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第90章―4

  以前に描写しましたが、この世界のシェークスピアは、宇宙SF作家になっています。

 広橋正之と上里松一は、月面到達の話に敢えて話を切り替えた。

 中宮陛下の出産は、事前にとても軽く話せる話ではない、と正之は察したからだ。

 異父弟妹が産まれてくる松一にしてみれば、尚更のことである。


「それにしても、月面到達の最終事前準備と言える月面着陸の予行演習が、無事に成功して良かったです。これまでも幾つかの小説等で月面到達は描かれてきましたが、あそこまで実際の訓練や演習が必要だとは、本当に信じられません」

「そう言えば、最初期の小説だと、いきなり事前演習なしで月面到達ロケットを打ち上げたりしていましたね。シェークスピアでも、そうだったとか」

「その通りですよ。今回の月面到達の段階を踏んだ訓練や演習についての感想を求められていたら、シェークスピアは恥じ入るだろう、と思います。それにしても、シェークスピアがこの光景を見ていれば、と私も色々と考えざるを得ませんね」

 二人は語り合った。


 実際、二人の話に間違いは無かった。

(この世界でも)1616年にシェークスピアは亡くなっており、結果的に人類初の月面到達をシェークスピアは見届けることが出来なかったのだ。

 そのことを、正之や松一は惜しまざるを得なかった。


「話は変わりますが。池田茶々らのチームが、人類初の月面到達をする方向で、トラック基地の準備は進んでいるらしいですね」

 松一は少なからず悪い顔をして、正之に尋ねた。


 正之は言うまでもないことだが、徳川秀忠の庶子であり、公然と言うにはお互いに色々とはばかれるが、池田茶々にしてみれば従弟になる存在である。

 又、松一は表向きは学習院の中等部の学生に過ぎないが、自らの様々な縁より、本来ならば触れてはならない程の機密情報にも触れている身である。

 そうした縁から、本来はお互いに知らない筈の情報を共に把握している。


「別に悪いことをしている訳では無いし。それに孫(の皇太子殿下)を失った父(の徳川秀忠)の傷心を癒すということからすれば、むしろ進めて当然の話の気がしますね」

 正之は少なからず惚けたとしか、言いようがない答えをした。


 最も、松一にしても正之がこのように答えるだろう、と読んでいる。

 正之も松一も、お互いの生まれ育ちから、この程度の腹芸が求められて当然の立場なのだ。


「そう御考えならば、別に構いませんが。池田茶々が、そのような思惑通りに動くのか、私は疑問を覚えてなりませんね。却って、忖度が働くのは嫌だ、とか池田茶々が言う気が私はします」

 松一は、少なからず踏み込んだことを、正之に言った。


「確かにその通りですね」

 結果的にだが、様々な事情により、正之と茶々は実の従兄弟関係になるのだが、お互いに直に顔を合わせて、従兄弟関係なのを確認したことが無いこともあって、正之はそう答えた。


 そもそも論になるが、正之と茶々の関係は疎遠なのだが、周囲の言葉もあり、お互いに従兄弟なのを認識している現実がある。

 だから、二人が直に逢ったとしても、正之の忠告、忠言を茶々が素直に受け入れるか、というと。

 松一というよりも、松一の実母の美子中宮までも他の事情もあって否定的な意見を言う現実がある。


 勿論、正之としては血を分けた姉妹になる徳川家の面々どころか、それ以外の父方の血縁の面々に対しても、できる限り血縁者として、好意的な関係を築きたいし、茶々にしても似たような関係を正之の親族と築きたいとは考えている。


 だが、これまでに積み重なって来た様々な事情が、正之と茶々というよりも、お互いの親族の関係から、正之と親族が容易に親密になるのを拒んでいる。

 そうしたことから、鷹司(上里)美子が正之と親族の関係を何とかしよう、と奔走する事態が起きたのだ。

 史実とほぼ同じ頃にシェークスピアは、この世界でも亡くなったということでお願いします。


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「真実は小説より奇なり」といいますが、一般にプロジェクトの実務は、書類の山との戦い。スパイだってドラマでは、銃を撃ったり女とたのしくベットでレスリングやったり、ですが、実際は書類の山との格闘でしょう。…
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