武器の名前
「さ、サラ……」
引こうとした手をガッチリと掴まれる。
『あっ!』
気づいたスカーがドタドタと走る。
「行きましょう」
魔力の糸を掴んだサラが俺を巻き添えに青い世界に踏み込む。
一瞬だけ空気を抱いたスカーが見えた。
瞳から消え去った光がやけに印象的だった。
気がついたらサラの部屋に居て。
「他国の物が……おっと、リュウキくんはこれから二回目?」
「な、なんで知ってる?」
「偶然見かけたのでストーカーを少々」
「……」
「見てるだけで幸せになれる安い人間なので」
サラは魔力の糸を窓から伸ばす。
部屋で遊んだ時間は長かったようで、もう真っ暗だ。
月の光が印象的。
「今日はどうするつもり?」
「人生最高のプレゼントを貰いに行こうかと」
「それは大層な予定だな」
「実は良い所を探す為に一人で行ったのです」
手を繋いで魔力に乗ると木陰に来ていた。
少し先ではまだ賑わっている。
美味しい匂いもしている。
「……首のソレはなんですか?」
「えっ?」
首に触れ、スカーが付けた印を思い出した。
「け、怪我したからな」
「それは大変」
サラは胸元をまさぐると何処からか布の生地とテープを取り出した。
生地を四角に割くと首に当ててくれた。
ビリビリと出したテープで軽く止められる。
「……怪我なんてしないでください」
「ありがとう」
これが隠す目的だったのか、何も知らなくて怪我だと思ったのか分からない。
サラは何も知らなくてもおかしくないなって思った。
「用意してて良かった」
「本当だな」
差し出された手を握って人混みに溶け込む。
「……こっち」
サラに従ってついて行くと五十枚の高額屋台に来た。
自分だけの武器が作れると謳ってるが……。
「また来ました」
イスに座るなりサラは話を始める。
俺もサラの隣に座ってみる。
『考えは決まった?』
男がひょっこり現れた。
「ええ、シートください」
紙と羽のペンを受け取るとサラは書き始めた。
紙の内容は武器を作るにあたってのジャンル選びらしい。
色んな名称が書かれていて、選択によって変化するようだ。
本当に決めてきたのかスラスラ書いていく。
最後のオプション項目に差し掛かる。
これはなんて書いてるんだ……?
読もうと思った時には既に書き終えた後で。
読ませてもらえずに提出されてしまった。
「オプションってなんだったんだ?」
「ひ、み、つ」
なんでだよ。
男の人が紙を見て、何もない地面に魔方陣を浮かばせる。
「すげえ」
「マーズ王国の武器錬成って革命的なんですよ」
「どうして?」
「クリエイト魔法では不可能な領域まで武器の仕様にこだわる事ができるんです」
魔法陣の真ん中から伸びていく武器の姿は確かに輝いていて。
青い装飾が多量に見られる。
「だから高いのか!」
「ええ」
しばらくして武器が出来上がった。
全体的に青くて、キラキラした刀。涼しい印象を受ける。
金色の柄は青を一層引き立てた。
かっこいいジャパニーズソードにサラは満足気だ。
俺もかっこいいって思った! センスあるな。
「名前、どうする?」
聞かれたサラが俺を警戒しながら男と耳打ちする。
ははぁ、オプションってのは武器の名前って訳か!
別に教えてくれてもいいじゃん。
中二病な名前にするつもりなのかな。
月光無双とか?
さすがにないか。ないな、ダサすぎ。
「なるほど、分かりました」
耳打ちを終えた男は最後の仕上げとして手をかざす。
一瞬だけ光を放った後、サラに渡した。
何が変わったのかさっぱり分からん。
鞘から抜いて確認する辺り、刀身に変化があるらしい。
変化を目にしたのか、サラは人差し指でそこをなぞる。
魅入られたようにうっとり眺めていた。
刃を収めて、大切そうに抱きしめる。
『ずっと一緒……』
アルカデリアン十本の値段がするからな。
大切に持っておかないとな。
「リュウキくんも作りますか? 私が出しますよ」
「いや、いいよ」
「そうですか?」
「それより十枚くらいで軽く飲んだ方が楽しいだろ?」
「……賛成です」
席を立ったサラを追う。
近くのベンチに行くと俺は座るように指示された。
なんで? 不思議に思ってたら。
「美味しいものを買ってきます」
そう言って屋台に向かうと両手に大きめなコップと皿を持って帰ってきた。
『こういう飲みもいいと思うんです』
晩酌に近いモノが始まった。




