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「愛と言うものはそんな簡単に語れるものではないが、まあお前に話したところでなんにもなるわけでもないのだがな」
「脇西さんが言う本当の愛と言う者はなんですか?」
「お前、このワシにそんなこっ恥ずかしい事を聞くのか?」
「脇西さんが聞いて欲しそうだったから聞いたまでの事ですよ」
面倒くせえ。なんで自分がこんな老いぼれジジイの相手をしなければなんねえんだよ。早く始末しなければ。
「わしが言う愛というものはだな、良い時も悪い時も一緒で気持ちにブレがねえ。最近の若者は一人の女じゃ満足できずにすぐに他の女に手をだしらりするんだろう?そりゃあ昔からそいう男は居なかったこともないが、それは愛を知らないが故の事だ。そいういう奴ほどに簡単に愛を語るが、良い時ばかりを見つめるばかりでは愛とは言えない。良い時も悪い時も一緒にいて守る、それが本物の愛というものだろう?」
チッ。そんな話聞かされる身になってみろ。いかにその話が退屈で全身に鳥肌が立って痒くなると言うのに、この爺さんは何を偉そうに語っているんだか。
「それで、脇西さんはママさんにその愛をぶつけたんですか? 男らしく」
「なんでそこでママの話が出てくるんだよ?いいか?まだ話の途中だ。人の話は黙って最後まで聞くのが礼儀というものだろう?それともなんかい?こんな老いぼれた爺さんの話は聞きたくねえって言うんじゃねえだろうな?あ?」
「いや聞きたくないことは」
聞きたくねえに決まっているだろうがよ。
「俺はな一度この人って決めた人を一生この手で守るって決めているんだよ。この胸に固く誓っているんだよ」
カッコつけているつもりか?
「脇西さん、せっかくなんでお酒でも持ってきましょうか?お酒が切れてきたようで」
「おお、なかなか気が利くじゃねえか。一階の冷蔵庫にビール瓶が冷えているはずだ」
「脇西さん今停電中なんで、冷えているかどうかは――」
「なに?だから電気が点かんのか?」
「そうですよ。脇西さんもまさか蛍光灯が切れているのかと思っていたんじゃないでしょうね?」
「脇西さんもって、その、も、っていうのはなんだよ?」
「いや、こっちの話です。ところで脇西さんこの店には一人でいるんですか?」
「そうだ。なんだお前。もしかして下に誰かいるのか?」
「いや……そういうわけではないですけど」
「うわ、驚いた。ひょっとしてママが下にいて怒っているんじゃないかと思ってさ…」
「実は――そのお」
そう言った途端、脇西さんの顔は酷く引きつり始めた。いっその事ママを呼んできて二人のやり取りを眺めたいくらいだ。




