7 駆け出し冒険者
「アデル、この辺りか?」
「そうじゃないですかね。依頼にあった通り、ゴブリンが結構出てくるようになりましたし」
「はぁ……ゴブリン退治とか、マジ萎えるわ。早くドラゴン退治とか、魔王討伐とかしてみたい」
「文句言わないでください、キース。
そんな調子じゃ、ゴブリン相手にすら殺されますよ」
「いや、アデルは女だし、殺されはしないんじゃないか? まあ、死ぬより酷い目に遭うかもしれないけど」
「縁起でもない事言わないでください、ドイル!」
「あはは、悪い悪い」
マーヤ村でゴブリン退治の依頼を受けた俺達は、そんな軽口を叩きながら、目的地を探して森の中を歩いていた。
今回の依頼は、この近くにあると思われる、ゴブリンの巣穴の駆逐だ。
キースの言う通り、もっと吟遊詩人に語られる冒険者みたいに派手な依頼を受けたいという気持ちもあるが、俺達は駆け出しなんだから仕方ない。
ドラゴン退治も魔王討伐も、いつか強くなってからやればいい。
今は積み重ねの時期なんだ。
大丈夫!
俺達なら、きっといつかは英雄になれるさ!
俺とキースは、故郷の村じゃ大人にも負けなしの剣士だったし、アデルは村で唯一魔法を使える天才だ。
のし上がれるだけの才能は持ってる。
なら、焦る事はない。
最近じゃ、結構Lvも上がってきたしな。
ギルドでも将来有望って言われてるし、もうすぐ駆け出しも卒業できるだろう。
でも、そんな俺達がゴブリンなんて雑魚魔物を相手にするのは、やっぱり張り合いがないってのも事実だよなぁ。
たまに村を襲ってきたゴブリンとか、凄ぇ弱かったし。
子供の頃でも勝てたんだから、今の俺達が負ける訳ない。
さっさと終わらせて帰ろう。
そんな感じで森の中を進んでいると、ふとゴブリンが巣穴にするのに丁度よさそうな、洞窟の入り口を見つけた。
これは、早く帰れるかもしれない。
「行くぞ、二人とも」
「ああ」
「わかりました」
そうして俺達は、洞窟の中へと足を踏み入れた。
「……暗いですね。《ライトボール》」
その洞窟の中は、光源の一つもない上に、太陽の光も届きにくい森の中という事もあって、凄い暗かった。
まあ、洞窟なんだから当たり前だな。
アデルが光の魔法を使って中を照らしてくれた。
こういう時、パーティーに一人魔法使いがいると、松明を使わなくていいから便利だよな。
アデルが浮かべた光の弾が、洞窟の中を照らした。
でも、洞窟の中は予想外に狭かった。
冒険者ギルドの訓練場と同じくらいの広さだ。
ゴブリンが巣穴にするだけのスペースもない。
こりゃ、外れだな。
そう思って落胆した時、━━突如、入り口の上の岩が崩れて、入り口が塞がった。
「アデル! 危ない!」
「え?」
続いて、キースの大声がした。
どうした!? と思って二人の方に振り向けば、全身鎧を着込んだ奴が、アデルに向かって剣を振り下ろしていた。
咄嗟にキースがアデルを突き飛ばす。
それでアデルは助かったが、その代わりにキースが……
「キース……? 嘘だろ……?」
キースは、その一瞬で鎧に首を飛ばされていた。
何が起きたのかは見てた。
まず、アデルを突き飛ばしたキースの腕を、鎧が切断する。
キースはその痛みに呻いた隙に、一太刀で首を斬り飛ばされた。
退屈な故郷の村から一緒に出て来て、一緒に成り上がろうと誓った仲間が、こんな、あっさり……
「こ、この! 《ファイアーボール》!」
俺が、目の前で突然起こった出来事が信じられなくて放心している間に、アデルは火の魔法を鎧に向けて放っていた。
鎧はそれを、左手に持った盾で冷静に受け止める。
そのまま、アデルに向かって、凄いスピードで走って行った。
「アデル!」
もう一人の仲間のピンチを見て、俺はようやく我にかえって、アデルを助ける為に走り出す。
だが、
「うわっ!?」
踏み出した俺の足は、地面を捉えられずに空を切った。
見れば、突然地面が凹んでいた。
落とし穴!?
なんで、こんな所に!?
そして、俺が落とし穴に落ちている間に、アデルがやられた。
あいつは魔法使い。
後衛職だ。
前衛がいない状態で接近されたら、勝ち目はない。
キースと同じく、斬り飛ばされたアデルの首が俺の目の前に転がってくる。
同時に、アデルの使っていた光の魔法の効果が切れて、洞窟の中が暗闇に包まれた。
そんな中でも、まるで見えているかのように、迷いなく俺に向かって一直線に走って来る鎧の足音だけが、俺の耳に聞こえていた。
それが俺には、まるで、逃れられない死の足音に聞こえた。
そんな中にあって、俺の頭にはキースとアデルの、仲間の死に様だけが浮かんでくる。
三人でのし上がってやろうと約束した。
いつか、吟遊詩人に語られるような冒険者になって、その内、魔王とかもぶっ倒して英雄になってやろうって約束した。
なのに、こんな、こんな、ゴブリン退治の依頼なんかで。
しかも、ゴブリンなんかとは全く関係ない、こんな訳わかんない所で。
二人とも死んじまった。
そして、俺も死ぬんだろう。
なんで、なんで、
「なんで、こんな事に……!」
そんな嘆きの言葉を最後に、俺の意識はこの洞窟の中と同じく、闇に閉ざされた。





