺とスカーを交互に見る。


「我が国、エオルアが単独の何者かに攻撃された」


「えっ!」


 スカーが驚きの声を上げる。


「パパは? 大丈夫?」


 スカーと俺が転生した国だから、スカーは気になるんだろうな。


「そこまでではないが、攻撃者の正体が掴めていない」


「なぜ?」


「単独でここまで襲撃できる脅威は闇の軍勢に属する大将軍しか居ないのだが、闇のオーラは残っていなかったらしい」


 闇の軍勢じゃないってなると、俺みたいな転生者による反逆なんじゃないか!


 ありうる!


「黒い髪、黒いオーラ、青い刀。瞬間移動もするそうだ」


 やっぱ有り得なさそう。



 全ての条件に合う人間を俺は知っているからだ。



「身に覚えがあるか?」


「サラかもしれない」


「モルゲンレーテ家だと?」


「間違いないと思う」


「気をつけてくれ」


 男はそう言ってその場を後にする。


「けほっけほ」


 スカーが口を塞いで咳き込む。


 まだ建物は完全に治ってない、空気も悪いか。


「大丈夫か?」


『うえぇ……』


 スカーは嫌そうに呟くと。





 唇を舐めながら握り拳を作った。





「困ったら言えよ」


「大丈夫、だから」


 廊下を歩いて食堂に入る。


 割と無事で、食事を取れる程度の修復が成されている。


 カウンターに立って俺は言う。


『いつもの』


 返事を聞いてからテーブル席に座った。



「手、洗ってくる!」


 スカーがトイレに向かっていく。


「分かった」


 と言ってもトイレで襲われたりしないように、入ってから出てくるまでじっと見つめる。


 問題なく出てくると俺の太ももに座ってきた。


「またかよ」


「ずーっと甘えたいんだもん」


「降りやがれ」


「やだやだ」


 攻防の末、俺は根負けした。


「邪魔したいわけじゃないから!」


「長い髪がわしゃわしゃしててな」


「……切ったら、居てもいい?」


 スカーが背中まで伸びた長い髪を掴む。



「いや、しないでくれ」


「なんで」


「長い方が好きなんだよ」


「分かった!」


 微笑んだスカーが長い髪を手で束ねると。


『もしスカーがポニーテールしたら、かわいーい?』


 首筋を解放するように見せつけてくる。


「かわいいな」


「どれくらいかわいい?」


 俺は首元に近寄って唇を押し付けた。


「……これくらい」


「本当に?」


 ニヤニヤしながらアンコールしてくる。


「本当だよ」



「二回は聞いてないよっ」


 照れたスカーが髪を手放して顔を隠してしまった。


「見せろって」


 強引に手を解いて、赤らめるスカーと目を合わせる。


「もうやだあ」


「いつも乗せてやってるんだから、スカーも見せてくれ」


 一瞬だけ唇を舐めるように重ねると。


 ボフッと顔が真っ赤に変わる。


「みんな見てるのに……!」



 そう言って自身の銀髪を巻き込んで顔を隠してしまった。



「そろそろできるから取ってくるよ」


 スカーの肩をポンポン叩く。


「の、退く」


 横の席に座ってくれた。


 立ち上がった俺は二つのおぼんをカウンターから受け取って戻る。


「二つ? いつも?」


「ちょうどいいだろ」


 スカーの前に一つ置く。


「うん!」


 俺も隣に座って箸を手に取った。


「いただきまーす」


 和食に近いスタイルがあってよかったなあ、マジで。


 森羅万象に感謝をしていると。



「あーん……」


 スカーが口を開けて見てくる。



 おかずの揚げ物を突っ込むとモサモサ口を動かして。


「おかわりー」


「早いな」


「えへへ」


 大きめの揚げ物を押し込んだら満足してくれた。


 それからスカーもおかずを食べさせてくれたり、楽しい食事だった。


「ふう」


 食器を片付けて食堂を後にする。


「だっこ」


「仕方ないな」


 教室に入るとあんまり生徒は居ない。



『適当に学園内の修復をしてくださーい』


 アステル先生は空中で揺れながら言う。


「急ピッチで立て直す必要があるんですよ」


「なぜ?」


「他の国が正体不明の存在に襲われててですね……この国も例外ではないんです」


 男が言っていた奴?


「だから――」


 アステル先生の話を遮るようにドタドタと教師が入ってくる。


「騒がしいのですが」


「反省室で瞑想をさせていたアラスが、何者かに殺されました」


「ええっ!?」



 その言葉を聞いてアステル先生が俺を見てくる。


「……恨みのあまり殺しましたね?」



「真剣勝負で負けたのに殺せるわけ」


「そう言えばそうですね」


 恨まれてもおかしくない人間だと思う。


「誰が殺したのか分かりますか?」


「それが、痕跡も何もないので……」


「困りましたね」


 いや、もしかしたら。


 直感的に俺は反省室に行ってみたくなった。


「俺が見に行ってもいいですか?」


「アラスの死体はもうありません」


「少し、気になることがあって」


 アステル先生がついて行くことになって、反省室に向かった。


「チューしたい」


 先生が隣にいるのに小声でそんなことを。



 チッチと舌を鳴らして、抱っこされた側なのに上目遣いを繰り出してくる。



 甘え方だけは一丁前だ。



「ちょっとだけな」


 少しだけ唇を合わせて離れる。


 まだ足りないのか、首元に噛み付いてきた。


「いたっ」


「ごめん」


 そう言うと痛みが走った所をペロペロ舐め始めた。



「ここですね、反省室は」


 足を止めてドアの先に行く。


 窓が一つと机しかない簡素な部屋。


 周囲を見てみると特に問題はない。


 唯一あるとすれば、魔力の糸があること。


「……ちょっと行ってくる」


 俺はスカーを下ろして窓から伸びた糸に近づく。


「何があると言うんですか」


「俺はサラと同じ能力があるんだ」


 スカーが「いかないで」って呟く。


「見に行く必要があるだろ?」


 どこに続いてるのか分からない。


『だめ……さみしい……』


 スカーが胸に手を置いて。


 震えた目で見てくる。



「すぐ終わるから」




『五秒過ぎたら、チューじごくの刑だからっ』




 俺は魔力の糸を掴んだ。










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最強美少女ギルドに入った俺の初仕事は貰った剣を100億にすること!(クリア報酬→追放)
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