第88章―12
ともかく、そういったことが、最初に知り合った時点の池田茶々、テレシコワ、ライドの3人には有ったのだが、その後で3人が親しく語り合う内に、お互いの家庭事情まで明かしあうようになり、更に3人が仲良くなる事態が起きたのだ。
(とはいえ、池田茶々は全く気付かなかったが、テレシコワや池田元助は、何となくライドの態度に不信感を覚える事態が、それこそ3人が宇宙飛行士の任を解かれて、それぞれの祖国に帰国するまで続くことになってしまった。
ライドは同性愛者であり、池田茶々に出会ってほぼ早々に恋したのだが、池田茶々にその気が無いことから、早々に断念してしまった。
とはいえ、どうにも諦めきれず、池田茶々にそれとなくアプローチをライドは続けた。
それを、テレシコワや池田元助は何となく察したのだが、下手に公言して、チームの友情の輪を壊すのもどうか、と二人は考えたことから、結果的には池田茶々はそれを察することなく、ライドと別れることになってしまったのだ)
話が先走り過ぎたので、池田茶々、テレシコワ、ライドが知り合った1610年代末に話を戻す。
3人は成育事情をお互いにまずは語り合い、親交を深めることになったのだが。
「茶々さんって、本当はかなりのお嬢様なのね」
「私に実感は全く無いけど。実際、父は何かというと、周囲に頭を下げまくっているし」
テレシコワの言葉に、茶々はそう返したが、他の二人は少なからず引かざるを得なかった。
茶々は、(度々、描いているが)北米共和国の元大統領の徳川家康の孫娘になる。
更に言えば、反主流派とはいえ、労農党の有力者である池田輝政の娘にもなるのだ。
茶々は日本生まれの日本育ちであり、北米共和国で徳川家が武田家と並び立つ有力家門なのを、噂で聞いてはいるモノの、どれだけの有力家門なのかを肌感覚では知らない。
そして、池田輝政は労農党の有力者とはいえど反主流派であり、それなり以上に腰が低くないと、本来の労農党支持者からは白眼視される存在だった。
だから、茶々は自らの家系を卑下していたのだが。
他の二人にしてみれば、トンデモナイ存在である。
テレシコワにしてみれば、エウドキヤ女帝の義弟になる徳川秀忠の実の姪に茶々は成る。
ライドにしても、北米共和国の現大統領の徳川秀忠の姪に茶々は成るのだ。
更に茶々の実父は、日本の与党である労農党の有力者、池田輝政とあっては。
テレシコワやライドにしてみれば、雲上人扱いしたい人物に茶々は成るのだ。
とはいえ、茶々はそういった雰囲気が無い存在で、気さくにテレシコワやライドは徐々にだが、付き合えるようになっていった。
そして、テレシコワだが。
「最初の大きな記憶が、エウドキヤ女帝の「大虐殺」なの」
「ええ。今でも悪夢で見て、思わず目が覚めることが。どうか笑わないで下さい」
「そんなことがあったら、私でも悪夢で今でも目覚める気がするわ」
「私もです」
テレシコワの独白に、茶々やライドは寄り添わざるを得なかった。
実際、テレシコワの言葉は間違っていなかった。
テレシコワはモスクワ近郊で1596年に自作農の娘として生まれていた。
そして、テレシコワの幼少期の僅かな記憶は、ひもじい想いと紐づけられている。
それ程に当時のモスクワ大公国内では、飢きんが蔓延していたのだ。
そこにローマ帝国軍が侵攻してきて、エウドキヤ女帝がモスクワ大公に即位することになった。
だが、それは「大虐殺」が引き起こされる事でもあったのだ。
この当時のモスクワ大公国の貴族当主や高位聖職者は、エウドキヤ女帝の正統性を認めない異端者だとして、容赦なく殺戮され、遺体は灰になる事態が起きた。
そして、血族も当主に殉じる事態が起きた。
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