85 開戦間近
「なるほど、魔王軍の戦力はそれ程か……」
砦へと帰還したオートマタは、指揮官へ偵察任務の結果報告をした。
ちなみに、この報告では殆ど嘘を吐かなかったと言っておく。
つまり、ドラゴン率いる魔王軍の調査報告を正直に告げておいた。
もちろん、猫耳達をぶっ殺した事は言わなかったけど。
他の偵察部隊がいる以上、調査結果については下手な嘘を吐いてもすぐバレるしね。
それに、私としては、この情報で多少魔王軍が不利になろうと知った事じゃないし、むしろ、人間と潰し合って少しでも戦力が削れてほしい。
人間と魔王軍の双方共倒れが理想なのだから。
「話はわかった。君達が命懸けで集めてくれた情報は決して無駄にはしない。
それに、現在エールフリート神聖国から頼もしい援軍がこちらに向かっている。
だから、安心してゆっくり休んでくれ」
その言葉を最後に、指揮官への報告は終了した。
そして、オートマタは割り当てられた部屋へと向かう。
そこでリーフと合流した。
「お帰りなさい、ご主人様!」
「ただいま」
オートマタの姿を見て、心底安心したような笑みを浮かべるリーフ。
とりあえず、目を離した隙に何かされたって事もなさそうだ。
一安心である。
「それで、例の物は出来てる?」
「はい! これです!」
催促すれば、リーフは数枚の紙束を私に差し出してきた。
それは、出発前にリーフに命令しておいた仕事の成果。
この砦の見取り図である。
まあ、正規の物じゃなくて、リーフの手書きのだけど。
その分、結構抜けが多い。
私は、無言でその見取り図に目を通す。
「その、ごめんなさい……この程度しか調べられなくて……」
しかし、その無言の間をどう思ったのか、リーフが突然ショボくれた顔になった。
いや、責める気は毛頭ないんだけど。
でも、そうか。
オートマタは感情を表に出さない(当たり前だけど)から、捉え方によっては怒ってるようにも感じるのか。
とりあえず、安心させてやろう。
「問題ないよ。無理に入っちゃいけない所に入って捕まるよりずっといいし。
というか、むしろ思ってたより完成度の高い見取り図で驚いた。
よく頑張ったね」
「は、はい!」
その言葉を聞いて、リーフの顔に笑顔が戻った。
情緒が若干不安定だけど、まあ、問題ない範囲だと思おう。
それに、今の言葉は決してお世辞じゃない。
正直、砦の内部構造を調べとけとは言ったものの、実はそこまで期待してなかった。
いくら、リーフに冒険者稼業で培ったマッピング能力があるとはいえ、手書きで砦の見取り図を、それも立ち入れる場所なんて高が知れてる一冒険者という立場で、しかも数日で仕上げろと言ったんだ。
無茶振りしてるという自覚はあった。
だから、できなくても軽いお仕置き程度で済ませるつもりだったんだよね。
それが、蓋を開けてみれば思ってた以上に完成度の高い見取り図が出てきた。
正確に描かれてるのは冒険者が立ち入れるスペースだけだけど、砦のシルエット、階層の広さ、階段の位置とかから逆算して空白部分を多少なりとも埋めてるのは凄い。
そうじゃなくても、私的に把握しておきたかった場所はちゃんと記載されてるから充分だ。
本当にリーフは優秀だなぁ。
今度、また何か美味しい物食べさせてやろう。
「さてと」
これで下準備は殆ど完了だ。
後は、戦闘中のどさくさに紛れて目的を達成するだけ。
魔王軍が予想以上に近い場所にいる以上、ドラゴンがその気になればすぐにでも戦いは始まるだろう。
不確定要素は、エールフリート神聖国から来るっていう援軍の存在かな。
多分、十二使徒辺りが来るんだろうけど、そいつらの立ち回り次第では、計画が上手く進まないかもしれない。
まあ、でも、この戦いに私の命は懸かってないんだし、気楽にやろう。
ぶっちゃけ、最低でも魔王に仕事してるアピールさえできれば、それでいいのだから。
「……いや、そんな気持ちじゃダメか」
そこまで考えて、私は少し反省した。
どんな時でも油断は命取りになる。
こんな気持ちで挑んだら、いたずらに戦力を消耗するだけだ。
それで、先生ゾンビとかの取り返しがつかない戦力を失ってしまえば、普通に私の命にも関わってくるじゃないか。
「……よし。今後の為にも、今回はあれを試してみよう」
私は自分を奮い立たせる為にも、前々から考えていた、ある作戦の実行を決意する。
これをやる以上、絶対に気は抜けない。
その言葉と共に、私は人知れず覚悟を決めた。





