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「アリスちゃん、僕は目を瞑っておくから、恥ずかしがらないで大丈夫だよ。
そうそう、僕が身体を洗ってあげるよ、背中とか自分じゃ洗いにくいだろう?今日はこの服を風呂上りに切る?フリフリが可愛いと僕は思うんだよ。髪の毛も僕が梳いてサラサラにしてあげるね。髪の毛はね女の命だよ?」
相変わらず男が話すばかりで、この女の声は聞こえてこない、一体誰をかくまっているというのだ。
女の子がいるならそうやってきちんと知らせないと、自分の計画が狂ってくるではないか。
その時男は部屋から出て下を下りて言った様だった。
自分は聞く耳を立て、様子を見ながら男の部屋に入って行った。部屋にはカップラーメンや菓子パンのふくろなどが置いてあり、不健康そのものの生活が目に見えて想像できる。
こんな生活を送っているからキャベツと白菜の区別も出来ねえんだよ。言い知れない怒りが胸に込み上げてくる。
男が階段から上がってくる足音に気が付き、男の部屋のクローゼットの中に隠れた。一体この男は何をしているのだろうか。
クローゼットの細い隙間から、部屋の様子を伺う。
アリスとかいう名前の女の子は見えない。見えるのは無精ひげを生やした汚らしい格好をした男だけだった。
自分はじーっと黙って男の様子を観察した。
「アリスちゃん、お湯を持ってきたから、服を脱ごうか?今日のお胸も可愛いね」自分はアリスちゃんと言う存在をどうやら勘違いしていた様だ。
男の右手の中にあるのは、ビニール人形だった。
「ぶはははははははははははは」ついに笑いに堪えれなくなり声に出して笑ってしまった。
「誰だ?」そう言って驚いたような顔をするその顔がまたおかしくて仕方がない。
「ねえ君、そのアリスちゃんって知ってる?それ、に、ん、ぎょ、う、だからね」
「貴様! なんて事を言う」
「あっれ~驚いた。少しは言い返せるだけの度胸があるんだ?」
「アリスちゃんの事を笑ったな」
「ばーか、アリスちゃんの事よりもいい年して人形ごっこなんかしているお前にわらったんだよ」男の顔は見る見るうちに真っ赤になっていく。
「アリスちゃんを、このアリスちゃんを笑う奴は許せない。アリスちゃんはな僕の友達だ。このアリスちゃんはヴィンテージもので50万はしたんだから」
「五十万も出す価値のあるものかねえ?それにその人形裸のままだけど、風邪をひいちゃわないの?」そう言って自分はぷっと噴出して笑った。
「くっ。お前が突然現れたりするから。アリスちゃんごめんね寒い思いをさせて今、服を着させてあげるからね」
自分にはその光景がおかしくておかしくて堪らなかった。昔、紙芝居を見たことがあるが、そんなものよりもこの男がやる人形劇の方が数千倍面白い。




