第88章―16
尚、実際に宇宙遊泳を行う前だが、少しでも宇宙遊泳における危険性を低減するために、宇宙遊泳を模した最低6時間連続の潜水服を着用した上でトラック基地に設けられた巨大プール、水槽を使った潜水訓練が60回は最低限各チームで行われた上で、実際に宇宙遊泳が行われることになっていた。
尚、実際の宇宙遊泳のときを想定して行われる訓練である以上、3人の内1人は潜水訓練自体には参加せずに監督役を務め、残り2人が潜水訓練を行うことになる。
宇宙遊泳を行う際、誰か一人は宇宙船に必ず残っていて、いざという際、宇宙遊泳中に何らかの事故が起こった際にバックアップ等を監督役として行う必要があるからだ。
又、宇宙空間でのアクシデントを想定して、安全確保の為に宇宙遊泳を行う際には二人一組での行動が絶対といって良い基本とされてもいる。
そして、池田茶々やテレシコワ、ライドにしても、そういった潜水訓練を60回以上、最も1人は監督役を務めねばならないので、実際に潜水したのは40回余りになるが、そういった厳しい訓練を経験した上で、宇宙遊泳をチームとして行っている。
尚、この訓練だが、地球上で行う以上、どうしても重力の影響は避けられない代物であり、池田茶々らのみならず、他に訓練に参加した宇宙飛行士の殆どが主張することだが、実際の宇宙遊泳の方が楽と言っても過言ではない程の過酷な訓練であった。
だが、その一方で、そういった厳しい過酷な訓練を何度も経験したからこそ、実際の宇宙遊泳の際に想わぬ事故が起こった際にも慌てずに、殆どの宇宙飛行士が監督役も含めて対処することが出来たのだし、池田茶々らもそれを本番の宇宙遊泳を行った際には痛感することになった。
宇宙遊泳の際には想わぬ事故が、微細なモノまで含めれば何度も起きてはいるが、それこそ宇宙飛行士の死亡に至るほどの重大な事態にまで発展したことが、そういった厳しい訓練等のお陰で、結果的に片手で収まる程で済んでいるのも(この世界の)現実だったのだ。
(勿論、宇宙遊泳中に事故が起きないのが最善であり、又、宇宙飛行士の死亡という事態にまで至ったのを、多くの関係者、更にはそれ以外の面々も悼んでいるのが、この世界の現実だが。
そうは言っても、宇宙遊泳というのは、どうしても様々な危険を孕むことでもあった。
だから、ある程度の危険は止むを得ない、できる限り、それが起きないように訓練を積み重ね、又、宇宙服を始めとする様々な機材を調えるしかない、というのも現実としか言いようが無かったのだ)
さて、宇宙遊泳が実際に月面到達の際の行動に近似することも考慮した末に、月面到達前の事前訓練も兼ねて、池田茶々らの3人のチームは、一人を監督役とし、残り二人が実際に宇宙遊泳を行うという形で、交替で各人が二回、監督役をして、残りの二人が交互に組んで結果的に四回、宇宙遊泳をしている。
だが、その一方で、それだけ交互に役割を変えて、宇宙遊泳等を行う以上は比較的だが短時間で行うということにならざるを得なかったのだ。
そんなことから、相対的に慌ただしい宇宙遊泳訓練になったが、池田茶々らにしてみれば、それでも様々に印象深い経験になるのは当然だった。
「本当に太陽と地球と。宇宙空間なので昼と夜がすぐに入れ替わることも相まって、印象深いにも程があって、太陽教なり、地球教なりを唱えたくなる宇宙飛行士がいるのも当然の気がするわ」
池田茶々の言葉に、テレシコワやライドは敢えてからかわざるを得なかった。
(そうしないと自分も太陽教や地球教を唱えたくなったからだ)
「本当にそうするつもりなの」
「止めておく。私は教祖になれない」
3人は笑いあった。
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