87 勇者再来
「うげ……」
その鳥っぽい者の正体がわかった時、私は思わず嫌悪の呻き声を上げていた。
それは、三人の人間だった。
背中から天使のような翼を生やした、三人の男女。
男が一人と、女が二人。
男の顔には凄まじく見覚えがあるし、女二人にも見覚えがある。
最悪だ。
まさか、こいつらがここに出張って来るなんて。
とりあえず、急いでオートマタを物陰に隠す。
そして、そんなオートマタが見ている前で、そいつらは超高速で砦の上を通り過ぎ、ドラゴンに向かって突撃を敢行した。
「《フォトンブレード》!」
「ぐぉお!? き、貴様は!?」
不意討ちの一撃を食らって、ドラゴンが盛大に吹き飛ぶ。
ドラゴンは咄嗟に前足を盾にして直撃は避けたみたいだけど、それでも結構なダメージを受けてる。
真装を使った指揮官の攻撃ですら、大したダメージにはなっていなかったというのに。
「《フレイムソード》!」
「《ウィンドバースト》!」
続いて、一緒にやって来た女二人が追撃を叩き込む。
炎の斬撃と、風の爆撃。
でも、その威力が尋常じゃない。
どっちも爺ゾンビの最高火力を軽く超えてる。
ふざけないでほしい。
取り巻きですらこれなんて。
「ぬぉおおおおお!?」
それを諸に食らったドラゴンが、更なる深手を負って呻く。
でも、致命傷って程ではなさそう。
あのドラゴンはHP自動回復のスキルLvもやたら高いし、すぐには死なないと思う。
けど、今の攻防を見た限り、ドラゴンの勝ち目は薄い。
それだけ、今のこいつらは強い。
「あ、あなた方は……」
指揮官のいる場所に降り立ったそいつは、左目に傷を残した顔で指揮官達に振り返り。
そして、重々しく口を開いた。
「僕達は、勇者パーティー」
それは、静かな声だった。
なのに重く、迫力があって、鳥肌が立った。
嫌な感じだ。
まるで魔王を前にした時のような、強者の気配。
今のこいつからは、そんな威圧感を感じる。
「そして、僕は『勇者』。勇者シンドウ。いずれ魔王を倒し、この戦争を終わらせる者です」
かっこつけたような言葉。
日本で言ったら痛々し過ぎて笑われるか、真剣に頭の心配をされるだろう言葉。
でも、私は笑えなかった。
寒気がした。
何度も修羅場を乗り越えてきた私の勘が警鐘を鳴らしてる。
今のこいつに、今の神道に牙を剥かれたら、本気でヤバイと。
「ここは僕達に任せてください。アイヴィさん! エマ! 行くぞ!」
「ああ!」
「はい!」
そうして、神道達は再度ドラゴンに向かって突撃する。
光輝く剣を持ち、邪竜を滅するべく戦う勇者とその仲間達。
絵になる光景だ。
それを見た人間側の士気は急上昇。
指揮官が「勇者様に続けぇ!」と叫べば、兵達は雄叫びを上げて魔王軍を押し返し始める。
まるで、今この場所から人類の反撃が始まるのだと言わんばかりに。
ふざけるな。
そう思い通りにはさせない。
劇的な逆転劇なんてやらせない。
だって、魔王軍が負ければ、次の標的は私になりかねないもの。
魔王軍が負ける時は、私の事になんか構ってられなくなるくらい、人類にも弱ってもらう。
その思いで、私は行動を開始する。
まずはダメ元で魔王に連絡を入れるべきか?
……いや、やめておこう。
それで、本気出してドラゴンと共闘しろなんて言われたら堪らないから。
だったら、他のプランを考えるしかない。
でも、それよりまず当初の目的を果たすのが先。
どう考えても一筋縄ではいかない勇者殺しは後回し。
今の標的は、こいつらだ。
私は転送機能を使い、オートマタの周囲に二体のゾンビを送り込む。
それは、先生ゾンビと隠密ゾンビ。
作戦は、感知不能のテレポートでボス部屋にボッシュート。
魔木と剣を葬った、この黄金コンボを使う。
対象は、━━この砦上階にいる全ての人間。
「《フロアテレポート》」
「な、なんだ!?」
先生ゾンビの必殺技、広範囲のものを一度に転送する空間魔法を発動。
今回運んだ人数は、指揮官を含めた約50人。
それだけの魔法を発動した結果、先生ゾンビのMPが尽きたので、隠密ゾンビと一緒に送還して控えに回す。
そして、いきなり暗闇の中に転送されて混乱してる連中に向けて、超強化されたレーザービームをぶっ放つ。
『ギャアアアアアアア!?』
その一撃によって半分近くが消滅し、残りの半分にもかなりの打撃を与える事ができた。
レーザービームの熱量で体の一部を欠損した連中が、痛みに呻いて転げ回る。
そこを他のトラップで追撃して仕留めた。
残るは、指揮官を含めて10人ちょっと。
ファーストアタックは、これ以上ない程に上手く決まった。
「狼狽えるな! 明かりを灯せ!」
「ハッ! 《ライトボール》!」
ギリギリ冷静を保ってる指揮官の指示により、兵士の一人が光の魔法を使って周囲を照らした。
すると、フロアの全貌が明らかになる。
「こ、ここは……?」
そこは、昔より少し広くなった直径100メートル程のフロア。
床にも、壁にも、天井にも、びっしりとトラップが敷き詰められ、毒の霧が満ちた部屋。
過去、何人もの侵入者が命を落とした場所。
そう。
ここは第二階層にある中ボス部屋じゃない。
ダンジョンの最深部、ボス部屋だ。
そして、その部屋の奥には、ボスモンスターである一体の鎧が立っている。
これが私の最高戦力。
このダンジョン最強のモンスターにして、最後の守護者。
リビングアーマー先輩。
しかも、今回はその中身まで入っている。
「いらっしゃい、死ね」
その中身。
リビングアーマー先輩を着込んだ本体は、まるでオートマタのような抑揚のない声で侵入者達に死刑を宣告し、右手に握った剣を振るった。





