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ジショウ、プレゼント







『こういうのかな?』


 どれも重そうだ。


「ダメだな、スカーはこれくらいでも持つのがキツくてな」


「でも杖って魔力の蓄積がメインだから、これくらいは最低限だよ」


「そうなのか」


「クリエ・アステルって先生の杖は普通の人間には持てない木を使ってるくらい、重さが大切」


 木の種類と重さで保管できる魔力が違うらしい。


「杖はやめてお守りにしてみる?」


「お守りって?」


「杖みたいな効果は少ししかないけど、君の思いを乗せたアイテムはどれよりも効果があると思うな」


 スカーに決めてもらおう。


「……何が欲しい?」


「リュウキが欲しい!」


「そうじゃなくてだな……」



 少年が『それならお似合いだ』と一本の細い枝を取り出す。



「なんだこれ」


「祈りを宿せるセレスの木片、お守りに近いね」


「へえ」


「祈りは大切な人を守る為に、姿を見せるんだ」


 無機質な木の枝が、お守りになるのか。


「どんな姿を?」


「君自身さ」


 スカーが欲しそうに俺を見上げる。



「それにしよう」


「いい答えだと思うよ」


 箱から新しい木を取り出して机に置く。


 何も持っていない手を俺にスッと向けてきた。


「これは儀式の部類だから、最初に血がいるよ」


 少年の手に氷の刃が煌めく。


「これで手のひらを裂いて枝を握って」


 俺は左手を見つめてイメージした。


 切り裂く痛みと出血を。


 スカーが泣くような声で俺の手を掴む。


「だめぇ」


「何がダメなんだよ」


「リュウキは……怪我したらダメ」


 ブンブン首を横に振るスカー。


「その気持ち、そのまま返すぞ」


 俺だってスカーに自傷なんてして欲しくなかったんだ。


「もうしない、アイテムも要らない!」


「今の感情を噛み締めろ」


「あっ……」



 俺はスカーの手を振り解き、煌めく氷の刃を左手で握った。



 血が出る痛みに歯を食いしばる。



「この枝を握ってとにかく祈りを」


 血で汚れた氷を手放し、杖を受け取る。


 血を滲ませる思いで握り込む。


 そして祈りを捧げる。


 俺が居なくても良いように。


 俺が居なくても泣かないように。


 俺の代わりにスカーを守ってくれ。


 祈りを込めてしばらく。



 沈黙の中で頭に言葉が巡る。


 祈りの言葉とは程遠いスカーへの感情。


 一言で済ませるなら妹。


「もういいよ」


 少年の言葉で意識が現実に戻る。


「リュウキ、痛くない?」


 スカーが心配そうに見てくる。


 首を振って否定してみた。


「血の匂いを消すね」


 少年が俺の手から木の枝を没収する。


 火の魔法で何度か炙った。


「これでいいかな、君の手で渡してほしい」


 そう言って返してくれた。


 血がつかないように右手で受け取って。


「スカー」


 膝をついてスカーを見上げる。


「……うん」


 目が合うと風がふんわり吹いた。


 スカーの髪がイタズラに揺れる。




『遅れたけど、プレゼントだよ』




 白くて細い手が棒に近づく。


 バラと一緒に握りしめると、胸元に手を引いていく。



『あり、がとう……』



 嬉しそうに口角を上げる。


 キラキラした瞳が風で揺れる。


 バラから溢れた赤い粒子が右に逃げていく。


 立ち上がりながら、スカーの唇を奪う。



『っ……』



 数秒だけ時間が止まる。



 ゆっくり離れるとスカーの表情が動き出す。


 開いた口。


 みるみる赤くなった頬。


 余韻を残した吐息。



 少年が「おアツいね」と言う。


「熱くて冷たいんだ、俺達は」


 何も言わなくなったスカーを撫でる。


「いくら?」


「現実的な話はロマンチックに不要さ」


「……助かる」


 スカーの手を握って立ち上がらせる。


 睨むような赤い瞳と目が合う。


 吸い込まれそうな魅力に抗ってエスコートする。


「また来る」


 俺はスカーを連れてその場を後にした。




 スカーが好む繋ぎ方をして歩く。


 何か言って欲しくてスカーの視界に映り込んでみる。


 睨んでいたスカーが俺に気づいて、フンって逸らす。


「ずるい」


「えっ?」


「人前でチューなんて……」


 さっきのキスを思い出したスカーの顔が赤くなる。


「恥ずかしいから人前は禁止っ」


 人差し指を唇に当てて「ダメだよ!」って強調してくる。


「したいって言ってただろ」


「だめなのはだめ」


 キッと睨むスカーの頬にキスをすると表情がふにゃふにゃ崩れる。


「あうぅ」


 隠れるように俺の腕に顔を埋めてくる。


「かわいいな」


「恥ずかしい……」


 いつもの仕返しとしては十分なほど俺は楽しめている。


「部屋で言ってよ」


「外ではかわいいなあって」


「どこでもかわいいもんっ」


 むーって頬を膨らませる。


 そんなスカーが、かわいいんだよな。



 アルカデリアンを買って、道を引き返す。


「ねえねえ」


「食うのは帰ってからだぞ」


 大きな肉の串は歩いて食うのに向いてない。


 食べた時にそう学んだ。


『スカーはもっとゆっくり歩きたいなあ』


「えっ?」


 自分でスカーとか言い出したぞ。


「オレって言葉がもう自分を呼んでる気がしなくて」


 たしかに、最近は『オレ』って言わなくなってたよな。


「変えようと思うんだけど、ダメかな」


 一人称を変えるって一大決心って感じ。


「好きに決めたら? そう思うのも仕方ない」


「僕とか私とかも合わなくて……」


「自分を表せるのは自分だけだからな、名前もいいと思うぞ」



 スカーは唸るように考えて、一つの結論を出す。



『スカーと帰ろ?』



「帰ってるだろ」


 学園に入っていつもの廊下を曲がるとサラが。


『見つけました』


 タイミング悪いな。


「……リュウキはあげないもん」


「そのつもりはないのでご安心を」


 俺とすれ違ったサラがその場で止まる。


 手でスカーから見えないように俺達の口を隠す。


「彼女の要望を叶えてください」


「……」


「クラン対抗戦に支障が出ると行けないので」


 そう言って俺の唇に一度だけ舌を這わせる。


 何事もなかったように歩いていった。


 やっぱり、サラって大人なんだな。


「むー」


 スカーは子供っぽいというか。


「はあ……」


「む?」


 俺の腕にしがみつく姿は子供っぽい。




 部屋に戻るとカロンが起きていた。


『おかえりですー』



「ただいま!」


 スカーはカロンとハイタッチを交わす。


「アルカデリアン買ってきたよー」


「いいですね!」


 串を包む草袋を二つ、スカーに渡す。


「おもーい」


 両手で持つとカロンに持っていってくれた。


「ありがとうございます」


 席について串の肉を二人は口に運ぶ。


 もぐもぐ。そんな音。


「リュウキさんはどう思ってるんですか?」


「なにが?」



『スカーさんの事です』



 食おうとしてたら、カロンが妙な事を聞いてきた。









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最強美少女ギルドに入った俺の初仕事は貰った剣を100億にすること!(クリア報酬→追放)
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