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気が付いた時には公民館の前に立っていた。
こんな所に今更やってきてどうするって言うのだろうか。私は自分の家に帰るのを無意識に避けているようだった。
両親のいない家はガランとしていて、そこに帰ってもどうしようもないような気がしたからかもしれない。
公民館の中に入ってはいけない、中に入っても死体しかないのだから……。そして自動販売機の近くまで走った時に、私は人形の様な物が転がっているのが見えた。
石赤さん!? し、死んでる……。
「きゃあああああああああああああああああああああ」想定外すぎる出来事に私の心はついていけない。
こんな事、誰が一体。
石赤さんは、既に身体が固くなり始め、そして地面についている方から身体が真紫になっていた。
い、石赤さんまで……ヒィッ………。
だ、だだだだだだだだだだ誰か――。
しかし、腰が引けて走ることが出来ない。こんな事では殺人鬼に捕まってしまうというのに。
しかし、あまりの恐怖で身体が思う様に動かない。
誰かに助けを求めなければ、と頭の中はそう思っているのであるが、次にどうするべきか分からない。
目の前の死体を見れば、自分の近い未来かもしれないと恐怖が襲ってくる。それにこんなに身近で殺害された遺体を見ると言う事も自分を恐怖に陥れる。
どこかに隠れなければ……ゆっくりと這うようにして公民館の倉庫の横に向かいそこに寝転んだ。
落ち着け、正子落ち着くんだ、冷静になれば足だってしっかり動くようになる。佳代子さんは島の皆を殺害する気なのだろうか?
心臓はドキドキと震えあがっており、先ほどから呼吸も苦しい。背中で大きく息をしないと苦しいのだ。
自分も殺されてしまうのだろうか、あんな風にみじめな殺され方をしてしまうのだろうか。
自分はもっと生きたい。両親が私に結婚相手を連れて帰って私は、その人と結婚して子供を産んで、可愛い孫を両親に見せてあげて親孝行をしなければならない。
こんなまだまだ自分の人生、途中のままでは終れない。
もっとやりたいことだってたくさんある。畑仕事や米作りも手伝っていずれ結婚する人と家業を継いで……。
「あれ?正子さん?」私は名前を呼ばれて顔をあげた。




