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秋部ヨシの家の前の柵をギーッと開ける。
この家の中に入るのは初めてだな。
玄関には鍵がかかっておらず、勝手に開けて中へと入る。下駄箱の上には市松人形が5体飾られていて、その横には沢山のコケシが並べてある。
「すみません」耳が悪くて聞こえないだろうが、そう言って返事がないのを待ってから、長い廊下を進み、中に入って行く。
線香の臭いが部屋に充満しており、ジメジメとしてジッと汗が出てくる。
一番奥の唯一閉まり切っている部屋の前に立ち、ドアに掛けられてある文字を読む。「診察室」と書いてある。
「お入り」自分が来ていることをまるで待っていたかのように、ドアがキキーッと開いた。
自動ドア?
中は真っ暗で、ただ蝋燭の炎の所に目玉がぎょろりとしているのだけが見えた。
「失礼します」そう言って中に入って行く。
「待っていたんだよ?」
「自分が来るのを待っていたって言うんですか?」
「そうさ。私はね未来の事、自分の運命すらこの水晶とタロットで占う事ができるんだよ」
噂には聞いていたが、自分が思っていたよりも本格的過ぎて、つい吹き出してしまった。
「それでは、この後の貴方の運命は?」
「フン。そんな事はお前だって良く知ってるだろう?お前の運命だって私にはお見通しさ」
「そうですか。ですが、生憎自分の運命は自分で決めたい性質でしてね」
「知っておる。お前の中で色々と企んでいることも私には分かってしまうからねえ」
「そうですか、自分は別に自分の人生を見て欲しいと言った覚えもないんですがね?それでは自分が何しにここへ来たかお聞きしましょうか」
「私を殺しにきたんだろう?」
「そうですか、そう思いになるのにどうして逃げないでいるんです?怖くはないんですか?」
「怖い?怖くはないさ。お前は確かに私を殺しに来たがお前には私を殺せないんだよ」
「それは、それは随分と余裕な発言ですね。あなたは変わっている」




