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理想の島/運命の赤い糸  作者: 大和香織子
第五章 猛追
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14

秋部ヨシが急に苦しみだし、椅子から転がり落ちて、苦しそうにもがき始めた。自分は何もせずにその姿をじっと黙って見つめた。

そして、痙攣を始めると、数分後に泡を口から拭いてそして死んだ。


 自分は秋部ヨシの遺体を蹴り、そして秋部ヨシが大切にしていた水晶玉を両手で持ち上げるなり頭に思いっきり投げつけた。

水晶は割れ、その瞬間にどこかから「ぎゃああ」と悲鳴無様なものが聞こえた気がして自分は他に誰かいるのではないだろうかと辺りを見回した。


しかし、そこには誰の姿もなく、蝋燭も手に持ち箪笥の上を見るとそこには、不気味に笑っている秋部ヨシにそっくりな日本人形と目が合った。

少し気味が悪くなるのを感じながら、その家を後にした。


 さっきの日本人形にまるで秋部ヨシの魂が乗り移ってしまったのではないだろうかという錯覚さえ感じてしまった。

 そんな事は馬鹿げているとは思いながらも、あの人形に銃弾を撃ち込んでおくべきだったと思いはしたが、わざわざその為にもう一度あの部屋に戻る気はしなかった。


 名簿を開き、秋部ヨシの名前を消す。          <残人口7名>


車を降りて高沖明の家に向かう。

 まさか、この男が最後の生存者十名の中に入っているとは意外だった。この男は口数が少なくそして男のくせに行動が遅すぎる。


 一時期、島の外でレジ打ちの仕事をしていたのを目撃したことがあった。自分は野菜にくわしいので野菜の種類を間違えるなんて言う事は一切ない。

しかし、この男に気が付いて暫く見ていると、小松菜とほうれん草を間違って打ち込んでいて客に怒鳴られていたのだ。

 スーパーで働く以上、それもアルバイトでもない社員が野菜の種類を間違えるなんて言語道断。


 自分はそれを見て、キャベツをカゴに入れてそのレジに並んだ。案の定、この男はキャベツではなく白菜としてレジに打ち込んでいた。


「お前の目は腐っているのか?これのどこが白菜なんだ」とその場で怒ってやった。

 そんな事はすっかり忘れてそのスーパーに行った時にはその男の姿は見えなかった。


「前ここに高沖明ってやつが働いていたと思うんですが……」と他の従業員に聞いたら「すぐに辞めた」と言っていた。

 以来、島で見かける度に、キャベツが浮かんで仕方がないのだが、表情がいつも暗く何を考えているのかまるで分からないようなタイプで、世界が滅亡してしまう時には一番初めに死ぬようなタイプだと思っていただけに、まだ生き残っていることが意外で仕方がなかった。


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