第90章―8
感想欄を読んだことから、補足説明を。
この世界のシェークスピアが描いた「もしもの世界」ですが、20世紀が舞台で人類初の月面到達を日本と英国が競い合っている世界になります。
尚、それまでの歴史については具体的な描写は無く、所々で何故にこうなったのかが、仄めかされている小説です。
(具体例を挙げれば、「エリアンダー・Mの犯罪」や「ファーザーランド」といった小説とほぼ同じような小説ということになります。
そんな説明では分からない、というツッコミの嵐が起きそうですが、ネット検索でどうか調べて、納得して下さることを平にお願いします)
池田茶々とやり取りをしたテレシコワやライドも、茶々につられて地球を見ながら共に想った。
本当に「皇軍来訪」が無かったら、世界はどうなっていただろうか。
例えば、人類が月面にたどり着くのは、何十年どころか、何百年も先になっていただろう。
それこそ「皇軍知識」に触れるまで、天動説が欧州では当然とされ、地動説を唱えたら、異端者として火刑に処されることさえも覚悟せねばならなかったのだ。
それが、「皇軍知識」によって、地動説が自明の理になる等、大いに様々な知識や技術が長足の進歩を遂げることができた結果として、今の自分達は月への旅さえもできるようになったのだ。
テレシコワは思わず考えた。
シェークスピアは、あの小説「もしもの世界」の中で描いていた。
もし、「皇軍来訪」が無かったら、ローマ帝国復興という事態は起きなかった。
更には、モンゴルの再びの復活という事態が起こり、一時とはいえ、モンゴル軍が今度は欧州を馬蹄の下においてパリやマドリードまでもが、モンゴルの征服下に置かれたような描写があった。
その一方で、イングランドは、モンゴルの脅威からドーヴァーの壁によって守られることになり、欧州が戦乱で混迷している隙を衝いて、南北米両大陸や豪州大陸等に侵出を果たして、そこで、日本と戦い、20世紀では日本とイングランドが二つの大国として対立しており、共に月を目指していた。
「皇軍」の噂、伝説に基づく「皇軍世界」の歴史では、イングランドからアメリカ合衆国という国が分離独立しているらしいが、更にはアメリカ合衆国が世界の超大国になっているらしいが、シェークスピアとしては、そんな未来を描きたくなくて、「もしもの世界」では、歴史がそのように流れることにしたのだろう。
ライドも想わず考えた。
「皇軍来訪」が無ければ、自分達の両親も、更には祖父母も共に知り合うことは無く、自分は産まれてこなかったのだ。
そして、人種差別は表向きは無くなっていて、混血である私も露骨な差別に遭ったことは無いが。
「皇軍来訪」が無かった世界では、人種差別があったのではないか。
そんな密やかな噂を、私は聞いたことがある。
「皇軍」の元兵士からの又聞きの、更に又聞きという形でだが、「皇軍来訪」が無かった世界では、白色人種が、黄色人種や黒色人種といった有色人種を世界中で公然と差別しており、「皇軍」はそれを憤って有色人種解放の為の戦争に突入したところ、この世界に来たとか。
更に言えば、白人は純血主義で、一滴でも異人種の血が混じっていれば、白人扱いされなかったとか。
根も葉もない噂だけどね、という前置き付きで言われる冗談だったが、所々で妙に現実感を覚えて、私にはならなかった。
もし、そんな世界だったなら、人類初の月面到達は白人だけで為されることになり、自分は決して選ばれなかっただろう。
白人の血が4分の1入っているとはいえ、外見上はどう見ても黒人に見えることもあって、ライドはそんな考えが浮かんでならなかった。
そんな三者三葉の想いに耽りながら、地球を暫く眺めた3人の傍には、人類初の月面到達の証として、掲げられる予定の一流れの旗が準備されていた。
三大国を中心とする多くの世界の国々が協力して、この大事業が成功したことを示す為に、地球の北極点を中心とする正距方位図(細かく言えば南緯60度以北の地球)が旗には記載されている。
それは、又、月がどの国の領土でも無く、地球全体のモノであることを暗に示す為に、トラック基地の面々が話し合い、最終的には上里秀勝長官が世界の主な国々の政府の了解を得た上で定められた旗であり、茶々達はその旗が月に掲げられるのを楽しみにしていた。
尚、テレシコワやライドの推測のかなりが当たっているという現実が。
ご感想等をお待ちしています。




