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「へえ、それで編集者に。僕にも小さな頃からの夢があったら良かったんですけど、結局働き先を探す時まで自分が何をしたいのか分からなかったです」
「でも今のお仕事は楽しいんでしょう?」
「まあそれなりにですけど、わりと自分ひは合ってると思います。あ、コーヒーお代わり飲みます?」私の前にある残り少ないコーヒーカップを見ながらそう言った。
イケメンの上に気が効くなんて。
素敵!もうラブ、完全にラブだ。完全に落ちてしまったよこの人に私の気持ちが。
「そうですね、今度は紅茶をいただこうかな」
「僕も紅茶をもらおうかな」
もしかして食べ物の好みも合う感じ⁈
イケメンな彼は、お代わりの紅茶をすごく自然に注文してくれた。別に普通の事なのだけど、そんな当たり前の様なことですら私の胸はドキンドキンとしてしまう。
出会ったばかりだと言うのに、まるで中学生の初恋の様にときめいているなんて、やはりこの人と結婚するって信じて良いんだよね?神様は私を見捨てはしなかった!
「あの花美月さん、もし良かったら連絡先交換してもらえませんか?」
「ええ、もちろんです」
まさか、まさかの連絡先交換⁈アドレスを確かめている時の彼の睫毛の長い事。バサバサしてる。
喫茶店を出てから、イケメンとまた会う約束をしてから、私は駅へと向かった。本当はもう少し一緒にいたかったのだけれど、今日はこの後、仕事で取材をしないといけないのでタクシーに乗り込み駅へと向かった。
コーヒー代を私が支払うつもりだったのに、イケメン過ぎる彼は当たり前の様に伝票を持って、レジで支払ってくれたのだ。
それだけでもう私はメロメロになってしまいそうだった。いや、既に私は恋に落ちてしまっているのだ。
タクシーまで捕まえてくれ、そして彼と別れることを惜しみながらタクシーに乗り、その中でメールのやり取りをした。
「今日はありがとうございました。突然話しかけてしまってすませんでした。でも楽しかったです」そう送ったらすぐに返信が来た。
「僕の方こそ楽しかったです。花美月さんの事可憐さんって呼んでもいいですか?僕の事も良かったら、蓮と呼んでください」
そのメールを見た瞬間に私の身体はいよいよ、どうにかなってしまいそうで、このままひょっとしたら本当に宇宙まで飛んでいけるのではないのだろうか位な勢いだった。
結婚する時って、ビビッてくるって聞いたけれど、もしかしてこんな感じがそれなのかなあ?だとしたら、やっぱり私と蓮さん、結婚するんだ⁈あのさわやかで可愛い笑顔が毎日見れて、一緒に生活して……。
ちょっと待って、どうしよう、もしそうなったとしたら私の寝顔も見られちゃうって事だよね?それにどうしよう、このぶよぶよなお腹。あんなに素敵な人の前で見せられないよ?恥ずかしいよ。
でもでも、結婚するんだもんね。それにぽちゃっとしたのがいいって言ってたじゃない。自信を持つんだ、可憐!
自分を一生懸命励ましながら、左手小指の赤い糸を見ながらにししししと笑った。
「蓮さん、可憐って呼んでください。嬉しいです、少し恥ずかしいかも。もし良かったら今度は食事をしましょう」
さあなんて返ってくるかな~?




