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第90章―13

 そして、こういった情報は、ローマ帝国でも大騒動を引き起こした。


「美子が五つ子を産んだだと、その内3人が男児だと。本当なのか」

「日本政府の公式発表ですし、我が帝国の複数の諜報部(外務省や国防省等の指揮下)からも、間違い無いようだとの情報が入っている以上、真実としか考えられません」

 エウドキヤ女帝は、藤堂高虎帝国大宰相とやり取りをする事態が起きた。


 高虎は想った。

 幾ら内々の話とはいえ、日本の中宮陛下を美子と呼び捨てにするとは、これは女帝の癇癪が大爆発する前触れだな。

 実際に高虎の予感は、かなり当たった。


「美子の実母は、今でもマンダ教を内信しているとの根強い噂があるな」

「御意」

 エウドキヤ女帝の問いに、高虎は即答した。


 実際、美子中宮陛下の実母の広橋愛、以前の名前はアーイシャ・アンマールは、元々はマンダ教徒だったが、戦乱の中で家族を失い、自らは奴隷の身に堕ちた。

 そして、イスラム教に改宗すれば自由になれると言われて愛は改宗したのだが、それは嘘でスルタンに奴隷の身で献上されたのだ。

 その後、スルタンから上里清に奴隷の愛は下賜されて、清との間に美子を産んだのだ。


 更には、清らが日本に帰国する際、愛は奴隷から解放されて、清の妻の理子の連れ子養女になることで日本人になり、更にイスラム教への改宗は強いられたことだったし、養母と同じ宗教を信仰したいと言って、イスラム教を棄教して、仏教徒に表面上は成っている。

(とはいえ、この世界の日本人の仏教徒の常として、神仏習合の仏教徒である)


 だが、実はマンダ教を愛は内信しているのでは、と見る人が多い。

 愛は余程のことがないと、神社仏閣に参拝しないからだ。

(とはいえ、この世界の日本人にしても、冠婚葬祭以外で神社仏閣に参拝するのは、初詣だけという人が圧倒的多数というのを考えれば、別に愛は普通の日本人と同様といえた)


「マンダ教の魔術を母に使わせて、美子は五つ子を産んだに違いない」

「そんなことは無いかと。排卵誘発剤という薬、科学で多胎児妊娠が起こるのは、多々あること。恐らく高齢になることから薬を使って、それで、五つ子が産まれただけでしょう」

 派手な癇癪は起こさなかったが、エウドキヤ女帝は低い声で酷い誹謗中傷を始め、高虎はそれとなく宥めるような言葉を発した。


(この世界の欧州で魔術を使ったというのは、中世から急激に近現代に移行したこともあり、酷い誹謗中傷行為になります)


「ともかく、五つ子が産まれたのは、神の恩寵ではなく、マンダ教による悪魔の産物よ」

 エウドキヤ女帝は、自らの養女になる千江皇后が産んだ子が、日本の皇位に即位する可能性がほぼ消滅したこともあって、更に罵声を発した。


 これはいかんな。

 高虎は冷静に考えた。

 これ以上、この話を続けては女帝の癇癪が爆発するだけだ。


「仰られる通りやもしれませぬが。証の無いことを騒ぎ立てては、我が帝国を貶めるだけになります。それよりも、テレシコワに対する昇進や叙勲を考えては如何でしょう。何しろ月面に実際に足を踏み入れてのですぞ」

「確かにその通りだな」

 高虎が、それとなく話を切り替えた事に、完全に頭に血が上がってはいなかったエウドキヤ女帝は応じることになった。

 実際に高虎のそれとない誘導から、エウドキヤ女帝自身に、自分で自分を貶めることになるという感覚が働きつつもあったのだ。


「テレシコワ飛行士は中尉から二階級特進させて少佐としよう。更に叙勲もすることでどうか」

「二階級特進とは。戦死した場合に准じる栄誉ですし、叙勲も真に相当と考えます」

「そう考えるか、では、そうするように」

 エウドキヤ女帝の提案に、高虎は即座に応じて、御前から下がった。

 忘れておられる方がおられるかもしれませんので、少し補足。

 マンダ教はグノーシス主義の宗教であり、キリスト教の異端とされるボゴミル派やカタリ派等と縁が深いことから、東方正教徒であるエウドキヤ女帝にしてみれば、不俱戴天の仇敵といえるのです。

 そのために個人の信仰の自由をローマ帝国は認めていますが、マンダ教は例外扱いで教会の建設が禁止される等の迫害を受けています。

(この辺り、現実世界で、信教の自由があっても、カルト教団が迫害されるのと同じようなものです)


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― 新着の感想 ―
 五つ子生誕の知らせがローマに衝撃を呼ぶ!(・Д・)そー言えば小督さんはエウドキヤ女帝と義姉妹になるんなら皇后陛下の千江さんは姪なんだよな(読者は今回の皇位継承権のスライドでは千江さんのご両親秀忠さん…
小督さんの罵詈雑言は公式の地位に無い「実娘の不幸に錯乱した女の妄想」で黙認できても、女帝陛下の「魔女認定」は流石に無視できません。完全に国際関係にヒビが入る。 藤堂高虎さん有能&女帝も癇癪を起すべき…
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