79 盗賊
「ん? あのエルフのガキどっかで見たような……」
「お頭、あれですぜ。何年か前にぶっ殺した片腕片足の冒険者と一緒にいたガキでさぁ。
あの剥いてみたら男でガッカリしたやつ」
「ああ、そういえばいたな、そんな奴も」
「え!? あの子、男の子なの!?」
「おいおい、眼力はどうしたイケメン様よぉ」
「《ウィンドカッター》!」
「おっと」
敵を前にして呑気に話し合う間抜けどもの隙を突くように、怒ったリーフが風の魔法を放った。
でも、それは盗賊の親玉みたいな奴の剣で防がれ、あっさりと霧散する。
あの盗賊、どうやらオークよりは強いらしい。
鑑定したいところだけど、少し遠いな。
「おう、ガキ。せっかくの再会なのに随分なご挨拶じゃねぇか。前みたいに仲良くやろうぜ?」
「仲良く、だと……!」
「そうだ。お前を売った金で俺達は美味い酒を飲む。まさに友情の味だ。俺達の友情に乾杯ってな」
「ブハッ! お頭ひでぇ!」
「よ! 盗賊の鑑!」
「ギャハハ! そう褒めるな!」
うわぁ。
予想以上のクズだ。
「ふざけるな! 《トルネード》!」
「ハッハー! 弱ぇなぁ!」
リーフが、そんな盗賊どもに向かって竜巻みたいな魔法を放つ。
けど、またしても剣で叩き切られた。
やっぱり、それなりに強い。
「しっかし、お前とまた会えて嬉しいぜぇ。何せ、お前は結構いい値で売れたからなぁ。
しかも、今回は女と一緒だ。
前に一緒にいた奴、お前の父親だったか? あいつは殺したところで何の得にもならねぇゴミだった。
だから、今回は期待させてもらうわ」
「ふざけるなぁあああ!」
半狂乱になって魔法を撃ち続けるリーフ。
そんなリーフを嘲笑いながら、魔法を防ぐ盗賊の親玉。
ゲラゲラと下品に嗤いながら見ている下っ端どもとチャラ男。
ああ、醜い。
リーフ以外の全員が、この上なく醜い。
まるで私をイジメてた連中みたいだ。
盗賊どもの嘲笑が、あいつらと重なって見える。
私が、この世で最も嫌いな人種ども。
見ているだけで不快、不愉快、胸糞が悪い。
早く駆除しないと。
「ハァ……ハァ……!」
「どうした? もう終わりか? 男なら根性見せてみろよ。まあ、その顔じゃ仕方ねぇか! ギャハハハハハ!」
「クソッ……!」
リーフがMP切れでフラつく。
MP切れというより、魔法の使い過ぎが原因か。
あれって結構疲れるから。
それでも、リーフは手にした杖を下ろそうとしなかった。
だから私は、そんなリーフの肩に手を置いた。
「ご主人様……」
「交代」
疲れたリーフをオートマタの後ろに隠す。
そして、オートマタに剣を構えさせた。
「お、今度はテメェがやるのか? 大事な女に傷を付けたくねぇし、泣いて降参するなら優しく可愛がってやってもいいぜ?」
「おいおい、アーロン、油断しないでくれよ? あの娘、結構強いぞ」
「ハッ! 所詮は女だろ? 俺には勝てねぇよ。謝るなら今の内だぜ姉ちゃん?」
ああ、煩い。
ゴミがペチャクチャと。
「見苦しいから雑魚が吠えないで。そんな事より、さっさと掛かってくれば?」
「……雑魚だと? 言ってくれるじゃねぇか。じゃあ、遠慮なく行かせてもらうぜ!」
こんな安い挑発に乗って、親玉は単独で突っ込んで来た。
まあ、挑発というより偽らざる私の本音だったけど。
それにしても頭が悪い。
魔王軍より酷い脳筋だ。
「今さら謝っても遅ぇぞ! せいぜい泣き喚くまで可愛がってやらぁ!」
そんなチンピラ丸出しの台詞と共に、親玉がオートマタに向かって剣を振るう。
そこそこの速度と威力の攻撃。
擬似ダンジョン領域の中に入った事で鑑定に成功した親玉の平均ステータスは、凡そ2000。
猫耳と同じくらいの強さはある。
でも、その剣はオートマタにまで届かない。
何故なら、奴が擬似ダンジョン領域に入る前に召喚しておいた、黒い外套を纏った一体のモンスターが、手に持った禍々しい巨大な斧で、その攻撃を受け止めたのだから。
「な、なんだこいつ!?」
突然現れたモンスターに驚きながらも、親玉は動きを止める事なく、そのモンスターに向けて何度も剣を振るった。
でも、その攻撃は一切通用しない。
純粋にステータスが違いすぎる。
このモンスター、真装を解放したゴブリンゾンビの前に、一介の盗賊ごときでは相手にならない。
そして私は、ゴブリンゾンビに命令する。
死なない程度に痛めつけろと。
「ギャアアアアアアアアアア!?」
ゴブリンゾンビの振るった斧が、あっさりと親玉の手足を斬り飛ばし、左半身に大怪我を負わせた。
続いて、踏みつけによって残った手足を粉砕。
親玉は、不様に失禁した。
「ぁ、ぁぁぁ……!」
そして、か細い声で呻きながら、壊れた手足で地面を這い、逃げようとしている。
汚い芋虫みたいで、実に醜い。
「お、お頭……?」
「お頭がやられた!?」
「に、逃げろぉ!」
自分達の親玉があっさりとやられたのを見て、残りの盗賊どもが一目散に逃げ出した。
こんなにも簡単に仲間を見捨てるか。
さすが盗賊。
どこまでもゴミだ。
でも、逃がさない。
お前らは皆殺しだ。
「壁出して」
「《ファイアーウォール》」
私の指示に従ったゴブリンゾンビが、魔法で周囲に炎の壁を生み出し、盗賊どもを閉じ込める。
盗賊どもは盛大にパニックになっていた。
その隙を見逃してあげる訳もなく、私は更にダンジョンからモンスターを召喚する。
喚び出したのは、何体かの黒鉄ゴーレムと不死身ゾンビ。
こいつら相手なら、この程度の戦力で充分だと思う。
親玉以外は雑魚っぽいし。
「え!?」
と、その時、何故かリーフが不死身ゾンビを見て驚いていた。
……もしかして。
「知り合い?」
「は、はい。前のご主人様です」
あー、なるほど。
リーフが度々呪詛を吐いてた前の主人って不死身ゾンビだったのか。
考えてみれば、こいつはボルドーの街の冒険者だったんだし、リーフはボルドーの街で買った奴隷だ。
そういう繋がりがあっても不思議じゃない。
あと、そういえば生前の不死身ゾンビって、盗賊に勝るとも劣らぬクズ野郎だったっけ。
……リーフも苦労してるんだなぁ。
まあ、そんな事より今は盗賊だ。
私はゾンビとゴーレム達に命令を下した。
盗賊どもを、全員生かしたままオートマタの前まで連れて来いと。
その命令に従い、モンスター達が動き出す。
そして、リーフにはこう言っておいた。
「あれも、ただのゾンビだから気にしないで」
「は、はい」
そうして少し待てば、手足を砕かれて自由を奪われた盗賊どもが、モンスター達によって連れて来られる。
チャラ男を含めて、全員が恐怖に染まった目でモンスター達を見ていた。
そんなゴミどもを見渡していたら、一つの妙案が浮かんできた。
「リーフ。復讐したいなら、あなたが殺ってもいいよ」
「……え?」
私は、こいつらの殺す権利を、リーフにあげる事にした。





