面倒な女の子
『闇の軍勢だって』
『やばいね』
そんな声が聞こえる。
とりあえず席を立って、廊下から遠い所に逃げた。
……スカーとサラが近づいてきた。
ガロードも金髪ちゃんも。カロンまで!
ってゾロゾロ俺の周りに来てるんだが。
「なんで来るんだよ」
「端っこに固まるのは賢いと思ってな」
ガロードはそう言って廊下側に体を向ける。
「爆発はモノ壊しちゃうし、友達も少なくて……」
「金髪ちゃんは俺が守る!」
俺は胸を張って大きく見せる。
「うん、ありがと」
スカーが羨ましそうに俺を見てくる。
「お前はダメだ」
「なんでー」
「なんとなく」
「ひ、ひどい!」
許さないと言うように体当たりしてくるスカーを受け止める。
「冗談だよ」
「むう……」
「よしよし」
「えへへー」
チョロい。
「あの、私は?」
次はサラか!
「守るぞ」
「過労死しませんか」
「俺よりみんなの方が生きる価値あるからな、死んでも変わらんな」
俺なんて強くない異世界転生者だぞ。
この世界の住人の方が、どこよりも大切に決まってる。
「価値は平等では?」
「いや、違うな」
「私はリュウキくんを高めに見てるので」
そんな話をしていたら、魔法の音が聞こえてくる。
遅れてどこからともなく悲鳴が。
『に、逃げろ! 闇の――』
走ってきた男が俺達の教室に言葉を送って走る。
その直後、闇のオーラが廊下に散漫する。
「や、やば……」
俺は咄嗟に窓を開けた。
こっから出れる!
「逃げよう」
足を乗せるとサラに引き寄せられた。
「私達はこっちから行きましょう」
そう言って魔力の糸に俺を巻き込むと廊下側を突き進む。
慌てた生徒。戦う生徒。
黒い服に身を包んだ闇の軍勢。
情報が頭に入っていき、気がついたら学園の屋上に来ていた。
「お、おい!」
俺とサラだけ安全な所だと。
スカーが心配だ。
「俺は戻るからな!」
手を伸ばすと魔力の糸が炎に変換される。
ボボボボッ。
その音は衝撃音で掻き消された。
「なにしてんだ……?」
「闇の軍勢は強力なんです」
「そりゃそうだろ!」
「英雄のローザが闇を払うまで、ここに居てくれませんか?」
サラが俺の手を握る。
「私は、リュウキくんに死んで欲しくない」
「……」
「どちらかが死ぬことになったら、私が死にたいんです」
「だからって……」
俺の手から離れたサラが、屋上のドアを開ける。
「私が、リュウキくんの大切な人を助けます」
そう言って階段を駆け下りていった。
こんな安全な所に居るのは確かにいいかもしれない。
サラがみんなを助ける可能性も高い。
でも。
俺も加勢したら、その可能性は上がるんじゃないのか?
俺は閉まったドアに手を伸ばした。
『リュウキ!』
サラとリュウキが仲良く消えていく。
スカーは泣きそうな気持ちになった。
運動神経もない自分を背負って歩いてくれる人間はリュウキしか居ないのに。
当の本人はサラと一緒。
面倒な女の子だから置いていかれるのは当たり前。
ポロポロと弱気が形になって出てくる。
「に、逃げるんだよ!?」
金髪ちゃんの声にスカーは霞んだ視界で前を見る。
頑張るしかない。
金髪ちゃんの手を握って窓から飛び出した。
「走るよ!」
他の生徒も散るように学園から飛び出る。
ガロードの後を追って金髪ちゃんとスカーは走る。
「どこに逃げる?」
「敵次第としか言えねえ」
学園を抑えてきた以上、そこから離れる必要がある。
それを阻止するように、三人の前に闇が姿を現す。
「くそっ……」
ガロードが右手に土の剣を宿らせる。
『言え、同胞の場所を』
「同胞だと?」
「仲間の目覚めを幽閉したことなど知っている!!」
黒いマントが揺れ、暗黒のオーラがバリバリ。
破れるように広がる。
「知るわけねえだろうが!」
「死ぬまで嘘を言えるか、試させてもらおう」
手の中に闇の電撃が走る。
暗黒剣を形成するとバチバチと音を立てた。
「俺様が止めてやるよ……行け、金髪」
「爆発魔法で支援するよ!」
「お前の爆発に巻き込まれるのは死んでもゴメンだわ」
何も返せなくなった金髪ちゃんは、スカーを連れてその先に進む。
「ふん、尋問は一人で良い」
直後にガキンとぶつかり合う音が響いた。
現実世界の音が、やたらと体に反響する。
騒がしい道を進んで学園の入口に近づく。
「入った方がいい?」
「スカーはわかんない……」
衝撃による地揺れで周囲が振動する。
「やっぱり入ろ!」
金髪ちゃんに連れられて学園に入る。
「なんで?」
「外に、闇が居た」
「……」
廊下を走っていると闇の軍勢と出会ってしまった。
『げ』
金髪ちゃんは爆発しか使えない。
最悪の遭遇。
ただでさえ、ガロードが居ないのに。
「そなたに聞こう、同胞は何処だ?」
「知らない!」
「同じ答えならば、死んでもらおう」
周囲に転がる生徒は動かない。
「スカーちゃん、なんとかしてよお……」
魔法だけでなんとかなるような存在じゃない。
それはスカーでも分かっていた。
時間を稼ぐように足元を凍らせる。
「小細工か」
パキパキと氷を破ってスカーに近づく。
「りゅうきぃ」
怖くなったスカーは尻もちをついた。
カランと服から落ちる枝。
『ごめんっ!』
金髪ちゃんは耐えきれずに逆方向に逃げていった。
「さあ、答えろ」
闇の将軍が右手に闇を貯める。
一歩。
ギシ。
「やだ、やだあ……」
また一歩。
ギシギシ。
「惜しいか、命?」
殺そうと近づいて来る度にスカーもズリズリ下がる。
『助けて……!』
声に呼応するように枝が光を放つ。
「な、なんだ!?」
光が収まると、そこには。
『……』
半透明の男が静かに立っていた。
『りゅうきー!』




