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氷の滅慕  作者: SH
六章 悲恋
221/251

預言の勇者 古城に憂う麗人



 アベルは遠ざかるフィオナの背中を見送り、その姿が完全に見えなくなるのを待って、崖下へと顔を向ける。

 ほぼ垂直に切り立った断崖(だんがい)は、目も眩まんばかりの高さがあった。そこから実に無造作に、アベルは足を踏み出す。

 一瞬の浮遊感のあと、すさまじい速度での落下がはじまる。

 風切り音が鼓膜を(あっ)し、風になぶられた髪が逆立ち(なび)く。

 その身が大地に叩きつけられるかに見えた瞬間、その背から光輝(ひかりかがや)く竜の皮翼(ひよく)が広げられた。

 浮揚力を得た体に急制動がかかり、光輝(こうき)の翼がひとつ大きく羽ばたくと、ふわりとその身が浮き上がる。

 竜の勇者は(かろ)やかに爪先から地に降り立ち、背中の皮翼は折り畳まれたのちに光度を(げん)じ、その実体を失った。

 視線を西に向けると、立ち上がる砂塵の中から三つの人影が姿を現すのが見えた。同時――高速で飛来する強い魔力を知覚し、左手の大盾を構える。間髪置かずに衝撃。身構えた体が後方に押され、(かかと)が地面を削る。数瞬遅れて風を切り裂く音が耳に届いた。


「これは……」


 アベルの手にした大盾が、無色透明の液体でびっしょりと濡れていた。


「……ただの水?」


 顔にも飛沫が跳ねていたが、とくに匂いもない。

 背後からがらがらと岩の崩れる音が響き、アベルは首だけで振り向く。両側の岩肌が一文字に深く切り()かれ、崖の一部が崩落していた。音の速度を超えた水流が、岩をも断ち切ったのだ。


「この距離から……?」


 遠く見やった先には、かろうじて視識できるちいさな人影。声を張っても届くような距離ではない。


 公爵位の魔族、奏洪(そうこう)。魔王の弟にして、近々大公位を授与されるという話をアベルは街で聞いていた。その実力は将位の魔族以上だと考えたほうがよいだろう。

 おそらく人間の軍隊では、たとえ幾万の兵を集めようとも一方的に刈り取られるだけだ。

 アベルはあらためて人と魔族、両者の力の差を思い知る。――そしてみずからがそれをも凌駕する実力を得たことに、背筋の痺れるような戦慄(おののき)を感じた。しかしそれも一瞬。竜の勇者は強く地を蹴り、雷鳴の速さで敵に殺到する。急速に景色が流れ、二呼吸ほどの()で三人の魔族に肉薄した。

 奏洪が身構え、右隣の貴族がそれに(なら)う。対応の遅れた三人目にアベルは狙いを定めた。――嚇熱(かくねつ)の剣閃。魔力を()く炎が障壁を()め、魔族の首を一刀の(もと)に斬り落とす。返す刀で奏洪を狙うが、これは相手の反撃のほうが早かった。

 (やじり)のように尖鋭(せんえい)化された水の槍。長大なそれが薄皮一枚を裂いて喉元をかすめる。さらに、避けるために姿勢を崩したアベルの背後から、奏洪麾下(きか)の魔族が火球を投じた。同時に奏洪が至近距離から岩をも切り()く流水の刃を放つ。


「この間合いならば、たとえ魔王であろうとかわせは――」


 唇をゆがめて笑った奏洪の声は、にぶい破裂音により掻き消された。――アベルが皇竜の宝剣で、致命の一撃を断ち切ったのだ。破裂音は嚇熱の炎により流水の刃が蒸発した音だった。間を置かずに、アベルの背から光輝の皮翼が現出(げんしゅつ)する。背後から迫る火球はそのひと薙ぎで消滅した。――のみならず、光翼(こうよく)の羽ばたきに()き込まれた貴族の上半身が、赤い霧と化していた。原型を(たも)ったままの腰から下は、うしろへ数歩よろめき膝から崩れた。


「な……」


 おおきく目を見開いた奏洪が、あんぐりと口をあけて竜の勇者を凝視する。


「なんだ、その出鱈目(でたらめ)な力は……お前はいったい……」


 つぎに奏洪(そうこう)が選択した行動は、逃走であった。魔力障壁を限界まで強化し、脱兎(だっと)もかくやという勢いで駆け出す。無謀な抗戦を選ぶよりも、よほど生き残る可能性のある選択であろう。しかし、最善とは言い(がた)い。


「ごめんね……貴方(あなた)にはなんの恨みもないけど……」


 アベルが街で耳にした奏洪の評判は、おおむね良好なものだった。彼は横暴な一面があるものの、善政と形容のできる(まつりごと)()いていたのだ。領民の多くは奏洪を(した)い、伝説的な魔王の末裔を領主と(あお)ぐことを誇る者もいた。

 いまのアベルにとって脅威となるのは、強い個でなく群である。もし奏洪を取り逃がし、配下の軍勢を差し向けられれば、フィオナを守ることは困難だ。――だからここで彼を見逃してはならない。

 この場において奏洪のとりえる最善は、命乞いだった。もしも今後一切、アベルたちに対して敵対する行為をしないと(ひざまず)いて約束をすれば、人の良い竜の勇者はそれを信じただろう。彼の目的はあくまでも魔皇討伐であり、アルフラのように魔族から力を奪うといった狙いはない。むしろ、非敵対的な者を進んで殺すことを好まない性分だ。

 逃げる者にとどめを刺すのは極めて不本意なのだが、それを押し殺して――いまは()き戦友の編み出した秘術の名を、アベルは口にのぼらせる。


「無限永劫火……」


 宝剣の刀身から沸き立つ炎がその火勢を増した。

 竜の勇者は腰だめに据えた宝剣を振り抜く。

 横薙ぎの一閃は嚇熱(かくねつ)の竜となり、奏洪の背に襲いかかった。

 巨大な(あぎと)が障壁を噛み砕き、閉じられる。

 断末魔の悲鳴はなかった。

 膨大な熱量は苦痛を感じるいとまも与えず、公爵位の魔族を蒸発させたのだ。むしろそれを行ったアベルのほうが、痛みでも感じたかのように表情をゆがませていた。


「……やっぱり、戦いはきらいだ」


 ひとつ(つぶ)き、皇竜の宝剣を鞘におさめる。

 どれほどの力を得ようと、人を殺す後味の悪さは変わらなかった。

 おそらくそれは、アベルにとって不変の感覚なのだろう。

 それでも、フィオナに心配をかけてはならないという一念で、気持ちを入れかえる。彼女は幼馴染みの心の機微(きび)を見逃さない。暗い表情をしていては、気を遣わせてしまうだけだ。



 しっかりと前を見据えて、竜の勇者アベル・ネスティは歩きだした。





 魔族の領域中北部、山中森林に人目を避けてたたずむ古い城舘。カンテラの光が淡く照らし出す石造りの通路を、二人の執事に先導されて白蓮は歩いていた。

 地下へとつづく階段を前に、足を止めた高城が一礼する。


「私はここで失礼いたします」


 かるくうなずいたもう一人の執事、松嶋(まつしま)が、無言で薄暗い階段を降りてゆく。この城舘の使用人たちは基本、主の許しがない限りは、地下への立ち入りを禁じられている。唯一の例外が松嶋であった。

 さらに地下の通路を進み、奥まった一室の前で松嶋が立ち止まった。


「どうぞ」


 扉を開いて頭を下げた老執事には一瞥(いちべつ)もくれず、白蓮は入室する。

 せまい室内では三人の人物が彼女を待っていた。

 数少ない調度品のひとつ、縦長の卓に男性が二人、火の(とも)された暖炉の前には一人の女性。彼女は木材を加工した玩具のような物をなにやら熱心にいじくり回しており、ちらりとだけ白蓮を見たあとすぐに視線を手元に戻した。

 二人の男性は戦禍とこの城舘の主だ。白蓮の正面にあたる上座に戦禍が座り、左手に城舘の主が座っていた。彼は白蓮の入室を認めると素早く立ち上がり、満面の笑みで席をすすめる。


「とりあえず座ってくれ。飲み物は葡萄酒でいいかな?」


「……ええ。しばらく留守にしていたようですけど、帰ってらしたのですね」


 すこし嫌そうな顔をしつつも、白蓮は彼が手ずから引いた椅子に腰かける。


「つい今朝方(けさがた)ね。白蓮のためにおみやげも買ってきたよ。オレは葡萄酒の味はいまいち分からないんだけど、なかなかの上物らしい」


 機嫌をとるように媚びた態度を見せる彼に、白蓮は素っ気なく一言だけ返す。


「そうですか」


「これがさ、二十年も寝かせてた逸品なんだ。ちょうどその年は豊作で、葡萄の当たり年とか言われ……」


 卓に用意してあった酒壺を手にして、彼は嬉しげにしゃべりつづける。しかしその言葉をさえぎるように、戦禍が音を立てて卓に杯を置いた。


「どうでもよい無駄話は後にしましょう。時間の浪費はあなたの数ある悪癖のなかでも特に(たち)が悪い」


 普段は温厚で臣下に対してもあまり苦言を口にしない戦禍ではあるが、いまはすこしいらいらとしているようだ。城舘の主もそれを察したらしく、おとなしく椅子に腰を落ち着けて黙りこむ。

 白蓮は()がれた葡萄酒には目もくれず、早く本題に入れとばかりに問いかけた。


「それで、どんな用件で私をここへ?」


 視線を受けた戦禍は、実母の表情をうかがいつつ話しだす。


「あの娘の件です。アルフラという少女、あれの出自(しゅつじ)を詳しく聞かせてください」


「詳しくもなにも、以前に話した通りよ」


 その一言で済ませようとした白蓮であったが、戦禍はつづきを(うなが)すように(もく)して語らない。館の主もいつになく真摯(しんし)眼差(まなざ)しを白蓮に向けていた。

 かるく吐息を落として銀髪の麗人は尋ねる。


「……なぜ今さらそんなことを?」


「必要なことだからです。――オークに略奪された村であの娘を拾った、という話は私も覚えています。それがただの気まぐれだったとも」


「ええ、そうよ」


「ならば彼女の両親の為人(ひととなり)、その生い立ちの話を聞いたことは?」


「親は二人ともオークに殺されたらしいけど……それ以外はなにも」


 戦禍はしばし黙考(もっこう)したのちふたたび口を開く。


「あの娘は古代人種の末裔なのですよね?」


「わからないわ。ただ、はじめて話したときに、あの子はアルフレディア・ハイレディンと名乗ったの。だからもしかすると古代人種(ゆかり)の者、という可能性もあるのではないかしら」


 そこで城館の主が遠慮がちに口を挟む。


「なあ、いちからちゃんと説明したほうがいいんじゃないか?」


「……そうですね」


 ひとつ首肯(しゅこう)した戦禍は、杯を手にして唇を湿らせ語りだす。


「あの娘が生きていたという話は松嶋から伝わっていると思いますが、その後いろいろと問題が起きています。端的に言うと、口無が殺されました。――あの娘に」


「……え?」


 理解が追いつかなかったらしく、白蓮から当惑の声が()れた。


「アルフラが、口無を……? そんな、まさか……いくらアルフラでも……どうやって魔王を……!?」


「それだけじゃない」


 城館の主が眉をひそめて話を()いだ。


「レギウスとダレスも、そのアルフラって娘に殺されたらしい」


 呆然とした様子の白蓮が、せわしなくまばたきを繰り返す。口は開かれたままだが、言葉が出てこないようだ。


「……意味がわからないわ」


 ようやく絞り出された声に戦禍がうなずく。


「私もです。しかし、この話はすでにレギウスの魔術師ギルドから裏が取れている。神殿上層部はその事実をどうにか秘匿(ひとく)できないかと画策(かくさく)しているようですが、そう時を置かず、広く知られることになるでしょう」


「いや、闘神の信徒にはおおっぴらに大逆者を誅殺(ちゅうさつ)しろって指示が出されてる」


 戦禍が城館の主に(とが)めるような視線を送った。


「その話は初耳ですが?」


「あ、ごめん……レギウスで見聞きした情報が多かったもんで、いくつか伝え漏れがあった」


 それまで、考えをまとめるかのように顔をうつむかせていた白蓮が口を開く。


「では本当に、アルフラが口無を殺し、レギウスとダレスの二柱を手にかけたと?」


 いまだに信じられないといったその口ぶりに、戦禍が肯定の意を返す。


「おそらく間違いありません。各方面――レギウスに送り込んだ間者や魔術士ギルドからの情報、ロマリア各地に配されていた口無の手勢からの伝令……それらを総合すると、中央神殿から天界に招かれたあの娘が二柱の神を殺し、さらにはロマリアにて口無と交戦、これを撃破……そういった話になります」


 じっと聞き入っていた白蓮は、言葉を忘れてしまったかのように戦禍を見つめる。


「これは余談ですが……あの娘と口無が戦ったと思われるロマリアの宮殿付近は、あらかたの建造物が瓦礫と化し、凄まじい破壊の痕跡が見られたそうです。また、市街地は雪と氷に閉ざされ、数十万もの住人が死に絶え……さながら死の都といった惨状を(てい)していたらしい」


 戦禍が語り終えると、白蓮は視線を外して(おもて)を伏せた。室内には長い沈黙が降り、城館の主が居心地悪げに身じろぎを繰り返す。やがて視線は足許に落としたまま、銀髪の麗人は問いかける。


「……アルフラは、あの子はいまもロマリアに居るの?」


「ええ、ロマリアの都から東に移動し、そこから南下したようです。その過程で、ロマリア南部の支配を口無から任されていた子爵位の魔族と、その手勢のほとんどが殺されています。これが現在届いている最新の情報、五日ほど前の話ですね。――おそらく南方の沿岸都市国から海路で魔族の領域に渡るつもりでしょう。私を殺すために皇城を目指すのなら、それが一番の近道です」


「アルフラのことは――」


「わかっています。私も貴女(あなた)に嫌われたくはないし、それ以上に悲しませたくない。無傷でというのは難しいかもしれませんが、極力善処しましょう。……私を信じてください」


 戦禍の言葉は親愛の念に満ちており、白蓮はやや気まずげな顔をしていた。それを見た城館の主が疑問を口にする。


「なあ、アルフラって娘が白蓮のことを母親のように(した)ってるなら、戦禍が息子だってことを話せばまるく収まるんじゃないか? もしかしたら戦禍を兄みたいに……」


 話を聞くうちに表情を曇らせる白蓮を見て、言葉が途切れた。


「……だめなのか?」


「以前、ロマリアでアルフラにはその話をしたのだけれど……あの子、途中から私の言うことをまったく聞いてくれなくて……」


「もしかして、戦禍を白蓮の情夫(オトコ)かなんかと勘違いして殺そうとしてる?」


 これには口許を引き()らせて苦笑した戦禍が答えた。


「そのようですね。おそらく私からそのことを伝えても、まるで信用されないでしょう」


「私がいまさらそれを言っても、戦禍を(かば)うために嘘をついてると思われて、よけいにアルフラは(かたく)なになるような気がする」


「……とんでもなく扱いづらいガキだな」


 ついつい本音を洩らしてしまった城館の主は、白蓮から物凄い目つきで睨まれてしまう。


「あ、いえ……なんでもありません」


 彼はやや腰が引けながらもこう提案する。


「とりあえず広めの部屋を整理して、白蓮とアルフラって娘が一緒に住めるようにしとくよ。それなら文句はないだろ?」


 かつてはアルフラの命を(たて)に白蓮を従わせようとした男の言葉に、おそろしく懐疑的な視線が返された。


「ん……まあ、白蓮が根にもつ性格なのは知ってるけどさ。そこはほら、オレも本気でその娘をどうこうするつもりは無かったっていうか……」


 言い訳じみた言葉を重ねる城館の主に、戦禍が横から辛辣な物言いをする。


「アルフラという娘が死んだと聞かされた時の荒れ狂いようを聞いて、考えを変えたのでしょう? 素晴らしい打算ですね」


「まあね、オレはそういうセコい計算の早さが自慢なんだ」


「あまりほめられた特技ではありませんね。恥ずかしいので身内以外には絶対に話さないでください」


「はは、あいかわらず手厳しいなぁ……」


 誰に対しても丁重な物腰で応対する戦禍も、城館の主にだけはやや当たりがきつい。傍目(はため)からは、彼が戦禍にどう思われているのか一目瞭然なのだが、とうの本人は自分にだけは気を遣わず、親しげに接してくれているのだと解釈している節があった。


「――で、話を戻すが、そのアルフラって娘はどうやってレギウスを殺すほどの力を手に入れたのか」


 なにか心当たりは、と城館の主が白蓮に視線で問う。


「それはむしろ私が聞きたいくらいなのですが……」


「白蓮はその子に血を与えてたんだよな? その後も戦禍を殺すために魔族の血を目当てにあちこちで戦ってたんだろ? その積み重ねで――」


「さすがに爵位の魔族を数人倒した程度でレギウス神は殺せないでしょう。実際、彼女は雷鴉に傷ひとつ付けることなく(やぶ)れている」


「……だよなぁ」


 戦禍の言葉に城館の主もうなずきつつ首をかしげる。


「天界で神族を殺せるような武器を手に入れたとか……?」


「詳しい状況がわからない以上、なんとも言えませんね」


 城館の主はこめかみに手を当てて、頭が痛いといった仕草をする。


「正直、訳がわからなすぎてなるべくその娘とは関わりたくないな……」


 彼はもともと公爵位の魔族ではあるが、爵位の魔王とも呼ばれた実力者だ。アルフラに対して恐れをいだいている訳ではないのだが、なにぶん彼が最も嫌うのは不確定要素であった。まるでその固まりのようなアルフラとは、積極的に敵対したくないという忌避感(きひかん)にも似た感情がある。「一度のしくじりで全てが台無しになる」そういった思いが、彼の性格に病的なまでの用心深さを付与していた。


「でもまあ、レギウスが殺されたのは……ある意味朗報(ろうほう)かな」


「そうですね。ひとつの指標となるでしょう」


 戦禍の言葉に白蓮が疑問の目を向ける。


「どういう意味? あなたはレギウス神を倒すために神族と戦っているのではないの?」


 数舜の間を挟み、城館の主と視線を()わした戦禍が説明する。


「問題としているのは、ディース神族です。いずれこの世を滅ぼす終焉の女神たち。彼女らはなにを契機にそれを成すのか」


「オレはレギウスの死がその引き金になると思ってたんだけどな」


 予想外の話に、白蓮はただ無言で聞き入っていた。


「かつて地上を支配していたレギウス神は、きたるべき世界の終りを回避するために人々を導き、管理しているのだと多くの神話に語られています。ならば逆説的に、その管理者が死ねば世界の終わりはやってくるのではないか、という論法ですね」


「でもレギウスが死んでから半月以上が過ぎてるのに、とくになにも起こらない。どこまでならやっても大丈夫なのかがいまひとつ(わか)らないんだよなぁ」


「レギウス神には子がいるという話なので、その血が()えない限りは問題ないのでは? ……もしくはまったく違った基準で終焉の女神は滅びをもたらすのか」


「石橋を叩いて渡ろうにも、崩れるときは世界ごとだからたまんないよな」


 笑えない冗談を飛ばした城館の主に、白々とした二対の目が向けられた。


「――腰抜けめが」


 それまで暖炉のそばで一人遊びに興じていた女が、さも(あき)れたといった顔で言葉を重ねる。


「世界を滅ぼせるほどの強者と戦ってみたいとは思わんのか」


 なんとも豪気な祖母(そぼ)の言葉に、戦禍は苦笑いを浮かべてこう答えた。



「話し合いで済むのなら、それに越したことはない。お祖母(ばあ)様なら女同士、ディース神とも気が合うと思いますよ」

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― 新着の感想 ―
白蓮の父は人間だと思ってたけどあの方が父親なのでしょうか。 面白すぎて一生読んでられます。
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