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裏庭に回り、勝手口から中へと入って行く。
障子の戸が開いており、その隙間から誰かが布団に横になっているのが見える。 随分となめられたものだな。
居間の方からは、数人の笑い声が聞こえてくる。
自分の姿にも気が付かないで楽しそうにしているとは、少し馬鹿にされた気分にならないこともない。
布団に転がっている人の顔を見る。
日井さんか。飲めない酒でも飲まされてしんどくなったんだろう。内ポケットから銃を取り出し、そして背中に向かって銃弾を放つ。
次の瞬間、「何か音がしなかった? 運動会の様な」という声が自分の耳にも届いた。
この和室には、押し入れ意外に何もない、しかし、誰かがこちらを確認しにくる足音が聞こえる。
「日井さん?ぎゃああああああああああああああああああああ―― 日井さんが死んでる」
「犯人はどこに行った?」
「ぎゃあああああああああああああ、わ、私の家で、日井さんが。 殺人が―― 佳代子が……」
「くっそ、なめやがって、ハナさん台所の包丁借りるぞ?」
自分の姿が見つからないように、ジッと腰を下ろして静かに物音を立てないようにする。埃が空中に舞い咳を吐き出してしまいそうになる。
数ミリの隙間から、外の様子を伺う。三子さんともう一人女の人がわんわんとすすり泣いている声が聞こえてくる。
「殺人鬼姿を見せろ――」そんな声がきちんと自分の耳にも聞こえてくる。別に今ここから出ても良いのだが、念には念を入れることにした。
こんな機会なんてもう二度とはやってこないだろう。
そう思うと、つい笑いそうになってしまう。クックックッ………。
「ハナさん、今誰かが笑った様な声が聞こえなかったかい?」
「そうか?私は耳が遠いもんで分からなかったが?」
「聞こえた、絶対聞こえた。柳青さん早く早く早く戻ってきてちょうだい」
「どうしたんだ!?」
「それがこの部屋のどこかから誰かの声が聞こえて」
「何っ!?それじゃあこの部屋のどこかに隠れているというのか?」
「………」
「この押し入れの中か?」
マズイ。自分が隠れていることがバレテしまう。
足音はこちらに向かって近づいている。押し入れのふすま越しに皆の視線が集まっているのが伝わってくる。




