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第90章―7

「皇軍来訪」から約80年が経ちます。


 そうなると、「皇軍」について、様々に真偽不明の噂が乱れ飛ぶのも、当然なのです。

「そう言えば、シェークスピアの事実上の遺作になった「もしもの世界」という小説を読んだら、「皇軍来訪」が無かった世界の歴史の流れが描いてあった。その世界では、人類が宇宙に赴くのは400年先、20世紀の話になっていたわ」

「そんなに先の話になるの」

 それなりの読書家であるテレシコワの言葉に、ライドは驚いていった。


「シェークスピアの小説ではよ。「皇軍」が違う歴史の世界から来たというのは、本当らしいじゃない。そして、「皇軍」は400年未来から来たという噂、伝説から、シェークスピアはそう書いたらしいの。「皇軍」は宇宙に赴けるだけの技術を持っていなかったから」

「そうね。今ではどうにも確かめようもないことだけど。「皇軍」の面々も言っていたらしいわ。実は違う歴史に流れた400年未来の世界から自分達は来たのだと。でも、自分達は帰ろうにも帰れなかった。その為に、せめてもの縁のある日本の為にと頑張ったのだと。そう色々な筋から私も聞かされた」

 テレシコワの更なる言葉に、池田茶々は言いながら、地球を見やった。


 実際、茶々の言葉に嘘は無かった。

 茶々の係累は幅広い。

 それこそ茶々は徳川家康の外孫だし、父を介して労農党の国会議員複数とも顔見知りだ。

 更に日本の軍人としての知り合いも茶々には多い。

「皇軍」のそれなりの面々が、軍人として生涯を終えており、そうしたことから、日本軍内に「皇軍」の真実と称されるモノが、それなりに噂、伝説として残っており、茶々はそれを聞いたことがある。

 更に自分の身内からも、ある程度はそれに真実味があるとも茶々は聞かされている。


 茶々は想った。

 本当に地球は青くて美しい星。

 そこは人を始め、多くの動植物が生きている素晴らしい星でもある。

 でも、一皮むけば、醜い姿をさらけ出す星でもある。


 人同士でも民族、宗教の違いから対立が絶えない。

 日本本国でも目立たないとはいえ、外国人への蔑視等が絶えない。

 だから、今の千江皇后陛下や美子中宮陛下を素直には仰ぎ奉れない日本人がそれなり以上にいるのだ。


 皇后陛下は血筋的には生粋の日本(日系)人だが、元は北米共和国人であり、ローマ帝国皇帝の養女格として入内されたからだ。

 中宮陛下に至っては、父方祖父こそ日本人(「皇軍」出身者)だが、本当は琉球人という噂があり、父方祖母は華僑で、母方はアラブ系のオスマン帝国人の一家だ。

 だからこそ、実は中宮陛下の母方祖母は織田(三条)美子で、母方祖父はセリム2世だ、いや正親町天皇陛下だという噂が、密やかに日本の国内外で流れるのだ。

 茶々は、まずはそんなこと想った。


 これが北米共和国となると、もっと深刻になる。

 ヨーロッパやアフリカから多くの年季奉公人が赴いた結果として、多種多様な人種、民族が入り混じってしまった。

 公用語は日本語と定められ、人種差別は公的に禁止されて、民族、人種対立はそれなりで収まっているが、その代わりという訳ではないが、宗教、宗派対立が激しい。

 日本から赴いた法華宗不受不施派、北米本願寺派、欧州から流れ込んだキリスト教の各宗派、その中には欧州では異端扱いに近い、東西教会の合同を認めない古カトリック派までいる。

 勿論、イスラム教徒もいるし、グノーシス主義を唱える新マンダ教徒も100万人以上もいるのだ。

 叔父になる徳川秀忠大統領が、北米共和国内の宗教、宗派対立に頭を痛める訳だ。


 他のローマ帝国等でも、こういった国内での民族や宗教等の対立、紛争は大同小異だ。

 大抵の国が、ローマ帝国も含めて政府としては、民族や宗教の宥和を国内外に訴える一方で、実際の現場においては、中々対立どころか、暴力を伴う紛争さえも起きている例が稀ではない。

 シェークスピアが仮想史小説を描いていますが、他に適当な作家を私は思いつかず、シェークスピアを登場させました。


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 シェイクスピアの遺作が仮想戦史に見受けられる「もしもの世界」(・Д・)なかなかの奇書になりそうで読者はめちゃくちゃ読みたい1作ですな、もはや古典とも言えるSF作家ディックの「高い城の男」の作中で物語…
>シェークスピアの事実上の遺作になった「もしもの世界」 皇軍が来訪しなかった未来。順当に行けば、スペインかポルトガル、ひょっとすると明が世界の覇権を握るでしょう。 でも、イングランド人のシェークスピ…
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