53 ハーフエルフの決意
ボクは、カンテラを持って迷いなく洞窟、いや、ダンジョンの中を歩くご主人様の後を追いかけて行く。
昨日は色んな事があった。
色んな事っていうか、衝撃的すぎる事って言った方が正しいかも。
衝撃的すぎて、一晩経った今でも理解できない事の方が多い。
ご主人様と魔王の会話なんて、半分も理解できなかった。
でも、わかった事もいくつかある。
多分だけど、ご主人様は人間じゃないという事。
だって、魔王が人間をスカウトする訳がないから。
ダンジョンがどうとか言ってたのを考えると、ご主人様はおとぎ話として語られる、ダンジョンの主なのかもしれない。
そして、そのご主人様は魔王の配下になった。
つまり、人類の敵になった。
ボクは昨日、とんでもない人に買われたものだと思って、この先どんな扱いを受けるのかと、布団の中でビクビクしながら寝た。
そうしたら、夢を見た。
夢の内容は、盗賊に拐われた時の記憶。
お父さんを殺して笑ってた、恨んでも恨みきれない奴らの顔が浮かんできた。
次に、夢の内容は、前のご主人様の所にいた時の場面に変わった。
酷い事されて、痛くて、辛くて、苦しくて、でも誰も助けてくれなかった時の記憶。
この二つの夢を見る事はよくある。
忘れたいのに、ずっと、ずっと、夢の中から消えてくれない。
夢を見てる間も、夢から覚めた時も、ボクは怖くて、苦しくて、震えが止まらなくなる。
でも、今回は違った。
『起きて』
そう言って優しく……ではなかったけど、ボクの肩を揺すって、悪夢から起こしてくれたご主人様の顔を見て、悪夢の恐怖は消えていった。
もしかしたら、もっと強い恐怖で上書きされたのかもしれない。
でも、その時は、ご主人様をそんなに怖いとは思わなかったんだ。
魔王とか、人類の敵とか、スケールが大きすぎて、今一ピンときてないんだと思う。
ボクがご主人様に抱く恐怖は、そんな漠然とした不安みたいなものだ。
具体的に、何をどうしたらどんな怖い目に合わせられるのか。
それはわからない。
命令を破ったらあれを潰すとは言われてるけど、逆に言えば、命令を破らなければ何もされないって事だ。
少なくとも、今の時点では。
そこまで考えて、ボクは思ったんだ。
ご主人様は人間じゃなくて、魔王の配下で、人類の敵だけど。
それでも盗賊や前のご主人様よりは、ずっとずっとマシな主なんじゃないかって。
だって、ボクはまだ、ご主人様に何も酷い事はされてない。
目の前で着替えさせられたりとか、恥ずかしい事はさせられたけど、酷い事はされてないんだ。
なら、そこまで怯える必要はないんじゃないかなと思う。
ご主人様は、酷い人かもしれない。
悪い人かもしれない。
これから、いっぱい人を殺すのかもしれない。
でも、それでも、ボクはこの人に付いて行こうと思う。
どうせ奴隷のボクに選択肢なんてないし。
いつか、ご主人様がボクを使い潰す時まで、この人の奴隷として生きようと思った。
ボクを悪夢から救ってくれた、この人の。





